第47回 ケーズメタル株式会社 広域商談会 ものづくり補助金 クリエイティブ産業振興事業 TONIO Web情報マガジン 富山

TOP > 中小企業ルネッサンス > 第47回 ケーズメタル株式会社

企業活動には山あり谷あり。谷から脱却し、右肩上がりに導いた経営者のひと言には再起のヒントあり。

第47回 ケーズメタル株式会社

リーマンショックで学んだことを実践
「選ばれる会社」を目標に変化し続ける!

創業から3年目でリーマンショックという大不況を経験した
ケーズメタルの片山要治社長。「でもそこで大事なことを
たくさん学ばせていただきました」と語り、その詳細を取材で
語った。

 片山要治社長がケーズメタルを起こしたのは、今から14年前の2005(平成17)年のこと。当時28歳であった同氏は、その3年後には世界的な大不況・リーマンショックの荒波にもまれることに。創業時には、予想もしなかったことだ。
 「非常に苦しい1年数カ月で、そこで多くのことを学ばせていただきました。当社の原点は、そこにあるといっても過言でありません。苦境からの脱出は、あるご縁が功を奏したからです。それもフル操業に近く機械が動き出し、人手が足りなくて新たに求人もしました」
 若くして厳しい経験をした片山社長が当時を振り返る。そして「何よりもご縁は大切。当社は県内では社歴の浅い板金屋ですが、様々な方とのご縁の中で仕事をいただき、事業を続けさせていただいています」と語り、創業の経緯から話し始めた。

事業承継の最初に待っていたのは・・・

同社社屋の正面。「クリエイティブ産業振興事業」の
採択を受けて、ロゴマークの作成やイメージカラーの
選定が行われ、社屋にもそれを反映させている。

 両親は、自宅そばの工場でバイク部品の溶接業を営み、少年時代の片山社長はその背中を見て育った。学卒後は、家業を継ぐことを念頭におき、愛知県のある会社で溶接の技術を学ぶため修業。3年を経過した頃、がん闘病の末父親が49歳の若さで他界。急遽家業を支えるためふるさとに帰った。
 「ところがその3年間で、バイク部品の製造・加工の拠点は海外に移り、両親の工場の稼働率はだいぶ落ち、国内での需要回復見込みも見えず、厳しい状況でした」(片山社長)
 事業承継の最初に待っていたのは、試練だった。後に経験するリーマンショックほどではないにしても、工場経営の引き継ぎを視野に入れていた片山青年にとっては、大きな壁が立ちはだかったようなものだ。
 そうした時、父親の友人で板金業を営むある社長から「ウチの会社で働きながら溶接の技術に磨きをかけ、さらには板金や製缶の技術も身につけたらよい」と。そして続けて「いずれ経営者になるのだから、会社の動かし方や人の使い方も勉強したらよい」と声をかけてもらった。
 そして数年間の修業を経て2004年創業。その際には、修業先の社長が「手が足りなくて困ることがあったら、ケーズメタルを使って欲しい」と県内の板金業者に声をかけてくれたこともあり、経理を担う女性と若い従業員1人を雇った同社は順調にスタート。徐々に機械設備を充実させ、従業員は8名に。そんな中リーマンショックが襲いかかったのだ。

「選ばれる会社」になることに

同社の製造品の一例。工作機械のカバーなどを精密板金
の技術で製作している。

 「それ以前も、決して楽な経営ではありませんでしたが、仕事が順調に入ってきていたので私たちは楽観的になり過ぎていたのです。でもあの大不況のおかげで気づかされました。『仕事がない』といわれている中でも、お客様から仕事を依頼されている同業者がいくつもありました。そこで私たちは『お客様から選ばれる会社』の大切さを痛感させられたのです」
 「会社が苦しくなり、不本意ながら雇用保険の休業補償を申請し、自宅待機をお願いした従業員もいます。それでも当社に残ることを選んでくれた従業員には本当に頭がさがります。またそれまでの従業員は、他の金属加工の企業で定年まで勤めた方がほとんどでした。熟練の技術をお持ちでしたから若い当社としては非常にありがたかったのですが、片やハローワークに求人票を出しても、30代・40代の働き盛りの方からの求職がなかったのは残念でした。そこで求職者に選ばれる会社になることの大切さも思い知らされたのです」
 創業時や大不況の中で気づかされた「お客様から選ばれる」、「従業員から選ばれる」、そして「求職者から選ばれる」会社になることをさっそく実践。まずは待ちの姿勢を改め、営業で歩いて靴の底を減らすように、新しいお客様とのご縁づくりに努めた。そして納期の厳しい仕事もありがたく引き受け、社員一丸となり全力で対応した。
 こうしてリーマンショックの発生から1年数カ月が過ぎたある日のこと。「太陽光発電の制御ボックスの製作を手伝って欲しい」と隣県の同業者から連絡が入ったのだ。
 当時、太陽光発電は急速に普及しつつあった。それに比例して制御ボックスの需要も急増し、ケーズメタルが依頼された生産量は結構な量で、それが2年近くも続いた。おかげで同社は、リーマンショックの後遺症からなんとか立ち直るができたのである。

広域商談会で大都市周辺の顧客開拓も

大都市周辺の産業集積地で開催される当機構主催の広域商談会
の様子(2019年2月26日、富山県ものづくり商談会in名古屋)。
毎回多数の現地企業が来場されるため、富山から参加する企業
も多い。

 一方で同社は、全国を視野に入れた顧客開拓にも乗り出した。2012(平成24)年からは、当機構が東京・神奈川・愛知・大阪で開催している広域商談会に毎年参加することに。大都市周辺の顧客、それもメーカーからの直接受注も念頭においての新規開拓に力を注ぐようになった。
 片山社長が商談会を振り返る。
 「会場にはメーカーや関連企業、傘下企業、下請企業の方が多数来場され、当社単独の飛び込み営業ではお目にかかれないような方々と面識を持つことができます。ただ、すぐに大きな案件に結びつくわけではありません。加工単価2,000円程度のものを十数個受注し、半年後、1年後にまとまった仕事に結びついたことがありますし、『これで3年連続来ているね。マシンが年々充実して仕事の幅も広がっているようだから、試しに一度お願いしてみようか』と3年目にやっと声をかけていただいたこともあります」
 商談会で片山社長が大切にしていることは、来場者との面談の中で試作品をつくることに話が及んだ際には、きちんと約束を交わしていなくても早急につくって自社の技術を見ていただくことだ。また来場者との会話の中からニーズをくみ取り、仮にその時にはある加工技術を持っていなくても、早急にマスターするように。そして加工領域を増やし、精度も上がったことを再会する来場者にお知らせするようにしてきたという。
 時には年間4会場に足を運び、新規顧客の開拓に努めてきた同社。社長のスケジュールが合わない場合は専務が赴き、来場者対応をこなしてきた。延べ十数会場で50社を越える企業の調達担当者と商談した結果は……。フォロー営業の成果が明らかになっている2017(平成29)年度までの実績では、合計6社との商談が成立。中にはまとまった金額の案件もあり、これを機にケーズメタルに定期的に仕事を出してくれるようになった企業もあるという。

公的支援を活用して事業基盤の整備・強化に

2017年度のものづくり補助金では、曲げ加工技術の高度化をテーマに
採択され、同マシン導入が図られた。

 顧客開拓に努める一方、同社では国や当機構の産業支援メニューを活用して、事業基盤の整備・強化にも取り組んだ。例えば2013、'16、'17年度には、国のものづくり補助金の事業に採択されて、高精度の曲げや溶接などの加工ができる最新鋭のマシンを導入。お客様から選ばれる可能性を高めるために、技術の高度化・高品質化とともに生産体制の充実も図ってきたわけだ。
 「職人技の蓄積という点では、当社は先輩企業に及ばないところもあります。しかし昨今は、機械の高度化によりそれを補うことができるようになりました。機械に任せることができるところは機械に任せ、私たちはそれを十分に使いこなせるようにスキルを磨いています」

クリエイティブ産業振興事業の支援を受けて制作された同社のホームページ。
スマホ対応のホームページが出始めた時期であったため、それを踏まえて
制作された。

 片山社長は、ものづくり補助金による支援を受けながら加工技術の高度化・高品質化を図ってきた背景をこう語るが、片や専務は営業ツールの開発や人事労務管理の整備などに取り組んだ。従来は手づくりの業務案内を、その都度プリントして各種の展示会・商談会で配布していたが、当機構の「クリエイティブ産業振興事業」(2016年度)の支援を受け、会社案内のパンフレットやホームページのリニューアルのためwebデザイナーに相談しながら企業のイメージアップを図るところからスタート。名刺や封筒、業務案内など印刷物ごとに違った社名の書体や色を見直し、ロゴマークの作成や社のイメージカラーを決めるなどして統一感を持たせた。またホームページのリニューアルでは、最近でこそ多くの企業が導入しているが、同社はその当時からスマホでも閲覧できるサイトにしたのだ。

魅せる工場へ

20代・30代の若い世代が、最先端の工作機械や産業ロボットを使うことに
憧れるなどして、同社の求人に応じるようになっている様子。

 現状では人手不足にはないものの、今後の事業拡大を見据え、今後より一層深刻化していく人手不足を解消するため、新工場は「人材獲得競争に勝ち抜く工場」をコンセプトに、経営理念や社風、スタッフのイキイキ働く姿を積極的に見せる「魅せる工場づくり」を実現したいと考えている。
 業界団体や学生など見学を積極的に受け入れ、この会社で働いてみたいという採用希望者が増える、またスタッフが定着して業績が上がる。そのような「人があつまる工場づくり」を目指す。  最後に、片山社長が抱負を交えて同社の展望を語る。
 「今後は工業製品ばかりでなく、オリジナルデザインの製品開発にも挑戦したいと思います。そのためには、様々な板金のニーズにお答えできるようにならないといけませんし、新しい金属素材へのチャレンジも必要でしょう。また人手不足や働き方改革などにより、労働環境や経営環境も大きく変わると思われます。今までの板金業界は、熟練した職人さんのマンパワーに支えられてきましたが、AIやIoTがさらに進むと、熟練の技は機械で再現可能になります。そうすると、男社会であった板金業の世界で、女性が活躍できる可能性も高まってくるのです」
 取材の後で工場見学をさせていただいたが、現場での女性従業員の姿もチラホラ見え、片山社長がいわんとしていることがうかがえた。
 「女性や若い人たちに活躍していただくには、職場環境の改善も大切です。長らく3Kといわれてきた現場を改善し、整理整頓をきちんと行い、職場をきれいに保つ。お手洗いや休憩室も改装し、居心地がいいようにする。こうした小さな積み重ねの中で、若い人や女性の求職も増え始めました」
 ちなみにこの取材時の従業員数(パート等含)は35名、うち女性は9名。正社員の平均年齢は29歳であった。また受注する案件の中には、大手メーカーから直接依頼されるものもあり、その数は徐々に増えつつあるという。この10年で同社は「選ばれる会社」に変わりつつある。
 片山社長は、それをさらに進めようとしている。
 「実は今、工場新築の計画を持っています。そこでは、働く様子をとおして当社で働くことや工場の魅力を表現できたら最高だと思います。改善すべき点はまだありますので、当社は変化することにチャレンジし続けないといけないようです」
 「魅せる工場」で、客先からさらに選ばれる工場になり、また今後は新卒者も視野に入れて若き求職者から選ばれる会社になろうというのだ。まさしく「Challeng to Change」。キャッチコピーのとおりの会社だ。

連絡先/ケーズメタル株式会社
〒939-1272 高岡市下麻生字天洞4524
TEL 0766-36-8280 FAX 0766-36-8281
URL http://ks-metal.co.jp/

 

作成日  2019/10/07

このページのトップに戻る

Copyright (C) 2005-2013 Toyama New Industry Organization.All Rights Reserved.