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企業活動には山あり谷あり。谷から脱却し、右肩上がりに導いた経営者のひと言には再起のヒントあり。

第51回 有限会社放生若狭屋

和菓子の市場を掘り起こすために
積極的に商品開発、そして・・・

「地域の素材を使って、生産者のみなさんにも元気に
なって欲しい」と語る同社の板谷達也社長(写真上)。
創業者の板谷陽平さん(写真下)は、菓子職人として
道を極め、後進の育成にも携わっている。

 菓子職人の先代社長が、修業の旅から帰って射水市(旧新湊)の市街地に店を構えたのは、オイルショックの前年の昭和47年(1972年)のこと。以来、(有)放生若狭屋は48年の社歴を重ね、姉妹店も含めて5店舗を擁するまでになった。
 2代目を継いだ、板谷達也社長がこの48年を俯瞰(ふかん)する。
 「父は地域密着の和菓子店を目指してきました。企業の贈答品や記念品用のお菓子より、地域の方々の個人需要や冠婚葬祭のニーズにお応えしてきました。ですから、オイルショックの時もバブル崩壊の時もリーマンショックの時も、多少の売上げ減はありましたが、大きな影響は受けませんでした。ただ、平成に入ってしばらくしてから、個人需要の伸びにもかげりが見え始めました」
 その要因のひとつは、出生率の低下による親戚の数の減少である。戦前は5人兄弟、6人兄弟もざらであったが、子どもの数が徐々に減って冠婚葬祭の引き出物の需要に影響が出るように。かつては20軒分の引き出物を用意していたものが、時代が下った昨今では、同じ親戚の範囲でも半分で(時にはもっと少なくても)済むようになってしまった。
 冠婚葬祭の簡素化も、需要を縮小させた要因のひとつと言えるだろう。例えば法事の引き出物などの予算は、同店の例でいうと、昭和の終わり頃は1軒あたり2万円前後していたものが、昨今は半分近くになっていると板谷社長は見る。引き出物の点数が減り、サイズも小さいものが選ばれる傾向にあるという。
 「当店の法事の例でいいますと、かつては5,000円程度のカステラを選ばれるお客さまが多かったのですが、最近は2,000円から3,000円のものが好まれます。家族の人数が減って、大きなカステラをいただいても、食べきれないという実情があるのです」(板谷社長)

和菓子の市場を掘り起こすために

おなじみの同社のかりんとう饅頭(写真上)と
店内のかりんとう饅頭のコーナー(写真下、
リニューアル後の包装)。テレビ等の取材を多く受ける
ようになり、タレントのサインを売り場に掲示している。

 縮小傾向にある和菓子市場にくさびを打ち込もうとしたのが2代目の板谷社長だ。手始めに取り組んだ試みの1つが、「かりんとう饅頭」の商品化である。
 「リーマンショックがあった翌年に『かりんとう饅頭』の商品化を試みました。この和菓子そのものは、その7〜8年前に福島県のある和菓子店が開発して人気を博し、後続する和菓子店が全国に現れました。ところがその多くは長続きしなかったのです。その様子を富山で観察し、私なりの考えを持って『かりんとう饅頭』をつくることにしました」
 板谷社長がいう「かりんとう饅頭」とは、黒糖を練り込んだ生地で、甘さ控えめのこしあんを包んで油で揚げたもの。皮がサクサクして食感がよく、その下からこしあんの甘さが広がってお茶請けに合う和菓子のひとつだ。後続店の多くは、「こしあんの質や揚げ方などで菓子職人としての道を究める」(板谷社長)方向で菓子づくりに励んだようだが、放生若狭屋では、「一家そろって食べる『かりんとう饅頭』。家族の笑顔の架け橋になる和菓子をつくり、会話を弾ませたい」と願いを込め、会話のネタになるようにと、こしあんだけでなく、抹茶もあんこに。後には桜、カボチャ、ブルーベリー、栗、紫芋など旬の野菜や果実等も利用し、「次はどんなあんこの『かりんとう饅頭』が出てくるか楽しみ」とお客に期待を持たせるようにしたのだった。
 「若い人たちの和菓子離れは顕著です。そこで20代、30代の市場を掘り起こすために、洋菓子の要素を取り入れて、チョコレートやクリームチーズをあんこにした『かりんとう饅頭』も開発しました。こうした取り組みは、10年後、20年後の当店の菓子のファンづくりのために必要だと思い、チャレンジした次第です」(板谷社長)
 そして平成30年には、当機構の「とやま中小企業チャレンジファンド事業 ビジター対応ビジネス支援事業」の採択を受けて、「かりんとう饅頭」のブランディングに着手。具体的にはその包装紙やお持ち帰り用ショッピングバッグのデザインを一新し、高級感を持たせることを通して「かりんとう饅頭」の贈答用としての市場を開拓しようとしたのだ。
 板谷社長がそのアウトラインを語る。
 「包装紙やショッピングバッグのデザイン開発には、商品パッケージのデザインに詳しいデザイナーの協力を得ました。また、そのデザインをベースに、テレビCMや雑誌広告を展開するために、富山県よろず支援拠点の広告宣伝に詳しいコーディネーターからアドバイスを受けて、そのコンテンツづくりも試みました。そして、9、10、11月にメディアを通じたセールスプロモーションを行ったのです。おかげさまで効果は抜群。問合せの件数が急増し、売上げアップにつながりました」

県内産素材にこだわったカステラを開発

富山市の山間で有機栽培されたコシヒカリの
新米を米粉にし、それを用いてつくられた「富山米の
カステラ」(写真上)。細長いブロック状のカステラの
他に、カットして個包装したものも用意する(写真下)と、
「切らずにすぐに食べることができる」と人気を博し、
贈答用に用いられる方も多い。

 また令和元年には、当機構の「とやま中小企業チャレンジファンド事業 地域資源活用事業」の採択を受けて、富山県産有機栽培コシヒカリの米粉を用いた「富山米のカステラ」の開発に着手。米粉だけでなく、卵、蜂蜜など、可能な限り富山県内産の素材を使うことをテーマに掲げた。
 「『富山米のカステラ』は平成28年から販売していました。原料の米粉は、県内産コシヒカリの古々米を製粉したものです。米粉を使った菓子の多くは古々米や古米を利用していますが、当店ではこれを機会に生産者のわかる有機栽培のコシヒカリの新米を用いることとし、農家と製粉業者の協力を得ることにしました。また卵も蜂蜜も質のよい県内産を探し、それぞれの生産者を訪ねて安定供給をお願いしました。和三盆糖は県内では生産されていませんので県外産を購入していますが、素材はなるべく県内産を用いるようにしました。余談ですが、かりんとう饅頭の餡の素材も、この頃から極力、県内産を用いるようにしました」(板谷社長)
 改良前の「富山米のカステラ」は、1日平均1,000個を超える人気商品に育っていたのだが、有機栽培のコシヒカリの新米を素材にするようになると、「もちもち感がすごい」と評判に。さらにはカットして個包装したものを商品ラインナップに加えたため、「食べやすい」「1人暮らしでも買いやすい」「贈答品として使いやすい」と好評を博し、新しい「富山米のカステラ」の売れ行きに拍車がかかったのであった。
 ここで1,000個を超えるカステラを毎日焼き、また数百、数千のカットカステラを個包装するのは大変ではないかと尋ねると、板谷社長は「地元の信用金庫の協力を得て国の『ものづくり補助金』の採択を受け、平成29年に大型の釜を、翌30年には包装機を導入し、大量生産のラインを整えました。包装機は1時間に1,500のカットカステラを包装するので助かっています」と笑顔で返してきた。

「利益率を改善し、働きやすい職場にしたい」

放生若狭屋新湊本店(写真上)と
同店の皆さん(写真下)。

 こうして「かりんとう饅頭」や「富山米のカステラ」が人気を博し、味のバリエーションや季節商品、包装の形態などが多様化してくると、商品管理が難しくなる。同店には他の和菓子商品もあり、また北陸新幹線開業を期して出店した「放生若狭屋とやマルシェ店」や姉妹店の「かりんとう凛や富山店」での和菓子の売れ行きが好調なところから繁忙を極め、商品一つひとつや店舗ごとの販売状況についての把握が正確にできなくなってしまったのだ。
 「経営者自身がこういうことを言ってはいけないのですが、『どんぶり勘定』的に判断していたところもあります。例えばある和菓子については、売れ行き好調のイメージが強いところから、必要以上に原料や包装資材を発注しているかもしれませんし、逆に、あまり売れない和菓子をつくり続けて、利益を食いつぶしているかもしれません。そこで、本年度に入ってから新世紀産業機構の専門家派遣事業を活用して中小企業診断士を招き、ムダを徹底的に省くとともに、商品やお店ごとの販売状況を数値化するための指導を受けています」(板谷社長)
 この取材の時点では、その指導は道半ばの様子。先のコメントに続けて板谷社長は「利益率を改善し、社員の待遇改善の一助にしたい。また公的支援を受けながら、製造現場の機械化・合理化を進め、3K職場の1つと評される和菓子づくりの現場に働き方改革の光を当てたい」と抱負を語るのだった。
 メディアでの広告をはじめ、新規の出店、相次ぐ新しい和菓子の開発や県産素材を求めての板谷社長の行脚は、県内関係者が注目するところに。それらの出会いの中から、地元産の桃やもち米の新大正、深層水由来の塩などを、かりんとう饅頭やカステラに使う案が生まれ、また新しい和菓子の開発に協力したいと大学等から声をかけられるようになったという。
 案を餡に生かすのは、板谷社長や同店の皆さんの腕の見せ所というところか。板谷社長は「Win・Winの関係を築きたい」と取材を締めくくった。

連絡先/有限会社 放生若狭屋
〒934-0005 射水市善光寺16-5
TEL 0766-84-0844
FAX 0766-84-0068
URL https://houjou-wakasaya.jp

作成日  2020/12/14

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