TOP > 中小企業ルネッサンス > 第69回 サカエ金襴株式会社
金襴づくりに加え、坐禅用の布団も開発
徐々に経営の柱へと・・・
金襴(金糸や金箔をふんだんに使い、華やかな紋様を
織り出した豪華な高級絹織物)を用いてつくられた、サ
カエ金襴のりん布団(写真上)と寺院用の水引・柱巻
(写真下)の一例。
「ひょっとしてあなた、商品開発に没頭しすぎて周りが見えなくなっているんじゃないの。2週間ほど仕事を休んで、リフレッシュしたらどう?」
8年前の平成30年、瞑想用クッションの「ZAF」(ザフ)の開発を成し遂げたサカエ金襴株式会社の竹澤賢人代表(当時は取締役)。少し遅れて、今度はサウナ用クッション「ZAF SAUNA」(ザフ・サウナ)の開発に没頭していた。それはまさしく何かに取りつかれたようで、ひと月のうち25日ほどはサウナに通い、汗をかいて気分転換しながらZAF SAUNAの企画を練っていたのだ。ところがそれが、周りには極めて奇異に見え、“お寺の本堂や仏壇周りの布製の金襴をつくっている会社の将来の社長候補が、何かに取りつかれたのではないか”と全社員から心配の眼差しで見られたのだという。
しかし、本人は至って真面目だった。サウナをテーマにマンガを描いていた人気のマンガ家(『サ道』などの作品があるタナカカツキ氏)を訪ね、「お釈迦様の教えの中には蒸気浴を勧めるお経もあるから頑張りなさい」とアドバイスを受けて、ひとりますます意を強くしたのであった。
竹澤代表はなぜ、ZAFの開発に取り組むようになったのか?
同社の竹澤賢人代表(写真上)と瞑想用クッション
「ZAF」(写真下)。
サカエ金襴の創業は昭和58(1983)年。竹澤代表の母親が同社を興した。家庭やお寺で使うりん布団から始め、金襴を使った寺社用・仏壇用の装飾織物や敷物などもつくるように。景気の波にはあまり左右されず、バブル崩壊やリーマンショックの折も、事業は右肩上がりを続けてきたという。
竹澤代表が振り返る。
「仏具業界は、世の中の好景気・不景気にあまり左右されません。例えるならばガラパゴス島にいるようなもので、他の業界とは違う進化の過程にいるようです。それが功を奏して、母親はコツコツと事業を大きくすることができたのです」
陰りが見え始めたのは、「平成」に入ってしばらくしてからではないか、と推測される。戸建て住宅の欧風化やマンション住まいが進み、仏壇を置くスペースが狭くなる、あるいはなくなるケースが増え始めた。編集子のかすかな記憶では、「平成」の初め頃、家具調にデザインされたコンパクトな仏壇が「現代仏壇」と称して高岡の仏壇業界で製造されていたような……。ネット検索で仏壇の保有率や宗教用具製造業の市場規模などを調べると、いずれもここ20〜30年で激減していることがうかがえる。
「ただ、私どもの家庭用の金襴の敷物やりん布団に限っていいますと、それほどのマイナスではありませんでした。多少鈍ったとはいえ、右肩上がりの成長は続いていました。というのも、かつての家庭用仏壇は少なくとも一基100万円・200万円はし、豪華なものになると数百万円。それに対してりん布団は100円前後から高くても数百円でした。ところが時代がくだると、現代仏壇よりもっと簡素に、金襴の敷物の上に位牌、お香立て、おりん・りん棒・りん布団という供養のスタイルも現れ、そうなると敷物やりん布団の価値が相対的に上がり、注目されるようになってきたのです」(竹澤代表)
極端な言い方をすると、かつての漆塗りで金箔や蒔絵で装飾された荘厳な仏壇には、りん布団はおまけでつくようなものだった。しかし、コンパクトな仏壇が流行り始めると当社の華やかで目立つ金襴商品の重要度が増していき、お客様に選ばれる存在になったのだ。そうは言っても現代仏壇すら置かない家庭が増えるにつれ、同社の金襴製品の出荷にも若干の陰りが見えるようになったという。
サウナでZAF SAUNAを用いて姿勢を整えながら瞑想す
る様子(写真上)。ZAF SAUNAのワタには耐熱性と抗
菌性がある。写真下は「富山県中小企業リバイバル補助
金」の助成を受けて作成された同社のデジタルカタログ。
寺院用の御簾(みす)や門張などを紹介するコーナの一部。
そこで開発したのが、冒頭にも紹介した瞑想用クッションのZAFだ。その始まりは、ある住職との出会いがきっかけだった。
京都の仏具問屋での修業を経て、竹澤代表がサカエ金襴で働き始めたのは平成28年のこと。その翌年にはマインドフルネスがテレビ番組で特集されて、仏具店のネット販売で坐禅布団が飛ぶように売れるように。その頃、仕事に行き詰まりを感じていた竹澤さんは、心身ともに疲れていたという。
「当社では、曹洞宗のお寺向けに坐禅布団をつくっていましたので、一度、坐禅を経験してみようとあるお寺を訪ねました。住職は私の顔を見るなり、何も聞かずに40分2セットの坐禅を勧めましたので、その通りにしました。すると初めての坐禅でしたが、終わった時には頭がスッキリし、不安に思っていたことも消えていたのです。これを機に、家庭でも坐禅ができるようにと瞑想用クッションの開発を試みました」(竹澤代表)
1年あまりの試行錯誤を経て、ZAFが産声を上げたのは平成30年のこと。雑貨店やネット上での販売を試み、少しずつ販路を拡大してきたところに、令和2年早春から蔓延し始めた新型コロナウイルスが冷水を浴びせかけたのだ。
外出自粛が要請され、社会や経済が停滞した。軌道に乗るかと思われたZAFの事業も足踏み状態に。世間では、お葬式は家族葬など規模を縮小したものが多くなり、供養のスタイルはますます簡素化された。相対的に価値が上がって選ばれるようになったりん布団も、消費者と出合う機会が少なくなり、売れ行きが鈍り始めた。また時代とともに寺院の後継者不足が深刻化し、廃寺になるお寺が増えるなどして、寺院向けの装飾用の金襴の幕や敷物の需要も少なくなってきたという。
竹澤代表は考えた。ZAFを、当時流行しつつあったサウナ用へと水平展開できないか、と。自身がサウナ好きであったため冒頭に紹介したようにサウナに入り浸っていたところから、「何かに取りつかれたのではないか」と周囲から心配されたのだったが、ZAF SAUNAを市場投入すると、「一人でととのえるのをサポートする」と人気を博したのだった。
また一方、コロナ禍の最中、同社では「富山県中小企業リバイバル補助金」(令和3年度)の支援を受けて、カタログのデジタル化にも着手。サカエ金襴の大判のカタログは仏具業界では有名であったが、新型コロナウイルスの蔓延で対面営業が難しくなったのを機に電子カタログも備えて、需要の掘り起こしに努めたのだった。さらには翌年、「富山県中小企業ビヨンドコロナ補助金」の採択を受けて、「ZAF SPORTS」(ザフ・スポーツ)の開発にチャレンジ。かつてのフィットネスブームを彷彿(ほうふつ)とさせるようにジムでの筋トレが流行り始めたのを機に、トレーニングとともに坐禅でのリフレッシュも勧めたのだった。
親子の瞑想用に開発されたZAF MOMENT(写真上)。
カラフルで、洗濯ができるようにカバーの取り外しが
できるようになっている(写真下)。
こうした公的な産業支援の補助を受けるには、申請書類とともに事業計画書などを提出し、審査の上、採択されなければならない。そして採択されて商品開発や販路開拓が進むと、年度末には事業の進捗状況をまとめた報告書の提出が必要になる。
竹澤代表が幾度かこの作業を繰り返しているうちに「何かに取りつかれているのでは……」と心配していた母親や同社の社員も「公的な機関が事業計画を評価しているのだから、変なことにのめり込んでいるのではなく、会社の将来を考えて、新しい商材を考えているようだ」と理解を示すように。そして「今はまだ細くても、将来の経営の柱に育てたい」と願う竹澤代表の思いを汲むようになってきたという。
そしてZAFの第4段として、姿勢改善や親子が一緒に瞑想し、共に過ごす時間を増やすための坐禅布団「親子ウェルビーイング瞑想クッション」の開発を目指し、令和7年度の「とやま中小企業チャレンジファンド事業 地域資源活用事業」に申請したのだった。開発に乗り出した背景を竹澤代表が振り返る。
「スマホやタブレットを利用して、長時間ゲームに興じている子どもが多くなっているようですが、親子が共に過ごす時間の短縮化や、子どもの姿勢悪化・集中力の低下などに結びついているようです。そうした状況を見るにつけ、子どもたちの将来が不安になり、瞑想を通じての姿勢改善と心身両面の健康回復に役立つクッションができないかと思った次第です。カラーバリエーションを増やして子どもにも関心を持ってもらえるようにし、洗濯できるようにするためにカバーをかけました」
この親子ウェルビーイング瞑想クッションは「ZAF MOMENT」(ザフ・モーメント)と命名されて、本年5月より販売をスタート。ネット上での販売をメインにし、マインドフルネスが盛んな海外でも注目を集め始めているようだ。
最後に竹澤代表に今後の抱負をうかがうと、次のような答が返ってきた。
「かつてお坊さんは、坐禅布団を持って修行の旅に出ましたが、布団の中身のワタは各地で入手していました。ですから道中は袋だけで中は空っぽだったのです。そう考えると、飛行機や高速バスの座席で利用するZAF、登山した際の山頂付近で利用するZAFとして、空気で膨らませるZAFがあってもいいでしょう。こういうふうに考えるとZAFの応用はさまざまあります」と可能性の多さを示唆しつつも、「ただし当社の本業は金襴にありますから、そこはしっかりと守っていく所存です」と付け加えた。
連絡先/サカエ金襴株式会社
〒939-3552 高岡市問屋町59
TEL 0766-25-0545
FAX 0766-25-0597
URL https://www.skinran.co.jp
作成日 2026/11/06
