第45回 株式会社ウエルカム福岡 とやま中小企業チャレンジファンド事業 農商工連携ファンド事業 アイスキューブ つくりもん焼き 安納芋ポタージュ  TONIO Web情報マガジン 富山

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企業活動には山あり谷あり。谷から脱却し、右肩上がりに導いた経営者のひと言には再起のヒントあり。

第45回 株式会社ウエルカム福岡

福岡産の安納芋を生かして商品開発
まちづくり会社の新たな取組みは・・・

安納芋ポタージュ1袋(180g)、牛乳100g、砂糖30gを鍋で温め、
砂糖が溶けたところで火を止め、粗熱をとる。それを製氷皿に
入れて凍らせたアイスキューブ。

 今回の取材先は、地元福岡産の安納芋を生かして商品開発に努め、地域の活性化を試みる(株)ウエルカム福岡。取材の申込みをすると、「当社でつくった安納芋ポタージュを応用したスイーツを用意してお待ちしています」と返ってきた。取材は9月上旬。台風一過(21号)で落ち着いたとはいえ、その前日までは「猛暑」「酷暑」という文字や言葉が巷(ちまた)にあふれた平成30年の夏だ。“大粒の汗をかきながら、そのスイーツを試食させてもらえるのか……”とジリジリと照りつけるお天道様を見上げたものだ。
 そして迎えた取材当日。挨拶もそこそこに目の前に出されたのは、安納芋ポタージュに牛乳、砂糖を加えて加熱したものを、さまして冷凍したアイスキューブ。ひと口含むと、つめたく冷やされた安納芋特有の蜜のような甘さが、残暑厳しき秋の日差しを忘れさせるのであった。

なぜ福岡で安納芋を・・・・・

安納芋を使っての商品開発の様子を語るウエルカム福岡の
山崎博社長(上)と高岡市商工会の清水美代子さん(経営
指導員)。商品開発に当たっては商工会女性部も応援した。

 まずは同社の山崎博社長に「なぜ福岡町で、安納芋を用いたポタージュの商品化に取り組むようになったのか」という、そもそも論からうかがった。
 「当社は旧福岡町の商工会を母体につくられた第三セクター方式の会社で、町づくりや地域活性化の期待を背負って設立されました。以来その目的を果たすために、観光振興やイベントの開催・出展など様々な取組みを試みてきました。その1つに土産物の開発があります。福岡町には菅笠などの特産品はありますが、旅のちょっとした土産物としては選ばれにくい。そこで気軽にお買い求めいただくことができるスイーツを開発しようと話がまとまり、5〜6年前から試行錯誤を始めたのです」
 訥々(とつとつ)と語り始めた山崎社長の、続く話をまとめると以下のようになる。
 北陸新幹線の開業が迫ってくると、土産物開発はますます勢いづき、せんべい、まんじゅう、ようかんなどのアイデアが次々と浮上。幾度かの試作と試食会を繰り返す中で、せんべいに落ち着いたそうだ。その名も「つくりもんまつりせんべい」。「ふるさとイベント大賞」(第21回)で内閣総理大臣賞を受賞した地元福岡の「つくりもんまつり」にちなんでネーミングされた一品だ。
 ただこれには1つ問題があった。商品名が福岡町を連想させるものになっているとはいえ、原料も加工工場も他市のものが利用され、地元の活性化には結びついていなかったのだ。
 山崎社長が続けた。
 「そこでさらに福岡産のものでスイーツに利用できるものを探したところ、数年前から五位地区の農家の方々が安納芋の特産化を試みていることを知り、それを応用することが出来ないかと思ったのです。安納芋というと、鹿児島県の種子島での栽培が盛んですが、“福岡産の安納芋を生かしたスイーツ”というと、皆さん『えっ?』と振り返ってくれるのではないかと期待もしました」
 山崎社長はさっそく生産者に会い、安納芋の買い付けについて相談。農家の方々も芋の販路開拓に努めていた時であったため、一定量の出荷については内諾を得たのであった。

安納芋をペースト状に

「つくりもん焼き」は300年以上続く福岡町の祭「つくりもんまつり」
にちなんでつくられた大判焼き。餡には安納芋のペーストと白あん
が利用され、年数回のイベントでの販売では以前の倍以上売れる
ようになった。

 ところがそこでまた問題が浮上してきた。
 さつま芋は一般的に、収穫後1カ月ほどは熟成のため(甘みを引き出すため)に寝かせる。福岡町での安納芋の収穫は9月中旬ころ。10月中ころから甘みが増し、焼き芋がおいしい季節の本番を迎える。ところが生のさつま芋は、8度程度以下の気温に長くさらされると低温障害を起こし、腐ってしまう。福岡で安納芋を通年利用するには、保管場所の気温を10〜15度程度に保つようにする(すなわち冬季は暖房する)、あるいは粉末、フリーズドライ、ペーストなどに加工し、それを通年で利用することができるよう対策を施すことが必要になった。
 専務の吉田秀三氏が語る。
 「当社も加入している高岡市商工会には様々な技術を持った会社があり、食品加工を業務としている会員さんも多数います。まず私たちは商工会女性部の方々に、どんな保存法が適切か、また保存の際の味付けはどういうものがよいかなどのアイデア募集を行いました」
 保存法の開発に当たっては、「とやま中小企業チャレンジファンド事業」(平成25、26年度)の支援を受けて、試作品もつくることに。別名「蜜芋」と呼ばれる安納芋の、再現性の高い保存法を求めての試行錯誤が始まった。
 再び吉田専務が語る。
 「最初に出てきた案は、芋を粉末にして乾燥するというものでした。乾燥の場合、消費期限が長くなる利点がありました。ところがいろいろ試してみても、安納芋の風味や甘さが損なわれておいしくない。安納芋が一番おいしいのは、焼き芋にした時です。蜜が入ったようにとろりと甘い食感は、安納芋のおいしさを象徴するものですが、最終的には焼き芋にした安納芋をペースト状にし、冷凍保存する方法に落ち着きました。解凍しても物性の変化がなく、安納芋そのもののおいしさを再現できました」
 そののち山崎社長らは、ペースト状にした安納芋の用途開発に取り組むのだが、菓子店等にこれを紹介すると、「和菓子の餡に利用したい」「ジェラートの甘みに使いたい」というお店がいくつも現れ、また自社でも大判焼きの「つくりもん焼き」の餡に応用する等、まずまずのスタートを切ったのであった。

働く女性をターゲットに

安納芋ポタージュのレトルトパック1袋の内容量は180g。結構ポ
リュームがあり、これ1袋でもお腹が張る。同社では安納芋ポター
ジュを使ったレシピの開発の行っており、写真のパスタの他、
アイスキューブ、マカロニグラタンなど6品をチラシで紹介している。

 安納芋を生かしてのさらなる地域の活性化を目指すウエルカム福岡では、平成27年度に入ると今度は「農商工連携ファンド事業」を活用して、安納芋を使っての商品開発に着手。生産農家の他に食品メーカーの協力も得て、再び芋の加工法の開発から始めたのであった。
 商品開発を応援した高岡市商工会の清水美代子さん(経営指導員)が振り返る。
 「この時も、吉田専務からの依頼で商工会女性部のメンバーに声をかけ、アイデア出しをお願いしました。そこで多かったのは、安納芋のおいしさを生かすにはポタージュが一番ではないかというもので、ファンド事業の申請にはその事業プランが記載されました。ただ申請時には、市販されているポタージュの中での人気商品は、フリーズドライのスープの素にお湯を注ぐタイプのものでしたので、そこでの競合を念頭にまずは安納芋のフリーズドライ化を試みました」
 フリーズドライ化すると、軽くて持ち運びの負担にならず、土産物にも応用したいという狙いがあった。また生の商品より消費期限を長くできるのではないかという期待もあった。
 ところが2年前に保存法を開発した時と同様に、フリーズドライではうまくいかない。スープの素にお湯を注いでも、安納芋の風味や甘さが全く感じられないのだ。
 再び清水さんが語る。
 「実はポタージュの開発をしていた時、商工会女性部では独自に安納芋のさいころ型の干し芋や、蒸してカットしたものを他の野菜と混ぜてサラダ化する、あるいは焼酎への応用など、いろいろ試みました。ところがどれもおいしくないのです。フリーズドライ化された安納芋のポタージュの素からつくったスープも、とても飲めるものではありませんでした。安納芋のおいしさを最もよく引き出したのは、ペースト化した安納芋をポタージュにし、レトルト化したものでした」
 こうした試行錯誤を受けて、最終的にはレトルト化が採用されることに。商品のメインターゲットを「一生懸命、仕事を頑張る女性」と定め、パッケージはつくりもんまつりをモチーフに女性が手にしやすいデザインを意識した。

されど安納芋

安納芋ポタージュをPRするために、8月末には東京日本橋の
「とやま館」での試食販売も行う。写真はウエルカム福岡の
吉田秀三専務。

 「商品としての安納芋ポタージュができたのは、平成28年の3月でした。その翌月、福岡のさくらまつりで試食会を開いたのを皮切りに、各種のイベントに参加して安納芋ポタージュの宣伝に努めました。おかげで今では、まちづくり福岡工房いっぷく処をはじめ、道の駅3カ所、量販店2カ所で販売されるようになり、ペーストでの販売も含めて仕入れた安納芋はほぼ1年で使い切るようになりました」
 と山崎社長はえびす顔で語り、「さらなる販路拡大に乗り出したいのですが、安納芋の買付け量に限度があるため、急な拡大ができない事情もあるのです」と複雑な胸の内を明かした。
 「たかが安納芋」と侮るなかれ。同社が地元のイベントに年に数回出展して販売してきたつくりもん焼きの売上げは、安納芋の餡を使うようになって、従来の倍以上は売れるようになったという。安納芋の生産農家も製菓専門学校の協力を得て商品開発を進め、安納芋を使ったジェラートが売り出されたそうだ。
 こうして福岡産安納芋の消費は徐々に拡大し、作付面積も年々増えている様子。安納芋での地域おこしは目前に迫っているようだ。

連絡先/株式会社ウエルカム福岡
〒939-0116 高岡市福岡町下蓑255-1
TEL 0766-64-0009(FAX共用)

作成日 2018/10/15

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