TOP > 世界をリードするアジア経済交流 > 第53回 株式会社丸米製菓
「富山のおかきを海外に!」
若き営業マンのチャレンジが実を結び…
丸米製菓の新規の販路開拓(国内、海外)を一身
に背負う岩木陵氏(写真上)。海外への販路開拓
も進みつつあるという。写真下は、「ビジター対応
ビジネス支援事業」の支援を受けて開発した同社
のロゴマーク。
平成25年6月に策定された「日本再興戦略」。その中で政府が、農業や農村の所得倍増を計画し、その一環として「コメ・コメ加工品」の輸出増を図ったことをご存じだろうか。「コメ・コメ加工品」の中には米菓と総称される「おかき」や「せんべい」も含まれ、地方の中小の米菓メーカーは背中を押された思いだったという。
(株)丸米製菓の岩木陵氏もその一人だ。
「その『戦略』を知ったのは後年でしたが、平成27、28年頃までの当社では、北陸新幹線の金沢までの延伸開業やアジアからの旅行客増などに対応するために、土産物店での取扱いを増やすための営業に力を入れていました。当社の従業員に台湾出身者がいて、『丸米のおかきはおいしいから、台湾からの旅行者は気に入るよ』とアドバイスしてくれたのですが、外国のお客様を意識したのはその時が初めてでした」と岩木氏は振り返るが、同社では当機構の「ビジター対応ビジネス支援事業」(平成28年度)の採択を受けて、丸米製菓のおかきをブランド化し、消費者や旅行客等の印象に残るようにするためにロゴマークを開発。創業者の名前をロゴタイプ化し、パッケージや包装、広報の際などに用いるようにしたのだ。その際、旧字の「米藏」を独特の書体で墨書しただけでは読みづらいことから、落款(らっかん)のように「よねぞう」と読み仮名をつけ、印象に残るようにしたのだった。
またこの支援を受けたことを機に、1袋18g入りで組み合わせて土産物セットにしやすい「素餅」(すがお)「甘えびあられ」「しろえびあられ」「昆布あられ」等を順次開発。パッケージデザインもお土産を意識して華やいだものにし、駅や空港周辺の土産物店、道の駅などで人目を引くようにしたのだった。
「富山県中小企業ビヨンドコロナ補助金」の支
援を受けて出展した「国際食品商談Week加工
食品EXPO2022」(写真上)の様子。写真下は、
新商品「素餅」(すがお)を使ったおやつ「冷やし
やしあられぜんざい」が「ニッポン全国物産展
おやつランキング」で3位に入ったこと、その
商品化を試みる様子を報道する富山新聞(令
和3年10月5日付)。
岩木氏が続けた。
「この土産物の開発と販路開拓のための展示会出展などは、私の母が中心になって進めたのですが、おかげさまで多くのバイヤーと出会うことができ、扱っていただく土産物店も増えてきました。さらに1、2年すると、バイヤーから『海外に輸出してみないか』と誘われるようになり、そこで海外の市場を本格的に意識するようになったのです」
この間の展示会出展は、地元の市や商工会、富山県商工会連合会などの支援を受けてのものだったというが、特に反響があった展示会は「スーパーマーケットトレードショー」だという。国内に販路を持つのはもちろんのこと、海外での販売ルートを持つ食品商社や貿易商と多数出会うことができ、販路開拓に結びついたそうだ。
そして新型コロナウイルス感染症により売上げが減少傾向にあった令和2年〜4年の3年間は、当機構のコロナ対策補助事業を活用。令和2年度は「富山県地域企業再起支援事業」の採択を受けて新製品開発に取り組み、同3・4年度はそれぞれ「富山県中小企業リバイバル補助金」、「富山県中小企業ビヨンドコロナ補助金」の支援を受けて、「国際食品商談Week」や「FOOD STYLE Kansai2021」「FOOD STYLE Japan2022」などの展示会・商談会に参加し、販路開拓を図ったのだった。
また令和2年度には「地域資源活用事業」に採択されて、「冷やしあられぜんざい」の開発にチャレンジ。これはもともとは富山県商工会連合会の勧めで参加した「ニッポン全国物産展おやつランキング」(令和元年)で披露した「冷やしあられぜんざい」(同社の「素餅」と前出・岩木さんの母親特製のぜんざいを合わせたもの)が3位に輝いたことを機に商品化に取り組んだものだった。
「おやつランキングの受賞歴を見ると、ほとんどが洋菓子系のいわゆるスイーツで、日本的なおやつは少なかったようです。ところが審査の結果、「冷やしあられぜんざい」は3位と評価されました。そこで翌年、補助事業を活用してその商品化に取り組んだのです。ところが…」と岩木さんはここで顔を曇らせ、「無添加でぜんざいを保存することは難しく、フリーズドライではそれが可能なのですが、ロット数が当社の事業規模からすると多過ぎたので、商品化の直前になって断念しました。しかし母は、販路開拓がさらに進んだ暁には商品化したいとその日が来るのを待っています」と続けた。
「海外販路開拓商談会」(令和4年度、写真上)
と「シンガポール県産品プロモーション・商談会
事業」(令和5年度)に参加した際のポップアップ
ストアの様子(写真中・下)。ポップアップストア
での販売では、同社の「しろえびあられ」は早々
に完売となった。
そして令和4年度には「中小企業大都市圏販路開拓支援事業」の採択を受けて、「しろえびあられ」の賞味期限の延長(120日→180日)を試み、合わせて販路開拓コーディネーターの助言を受けながら、ある県の高級食材を扱う食品スーパーに営業をかけたところ取り扱いが決まり、同社のおかきは継続的に販売されるようになったのだ。
「賞味期限の延長については、国内では120日で問題ないのですが、海外ではそれでは短かすぎます。そこで180日を目指し、それを実現しました。ただ、多くの貿易商に会ううちにそれでも不充分なことがわかり、後に300日を実現し、今は360日となるよう試みているところです」(岩木氏)
またこの年、丸米製菓では当機構が県の協力を得て行っている「海外販路開拓商談会」に参加。アジアの複数のバイヤーと商談に至るも「賞味期限が短い」と指摘されて輸出は叶わず。「あるバイヤーから、『賞味期限は360日あった方がよい』と、アドバイスいただいたのが大きな成果」と岩木氏は前向きに捉え、その延長を試みているのは先述の通りだ。
そして令和5年度、当機構の「シンガポール県産品プロモーション・商談会事業」に参加した際にも、現地のバイヤー3社から「賞味期限を延ばしたら扱う可能性がある」と好感触を得られたのだった。またシンガポール国内に設けられたポップアップストアでの同社商品の販売状況は極めてよく、「お買い上げいただいた現地の消費者の様子から、商品の値段に輸送費を上乗せして販売しても、割高感はあまり感じていないことがわかりました」と消費者の反応からも手ごたえを感じたようだ。
アジアの国々への輸出の可能性について、好感触を得ている岩木氏。賞味期限360日実現の暁には商談成立が期待されるところだが、ひと足早くアメリカへの輸出が実現する様子。農林水産省が実施している日本の農林水産物・食品輸出プロジェクト「GFP」に参加し、商社のアドバイスを受けながらアメリカ市場への参入にチャレンジしたところ、この取材の1カ月ほど前から輸出が始まったという。
「当社では今、輸出を試みるプロジェクトの案内があれば、『来るものは拒まず』の姿勢で積極的に参加しています。海外販路開拓商談会やシンガポール県産品プロモーション・商談会では、“輸出”という成果は得ることはできませんでしたが、直にバイヤーや現地の販売店の方々と話し、輸出のために何が足りないかを気づかせてくれたという意味では、大きな成果のあった商談会でした。そこで明らかになった課題に取り組んだからこそ、アメリカ市場へのチャレンジも可能になったのです」
岩木氏はこう語り、ここ数年にわたる海外への販路開拓の取り組みを総括したが、「いつかあの『冷やしあられぜんざい』も海外に」と闘志を燃やしているように思えた。
「ビジター対応ビジネス支援事業」は終了しています。
「富山県地域企業再起支援事業」、「富山県中小企業リバイバル補助金」、「富山県中小企業ビヨンドコロナ補助金」は終了しています。
連絡先/株式会社丸米製菓
所在地 〒939-1741 南砺市高宮1380
TEL 0763-52-2525 FAX 0763-52-6223
URL http://maru-yonezo.com
作成日2024/08/09