TOP > 中小企業ルネッサンス > 第52回 ヴィレッジ・セラーズ株式会社
ワインの輸入・販売会社がアイデア商品開発
欧米の市場も視野に入れて販路開拓に
同社が開発したグラスホルダーの「グラズマターズ」。
ワイングラスのボウルの部分を投入し、そこで
手を離してもグラスは割れない(写真上)。
2018年(平成30年)にはグッドデザイン賞を受賞。
写真下は表彰の際のリチャード・B・コーエン社長
と夫人の中村芳子専務。
ここに、素晴らしいアイデア商品がある。
ワイングラスの飲み口部分を下にして、グラスホルダーに入れ、数センチの高さから手を離す。従来のホルダーではワイングラスが割れるところだが、このホルダーでは衝撃が吸収されてグラスはポン、ポンと弾み、割れない。素材は従来品と同じくPP(ポリプロピレン)で、グラスが弾むように設計され、割れない点が評価されて特許を取得。2018年にはグッドデザイン賞にも輝いた。
万の言葉を費やすより、その実際の様子をご覧いただく方がよいだろう。記事の末尾に専用ホームページやYouTubeのアドレスを挙げて置く。ビールジョッキーのような厚手のグラスではなく、薄くて繊細なワイングラスが、割れずに弾んでいるのである。
氷見市の上田工業団地にある同社の社屋
(写真上)と同社のワインセラー。輸入された
ワインは温度管理されている。
このグラスホルダーの名前は「グラズマターズ」。氷見市の山あいにある上田(うわだ)工業団地に社屋を構えるヴィレッジ・セラーズ(株)のリチャード・B・コーエン社長が開発したもの。開発の経緯を振り返ってみよう。
もともと同社は、オーストラリアやニュージーランド産のワインを輸入販売する会社である。東京と大阪に営業拠点を構え、主にホテルやレストランにワインを販売し、今年で34年の社歴を刻む。
「オーストラリアにプラム(Plumm)というブランドのワイングラスがあります。当社はオーストラリアのワインを扱っている関係でその社長が訪ねてきて、『日本の総代理店になってほしい』と頼んできました。2015年、平成27年のことです。ワインの販売に関しては年々競争が激しくなるばかりでしたので、新しいサービスの提供によって当社の差別化を図るよい機会だと思い、代理店を引き受けることにしました」
コーエン社長が言う「新しいサービス」とは、ワイングラスの販売やレンタルのこと。大きなホテルでの会食やワインのテイスティングなどのイベントの際には、ワインの銘柄に合わせて複数のグラスが、人数分、用意される。大掛かりなイベントの際には数千のグラスが用意されることもあるそうだ。コーエン社長が続ける。
「ワイン愛好家はご存知のことですが、ワインはグラスによって味が異なってきます。ですからこのワインにはこのグラス、というような組合せというか相性があるのです。あるホテルのイベントで9,000のワイングラスをご用意させていただいたこともありますが、数千のワイングラスをホテルやレストランが常備することはコストや保管場所の点から難しいところがあります。そこでワイングラスのレンタルがビジネスとして成り立つのではないかと思ったのです」
未使用時のグラズマターズは折りたたまれた
状態で(写真上)、連結して500mm×500mmにすると
(写真中)、そのまま食洗機に投入でき(写真下)、
手洗い作業中の破損のリスクも減らすことができる。
ただ現実には、レンタルにも問題があった。分厚く、選択の余地のないワイングラスが主流だった時は、使用後の洗浄で割れることは少なかった。ところがガラスの薄さやボウル(グラスのふくらみの部分)の丸みがワインの種類によっておいしさの引き立たたせ方が異なることが知られるようになると、繊細なワイングラスが好まれるようになり、それに比例して洗浄の際の破損が増加してきたのだ。プラムグラスも例外ではなかった。
「レンタル料に破損分のコストを少し折り込んでいましたので、割れても大きな問題はありませんでした。ただ借りる側からすると、繊細なグラスのレンタルは敬遠したいという気持ちがあったようです。また当社で保管中のグラスをレンタルに出す際、グラスホルダーに詰め替えるのですが、その作業中にもグラスをよく割りました。そこでレンタルビジネスをもっとスムーズに進めるためには、グラスホルダーを改良しなければならないのではないかと思ったのです」
このように語るコーエン社長は、大学では工学系の学科で学んだエンジニア。来日前には鉱山会社で採掘のエンジニアとして働き、また来日当初は日本のある圧延部品製造会社で設計から鋳造・機械加工などの工程に深く関わった。その経験を生かして樹脂製グラスホルダーを設計から見直したのだ。
「グラスホルダーの底面に弾力性を持たせるためには、樹脂の厚みを薄くしなければなりません。そのためには、グラスホルダーを一度に大きく成型するのではなく、小さく分割して、連結できる構造にしたらよいと思いました。こうすると、金型の細部にも解けた樹脂が容易に行き渡り、弾力性をもたらすことができるのです。またホルダーを連結して500mm×500mmに収まるようにもしました。この大きさにすると食洗機にそのまま入れることができ、手洗いの破損のリスクを減らすことも可能なのです」
こうして基本設計を終えたコーエン社長。富山大学の教授の紹介であるプロダクトデザイナーと出会うことに。そこで設計・デザインの細部を詰めて3Dプリンターを活用しながら試作品をつくり、弾力性を向上させた上で製品化に取り組んだのだ。
同社が扱っている主なワイン。オーストラリア産を
メインとし、ニュージーランドや南北アメリカの
ワインやシャンパーニュも揃えている(写真上)。
銀座の展示スペース(写真下)では、
試飲会なども行っている。
1年近い試行錯誤を経て、グラズマターズができあがったのは平成30年(2018年)初めのこと。4月より商品化して同社がワインを納めているホテルやレストランを中心に営業に回ると、グラズマターズを採用する事業所が現れた。ワイン用品の販売代理店やホテル、ワイナリー、航空会社の関連企業が扱うようになり、県内のリゾートホテルでも採用された。
「大手のあるホテルでは、ヨーロッパから独自にワイングラスを大量に購入されたのですが、洗浄作業の過程で結構割れたため、何か対策を立てようと情報収集されたようです。その時にグラズマターズのことをお知りになられ、当社にご連絡をいただきました。そこでグラズマターズを数個提供して、試しに使っていただいたのですが、グラスがまったく割れなかったのです。ホテルからは『全館で使いたい』と連絡をいただきました」(中村芳子専務/コーエン社長の夫人)
こうして同社は、グラズマターズの販路を徐々に開拓していくのだが、当機構の「中小企業首都圏販路開拓支援事業」(令和2年度)の採択を受けて、さらなる拡販に挑戦。販路開拓マネージャーと連携をとってホテルやレストランへのアプローチを試みた。
再び専務が語る。
「この販路開拓では、新規の開拓先を販路開拓マネージャーともに検討してリストアップし、アポイントをとって商談にうかがいます。そのアプローチの仕方を丁寧にご指導いただくのですが、マネージャーは長年商社で営業を担当されただけあって、いろんな業界に詳しく、また素晴らしいノウハウをお持ちです。ただ昨年は新型コロナの感染拡大の影響で、新規で人に会うのは極めて難しい状況にありました。そこでマネージャーは、DMと電話を中心としたアプローチに切り替えたのです。そこにも商社で培われたノウハウが詰まっていて、グラズマターズに興味を持っていただいたホテルが現れました」
このホテルでも、ワイングラスの破損が問題になり、ソムリエや購買担当者が解決策を模索していた様子。コロナ禍が落ち着いたら、グラズマターズでは衝撃を吸収してグラスが割れないところを実際に見ていただく……。その道筋がマネージャーの協力によってできたという。
「私はグラズマターズの普及には、10年かかると見ています。既存のグラスホルダーは、グラスが割れるとはいえ広く普及していますから、入れ替わるのはなかなか難しい。販路開拓マネージャーのご協力を得て、日本国内の販売を軌道に乗せたいと思っています。そしてそれが少し進んだら、今度は海外の市場もうかがいたい」(コーエン社長)
同社では、富山県地域企業再起支援事業費補助金(令和2年度)に採択されたのを機に、グラズマターズ専用ホームページを開設し、その英語版制作も企画。コーエン社長の胸には早くも、ワインの大きな市場のあるヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなどでグラズマターズが活躍している映像が流れているようだ。
連絡先/ヴィレッジ・セラーズ株式会社
〒935-0056 氷見市上田上野6-5
TEL 0766-72-8680
FAX 0766-72-8681
URL http://www.village-cellars.co.jp/
グラズマターズ https://glazmataz.jp/
Youtubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCjKid47hM2wfOqTnDKO4drg
作成日 2021/3/3