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企業活動には山あり谷あり。谷から脱却し、右肩上がりに導いた経営者のひと言には再起のヒントあり。

第42回 日本エレテックス株式会社

電気工事会社が電磁波防止シールド材を開発
全国の大手企業も注目するようになって・・・・・・

同社の建部則久社長は、電磁波防止シールドについては全く
知らないところから独学し、今では関連する学会で発表する
までになっている。

 「町の電気屋さんが何ということを!」
 同社への取材が決まり、当機構のマネージャーから同社の取り組みをレクチュアーされた時の感想が先ほどのものだ。一般家庭のオール電化などの工事が得意な同社が、電磁波を遮断する素材を開発し、各種製品への応用を考えているという。普通に考えると、○○エレクトロニクス、□□精密工業などと名乗る企業が事業とすることを、町の電気屋さんが行っているのだ。そこに至るにはそれなりの訳があった。
 およそ14年前のことだ。富山市内にオール電化を推進するための会社が興され、その営業活動ならびに工事をサポートするパートナーとして日本エレテックス(株)に白羽の矢が立った。同社はもともとは一般的な電気工事を本業とする企業であったが、「自宅に構えた茶室に湯沸かし用の電気炉を置きたい」「工芸作家の作品を生かした照明器具をつくって欲しい」などのニーズに答えているうちに、特殊な電気工事を得意とするように。それが大手の電気工事会社や高級住宅を手がける大工の棟梁に知られると、ますます特殊な工事を任されるようになり、オール電化が普及し始めた頃には「あそこなら工事を任せても大丈夫だろう」と電気関係の業界では認知されるようになっていたわけだ。

一時は八方ふさがりに

オール電化のイメージ。高齢化対策や大きな
地震の後の復旧ではオール電化の方が早い
ことなどから、近年急速に導入が進んでいる。

 そうしてオール電化の営業に回り始めてしばらくした日のこと。ある企業の役員宅を訪ねてオール電化を薦めながらIH(電磁調理器)について切り出すと、ご主人が「そんな危険なものは導入できない」とけんもほろろに断ったのだ。
 「ご主人は、県内では大きい会社の副社長でしたので、私も同行者も一瞬で凍ってしまいました。しかしながら『危険』と言われてすごすご引き下がるわけにもいきませんので、『どうしてそう思われるのですか』と恐るおそる尋ねてみました」
 日本エレテックスの建部則久社長が当時を振り返る。すると副社長は、夫人がペースメーカーを入れているから……と断った理由を明らかにしてくれた。
 “IHの電磁波が、ペースメーカーに悪影響を及ぼし、万一、誤作動でも起こしたら……”
 そう思って訪問先を辞した建部社長であったが、「こうした話はこの先も出てくるかもしれない。電磁波の影響を受けないように、覆うものを用意したらいいのでは……」と、町の電気屋さんが普通なら考えない方向に目を向けたのだ。専門書を漁ったがどこにも答えはなかった。大学や公的な試験研究機関に出向いて、「IHの電磁波を止めるシールド材はないか。もし、ないのならつくりたい」というと、「ない」「仮につくっても、それでビジネスが成り立つほどのマーケットはない」とこちらもけんもほろろに。そこで建部社長は今度は、大手電気(電機)メーカーや通信機器メーカーに連絡を入れるのだが、「どの会社もノーコメント」だったという。「今思えばそれらの会社は、電磁波防止用のシールド材を開発テーマに挙げていたのでしょうが、開発途上の企業秘密のゆえに答えることができなかったのでは……」と好意的にとらえるも、建部社長は八方ふさがりになってしまった。
 解決のヒントは妙なところから転がり出た。建部社長は、電気屋のかたわらマウンテンボードのインストラクターをしていたのだが、受講生の1人が「スキミング対策グッズを扱う会社を興すので、もうスクールには来れなくなる」と挨拶にきたのだ。耳慣れない言葉に、「それは、どんなものなのか」と尋ねると、「これからはICカードやお財布携帯の時代になります。決済の時に情報を盗まれないようにするためのものです。簡単にいうと電磁波防止シールドです」と答えたのだった。

最初の試作品はごわごわして……

ペースメーカー用エプロンの後で開発されたシールド材を使った
小袋。ファスナーもシールド効果がある仕様となっている。

 さっそく受講生の紹介でシールド材をつくっている企業に連絡を入れると、「ペースメーカ用シールド材開発に協力する」との答えが返ってきた。ただしそのシールド材は、パソコン等の破壊工場で用いられるもの。パソコンの破壊は強力な磁力線を当ててソフトやデータを無効にした後で物理的に破壊するのだが、磁力線を当てる際、工場が業務で使っているパソコン等が影響を受けないようにするために、シールド材で覆っている。したがってそのシールド材は単に覆うためだけのもので、それを用いてつくられたペースメーカーを電磁波から保護するためのエプロンは、ごわごわして使用感の悪いものだった。
 「さっそく未使用のペースメーカーを入手し、IHの前に置くとどうなるか、ペースメーカーを電磁波防止エプロンで覆ってIHの前に置くとどうなるか、などの実験をしてみました。これはあくまでも私的な実験ですが、電磁波防止エプロンの効果は認められました」(建部社長)
 後にこの話は、巡り巡って九州のある電気関係大手企業に伝わることに。当該企業は試作品のシールドエプロン、あるいは同様のシールド材を入手したのか(そのあたりの経緯は建部社長も不明)、電磁波防止性能を確認する各種の実験を実施。そのデータをまとめ、オール電化を推進する富山の会社経由で建部社長に問い合わせしてきたのだ。その結果、日本エレテックスの取り組みは、電気・電力関係の業界に徐々に伝わるように。町の電気屋さんの試みは大手企業も注目し始めたのだ。

ストッキングのようなシールド材を開発

タングステンを使った糸より編んだ透け感のある繊維(上)とその
繊維をスマホに覆った状態。シールド繊維で覆うとすぐに「圏外」
の表示になる。

 先述のように、最初につくられた電磁波防止エプロンは、ごわごわして着心地の悪いものだった。素材は銅箔でエプロンの内側に貼付けられたため、通気性も悪かった。通気性をよくするために建部社長がとったのは、金属を繊維化して編むこと。いろいろ試みて25ミクロンの銅線2本と化学繊維を撚糸し、1本になったその糸を編んで繊維状にしたのだ。
 ただこれにも難点が多い。撚糸した糸に伸縮性がないため、織機にかけるとよく切れる。また繊維状にするとじゃらじゃらとした感触が残り、結構重いものとなった。
 「それを改良し、今ではポリエステルの糸に銅箔を螺旋状に巻き、それを編んでいます。糸の太さは110ミクロン程度。髪の毛と同じくらいです。これを編むにも高度な技術が必要で、福井の機屋さんの協力を仰いでいます」(建部社長)
 こうしてシールド材の開発が進んでくると、さらに高度なニーズに答えようと新たな開発が試みられるようになった。その一例が、ポリエステルにパーマロイ(鉄とニッケルの合金)をコーティングした糸を編んで繊維状にしようというもの。パーマロイはきわめて固い金属で、シールド効果も高く、ペースメーカーのシールド材はもちろんのこと、がん治療に用いられる重粒子の加速器用のシールド材としても期待された。建部社長はその開発を、当機構の「ものづくり研究開発支援事業」(平成27〜28年度)の採択を受けて進めたのである。
 「パーマロイはきわめて固く、糸状にして引っ張って離すと、壊れたバネのように縮れてしまいます。従って編むのが難しく、実のところ支援を受けている間に完成には至りませんでした。そこで2年間の反省を生かし、国の『ものづくり補助金』(28年度補正)の支援を受けて開発を続け、こういう繊維を編むことができました」と建部社長は女性のストッキッグのような、黒く透け感のある繊維を取り出した。
 素材はパーマロイではなく、タングステンだ。タングステンは戦車の甲板などに使われるきわめて固い金属であるが、シールド用に繊維化されたものはストッキッグより少し固く感じられるものの、軽くて軟らかい。そのシールド材を建部社長は自身のスマホを取り出して覆うと、「圏外」の表示になってしまった。つまりこの薄いスクリーンメッシュはスマホの電波を遮断したのである。

大手企業から提携等の話が続々と

上/イソキルメッシュを用いた電磁波防止用ボックス、2m四方の
テント型もあり電波測定などで使用される。下/ソルファイバーを
用いてつくられたソックスと手袋。発熱インナーよりも保温効果が
高いところから、今後の商品開発が期待されている。

 シールド材の開発については、徐々に軌道に乗り始めた。また一方では、電波暗室の壁面などに使われる電波吸収体が求められるように。建部社長はそのニーズに答えようと備長炭により繊維を染めることを考えたのだが、染め物加工では電波吸収物質の付着が16%程度と低く、効果を発揮する30%には遠く及ばなかったのだ。
 “染め物加工の技術では限界があるのなら、他の方法は?”と建部社長は電波吸収体の専門家の間を訪ね歩いた。その過程で、糸の中心にカーボンを入れたらよいことを知り、それを紡いで電波吸収体にすることを企画したのだ。そのシールド性能を調べる過程で、興味深いことがわかったのである。
 「実はこの電波吸収体は、光を浴びると発熱したのです。光も電磁波の一種ですが、この電波吸収体は電磁波を熱エネルギーに変換する機能を持っていたのです」(建部社長)
 遠赤外線ランプの光をあてて、カーボンを入れた繊維と入れない繊維(糸はともにアクリル)を比較してみた。繊維だけのものは59.2度だが、カーボンをに入れた繊維は112度に達したという。サーモグラフィーによる観察によると、カーボン入り繊維は光が当たると同時に発熱を始めたようだ。
 ひょうたんから駒のような話である。同社としては第2の商材を得ることになったわけだ。ただ今のままでは宝の持ち腐れになってしまうため、建部社長は当機構の「中小企業首都圏販路開拓支援事業」(平成28、29年度)を活用し、素材の販売先や商品開発のパートナーを探すために、東京、大阪、名古屋等での市場開拓に乗り出したのであった。
 「電磁波シールド材については『イソキルメッシュ』、電磁波熱交換繊維については『ソルファイバー』と名づけ、販路開拓マネージャーのネットワークを生かしながら大都市圏でのPRに努めました。すると愛知県のある商社からは『これらを使って商品開発に取り組みたい』と、また東証一部上場のある企業からは『金銭的に開発を支援したい』と打診があり、その協力は受けることになりました」
 と建部社長はにこやかに語り、続けてタングステン製シールド材を応用して、警察官やガードマン向けに通気性のよい防護服を開発する話、ソルファーバーを用いてのテレビシッピング向け商品や登山用インナーの開発の話など、パートナー企業の名前を挙げながら紹介してくれた。いずれも誰もが知っている大手企業ばかり。町の電気屋さんは、電磁波シールドに関する事業では全国区の企業になりつつあるのだ。

連絡先/ 日本エレテックス株式会社
〒939-8094 富山市大泉本町1-4-14パレット大泉1階B
TEL076-423-5673 FAX076-423-8066
URL http://www.eletex.jp/

作成日  2018/01/23

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