TOP > オーダーメイドの企業支援 > 第60回 六月の青い鳥
商品企画や工程管理、出荷方法も練り上げ
大手のかまぼこメーカーに伍して行く
東京からUターンし、カフェ「六月の青い鳥」をオープン
した橋本重紀さん(左)・奈部昌子さん(右)夫妻。
富山県の「明日のとやまブランド」育成対象に選ばれている細工かまぼこ。コロナ禍の3年間、冠婚葬祭が自粛気味であったため、県内のかまぼこメーカーは打撃を受けたのではないかと推測される。そのあたりの事情を(株)富山ねるものコーポレーションの麻生大輔社長にうかがうと、「魚肉練り製品の中でも、細工かまぼこを主力にしていたかまぼこ屋は、大打撃を受けました」と返し、「ウチは、細工かまぼこは主力ではなかったのでそこまでの影響は受けていませんが、消費が全体的に冷え込んだため、販売量は伸び悩みました。ただ弊社では、コロナを契機に生産工程や品ぞろえを見直し、会社の体質を変えることができたのです。ですからコロナ禍は弊社にとっては不幸中の幸いのような一面もありました」と続けた。
その“不幸中の幸い”の中味に入る前に、富山県のかまぼこ業界と同社の概要をお伝えしよう。
お店の正面(写真上)と裏のテラス席の様子(写真下)。
隣接する公園の木々と一体になって、森の中にある
カフェが演出されている。
麻生社長によると、「富山県のかまぼこ業界は、中小のかまぼこ屋さんが比較的品ぞろえよく、所在地の市や町を中心に市場を固めて営業している」という。例えるならば、戦国時代の群雄割拠に近い状態。ただ戦国の世ほど“領地拡張”(=隣町のスーパーでも売ろうという市場拡張)の意欲は薄く、「守りの経営を志向するところがある」(麻生社長)という
「それではいずれ、地場のかまぼこ屋は県外の大手に駆逐される」と危機感を抱いたのが、麻生社長だ。氏はもともとは麻善蒲鉾(有)の経営者。「中小のかまぼこ屋が経営資源を持ち寄り、大手に対抗できる商品力を持とう」とかまぼこ業界の若手の経営者に呼び掛けたところ、(有)今村蒲鉾が手を挙げた。その2社が共同出資し、平成26年3月に設立したのが富山ねるものコーポレーションだ。同社は前身の2社から魚肉練製品づくりの得意・強みを引継ぎ、逆に不得意な点はこれを機会に合理化するなどの選択と集中を実行。販売も従来のように内向きで守りの営業ではなく、“町の外”を志向するように。その際は、値段で勝負的な売り込みはせず、商品の差別化を図り「品質や商品特性で選ばれるようにした」のだった。
麻生社長が語る。
「最近のかまぼこ屋の多くは、冷凍もののすり身を原料にしています。そのすり身の原料の魚も、地元以外で水揚げされたものが多い。当社の魚肉練り製品の特長の第1は、トビウオを中心とした地元産の魚を、自社ですり身にして原料にしていることです。ですからまず、すり身の風味がいい。そのすり身を原料にして、昆布ダシや本みりんで味つけして昔ながらの製法でかまぼこをつくっています。化学調味料や添加物は一切用いていません。こうして手間をかけて商品の差別化を図った上で、スーパーマーケットトレードショーを中心とした展示会に出展し、新規に扱っていただける小売店を探してきたのです」
このように販路開拓に取り組んでくると、商品の特徴によって選ばれるように。県内の隣接市の食品スーパーのほか県外のバイヤーからもオーダーされるようになり、本物志向の消費者の支持を取り付けたのだ。その結果、新会社設立からコロナ禍前(令和元年)までは、ほぼ順調に売り上げをのばしてきたのだが、未曽有のパンデミックが消費を一気に冷してしまった。
「店内の喫茶コーナー(写真上)、雑貨販売コーナー
(写真下)の様子。使われているアンティークな家具は、
奈部さんが長年にわたってアメリカ等で集めてきたもの。
「令和2年早々に新型コロナが蔓延し、弊社では主力商品ではなかったとはいえ、細工かまぼこはほぼゼロになり、他の商品も動きが鈍くなりました。そうした中で、ある時これを機会に事業を見直そうと思ったのです。細工かまぼこは、冠婚葬祭の簡素化が進んでかつてほどの需要はなくなり、いずれなくなるのがコロナによって何年か前倒しになったと思うと、プラス思考で考えることができるようになりました。新会社設立の際、選択と集中をしてきたつもりでしたが、自分に少し甘いところがあって、多少採算が悪くても品ぞろえのために、と残してきた商品があったのですが、コロナ禍が目を覚ましてくれました」
麻生社長はこう言って、製造中止にした商品を指折り数えた。そしてコロナ対策の公的支援について調べていたところ、知人が営む銅器関係の企業が当機構の販促支援の制度を活用して売上増に繫がったことを聞き出し、さっそく当機構を訪問。以前から試みていたネット販売の強化を、「富山県小規模企業者緊急支援補助金」(令和3年度)の採択を受けて進めることにしたのだ。
ご存知のように令和2年は、新型コロナウイルス感染症が猛威を振った年。富山県の場合は3月末に1人目の感染者が出て、あっという間に県内全域に広まった。商店の中には、4〜5月は開店休業状態に追い込まれたお店もあり、このTONIO Newsの取材で出会ったある起業者は、商業施設や商店街から買い物客がほとんどいなくなったことを受けて、4月1日の創業を1カ月伸ばすほどのインパクトを受けたのであった。
「32年間、手芸店を経営してきましたから、よい時もあれば悪い時もあることはたくさん経験してきています。そこから言えることは、地道に真っ当に商売に取り組んでいけば、お客様には支持していただけるということです。皆さん『コロナでたいへんな時に・・・』と言われましたが、その点に関しての心配はありませんでした」(奈部さん)
オープンしたのは6月27日。花と雑貨、一部USAコットンも扱う「六月の青い鳥」は、SNSでの情報発信と工事を担当した工務店の宣伝協力が功を奏して、集客は思いのほか順調に。夏のランチ時には、接客、厨房、洗い場、レジがスムーズに回らないほどの忙しさになってしまった。
「セカンドライフを楽しむために始めたカフェでしたが、あまりにも忙し過ぎてそんな余裕はありませんでした。休業日や営業時間外も仕込みで追われ、食器洗いとレジでお客様との交流もできない。体力的にも限界を感じるようになりました」と奈部さんは語り、「それで、9月に入ってからランチをやめることにしたのです」と続けた。
正面玄関を入ってすぐのところにある花の販売コーナー。
花屋を営んでいる奈部さんの甥が商品の
プロデュースを行う。町の花屋さんではあまり
見かけない花を扱うなど差別化を図っているため、
人気の花屋となっている。
当然、売り上げは落ちてしまったが、夫妻は納得している様子。メニューにランチを載せていた時は、ギリギリの利益率にして、厨房と食器洗いのために人を雇用していたため、ランチを中止にして売り上げはかなり減ったが、経営的にはいわゆる“とんとん”の状況で営業を続けているという。
「おかげで本来目的としていた地元の方々との交流も進み、新しい友人もできました。ご夫婦のどちらかが富山県出身で、県外から富山にUターンしてこられた方ともたくさん出会いました。富山県出身の方には、パノラマのように広がる立山連峰の景色は、原風景のように心の中にあるのかもしれませんね。皆さんあの風景が忘れられなかったといいます。私もその1人でした」
という奈部さんの目下の懸案事項は、森の中のカフェを次の世代にどのように引き継ぐかということ。「この癒しの空間を理解して引き継いでくれるなら、将来的には、信頼できる第三者への賃貸・譲渡も考えてもよい」とのこと。ご関心のある方は一度お店で一休みしてみてはいかがか。商店街や駅前にかつてたくさんあった喫茶店とはまったく雰囲気が違い、また最近増えつつあるコーヒーショップとも趣を異にする「六月の青い鳥」。このお店の空間、雰囲気は人を幸せにするためにあるように思われるところから、お店が続くことを願うばかりだ。
ちなみに当機構では、事業承継の専門相談員も配置。事業所の事情に合わせて、まさしくスーツをオーダーメイドするように親族内承継、第三者承継の相談にも応じているので、課題を持っている事業者にはご利用いただきたいところだ。
所在地/富山市田中町5丁目5-25
代表者 / 奈部 昌子
資本金 /‐
従業員 / 2名
事 業 / カフェの運営、USAコットン・雑貨・花の販売
TEL / 076-461-7604
作成日 2022/8/5