TOP > 中小企業ルネッサンス > 第50回 株式会社エスケーテック
商談会を通じて売上の柱を増加。
技術を蓄積し、さらに顧客を開拓してきた。
売上の柱を増やすために奔走した中西康人社長。
「コロナ禍も地道な努力で乗り越えたい」と意気
軒昂だ。
「今から二十数年前のことです。順調に業績が伸びていた時に、現会長が当時は社長だったのですが、『1社からの受注の比率が極めて高い。経営のリスクを分散させるために、売上の柱を増やすように』という指示がありました。会長はグループ会社の経営にも関与していましたので、売上の柱を増やす役割は、中間管理職だった私と工場長に回ってきました。それまで順調に仕事が入ってきたため、新規開拓の営業のノウハウはまったくなく、私と工場長は靴の底を減らすのみでした」
当時、部長職にあった中西康人社長は営業も兼務し始めた頃を回想してこう語り、「あの経験があったから、リーマンショックの時の不景気も乗り越えることができました」と付け加えた。
同社の工場(写真上)並びに働く社員(写真下)の様子。
工場は売上の柱を確保しながら、徐々に拡充してきた。
エスケーテックは元々は、中西電気の工作部門として昭和40年にスタート。当初は電気工事で用いる配電盤をつくっていたが、昭和46年の独立を機に、産業機械の部品づくりも手がけるようになった。そして後年、大手電子機器メーカーが入善に富山工場を構えた際には、製造ラインのメンテナンスを依頼されるようになり、仕事の幅を広げるきっかけをつくったのだ。
「このメンテナンスの仕事を引き受けたことにより、産業機械の組立も行うようになりました。メーカーの富山工場が規模を拡大するに従って受注する仕事量は多くなり、技術やノウハウの蓄積も進みました。その結果、当社の規模も徐々に大きくなり、従業員数は創業時の3倍に増加。盆や正月の休みもないほどの忙しさを何年にもわたって続けていました。こうして極めて好調だった時に、会長は『経営の柱を増やそう』と言い出したのです」(中西社長)
決算資料で当時の産業別の売上比率を確かめていただいたところ、2位のプラスチック産業(6%)、3位の繊維産業(4.2%)に大きく水をあけ、1位の半導体産業の売上比は85%。そのほぼ100%をメーカーの富山工場からの発注に依存していたのであった。
「フル回転で仕事をこなしている中で、2本目、3本目の売上の柱を探すのは容易ではありませんでした。飛び込み営業を始めましたが、ほとんどは門前払い。受付けで『間に合っています』といわれるのが関の山でした。そうこうしているうちに、以前、社内の勉強会の講師を紹介していただいた、新世紀産業機構の前身のひとつの(財)富山県中小企業振興財団から、『県外に本社がある、ある企業の富山工場で製造ラインのメンテナンスができる企業を探している。エスケーテックを紹介するから一度相手先の本社を訪ねて欲しい』と連絡をいただいたのです」(中西社長)
この事業は当時、「受発注取引斡旋」と称された。今日では県内受注企業の情報を当機構のホームページに掲載し、「富山県受注企業情報」の名称で県外発注企業に情報を発信する事業に発展しているが、紹介を受けたエスケーテックではさっそく相手先の本社を訪問。幾度かの打合せを経て「では一度、試しにやってみよう」と相手先が一歩先に進めたところから、今日までの継続的な取引きにつながったのだ。
当機構が大都市圏周辺で毎年数回開催している
商談会の様子。大手企業の調達担当者等を招き、
富山県内企業の製品や技術を紹介している。
(写真上は令和元年11月20日の東京商談会、
同下は今年2月13日の名古屋商談会)
一方で同社では、当機構が前身の時代から首都圏や大阪・名古屋周辺で行っている商談会に、年に数回参加。大都市周辺の工業地帯の企業との出会いを求めて、自社製品やメンテナンス・加工例の紹介に努めた。
「私たちが自力で行ってきた新規開拓の営業では、製造ラインを管理されている方や調達担当者にたどり着くことはほとんどありませんでした。ところがこの商談会では、それらの方々と最初からお目にかかることができ、すぐに取引きに至らなくても、各種業界の製造ラインのニーズを聞き出すことができました。時には、『具体的な相談がしたいので一度会社にきて欲しい』と誘われることもあり、打合せを重ねる中で成約に至る」のだという。
エスケーテックの場合の、出会いから成約に至るまでの平均的な期間は「およそ3年」と中西社長は振り返り、売上順に現在取引きのある40社余りをリストアップした資料を取り出し、「このほとんどが商談会と斡旋でのご縁をきっかけに仕事をいただくようになった企業です」と続けた。詳しく伺うと、上位4社は「4本柱」と称してよいほどの仕事を毎年発注してくれる様子。それに続く三十数社からは、通常、年間に数十万円から数百万円のオーダーがあるそうだが、数年おきに1,000万円単位のまとまった仕事を出してくれるという。しかも客先には、造船や自動車、食品、医療などの企業も増え、特定の業界に偏ることなく売上比率は適度にばらけるようになったのだ。
「大手電子機器メーカーの富山工場は、後に本社が方針転換したため、縮小・廃止の方向に進みましたが、その頃にはいくつもの柱ができていましたので、大きな影響は受けませんでした。また多くの企業と出会うことにより、技術の蓄積がさらに進んでメンテナンスや部品づくりだけでなく、各種産業機械や自動機の設計・制作も行うことができるようになったのです」
と中西社長は満面の笑みを浮かべた。
平成25年度のものづくり補助金の支援を受けて
同社が導入した横フライス盤。内製化を進めることにより、
加工領域の拡大と利益率改善が図られた。
国のものづくり補助金に採択されたことも、同社に転機をもたらした。
平成26年が開けて早々のことだ。年始の挨拶と相談事で当機構を訪れた中西社長は、国のものづくり補助金を紹介され、「申請してみたらどうだ」と勧められた。さっそく機構担当者のアドバイスを受けながら書類をつくって申請したところ、採択されたのだ。
「従来は、縦フライス盤しか持っていませんでしたので、横の加工が必要な時は外注に出していました。そこでかねてより横フライス盤を導入したいと考えていたのですが、ものづくり補助金を紹介していただいた時に『これはよい機会だ』と思いチャレンジしてみました」(中西社長)
実際のマシンの導入は平成26年度に入ってからとなった。横フライス盤の導入により内製化が進み、利益率の改善が図られた。何よりの効果は、加工領域の拡大と技術をさらに蓄積することができるようになり、それを商談会でのセールスポイントに加えることができるようになったことだ。
「もう20年近く、商談会には参加させていただいていますが、『1年で結果が出ないからもう止める』という企業をたくさん見てきました。でも実際のところ、われわれのような仕事で1年で新規開拓の結果が出ることはほとんどありません。発注側は、納期は守れるか、製品の品質・信頼性は高いか、コストは妥当か、経営は安定しているか、など様々な観点から受注側企業を評価しています。逆の立場に立ったら、われわれもそうします。納得できるまで当社を評価してください、という姿勢が必要なのだと思います」
と中西社長は語り、取材に同行した機構職員に「今度の商談会の予定は?」と、5本目の柱を探す意欲を示し、中西社長の新規開拓への熱い思いをみたような気がした。
連絡先/株式会社 エスケーテック
〒938-0806 黒部市前沢2420
TEL 0765-56-5111 FAX 0765-52-3006
URL http://www.sk-tec.co.jp/
作成日 2020/08/18