第33回 有限会社シマタニ昇龍工房 地域資源ファンド事業 TONIO Web情報マガジン 富山

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企業活動には山あり谷あり。谷から脱却し、右肩上がりに導いた経営者のひと言には再起のヒントあり。

第33回 有限会社シマタニ昇龍工房

伝統工芸の技術を生かして商品開発
「すずがみ」は花を咲かせるまでに

「すずがみ」をお皿に用いた例。薄さを求める一方で、手元でぐにゃりと曲
がらないようにするために、0.1mm単位で試作したという。

 「猫の手も借りたい、というのはこういうことか……」
 そう思いつつ、毎日、仕事場で金属の板を叩いているのは、四代目昇龍ことシマタニ昇龍工房の島谷好徳氏。ある時は厚い黄銅板を叩いて鏧子(けいす)をつくり、またある時は圧延機でのばされた錫(すず)の板に、鎚目模様をつけて人気急上昇の「すずがみ」の加工を施す。(鏧子/「きんす」とも読む。寺院で使う大型のおりんのこと。地元高岡では「がいもも」ともいう)
 どちらも高岡の伝統的な技術に裏打ちされているものの、「すずがみ」が世に現われたのは平成25年2月のこと。KAGOシリーズなど鋳物の錫製品で先行する企業が高岡にはあるが、シマタニ昇龍工房では同社がもつ鍛金の技術により錫のコシを増した上で、皿やインテリア小物の世界に進出することを狙っているのである。
 このレポートの取材の時点で、「すずがみ」はデビューからもうすぐ2年を迎えようとしている。当初は「ここまで人気が出るとは思いもしなかった」(四代目昇龍)というが、その前段には長くて暗い試行錯誤のトンネルがあったそうだ。

「何か打開策を……」

四代目昇龍・島谷好徳氏の鏧子(けいす)づくりの様子。1枚の黄銅板
を叩いて、おりんの形に仕上げる。一人前になるには12年ほどかかり、
最も難しいのが調音の作業だ。

 初代昇龍は1909(明治42)年に工房を立ち上げた。その先代も銅器職人であったようだが、工房を開いてからは、寺院むけの鏧子づくりを専門にするように。400年に及ぶ銅器の歴史を有する高岡には、かつては30名近くの鏧子職人がいたと伝えられているものの、家庭用の小さい鏧子(一般的には「おりん」という)が鋳物でつくられるようになると急速に減り、今では5名になってしまった。そのうち4名が昇龍工房に在職し、全国の鏧子職人すべてを合わせても、延べ10名に満たないほどの職人しか残っていないそうだ。
 大型の鏧子の需要はお寺に限られる。ところがお寺は、減ることはあっても増えることは見込まれない。鏧子は、中国や台湾からも一部輸入されているようで、「年間、1億円あるかないか。ひょっとしたらもっと少ないマーケットのために、皆で競い合っているのが現実ではないか」と四代目。その限られたマーケットも「毎年少しずつ減っているように思える」というのだ。
 こうした状況では、「何か打開策を……」と考えるのは当然だろう。島谷氏は、同じような境遇にある高岡伝統産業青年会のメンバーと共同で、伝統工芸の復興を目指して10年ほど前からギフトショーに出展。メンバー各社が毎年1点の新作を出品するよう心がけ、高岡の伝統産業界に「喝」を入れようとしていたのだ。
 「当社では最初、真鍮のコースターをつくり、後には灰皿やステンレスを叩いてつくった栓抜きなども試みました。『すずがみ』を発表する2年前には、幅10cmほど、長さ20cm弱の楕円の皿を、錫を叩いてつくりましたが、いずれも鳴かず飛ばずでした」(四代目昇龍)

デビューの展示会で10社からオファーが

展示会では板状の「すずがみ」を展示するだけで
なく、「お客様の用途に合わせて自由に曲げられ
ますよ」とその場で曲げるようにしているという。

 この楕円の皿の試行錯誤の中で、錫の別な一面がわかってきた。
 錫の軟らかさは従来から知られていることで、だからこそ形を自由に変えることができる器などが開発されてきたのだが、鋳物の錫を曲げると、きしむような音をたてることがある。いわゆる「錫鳴り」といわれる現象だ。これは金属の密度が高くないために起こるもので、叩いて密度を高くすると、金属は一般的にきしまなくなるという。
 ところが鋳造された錫を叩くと、端の部分からひびが入り、割けてしまう。そのため錫は叩いてはいけないと思われてきたのだが、四代目は圧延した錫の板を、鏧子で培った鍛金の技で叩いてみると、ひび割れが起きなかった。初めは厚さ2mmに圧延された錫の板から実験を開始。1.5mm、1mm、0.5mmと徐々に薄くしていくが、いずれも亀裂は入らず、また「錫鳴り」も起こらなかったという。
 ただ0.5mm厚では、器状に曲げた後で端を持つと、手元でぐにゃりと曲がってしまった。そこで今度は少しずつ厚くして、0.7mmでは折れないことがわかったのだ。
 その時、「これなら商品化することが可能ではないか」と四代目昇龍は夢を膨らませ、折り紙のように折れる錫の紙、というところから「すずがみ」と命名。さっそく共同で出展しているギフトショー2013に出品したのだ。
 パンフレットには器などいろんな形に整えられた錫を例示した。またブースで形を整える実演などを行うと、セレクトショップや通販サイトを運営する業者などが高い関心を示し、そのうちの10社から「すずがみを扱いたい」というオファーを受けたのだ。
 そして「すずがみ」を卸し始めて1カ月半ほどした平成25年3月末のこと。ある通販サイトの「すずがみ」が東京の某テレビ局の目にとまり、「ユニークな商品がある」と全国ネットの番組で紹介されたのだ。
 この番組で取り上げられたことがきっかけになり、他のテレビ局や新聞・雑誌なども取材するように。おかげで取扱店が少しずつ増え、大手の通販サイトからも「扱いたい」と連絡が入り、多少の出入りはあったものの、今日では三十数社との取引きにまで発展してきたのである。

支援を受けて商品バリエーションを増やす

この鎚目模様の「あられ」のほか、「かざはな」「さみだれ」もある。

 取引先を増やす一助になったのが、当機構の「地域資源ファンド事業」だ。この支援制度は、富山県内にある産地の技術や農林水産品、観光資源等の優れた地域資源を活用した新商品や新サービスの開発に取り組む中小企業者を資金面で支援するもの。すでに高岡市内の銅器関係の事業者も数社採択されており、実績も出つつあるところだ。四代目は、そうした事業者から支援制度を活用することを勧められ、平成25年度の第2次募集の際に採択されたのであった。
 「当初『すずがみ』は、13cm角のものしか商品化していなかったのですが、取扱店やお客様から、他のサイズのものも欲しいという要望が寄せられましたので、ファンド事業の採択を受けて、他のサイズの商品化も試みました。また当社単独での展示会出展も計画しました」
 四代目は、採択時を振り返ってこう語るが、まずは商品のバリエーションを増やすことに着手し、24cm角、18cm角、11cm角の「すずがみ」を用意。また「ててて見本市」という手づくりの生活雑貨の展示会やギフトショーなど出展し、さらには自社のホームページの中に「すずがみ」専用のコーナーもアップし、自社での通販も始めたのである。
 こうしたことが功を奏して、「猫の手も借りたい」状況になったばかりでなく、スタッフの増員にも結びついたのだった。

これからは職人の育成を

「すずがみ」の用途のバリエーション。

 実店舗では、当初はセレクトショップを中心に販売されていたものが、今ではデパートやインテリアの専門店も扱い始めた。海外からの引き合いも増えているという。販売店からの情報では、意外と外国人の方が買われるそうで、日本人が運営に関与していると思われるシンガポール、スイス、オランダのお店でも売れ行きは好調なようだ。
 「26年10月からはファンド事業も2年目に入りました。まさか初年度でここまで伸びるとは思ってもいなかったのですが、2年目は展示会でのPRに加え、パンフレットやホームページの英語版を用意し、海外の方にも販路開拓を進めていきたいと思っています」と四代目昇龍は抱負を語るが、その一方で生産体制を整えることにも余念がない。
 まずは圧延機を導入し、いちいち外注していた手間を省いた。そして圧延機の操作マニュアルを整え、金属加工に詳しくない人でも、均一な厚さのプレートがつくれるようにした。また受注確認や発送、請求などの作業が滞りなく進むよう、そのスタッフも増やした。かつて鏧子づくりだけを業務としていた時の同社の陣容は、島谷氏も含めて4名であったが、今ではパート5名が増えて9名の体制に。ただこれとて、まだ十分とはいえず、生産が追いつかない状況を解決するために、鍛金の職人を増やすことが求められているのだ。
 「鏧子職人でしたら、一人前になるのに12年ほどかかりますが、『すずがみ』に鎚目模様を入れる程度でしたら3~4年で技術を習得できると思います。当工房にとって一番の課題は若手の職人を育てることでしょうか」(四代目昇龍)
 先に例に出したKAGOの会社も、5年ほど前にこのTONIO  Newsで紹介したことがある。一般のバイヤーからの引き合いが増え始めた頃で、後にはヨーロッパにも市場を開拓。当時の従業員数は20名ほどであったが、先ごろ話を聞いたところでは100名を超えたとか。この間、販売要員もさることながら職人の育成に力を注いできたのだという。
 四代目は、錫製品の先駆者であるその社長とも懇意にしていて、数々の助言を得ているというが、高岡銅器のルネッサンスに花を咲かせてもらいたいところだ。

連絡先/ 有限会社シマタニ昇龍工房
〒933-0847 高岡市千石町4-2
TEL0766-22-4727 FAX0766-22-4717
URL http://www.syouryu.co.jp/

作成日  2015/01/16

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