TOP > 中小企業ルネッサンス > 第53回 カナヤママシナリー株式会社
受託生産メインから自社製品を持つまでに
「技術の向上」が工場を強くしてきた
真空チャンバーやプリント基板などの精密機器・精密
部品の製造から産業用機械・器具の製造・組立、
福祉機器・音響備品の製造など、幅広く金属加工を
行うカナヤママシナリーの金山宏明社長。
「金山鉄工」(創業:昭和28年)から始まったカナヤママシナリー。初期には水中ポンプ、造船、プラントなどの部品・部材の設計・開発・製造などを主な業務としてきたが、平成の初め頃からは精密な電気・電子部品も扱うように。それが今日では経営の柱の1本に育ったのだ。そのきっかけをつくった現・金山宏明社長が当時を振り返る。
「家業を手伝うために20代半ば過ぎに東京からUターンしてきた私は、県内企業の協力会の一員として各種の会合などに参加していました。ある時、県内大手企業の方にお話をうかがう機会があり、『御社の研究開発費は売り上げの何%ですか』と尋ねました。するとその方は『一般的には3%、優良企業は6%。当社は残念ながら1%未満です』と答えられた。それをうかがって私は、『自社の技術を発展させ、競争に生き残るためには研究開発に熱心な企業と一緒に仕事をしなければならない』と思ったものです」
各種工作機械が稼働する同社のプロダクション
センター(写真上)とシステムセンター(写真下)
の様子。システムセンターではプリント基板の
製造だけでなく、外観検査も行うようになった。
ちょうどその頃、大手の半導体製造装置メーカーが富山で工場を構える計画を持ち、協力工場を募ることに。半導体業界は熾烈な競争を勝ち抜こうと、売上比15%の研究開発費を投入していた時代であるが、金山社長はその富山進出情報に接するや否や「ここぞとばかりに」装置メーカーにアタックを開始。積極策が功を奏して協力工場に選ばれると、短期間のうちに技術の習得を行い、メーカー本部の設計担当者のデスクに赴いて、図面を見ながらの打ち合わせもこなせるまで自社のスキルを高めたのだ。その過程で、後に主力製品に育つ半導体用真空チャンバー製造の糸口をつかんだのであった。
「大学生の時にアルミの溶接に興味を持ちました。アルミ合金の溶接は、溶けにくく、また割れやすいためなかなかできないのですが、真空状態であれば精度の高い溶接ができることを知り、富山に帰ってからもそのノウハウを高めていました。その過程で、真空についての知見を徐々に高めていたところに、半導体装置メーカーの方で真空チャンバーに取組む計画が浮上し、当社から先方に社員を派遣して、真空チャンバーについての勉強をさせていただいたのです」(金山社長)
またその数年前に、ある電気・電子メーカーが富山にプリント基板の工場を設立。知人に誘われて生産ラインのメンテナンスに携わると、後にはプリント基板の製造の一部を任されるように。M&Aによって基板工場の資本系列が変わってもその発注は続き、それも今では主力製品の一つに育ったのだ。
「ガラ携の携帯電話が普及し始めた時や、ゲーム機が人気を博した時は生産が追いつかないほどでした」(金山社長)
令和2年2月、名古屋で開催された広域商談会(写真上)
と令和2年11月、東京で長野県と共同で開催した
広域商談会(写真下)の様子。
こうした全国区の大手企業の他に、県内の大手・中堅企業からも依頼されて部品やシステムをつくって納めてきたカナヤママシナリー。多くのクライアントから安定的に受注して、会社の舵取りは順調であったかというと、厳しい時もあったようだ。金山社長が回想する。
「昨年と同じ機械や装置をつくっていても、ものづくりの現場では絶えず技術革新が進み、技術の進歩によりシステムや部品が使われなくなり、結果として売上げが減ることがあります。私は企業活動で昨年同様ということは、20%くらいのマイナスだと理解し、そのマイナス分をカバーするための営業に力を入れてきました。飛び込み営業をする場合もありますし、知人の紹介で企業訪問をする場合もあります。また展示会や商談会に参加して、新規の顧客開拓にも努めてきました」
商談会参加の主なものは、当機構が創立当初(平成13年)から実施している「広域商談会」だ。これは東京、愛知、大阪などのものづくりが盛んな地域のホテル等を会場にして、現地のものづくり企業と富山県内のものづくり企業とのマッチングの機会を創出するために、富山県の協力を仰いで年に数回開催してきたもの。カナヤママシナリーはそのほとんどに参加し、「この先も可能な限り参加予定」だという。
「飛び込み営業をするより、商談会で顧客開拓に努める方が効率的ですが、実を結ぶのはなかなか難しく、成果ゼロという時がありますし、出会ってから受注まで2年かかったというのもあります。また数年仕事をいただいた後で中断し、さらに数年して取引きが再開した例もあります。数年の間で担当者は双方とも代わり、仕事の内容も別なものになりました。仕事には巡り合わせの要素もあります。ですから、仮に今回成果が出なくても、次にはよい巡り合わせがあるのではないかと期待し、商談会へは参加するよう心がけています」
金山社長のこの言葉には、「商談会参加は一種の投資」との経営判断が込められているようだが、マイナス分を補填するための取り組みはこれだけではない。部品や部材の外注を待つだけでなく、自社ブランドの商品を開発し、その販売による売上増も試みた。その第1弾が車椅子「楽歩」(らっぽ)の開発であり、第2弾はアルミ合金製オーディオラック「ALVENTO」(アルベント)の市場投入であった。
座り心地と操作性のよさを第一に設計した同社の
車椅子「楽歩」。LAPPOⅢ(ラッポⅢ/写真上)
とemigoⅡ(エミーゴⅡ/写真下)。
「楽歩」開発のきっかけは、平成8〜9年頃にさかのぼる。当時、日本青年会議所の会員として天使の翼事業(身体障害の子どもを東京ディズニーランドに招待し、楽しんでいただく事業)に携わった金山社長は、車椅子に乗った子どもを伴ってディズニーランドへ。その時、体重が38kgの子どもを担当したのだが、その車椅子を押した際には非常に重く感じ、しばらくすると腰が痛くなってきたという。その時、「車椅子の設計に問題があるのでは・・・」と思ったそうだ。その少し後で、大手アルミ製品メーカーが「車椅子を押していると、途中でビスが緩んでガタガタしてくる。これを解消したい」とカナヤママシナリーに相談を持ちかけてきたのだ。
「当社ではアルミの溶接技術を持っていましたので、それで解決できると思いました。溶接すればビスそのものが不要になり、それだけで約1kgの軽量化も可能でした」(金山社長)
その「ガタガタ」を解消してしばらくした時のことだ。車椅子のデザインをされている方と出会ったことが縁で、カナヤママシナリーでは自社製車椅子の開発に取り組むことに。「金属製であるがゆえに重くなるのは仕方がないにせよ、長時間座っても疲れず、押す人の操作性もよくなる設計にしよう」と試行錯誤が始まった。そして「楽歩」と名づけられた車椅子が商品化されたのは平成11年のこと。以来、今日まで改良を加え、楽歩のシリーズ展開を図ってきたのであった。
金山社長のこれまでの観察によると、車椅子を買う人・乗る人・使う人は、それぞれ違うケースが多いようだ。購入者の多くは病院や施設、福祉機器レンタル業者等で、乗る人本人やその家族が購入する場合でも、行政の助成制度などを利用すると、制約が加わるケースがあるという。使用者(押す人)は、乗る人の家族や病院、施設の職員等々。乗る人の中で、自分でお金を払って購入し、自分でハンドリム(駆動輪の外側に並行してあり、自走する時に手をかけて回すフレーム)を操作する人は、数としては少ない様子。こうなると3者のニーズは一本化されにくく、利便性よりコストが重視されるケースが多いらしい。また最近では、売る人(商社や取扱店)のニーズがそこに加わり、事はますます複雑になっているようだ。
同社の車椅子「楽歩」シリーズを紹介する専用のホームページ。
デモ機の貸し出しも積極的にPRしている。
車椅子の流通は、いわゆる折りたたみ式が多く、楽歩のような多機能なものは、国内では同社製品のほかに例をみない。それゆえ「座り心地のよいものがほしい」「押しやすいものがほしい」と思われる方は、必然的にカナヤママシナリーに問い合わせされるという。
「競合メーカーがないので、必要と思われる方には楽歩は必需品のようなものです。それゆえここ1年ほどは、コロナの影響で楽歩の営業はほとんどできていないのですが、ホームページ等で情報収集されているのでしょう、需要は落ち込むことなく着実に伸びています」
金山社長は経営の柱に育ちつつある楽歩の販売についてこう語るが、同社では令和3年度の「富山県中小企業リバイバル補助金」の採択を受けて、さらなる販促に乗り出した。事の経緯をまとめると以下のようになる。
楽歩のユーザーの中には、「電動ユニットを取り付けてさらに利用しやすくしたい」と望まれる方が多くなってきている。従来は、楽歩を改造して電動ユニットを取り付けていたのだが、改造費が別途必要になる。それを改造しなくても電動ユニットがつくよう設計を変え、電動ユニットを取り付けた状態のデモ機の貸し出しが行えるよう、リバイバル補助金の支援を受けたのだ。
「楽歩の営業で効果的なのは、実際に乗って、押して、その快適性をご体験いただくことです。そのために、従来もデモ機の貸し出しを積極的に行ってきたのですが、改造しなくても電動ユニットをつけることができるよう改良したので、この補助金の支援を受けて電動ユニット付きの車椅子を貸し出そうと考えたわけです」(金山社長)
アルミ合金製オーディオラックの「ALVENTO」(アルベント)。
複数のオーディオ専門誌で高い評価を受けた。棚板の裏には
写真下のような彫り込みを施して表面積を増やし、放熱性を
アップさせた。
もう1つの自社ブランド品は、アルミ合金製オーディオラックの「ALVENTO」だ。その開発は、もともとは金山社長の個人的な趣味から始まった。
「若い人たちはタブレットや携帯端末を利用して、高度にデジタル化された音楽を楽しんでいますが、われわれアナログ世代はレコードやオーディオ機器に郷愁を感じます。平成28年頃にアメリカやイギリス、そして日本ではレコードの販売枚数が急激に伸び、『レコード時代再来』などと騒がれました。私もその1人で、オーディオセットを再び用意し、レコードをかけて往年のヒット曲を楽しもうとしました。ところがオーディオラックやスピーカースタンドは、昔ながらの木製で放熱性や制振性は進化しておらず、昔のままだったのです。そこで当社のアルミ加工技術を用いて、高級感のあるオーディオラックやスピーカースタンドをつくり、マニアックな方々のニーズにお応えしようと思った次第です」
この思いを確実なものにしようと金山社長は、当機構の「とやま中小企業チャレンジファンド事業 ものづくり研究開発支援事業」(平成28年度)の支援を受けることに。団塊世代の憧れの的であったオーディオセットのラックやスタンドに放熱性や制振性を持たせ、かつ機能美にあふれるものに仕上げて、インテリアとしても遜色のないものに仕上げた。
放熱性向上のためには、棚板の裏面に彫り込みを加えることに。これにより表面積が1.5倍になり、アンプなどから生じる熱を効果的に吸収し、発散するようになった。制振性は、棚板を支柱のスリットに挟み込んで固定することにより向上させ、最新鋭の5軸の工作機械による加工で、全体的に滑らかで均一な仕上げを実現することによりノイズの抑制も実現したのだ。
「音響機器は熱や振動の影響を受け、音質を劣化させるのですが、素材をアルミ合金にすることによってそれを抑制させることが可能になったばかりか、素材に磁性がないため、電磁波の影響も受けないことがわかりました。最初は自分のオーディオラックが欲しいというところからの出発でしたが、いざ開発を始めると、かつてのオーディオマニアが求めていたものとわかり、販売のためのPRを始めました。すると音響の専門家から『これはすごい』と絶賛され、オーディオ店のほかに家具店でもお取り扱いいただくことになったのです」と金山社長は語り、「ALVENTOのさらなる拡販はわれわれの努力にかかっている」と続けた。
* * *
取材中、金山社長はいくつも将来構想を語られた。その1つ目は、平成23年度から続けている当機構の「とやま医薬工連携ネットワーク」(平成26年に「とやま医薬工連携研究会」に改組)での活動をとおしてヒントをつかみ、福祉分野での商品化第2弾、第3弾を実現すること。2つ目は、クリーンルームを備えた工場を新設し、5工場体制を確立すること。3つ目はその工場を回すための人材を育成すること。4つ目は県内のものづくり企業が有する工作機械等の使用状況をネットワーク化により管理し、「とやまファクトリー」(仮称)をつくって富山県企業が一丸となって、コロナ後の世界的なものづくりの競争に勝ち残っていくこと。5つ目は・・・。
金山社長からは、涸れることのない泉のようにアイデアが湧き出るようで、その一つひとつの実現が待たれるところだ。
連絡先/カナヤママシナリー株式会社
〒938-0013 黒部市沓掛3259
TEL 0765-52-0888
FAX 0765-54-4688
URL https://kanayama-m.com
作成日 2021/06/17