TOP > 中小企業ルネッサンス > 第61回 株式会社スカイ
「品質や技術で評価される企業」を目指し
社員も一丸となって
「品質や技術で評価される企業を目指したら、社内に
変化が現れました」と語る谷内昌雄代表取締役社長。
精密機械の板金加工を主な業務とする(株)スカイ。県内有数の技術を有することから、全国の精密機械メーカーからも注目を浴び、仕事の依頼を受けるようになってきたが、創業からしばらくの間はそうでもなかった様子だ。
谷内昌雄社長が創業時を振り返る。
「弊社の創業者は、他の業種に従事していましたが、先を見越して昭和55年に機械板金加工に業種転換し、60年に法人化しました。富山県西部には金属製品のメーカー、金属加工を営む企業が多数あり、それに附随して板金加工の仕事もたくさんありました。当然、板金業を営む企業も多く、弊社は最初、その下請として事業をスタートさせたのです。ところが仕事をこなす割には、会社に利益が残らない。そこでもっと上を目指すためには、下請企業からの脱却、一流企業との直の取引きが必要と思い、『品質や技術で評価される板金屋にならなければいけない』と方向転換を模索。平成3年に現在地に本社・工場を移転した際に、それを徐々に実行に移し始めたのです」
ジュラルミン加工のサンプルとしてつくったボックスの
枠組み。超ジュラルミン(A2024)は鉄鋼より硬く、
重量は1/3程度である。
移転して間もない頃のことだ。県外の医療機器メーカー、繊維機械メーカーにアプローチしたところ、見積額の合意を得て受注することができた。要求される仕事のクオリティーは従来に比べて高かったが、それに比例して利益率も上がり、従業員のモチベーションも上がり始めた。客先の要求に応える毎に自信をつけ、難易度の高い仕事を受注してきても、前向きに取り組む社員が増えてきたという。これを機に同社では、営業方針を転換。板金技術の向上を図りながら、品質や技術を重視する精密機械メーカー等を顧客とするように舵を切り、3年ほどでそれを達成したのだ。その結果、顧客名簿に挙げられる企業のほとんどが県外の精密機械メーカーになったのだという。
受注先の転換については、「社内のコンセンサスを得た」(谷内社長)という。従業員も、“忙しいだけで利幅が薄く、スキルアップがあまり見込めない仕事をするよりは、難易度が多少高くても、その案件を通して技術を習得・蓄積し、客先から必要とされる職人になりたい”と思っていたのだろう。労使双方のベクトル合わせが上手くいったようだ。
こうした社風ができつつあった時、同社ではより高度な技術を習得しようと、当機構の「新商品・新事業創出公募事業」(平成25年度)の支援を受けて、航空機部材へ適用可能なアルミニウム合金板材の開発にチャレンジ。極めて強度の高いジュラルミンの板材に曲げ加工を施し、その部材を航空機に採用してもらおうと試みたのだ。そのチャレンジに合せてスカイでは、航空機業界に参入するための品質規格JISQ9100を取得。毎週数日、ほぼ1年かけてJISQに詳しいコンサルタントの指導を受け、航空機業界参入の準備をしたのだった。
「『より高度な技術を』と突き詰めて行くと、ものづくりの世界でたどりつく1つに航空・宇宙があります。『技術で評価されたい』と舵を切った時から、薄々その目標を持ったのですが、平成20年を過ぎたあたりから、そろそろ取り組んでみようかと思ったのです」(谷内社長)
そこで航空機業界のある企業にアプローチすると、「航空機には板金されたもの、曲げ加工されたものは使われない」とけんもほろろに返され、「板金屋に入る余地はない」と諭されたという。詳しく話を聞くと、例えばL字型の金属部材が必要な場合は、金属素材の四角柱のブロックから削り出していたのだ。レーザーによる切り出しでは熱により金属素材が変質する可能性があり、また板材をL字に曲げた場合は亀裂が入る可能性があり、いずれも航空機業界では採用されていないということで、当機構に支援を求めたのだった。開発にあたっては金属加工や金属の組成に詳しい富山大学の教授の協力も得、目的とする部材の試作品をつくり上げたのだ。
ところが・・・。サンプル製品と強度試験のデータなどを持って航空機業界を歩くも「納入実績がありますか」の一言で、その先が閉ざされ、諦めざるを得ない状況に。数年がかりで準備してきた航空機業界への夢はここで潰(つい)えたかに見えた。ところが・・・。捨てる神あれば拾う神ありか。「スカイさんはJISQ9100の認証取っているのでしょ。だったらウチのこの部材つくってくれない」と新規の依頼が続々と。それも新規取引開始の際には、通常行う生産ラインの監査等を省略してくれたのだという。その数は片手には収まらず、薬品関係、医療関係、食品関係の業界に新たな顧客を増やしたのだった。
写真上の2点は、同社が開発した製品。写真上は、
医薬品やバイオなどの試験研究の際に使うグローブ
ボックス。製品全体にR加工が施され、汚れが
つきにくい構造となっている。写真中は、再生医療
装置の内部部品。細菌がたまらないよう溶接部分に
は特殊な研磨加工が施されている。写真下は、
「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定
された際の認定証。
「今はほとんどの板金屋ができることですから・・・」と谷内社長は謙虚な姿勢を示すが、継ぎ目のわからない溶接も同社では早くから取り組んだ。
「極めてクリーンな環境が求められる食品や医薬品関係の製造機器、また最近では半導体製造装置も含まれますが、そこではステンレス部材が多く用いられています。ただステンレスの溶接は難しく、その凹凸にホコリや雑菌が付着して内部に入る可能性があります。それを防ぐために継ぎ目のわからない溶接が求められました」(谷内社長)
そこで同社では医療機器製造業登録証を取得し、製薬やバイオ研究の場などで用いられるグローブボックスや再生医療装置の内部部品などを開発し、「得意先のニーズに応えて喜ばれるものづくり」を実践したのだった。
この他にスカイでは、自主企画としてリベット締結具や冷凍血液の解凍装置などを開発して特許を取得。精密機械の板金加工にとどまらず、制御盤や配線技術をベースとして機械装置の組立なども行い、同業他社との差別化や技術の高付加価値化を図ってきた。
こうした技術開発へのたゆまぬ努力が評価されて、同社では令和元年6月、経済産業省より「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定され、また得意先の大手企業からは「品質優良取引先」「貢献賞」などの表彰を受け、新規顧客の開拓に弾みをつける形になった。
同社の顧客開拓の主戦場は、東京や大阪で開催される「機械要素技術展」などの展示会だ。ここ最近ではコロナの影響で対面営業が自粛された期間を除けば、10年ほど前からほぼ毎年、年2回は出展。その内の4分の1ほどは、当機構の「販路開拓挑戦応援事業」(平成25、26、28、30年、令和4年)の支援を受けての出展だ。
谷内社長が語る。
「機械要素技術展のような大きな展示会では、毎回200社以上の方々と名刺交換することができ、展示会終了後には必ずフォローの営業をしています。その中から数社、弊社の技術等に関心を寄せていただき、最終的には1〜2社にお見積を提出して成約に至るケースがあります。コロナ明けの昨年の秋の展示会では、その場で後日の面談のアポイントをいただいた企業がいくつもあり、後に受注することができました」
同社の工場内。1人1台の機械を担当して、
業務の効率化や仕上げの正確さなどは本人が
率先して改善に努めている様子。
女性の従業員も増えてきている。
谷内社長の弁からは、展示会での受注がほぼ順調に進んでいることがうかがえるが、課題は従業員のスキルをいかにアップし、維持するかだ。
同社では客先の高度な要求に応えるために、工作機械やロボットは定期的に最新鋭のものに更新し、工場の従業員には1人1台の機械を担当させて、その稼動に責任を持たせているという。そこで、品質よく効率的に業務を遂行する従業員は、男女、年齢、正社員・派遣・研修生で差を設けることなく評価し、待遇に反映しているそうだ。その評価は、「賞与にあわせて年2回」とか「昇給時期の年に1回」というのがよくあるケースであるが、スカイでは2カ月毎に評価しているという。
人材の確保も積極的だ。新卒の定期採用はもちろんのこと、中途採用にも余念がない。人手不足が叫ばれて久しく、工作機械やロボットの導入が進むといっても、それをオペレーションするのはやはり人だ。
同社では当機構の「ものづくり人材育成支援事業」(平成27、28年度)、「ものづくり人材等正社員育成支援事業」(平成29、30年度)を活用して人材の確保に乗り出した。この事業は半年〜1年の人件費を当機構が補助し、当該企業が求めるスキルを身につけた人材育成を支援するというもの。助成期間終了時に、その人材が必要なスキルを身につけ、将来性があると判断された場合は、正社員として雇用される制度だ。
「数カ月の試用期間中に、板金や工作機械の基本的なことを教えて、適性や将来性を判断するのは難しく、この制度のように半年とか1年のスパンがあると、企業側も求職者側もじっくり取り組むことができるのではないでしょうか」
谷内社長はこう言って、この人材確保の助成制度を評価したが、同社では延べ4年の支援期間を通じて13名の正社員を確保。いずれも担当する工作機械やロボットを持ち、スキルアップに励んでいるそうだ。
谷内社長が続けた。
「最近は女性でも、『工作機械を扱いたい』『溶接がしたい』『ロボットでものづくりがしたい』と言って弊社の求人に応えて訪ねてくださる方が増えています。『女性にはこの仕事は向かない』ということはありませんので、本人のやる気次第で働いてもらっています」
取材の後で工場見学をさせていただいた。幾人もの女性従業員が工作機械やロボットを扱っているのに出くわした。『はばたく中小企業・小規模事業者300社』に選定される際、機械と職人によるハイブリッド工法により、他社にはできない微細な加工ができる点が評価された同社であるが、将来はこの女性たちがその一翼を担うのではないか、と思えてきた。
連絡先/株式会社スカイ
〒939-0418射水市布目沢262
TEL 0766-53-1146
FAX 0766-53-1149
URL http://sky-toyama.co.jp
作成日 2024/03/06