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第58回 美術木箱うらた

和テイストの桐の小箱をモダンに変身
インテリア用品に展開して、世界にも…

同店二代目・浦田健志代表の作業の様子(写真上)
と制作途中の各種桐製品(写真下)。

 代々続く桐箱屋から、先代が独立したのは平成14年のこと。以来、美術木箱うらたの創業者・浦田実氏は、本家の客先を荒らさないようにと工芸作家等を訪ねて、作品を入れる桐箱の受注に乗り出した。
 「本家は、美術銅器などを製造販売している銅器メーカーなどから、安定的に桐箱を受注していましたが、父は新しい顧客を開拓するために全国の工芸品の産地を回り、地道な営業をしながら桐箱づくりを続けてきました。岩手の南部鉄瓶や東京の銀器の工房の皆さんにはご愛顧いただきました。また京都の陶芸家からも、お茶を入れるための桐箱のご用命をいただくなど、おかげさまで全国に販路が広がりました」
 こう語るのは、創業者の子息で、同店二代目代表の浦田健志氏。子どもの頃から真剣に仕事に取組む父親を頼もしく思って育ったせいか、迷うことなく家業の桐箱づくりに就き、昨年の1月には代表の座も譲り受けた。時あたかも新型コロナウイルス感染症が中国で流行り始めたころ。数カ月後には日本でも猛威を振るうようになり、二代目の船出は忘れようにも忘れられない年となってしまった。

工芸品用に加え日用品用も

一般消費者向けに最初に商品化したガスコンロの
サイドパネル(写真上、磁石で容易に着脱できる)と
コーヒー豆を入れる桐箱(写真下)。

 「実はその数年前から、妻から『こんな桐箱をつくって』『あんな木製品つくって』と依頼され、家の中で使っていました。そのうちに『使いやすいから商品化してみようか』と妻がいい、試行錯誤を始めるようになったのです」(浦田代表)
 最初に商品化を試みたのは、韓国製のアウトドア用ガスコンロにつけるサイドパネル(ウォルナット製)と、キャンプに行く際のコーヒー豆携行用の小箱(桐製)だ。奥さんがインスタグラムに商品を紹介しながら大手通販サイトで販売すると、サイドパネルの注文が頻繁に舞い込むように。「これをつけるとガスコンロに高級感が出てくる」とキャンプ愛好家などの間で噂が広がり、件(くだん)のガスコンロをネットで購入する人は、別サイトで販売されているサイドパネルも注文するようになったのだ。それに引かれる形で、コーヒー豆用小箱も売れ始め、浦田代表の意識は徐々に変わり始めたのであった。
 「絹の着物は昔から、桐の箪笥(たんす)に入れて保管されてきました。桐には抗菌作用や湿度調整機能がありますが、私たちの先人はそれを経験的に知って、桐の箪笥に着物を入れてカビが生えるのを防いだのでしょう。ただ最近の住宅は、『高気密高断熱』になって、以前よりも湿気がこもりやすく、結果としてカビが生えやすい環境になっています。そういったところから、桐の素晴らしさが改めて注目されつつあるのだと思います。ウチでは妻のリクエストで、子ども服を入れるケース、コーヒー豆やパスタなどを保管するための小箱を、私が桐でつくるようになったのですが、主婦目線の妻のその感覚を、桐箱の新たな展開に活かせないかと思うようになりました」
 こうして浦田代表は、従来の工芸品用の他に生活を豊かにするための桐箱の生産も加え、事業の拡大を模索し始めたのだ。

商工会やよろず支援拠点で相談

「富山県よろず支援拠点」を紹介するホームページ
(写真上)と「キリフト」ブランドとして商品展開が進む
同店の桐製品(写真下)。
富山県よろず支援拠点のサポートを受けて、同店は
県の経営革新計画の承認を受け、桐の米びつ
「RICE STOCKRE」は富山プロダクツに選定された。

 ところがやり方がまったくわからない。そこで2人は、東京ビッグサイトで行われているビジネスショーの見学に行ったのだ。
 「日用品としての桐箱を販売するとなると、一般のお客様を対象とすることになります。今まではBtoBのビジネスのみをしてきたわけですが、BtoCではどのようなことに注意し、どのように販路拡大を試みたらよいかわかりませんでした。そこでビジネスショーの見学に行ったわけです。すると富山県の企業が何社も出展されていて、その社長さん方に新規でビジネス展開する際のアドバイスをいただきました。皆さん共通していわれたのは、『地元の商工会議所や商工会に入って、BtoCのポイントや新商品開発、販路開拓などの指導を受け、事業拡大のための相談をしたらよい。一人で闇雲にやっても、成果はなかなか得られない』と。それでビジネスショーから帰ってすぐに近くの高岡市商工会を訪ね、入会しました」(浦田代表)
 その商工会での相談の中で、「新しく事業を始めるのなら、富山県よろず支援拠点を訪ねて相談したらよい」と勧められたのだ。さっそくアポイントをとって訪ねると、BtoCや新規事業立ち上げのポイント解説を受けるとともに、各種の産業支援メニューを紹介されたのだ。一方で浦田代表は、メインバンクに勧められて金沢で催されたビジネスマッチングに参加。そこで知り合ったデザイナーの協力を得て、新商品のコンセプトづくりやデザイン開発に着手し、「キリフト」(桐のクラフト製品)というブランドを立ち上げるとともに、キッチンやリビングで使う桐の新商品を模索し始めた。こうして同店の新事業は急ピッチで動き出すようになったのだ。

富山プロダクツの認定を目指して商品開発

富山プロダクツのホームページで紹介される同店の
桐の米びつ「RICE STOCKER」(写真上)と、
「とやま中小企業チャレンジファンド事業 小さな元気
企業応援事業」の採択を受けて制作された同店の
キリフトを紹介するホームページ(写真下)。

 「リビングやキッチンで使うものといっても、ピンからキリまで、さまざまな品質のものがあります。極端ないい方をすると、『100円ショップ』でほとんどのものをそろえることもできます。若い頃の私は『安いものでいい』と考えていました。ところが実際に使うと、そういうものは『安かろう悪かろう』で、壊れやすい。壊れるとまた買う。それを繰り返しているうちに、安物買いはかえって高つくのではないかと思うようになりました。また、きちんとつくられたものは、修理して使い続けることができ、長く使ううちに愛着も出てきますし、よくいわれるSDGsの考え方にも合っているのではないかと思うようになったのです」
 浦田代表のこの言葉をまとめると、「一生ものとして桐製品を使ってほしい」ということか。同店がその手始めに企画したのが「桐の米びつ」である。ただ桐の米びつは他でもすでに商品化され、また同店でもその少し前から商品化を試みていたのだが、見た目はいずれも古風で、「新品でも、ばあちゃんの代から伝わる米びつ」といってもよいような代物であった。
 同店ではキリフト立ち上げの際に協力を仰いだ金沢のデザイナーに、「今日的な住宅のキッチンに置いても違和感がなく、富山プロダクツに選定されるようなスタイリッシュな米びつにしたい」とリクエストを出したのだ。
 「富山プロダクツ」とは、富山県内で企画・製造されている性能、品質およびデザイン性に優れた工業製品を、「富山プロダクツ選定商品」として認定し、販路開拓を支援するために富山県が実施している事業のこと。その「富山プロダクツ」に選定されることを目指して、浦田代表は商品開発に臨んだというのだ。
 でき上がった新しい米びつは右の写真のようなもの。「RICE STOCKER」(ライスストッカー)と命名された。浦田代表はさっそく、販路拡大のために当機構の「とやま中小企業チャレンジファンド事業 小さな元気企業応援事業」(令和2年度)の採択を受け、11月にそのオンラインショップ立ち上げの準備に入った。また一方でその翌月、富山県商工会連合会と高岡市商工会の勧めで日本橋とやま館の「とやまの逸品フェア」に出展。キリフト商品を展示する機会を得たのだ。

いずれは世界へ

キリフトのオンラインショップのトップページ。
「RICE STOCKER」の他にコーヒー豆用、パスタ用の
小箱等も販売されている。

 「とやまの逸品フェアでも様々な方との出会いがありました。ある鉄道会社グループの広告代理店の方が、RICE STOCKERを気に入ってくださり、『富山県に磨き上げ事業があるから、その支援を受けて販路拡大に取り組んだらよい』とアドバイスしてくれました。帰って調べてみると、富山の企業が開発した商品のブランド化や販促を支援するもので、『富山県産品磨き上げ事業』と呼ばれるものでした。さっそく応募したところ当社のRICE STOCKERをはじめ8社の商品が採択され、プロモーション動画の作成やインターナショナルギフトショー2021への出展などの事業が進められました」(浦田代表)
 ギフトショーは今年2月3日から開催された。その開会に間に合わせようと、オンラインショップの開設も急ピッチで進められ、今度はつくることから売ることへと軸足の置き方が変わってきたのだった。
 ただ残念なことに、新型コロナウイルスの猛威が立ちはだかったのだ。ギフトショー出展各社の担当者は、感染防止のためにギフトショーの会場には詰めないことに。浦田代表ら富山県企業の関係者は富山県庁の隣の県民会館に控え、関心を持たれたバイヤーとはリモートでの商談を行ったのである。
 この取材はオンラインショップ開設から3カ月半が過ぎたところで行われた。この間、複数の大手通販サイトがキリフト商品をラインアップしたほか、OEMでの桐箱生産の依頼が舞い込んだ。
 5年後、10年後を見据えて浦田代表が語る。
 「実店舗での販売は、1週間とか2週間の期間限定でスペースをお借りして行わせていただくことはありますが、常設での販売経験がありません。大都市圏のデパートやインテリアショップなどでの通年販売を目標にしていますが、それはこのコロナ禍が終息してからのチャレンジになると思います。またいずれは海外にも挑戦してみたい。そういう販路開拓の支援メニューがあればぜひ活用させていただきたい」
 ここ2年ほどの間で、浦田代表と夫人の活動は極めてポジティブなものに変わった。2人はすでに数年先の海外展開も念頭に置き、当機構の海外展開支援メニューに興味を示すとともに、JETROにも相談に赴いている。同店の桐製品のブランド名「キリフト」が、「KIRIFT」として世界標準になるのは、意外と近いのではないかと思えてきた。

所在地/高岡市下麻生4521-3
代表者/浦田 健志
資本金/‐

従業員/4名

事 業/桐を中心とする木箱の製造販売

TEL・FAX /0766-36-2253
URL/https://www.kibako-urata.com

作成日  2021/06/17

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