TOP > 中小企業ルネッサンス > 第66回 株式会社熊野製作所
「不良品を出さない」を徹底し
大手企業からの受注も次々と
品質管理を徹底する熊野製作所の白山達也社
長(写真上)と同社の本社・工場(写真下)。
この周辺に3棟の工場がある他、砺波市内の庄
川・林などに2棟の工場を有す。
「先代の創業者は、自宅の納屋を改装し、小さな工場でバイク部品の組み立てからビジネスを始めました。そのうち知人の紹介で機械メーカーとの接点ができ、中古のプレス機を買って金属部品のプレス加工を請け負うようになりました。これが発展し、今日の熊野製作所があるのです」
2代目社長の白山達也氏は感慨深げに語った。同社の沿革を見ると、昭和55(1980)年の創業の後、数年おきに工場の新設・増設を行っている。まずは平成2年、町工場では手狭になったため現在地に移転して、工場を新設。それ以降、平成6年、14年、16年、18年、23年、27年、30年と新設・増設を繰り返し、経営上の“山あり、谷あり”は経験されていないのではないかと推測されるほどだ。
「いやー、そんなことはありません。何度も苦しい思いをし、社員には我慢もしてもらいました。先代は平成2年の工場の移転・新築のあとでバブル崩壊に見舞われていますし、私は平成20年10月に社長を引き継ぎましたが、その月末にリーマンショックの煽りを受けての株式市場の暴落と不景気に見舞われました。二人とも新しい門出を祝う間もなく、荒波に立ち向かうことになったのですが、どん底で苦しい思いをしている時に、知人の紹介や商談会などでの出会いを機に、新たな客先に巡り合ってきたのです」(白山社長)
同社の製品の一例。産業機械のカバー(写真
上)とエクステリア製品(写真中)。写真下
の岩崎傑取締役工場長は「不良品を出した後
のフォロー(つくり直す時間と材料費のコス
ト)のことを考えると、不良品を出さないこ
とはコストダウンに繋がり、何よりの宣伝材
料になる」と強調する。
機械部品のプレス加工で会社の礎をつくった熊野製作所。後には地元の建材メーカーからの受注にも成功した。住宅の着工数は、今よりはるかに多い時代であったためその受注は追い風に。工場の移転・新設を実現するまでになったのだが、翌年にはバブル崩壊の波に襲われ、長引く不況のとば口に立たされたのだった。
「確か、平成4年か5年のことです。県内には産業機械のメーカーがいくつもありますが、そのうちの1社のOBの方から、『熊野製作所は仕事が丁寧と評判だから、A社を紹介しましょうか』と声をかけていただき、それがご縁で受注できるようになりました」
白山社長は、復活のチャンスをつかむ様子をこのように語るが、先代社長はこれを機に他の産業機械メーカーにも営業をかけ、数年後には工作機械メーカーの製品製作だけにとどまらずアッセンブリ(組立て)までも行うまでに。商社経由で日本を代表するようなものづくり企業にも製品を収めるようになり、紹介によってそのグループ企業の発電機のカバーも受注するようになったのだ。
この時、産業機械メーカーとできたご縁はリーマンショックからの立ち直りに生かされることに。そのメーカーが太陽光パネルを生産するための機械を大量に受注し、その部品づくりが熊野製作所に回ってきたのだ。おかげで同社は、リーマンショックによってもたらされた不景気からは1年あまりで脱することができ、V字回復を成し遂げた。
人とのご縁が新しい取引開始のきっかけとなり、その取引が、次の大きな受注につながっていく。白山社長の話をうかがっていると、同社にはそのご縁が切れ目なく続いているようだ。
取締役工場長を務める、岩崎傑氏が語る。
「それは当社の品質管理が徹底していて、熊野製作所の部品には不良品がほとんどない、と信頼されているからだと思います。先代社長はとにかく品質管理には厳しく、『不良品を1つ出しただけで、会社の信用はすべて失われる』と口癖のように言っておられました。現社長はそれに輪をかけていて、『間違って不良品をつくるかもしれない。でも、しっかり検品すれば不良品は社外には出ない』と口を酸っぱくして言っています。不良品がないことで客先からは信頼され、その積み重ねが次の発注につながっているのではないかと思います」
では同社では、「品質管理課」などの専門部署を設けて、検品を徹底しているのか……。そのあたりを白山社長にうかがうと、「特別に部署をつくっているわけではありません。それぞれの製作チームの所属長が中心となって、チーム全員で検品しています。現場のスタッフが設計図を一番理解していますから、設計図との違いにはすぐに気づくはずです」と返ってきた。
同社の工場内の様子(写真上・下)。溶接を
行っているのは女性の社員で「板金や溶接を
希望する女性の求職者が増えている」(白山
社長)ようだ。
平成20年を過ぎたあたりからは、熊野製作所では当機構が実施している「広域商談会」によく参加するように。この商談会は東京(または神奈川)、大阪、名古屋などのものづくり企業が集積する都市に、部品の製造・加工等を主な業務とする富山県内の企業が赴き、外注先を求めている現地の企業とマッチングを行うもの。年に2〜3の都市で実施されている商談会だ。
その広域商談会に、同社はほぼ毎回参加。そこでも大手のものづくり企業からの受注を繰り返しているのだった。
「この商談会には、数十社の現地のものづくり企業の関係者が来場され、金属や樹脂などの部品をつくる企業との出会いを求めておられます。来場者の目的意識が高いため、一般的な展示会・商談会より成約の可能性が高いのです」と白山社長は語り、広域商談会に参加したことを機に取引が始まった企業名を5、6社挙げ、「中には大口の発注先に育っている企業もあります」と続けた。その5、6社とは、重工業大手のB社、工作機械大手のC社・D社、FA関連のE社、港湾クレーンメーカーのF社などで、「昨年、名古屋の商談会に参加した際には、食品製造の機械メーカーの G社との商談がまとまりました」と微笑んだ。
側(はた)から見ると、すこぶる順調に新規開拓が実を結んでいるように見えるが、新しいものづくりに取り組む際には、同社はまず人材育成に注力。中でもプレスから板金加工やエンクロージャーの製作へと仕事の幅を広げた時には、従業員1人を大手エンジニアリング会社に派遣して、設計図の読み込み方、加工の手法などを学ばせた。また近年は、部品の製造だけでなく後工程の組み立ても依頼されるようになり、そのニーズに応えるための人づくりにも力を入れるようになってきた。
取材の終わりに、ものづくりにあたっての熊野製作所の方向性についてうかがうと、白山社長は次のような答を返してきた。
「何年か前から、従業員の多能工化が言われていますが、それがさらに進んで、ものづくり企業そのものの多能工化が求められるようになると思います。『当社は○○づくりが専門の会社です』といって仕事の幅を限定していては、会社を回せなくなるのではないか。これは当社のような金属加工の業界だけでなく、他の業界にもそういう波が押し寄せてくるでしょう」
連絡先/株式会社熊野製作所
〒939-1333 砺波市苗加21
TEL 0763-32-5177
FAX 0763-32-5187
URL http://www.kumano-ss.com
作成日 2025/12/11
