第58回 コルムデザイン(colm design)  中小企業首都圏販路開拓支援事業 中小企業大都市圏販路開拓支援事業 めんめん館 TONIO Web情報マガジン 富山

TOP > 中小企業ルネッサンス > 第58回 コルムデザイン(colm design)

企業活動には山あり谷あり。谷から脱却し、右肩上がりに導いた経営者のひと言には再起のヒントあり。

第58回 コルムデザイン(colm design)

立体的な革製品で独自ブランドを
販路も徐々に広がり・・・

プロダクトデザイン、グラフィックデザインの
制作に携わるかたわら、「colm」(コルム)ブランドの
立体成形の革製品を展開する成田吉宣代表。

 学卒後、大阪のデザイン制作会社に勤めていた成田吉宣さん。関西の各種ものづくりメーカーから製品のデザイン開発の依頼を受けるかたわら、それが売り出される際のカタログやパンフレット、広報用のホームページの作成などの業務をしていた。
 「いずれは富山へUターンしよう」
 と漠然と思っていたそうだが、「富山に帰って具体的にどのような仕事をするかまでは考えていなかった」という。
 転機が訪れたのは平成20年のことだ。制作会社の社員有志が、自転車の周辺アイテムのブランド「moca」(モカ)を立ち上げたのだが、氏はそれに当初から参画。自転車に乗る際、ズボンの裾をひも状のもので巻き、ズボンがチェーンに絡むのを防ぐベルトを開発したのだった。
 コルムデザインを営む成田代表が、当時を振り返って語る。
 「大阪のデザイン会社では、自転車用品のデザイン開発を手がけていたことと、私もそうなのですが、自転車のツーリングが好きな者が数名いて、自転車用品への関心が高かったのです。そこで自転車関連のアイテムとして私たちが開発したのは、スボンの裾を巻く革製のベルトでした。以前から、競技用のベルトはありましたが、私たちが目指したものはカジュアルで、普段使いできるものでした」

初期投資の少ない革で

立体成形されているレザートレイ。

 樹脂や金属を素材に用いたものでは、金型制作に莫大な費用がかかる。そこで素材としては革を選んだ。革製品は、平たい状態ならば裁断と穴あけ・縫製などだけですみ、その加工も外注に回せば、機械を導入するための初期投資も不要になるからであった。
 でき上がったベルトは、自転車用品の販売店の協力を得て売り出す一方で、展示会等に出展して関心を示してくれるバイヤーや小売店を開発し、そのフォロー営業の中で開拓していったのだった。
 「今思えば、社員として日常の業務をこなしながら、社内事業として独自ブランドの商品を立ち上げることができたことは、よかったと思います。『moca』を始めてからは、コストや利益率について、以前より考えるようになりました」と成田代表はいう。
 そして故郷へUターンしたのは、平成31年1月のこと。子どもが小学校に上がってからの転居では、「転校というたいへんな経験をさせる。さびしい思いをさせたくない」というところから、小学校に上がる前に富山市内へ移転したのだった。「コルムデザイン」も間もなく旗揚げした。大阪で身につけたスキルを生かしてのプロダクトデザイン・グラフィックデザインの仕事を続け、前の制作会社から依頼されてのデザイン開発の仕事は継続。また富山県総合デザインセンターから紹介されて、企業のデザイン開発にも取り組んだ。そして大阪勤務時代から企画を温めていた立体的な革製品の商品化に着手。間もなく「レザートレイ」ができ上がり、その販促にも着手したのであった。
 ここで革製品の立体成形について、簡単に紹介しておく。
 「革絞り」という立体成形の手法は昔からあった。ただ昔ながらの手法は、削り出した木型(雄型のみ)に濡らした革をはめ込み、プレス機に5〜6時間かけて成形するものだ。木型の削り出しは手作業で行うため時間がかかり、細かい意匠を施すことも難しい。また待ち時間が多く、生産性が低いという難点もあった。

加工の工程を見直した

立体成形の主な工程。
上から順に(1)3DCADにて3Dデータを制作
(2)CNCフライス旋盤で樹脂型を切削
(3)ヌメ革を雄型と雌型ではさんでプレス
(4)半日固定した後、型から取り出す。

  成田代表は、従来の工程を見直すことから始めた。まずは、プロダクトデザインで培った3Dデータを用い、それをコンピュータ制御のCNC旋盤に流して、樹脂を切削して型(雄型・雌型の両方)をつくること模索したのだ。
 「こうすると、手作業で木を削って型をつくるより、繊細な凹凸の模様もつくることができます。CNC旋盤というと高価なイメージを持たれるでしょうが、小型で、自分でマシンを組み立てるものでしたら、30万円程度で購入できるのです」(成田代表)
 氏は、大阪勤務時代はマンション暮らしだった。その一室に自作の防音・防塵用ボックスを置き、その中にCNC旋盤を設置。革製品の試作品づくりを進めた。富山でコルムデザイン設立と同時に、自社ブランドの商品を持っての販促活動が可能になったのには、こうした背景があったのだ。
 そして年度が変わって(年号も変わって)、令和元年度。コルムデザインは「とやま中小企業チャレンジファンド事業 小さな元気企業応援挑戦事業」(令和元〜2年度)の採択を受けて新たな商品開発と販路開拓に挑戦することに。令和元年度には名刺ケースの開発と販路開拓に、翌年度には財布と名刺ケースの新色の開発、そして販促活動に取り組んだ。
 「最初のトレーは少しずつ売れるようにはなりましたが、お店ではインテリア用品として扱われるため、取扱店が限られます。名刺入れや財布の開発に着手したのは、雑貨として扱われ、もっと多くのお店に置いてもらいたかったからです」(成田代表)
 販路開拓では展示会への出展の他、メンズファッション誌に広告を出稿。小売店の開拓と商品の告知に努めた。またクラウドファンディングによる先行販売を3回実施したところ、目標の3〜5倍の支援者(注文)を得、幸先のよいスタートを切ったのだった。

富山のものづくりとコラボを

革絞りで成形された革の凸部分に、
マグネットを内蔵させ、スムーズに開閉
できるように工夫された名刺入れ。

 右肩上がりで売り上げを伸ばしていくかに見えたのだが、コロナ禍の襲来により冷水をかぶったように。令和2年度は、出展への関心を示していた展示会が次々と中止になり、参加できたのは一部のみ。翌年度も活発な営業活動はできなかった。 「新型コロナウイルス感染症の蔓延により、テレワークの環境が急速に進みました。元いた大阪の制作会社との打ち合わせは、テレワークにより問題なく進みました。商談会もオンライン化が進みましたが、商品の質感や特徴が伝わらないので、販路開拓にはほとんど結びつきませんでした」
 成田代表がいうように、コルムデザインも厳しい販促環境に置かれた。そこで同社では、コロナの蔓延が少し落ち着きを見せ始めた令和4年度、「大都市圏販路開拓支援事業」を活用して、販路開拓マネージャーの指導を受けることに。首都圏の高級品を扱うデパートや高級文具店に的を絞って営業をかけるとともに、地元の百貨店にも販売を打診したところ、地元の百貨店は昨年12月上旬から“お試し販売”を実施。首都圏の営業先も「鋭意検討中」とのことだ。
 最後に、今後の抱負についてうかがうと、次のような答えが返ってきた。
 「富山は工業的なものづくりが盛んなところです。中には、技術はあるがBtoCでの商品開発の経験がないものの、新たにブランドを立ち上げて市場に商品を送り出したいと考えておられるメーカーさん、既存商品のデザインをリニューアルして販路開拓に改めて取り組もうというメーカーさんもおいでになるでしょう。そういう企業の方々とデザイン・ブランド開発で伴走支援し、富山のものづくりを盛んにできたらと思っています。また富山はクラフト的なものづくりでも魅力のある地です。銅やスズを始めとする各種の金属、漆器、ガラス、和紙と素材もいろいろあり、それらを活用して日用品や生活雑貨が多数開発されています。将来的には、それら素材とのコラボレーションも期待しているところです」(成田代表)
 何年か後には、漆で加飾された革製品に青貝が施されたもの、あるいは青銅色に着色された銅片が象嵌された革製品などが上市(じょうし)されている・・・。そういう日がくることを期待するところだ。それも人気の商品として・・・。

連絡先/コルムデザイン(colm design)
〒930-0926富山市金代223
TEL FAX 076-460-4968
URL https://www.colmdesign.jp

作成日  2023/02/16

このページのトップに戻る

Copyright (C) 2005-2013 Toyama New Industry Organization.All Rights Reserved.