第65回 mutty’s株式会社 中小企業大都市圏販路開拓支援事業 TONIO Web情報マガジン 富山

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企業活動には山あり谷あり。谷から脱却し、右肩上がりに導いた経営者のひと言には再起のヒントあり。

第65回 mutty’s株式会社

鳥獣捕獲とジビエの活用で創業
超一流ホテル等への販促に取り組んで

mutty’s(株)の村井悟史社長(写真上)と黒
部の食肉加工場の様子(写真下)。

 「今の仕事に携わる前、私はプログラマーの仕事をしていました。技術の進化が極めて速く、取り残されないよう自習に努めるとともに、年齢的に若手に仕事を振って私自身はディレクションする立場に移行する時期だったのですが、その切り替えがうまく行かず、超多忙な毎日を送っていました。そのうちに『このままでは体を壊すのではないか』と思い、数年前から趣味で始めた狩猟で生計を立てることにしたのです」
 mutty’s(ムッティーズ)(株)の村井悟史社長は、前身の「一般社団法人狩猟屋」を立ち上げた頃を振り返るが、時あたかも富山県のみならず全国でもイノシシやシカの被害が深刻になりつつあった時期。黒部市の鳥獣被害対策実施隊員として、農業者からの鳥獣出没情報をもとにワナを仕掛け、イノシシやシカなどの捕獲に乗り出したのは平成29年のことだ。合わせて食肉処理施設も整備してジビエの利活用も図ったところ、近隣の新川地区からの要請を受けて、その運営にも協力するようになったのだった。

注目される捕獲事業者に

ハンティングの様子(写真上)と箱ワナにか
かったイノシシ(写真下)。氷見市での捕獲数
が多いため、氷見の山間部にも食肉処理場を
構えた。

 村井社長が続けた。
 「趣味で狩猟を行うだけでしたら、狩猟免許を取得するだけでよいのですが、当時私は『それで生計を…』と考えるようになっていました。そこで指定管理事業を受けるために、『認定鳥獣捕獲等事業者』の認定を取得したいと考え、その認定を受けるには法人格が必要でしたので、狩猟屋を立ち上げたのです。ただ、従事者間のモチベーションや当時の県の考え方が合わず、なかなか認定事業者取得には至りませんでした。しかしそうしている間にも獲られては食べきれず捨てられるイノシシを見続けていて、まずはこの流れを変えようと思ったのです」
 環境省のホームページ「認定鳥獣捕獲等事業者一覧」を見ると、この6月時点で、富山県内で認定を受けているのは狩猟屋のみだ。
 「捕獲されたイノシシ等は、初めのうちはほとんどが焼却されていました。しかし私は利活用できないかと考え、ジビエとしての販売を試みるようになったのです。こうした姿勢がハンター仲間や自治体の鳥獣対策課などで評価されて、県内10市町で捕獲個体の受け入れができるようになりました」と村井社長は語り、「ここ数年、富山県内では年間3000頭から5000頭のイノシシが捕獲され、そのうち1100頭くらいが食肉処理に回され、他は焼却されています。1100頭の90%くらいは当社で食肉処理していますが、この中には親しいハンターから持ち込まれるイノシシも相当数いるのです」と続けた。
 ちなみに富山県内でのイノシシの捕獲数は氷見市が多い様子。「ハンターや地元自治会、箱ワナ設置者、ワナ設置カ所の地権者、自治体等の協力関係が密だから捕獲数が多いのではないか」と村井社長は推測するのだった。
 こうした地道な活動が評価されて、狩猟屋は令和3年2月、農林水産省の鳥獣対策有料活動表彰の捕獲鳥獣利活用部門で、「農林振興局長賞」を受賞。県内の鳥獣対策関係者から、ますます注目されるようになったのだ。

ジビエの営業はグレードの高いホテルや飲食店に

イノシシ肉(成獣)のスライス(写真上)と
ウリボウ(幼獣)の骨つき半身(写真下)。氷
見市ではふるさと納税の返礼品としても取り
扱われ、ウリボウを申し込まれる方もいる様
子。

 食肉としての加工数が増えると当然、施設の拡充や加工・営業のスタッフも必要になり、設備投資のための資金需要も急増。金融機関からの借り入れなどをスムーズに行うには会社組織にした方がよいことから、令和5年3月にmutty’s(株)を設立した。そして村井社長は事業所の体制を整えて積極的な展開を模索。従来は村井社長が1人で加工・販売の業務に当たっていたのを、捕獲数の多い氷見市に食肉加工場を構え、またスタッフも確保して加工・販促にも注力するようになったのだ。
 販売先は主に飲食店やホテルの飲食部門、最近は道の駅などでも扱われるようになり、そのすべてが村井社長もしくは販促スタッフが営業に歩いた結果だという。
 「ジビエはまだ普及途上で、他の食品と同じように価格勝負でスーパーの店頭で販売するにはなじまないところがあります。そこで当社では、販促に当たってはグレードの高い飲食店やホテルへのアプローチをメインにし、当社からの直販のスタイルにしています。こういう販売先では、価格ではなく素材の魅力が関心事になります。一部、ベンダー経由で小売店や飲食店でも販売していますが、全体から見るとわずかです」(村井社長)
 mutty’sでの営業になってから取扱店は徐々に増え、その数およそ70店(ホテル等含)。その積極的な販促活動を目にした黒部市商工会議所の担当者から、「取扱店をもっと増やしたいのなら、新世紀産業機構の販促支援事業を活用してみたら」とアドバイスを受けたことを縁に、当機構の「中小企業大都市圏販路開拓支援事業」(令和6年度)に応募したのだ。そして、その採択を受けて販路開拓マネージャーの指導のもと、大都市周辺のホテルやレストランなどへのアプローチを開始したのだった。
 「販路開拓マネージャーは大手商社OBで、新規開拓のノウハウを持っておられます。そこに新世紀産業機構という富山県の関連機関からの紹介という形でアプローチしますから、当社単独での営業でしたら門前払いになるところ、ほとんどの方が面談の機会を設けてくださるのです。それも超一流のホテルやレストランのシェフの方々が…」
 村井社長はそういって、「令和6年度の1年間に、十数軒のホテル・レストランに営業をかけ、商談の機会を得ることができました」と続けた。

超一流店で2件の商談成立、新商品のアイデアも

ジビエを活用した料理の一例(写真上・下)
この他にも同社のInstagramには納品先のレス
トラン等の料理が多数紹介されている。

 結果は……。
 「首都圏のある外資系ホテルで、北陸の食材を扱うフェアが企画されていて、そこでの採用が決まりました。また『ミシュランガイド』に掲載されているレストランからもご注文いただき、そのあと追加のオーダーもいただいています」(村井社長)
 今回の商談で成約に至らなかったホテルでも、「思っていたより優しい味だとシェフがいっていました。今すぐメニューに採用とはなりませんが、後から思い出して、メニューに加えたことは幾度もありますから、気長に待ってください」と仕入担当者からコメントをいただいたケースもあり、成果は上々の様子。「ホテルの売店などで扱っていただく、瓶詰めのコンフィなどを商品化することも検討しています」と村井社長はさらなる積極展開を模索中だ。
 最後に今後の抱負についてうかがうと、次のような答えが返ってきた。
 「従来も当社では、グレードの高いホテルや飲食店への展開を目標にしてきましたが、販路開拓マネージャーはその上の超一流のホテルや飲食店に狙いを絞り、丁寧な営業活動をされます。さすが大手商社で営業を担当されていた方だ、と何度も感心させられました。そのアプローチの仕方を取り入れ、当社でもさらにグレードの高いホテルや飲食店への販路開拓にチャレンジしたいと思います」
 村井社長は販路開拓マネージャーから得た刺激をもとに、拡販への意欲を語るのだった。

連絡先/mutty’s株式会社
〒938-0831 黒部市宮沢1147
TEL 050-3706-3104
URL https://syuryouya.com

作成日  2025/08/18

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