TOP > オーダーメイドの企業支援 > 第72回 株式会社喜八食品
OEM生産メインから自社商品も開発・販売
若手社員のモチベーションが上がって・・・
喜八食品の五天喜一郎社長(写真上)とOEMで同社が生
産している飲料のビン(写真下)。OEMの発注先は90社
あまりあり、さらに増える傾向にあるという。
かぶら寿しをつくった際に出る発酵液。かぶやにんじんなどの野菜、魚(鰤または鯖)、麹、こんぶなどのエキスからなり、従来は、かぶら寿しを取り出した後は廃棄していた。
その再利用を試みたのが、南砺市に本社・工場を構える(株)喜八食品の五天外喜雄会長だ。同氏は学生時代には食品学を学び、醸造や発酵、旨味についての知見を深めていたという。
「それは私の父です。平成26年頃、地元のかぶら寿しメーカーなどから『発酵液を捨てるのはもったいない。何かに利用できないか』と相談を持ちかけられました。当社は地元産の干柿を使ったカレーなども商品化していましたので、『あそこに相談したら何とかなる……』と思われたのかもしれません」
語るのは同社の五天喜一郎社長。喜八食品は飲料のOEM生産をメインとする会社であるが、「干柿カレー」などの自社ブランド商品の開発・販売を試み始めているところだったため、白羽の矢が立ったようだ。
かぶら寿しの発酵液を再利用して開発した「酵房のしずく」。
アミノ酸が豊富で料理の旨味アップの他、健康増進にも役立つ。
五天会長はさっそく富山県農林水産総合技術センター食品研究所に発酵液の成分分析を依頼。すると発酵液には、GABA(ギャバ)、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸など多数のアミノ酸が豊富に含まれていることがわかった。アミノ酸は人体を構成する重要な成分であるとともに、代謝や成長、免疫などの働きにも関わっている。またアミノ酸は、種類によっては調理の際の旨味を引き立たせることにその威力を発揮し、いわゆる出汁(だし)としての可能性が浮かび上がってきたのだ。
そこで同社では、「とやま新事業創造基金 地域資源ファンド事業」(平成28、29年度)の採択を受けて「かぶら寿しの製造過程で発生する『本漬け発酵液』を活用した栄養機能食品や万能調味料の開発・販売事業」に取り組むことに。かぶら寿しを取り出した後の発酵液を、冷蔵状態のまま同社に運び込み、濾過して麹などを取り除いた液を加熱殺菌して調味液として商品化した。そして販売にあたっては、郷土料理研究家や和食店の料理長の協力の下、調味液の用い方や料理のレシピ集もつくるなどして、満を持して販売に乗り出したのだった。
五天社長が振り返る。
「この発酵液は、『酵房のしずく』という商品名で、販売することになりました。地域資源ファンド事業の支援をいただいたおかげで、チラシやポスターなども準備することができました。自社サイトでの通販のほか、南砺市の「道の駅なんと一福茶屋」や「ヨッテカーレ城端」、などで販売していますし、ふるさと納税の返礼品にもなっています。また飲食店の中には、料理の出汁として使われるお店もあります」
同社の本社工場(写真上)と製造ラインの一部(写真下)。
喜八食品は小ロットのOEM生産も引き受けるため、
飲料メーカーの間では注目される存在になっている。
令和2年に入ると、ご承知のように新型コロナウイルスが猛威をふるい、製造業では生産ラインが長期にわたって止まった、という例も見られたが、喜八食品では大きなダメージを受けることはなかった様子。「客先の商品に輸出向けがあって、コロナによってその輸出が止まったようですが、当社の生産ラインに大きな影響はありませんでした」と五天社長は振り返りつつも、「逆にこの頃は、OEMの客先が90社くらいに増えて、現場は忙しくて目が回っている有様でした」と語り、さらに言葉を継いだ。
「最も混乱したのは、原料の管理でした。客先が急速に増えると、中には同じ原料を使う客先も出てきます。例えばA社の原料Xは喜八食品が調達、B社の原料XはB社から支給、というような例がいくつも出始めました。日々原料の出し入れが繰り返される中で、目の前にある原料XのA社分、B社分の区別が曖昧(あいまい)になったのです。原料の出入れについては、きちんと記録していたのですが、あまりにも忙しくてチェックし忘れることが・・・」
この課題を解決するために同社では、「専門家派遣事業」を活用してITコーディネータを招聘(しょうへい)。忙しくても、簡便に、正確に、効率的に、システマチックに業務を進めることができるよう取り組んだのだ。
専門家はまず、ものづくりの業界で行われている原料の在庫管理の例をいくつも紹介。喜八食品のスタッフはその事例や専門家の意見を参考にしながら自社の業務フローに合わせてそれをアレンジし、管理しやすい手法をまとめ上げたのだった。
「喜八コーラ」の販売開始にあたってつくられたチラシ。
九州の通販会社や都内アンテナショップにも卸されて
いるという。
冒頭にかぶら寿しの発酵液の再利用について触れ、調味液「酵房のしずく」については紹介した。その開発にあたっては、ドリンクをはじめとする栄養機能食品も模索されていたのだが、同社の若手社員が開発の意欲を持ち続け、令和5年4月、商品として市場に送り出すまでに。それが北陸で最初のクラフトコーラとなった「喜八コーラ」だ。このコーラはかぶら寿しの発酵液の他に、富山湾の海洋深層水、利賀村のクロモジ茶などの地元産の原料を用い、ほっと一息つきたい時用の「RELAX」(リラックス)と、もうひと頑張りしたい時用の「ENERGY](エナジー)のふた品で上市された。
この原稿をまとめている昼下がり、「RELAX」をお湯割(3倍)にして飲んでみた(オススメは炭酸水割らしいが、コーラの味をそのまま味わいたくて)。編集子はかぶら寿しを自作するため、発酵液がどんなものか知っているが、コーラには魚のにおいは全くなく、ローズマリーなどのハーブの香りがほんのりと。優しい甘みの奥にカボスの酸味がきりりと立っていて、おかわりを2度してしまった。
「若手スタッフが数年がかりで商品化にたどりついたコーラです。ホームページをリニューアルしてこの喜八コーラをPRするとともに、OEMについても改めて紹介したいと思いました」(五天社長)
同社では当機構の「とやま中小企業チャレンジファンド事業 小さな元気企業応援事業」の支援を受けて、ホームページをリニューアル。自社ブランド品を販売するECサイトの充実を図るとともに、本業であるOEMの受注をさらに増やすため、業務案内もより詳しくしたのだった。
「富山県中小企業トランスフォーメーション補助金」の支援を
受けて導入された「立型カートニングマシン」。箱詰め・包装
作業の機械化・合理化によって、生産性は2倍以上になった。
小ロットの依頼であっても、喜八食品では丁寧に商品をつくり出荷するため、飲料業界では知らぬ者はいない存在になってきた。OEMの発注先を増やすための営業マンは同社には1人もおらず、口コミ・紹介によって約90社まで増え、それがさらに増える傾向にあるという。また企業からの発注量も、ある商品は従来、日量5000本の製造だったものが1万本に、しばらくして2万本に跳ね上がり、現場はうれしい悲鳴を上げているそうだ。
五天社長は複雑な表情を浮かべながら、事情を話し始めた。
「実はある企業の50mlのビン詰めドリンクですが、生産ラインの一部の箱詰め・包装・シール貼りを手作業でやっていました。最初は1日5000本を余裕でこなしてきたのですが、1万本になると少し忙しく、2万本になるとスタッフを増員してもこなしきれず、しまいには腱鞘炎のように手の痛みを訴える社員が出てきました。それで生産ラインを見直すことにしたのです」
生産ラインの改善にあたっては、類似の工程を持つ飲料メーカーの工場を見学し、包装作業を合理化する方法を模索。ある包装機を導入することにより、生産性が上がることを確認した五天社長は、「富山県中小企業トランスフォーメーション補助金」の支援を受けて、その包装機を導入したのだった。
「この補助金は、機器の導入や改善によってオフィスや工場の作業効率向上、省エネを期待するものでしたが、6人で日量1万本程度の箱詰め・包装作業をしていたものを、包装機の導入により3人で2万本こなすことができるようになりましたので、効果覿面(てきめん)といったところです」と五天社長は満面の笑みを浮かべて語った。
南砺市の特産品の干柿や里芋が使われている
「干柿カレー(右/辛口、左/甘口)」(写真上)と
「オーストラリアにおける県産品プロモーション」で
現地の食品スーパーで富山県産品が販売されて
いる様子(写真下)。
こうしてOEMの依頼が増加して生産ラインが充実し、また自社ブランド商品が少しずつ増えてきたところに、ある団体から「輸出にチャレンジしてみませんか」と声がかかった。それは東南アジアの某国への輸出を目指し、現地で開かれるビジネスフェアで商品を展示し、興味を示すバイヤーがいたら商談を続け、現地での販売を試みようというものだった。
「この時はコーラを展示し、バイヤーの反応や要望を記したメモや、名刺のコピーもいただきました。誘った団体にしてみれば、『後の商談はオタクと向こうのバイヤーの間で……』ということなのでしょうが、現地の言葉に通じている社員はいませんし、英語が堪能な社員もいません。ちょっと期待外れだった……と思っていた矢先に、今度は新世紀さんから同じような誘いがあったのです」(五天社長)
それは令和6年度、当機構が実施した「オーストラリア県産品プロモーション事業」だ。この事業では現地の大手日経食品卸売業者が運営するオーストラリアの5都市の食品スーパーで、参加企業の商品を販売。消費者の反応を事後にまとめて報告してくれるばかりか、売れ行きのよい商品は継続的に取り扱う、というものだった。
「東南アジアへの輸出チャレンジと同じような事業なら断ろうと思っていましたが、新世紀さんの海外展開支援は痒いところに手が届くような支援でしたので、即座に申し込みました。おまけに決済は商社との間でしますから、面倒なことは一切ありませんでした」(五天社長)
喜八食品ではこの「オーストラリア県産品プロモーション」用に「干柿カレー」(甘口・辛口各210個)を出荷。オーストラリアのブリスベン、ゴールドコースト、メルボルン、バース、シドニーなどの食品スーパーで販売され、消費者の嗜好などが調べられたのだった。
最後に五天社長に今後の抱負をうかがうと、意気軒昂に次のように語った。
「OEMの取引先が増え、自社商品の開発・販売、その海外展開を模索するなど、大きく膨らむ傾向が続いてきましたが、チームのあり方や責任の所在を明確にし、社員の皆さんが働きやすい職場にし、チームの力を底上げしたいと思っています。そうすると、次の飛躍は自ずとついてくる。当社にはまだ可能性が秘められていると確信しています」
所在地 / 南砺市田中415-1
代表者 / 五天 喜一郎
資本金 / 1500万円
従業員 / 21名
事 業 /清涼飲料水製造業
T E L / 0763-52-5515
F A X / 0763-52-5813
U R L / https://kihachi.co.jp
作成日 2026/03/31
