TOP > オーダーメイドの企業支援 > 第69回 株式会社竹林堂分家
和菓子店のプリン開発を支援
人気商品に育って・・・
竹林堂分家4代目社長の山崎はじめ氏(写真上)と同店の
人気商品「甘酒まんじゅう」(写真下)。「甘酒まんじゅ
う」は安永年間(1772〜1781年)に誕生し、時の藩主・
前田公に献上したところ、発酵した麹菌による特殊な酸味
と芳醇な甘酒の香りが高く評価され、その際、屋号でもあ
る「竹林堂」の称号並びに嘉賞(ほめること)を賜わり、
のち富山銘菓になった。
「大阪の和菓子店での修業を終え、当店で働き始めて2年ほどした時のことです。それまで100年以上『甘酒まんじゅう』しかつくっていなかったところに、『新商品を出したい』といって私は『上用饅頭』と『コーヒー饅頭』の試作品を、父と番頭さんの前に出しました。父は『これは一体なんだ!』という感じで頭の周りに?マークをいくつもつけていました。番頭さんはまったく受けつけてくれず、『甘酒まんじゅう』以外は饅頭ではないという雰囲気を漂わせていました」
こう語るのは(株)竹林堂分家4代目社長の山崎はじめ氏。「甘酒まんじゅう」は、山王まつりが行われる6月1日には別名「朔日饅頭」(ついたちまんじゅう)として親しまれ、無病息災を願って食される。今年は約2万個が用意され、早々と売り切れたという。
今回の「オーダーメイドの企業支援」は、この人気商品「甘酒まんじゅう」を擁する竹林堂分家にスポットをあて、まさにスーツをあつらえるように展開した支援を紹介しよう。
山芋の風味としっとりとした食感が特徴の同店の「上用饅
頭」(写真上)。写真下の「コーヒー饅頭」の餡には、刻
まれたクルミが入っていて香ばしい。
大阪の専門学校で和菓子づくりを学んだ若き日の山崎社長。老舗の和菓子店の職人が講師として教壇に立った際には、その繊細な技術にハッとさせられ、何度も感心したという。そしてその講師が営むお店を訪ねて言葉を失った。色とりどりで華やかな和菓子が、ショーケースの中で満開の花を咲かせたように並んでいたのだ。そこに日本的な美意識を感じ、「和菓子って奥が深い」と痛感したそうだ。
専門学校卒業後は大阪の歴史のある和菓子店に勤めて、菓子職人としての修業をスタート。多彩な和菓子や高度な技術を持つ菓子職人から刺激を受けながら、自身の和菓子に対する情熱や実家の和菓子店に対する思いなどを育んでいった。
富山にUターンしたのは平成7年のこと。先々代(祖父)が亡くなったのを機に、家業を手伝うように。山崎社長24歳の時だった。
山崎社長が当時を振り返る。
「父のもとで働くようになり、大阪の専門学校や和菓子店で学んできたことを試してみたくなりました。創業以来100年以上『甘酒まんじゅう』の製造・販売のみを行ってきた当社にとって、それ以外の商品をつくることは本当にハードルが高いことでした。伝統を守ることは大事ですが、伝統だけではお店の継続が困難になるのではないかという懸念もありました。そこで父が現在のお店を新築することを計画した際、事業を引き継ぐ約束をするとともに、新商品の開発に取り組むことの承諾を得たのです」
一口に和菓子といってもいろいろある。羊羹(ようかん)、どら焼き、きんつば、最中(もなか)、大福、桜餅……などなど。数ある和菓子の中で「上用饅頭」と「コーヒー饅頭」に絞った理由は何なのか。そのあたりを山崎社長にうかがうと次のような答えが返ってきた。
「当店のファンは、饅頭が好きなのです。そこに羊羹やどら焼きのように、饅頭からかけ離れたものをお勧めしても違和感を覚えられるかもしれません。そこで同じ饅頭の中でのバリエーション展開を考え、その1つを『上用饅頭』にしたのです。『上用饅頭』は日本では古くから伝わる饅頭で、山芋のほのかな風味としっとりとした食感が気に入っていただけるのではないかと思いました。『コーヒー饅頭』は私がコーヒー好きなところから発想し、生地にも餡(あん)にもドリップしたコーヒーを入れ、香り豊かに仕上げています」
試行錯誤を2年ほど繰り返し、新商品ができたのは平成9年のことだった。お店の新築オープンに合わせて店頭に並べると、徐々にお客さんがつくように。これ以降、山崎社長は他の和菓子の開発にもチャレンジするようになり、少しずつ店頭の華やかさを増すようにしたのだ。
竹林堂分家の外観と内観(写真上・下)。6月1日には毎
年多数の人が訪れ「朔日饅頭」を食して無病息災を願う。
令和元年11月には、洋菓子の要素が少しある「まんじゅう屋の和ぷりん」を開発。その商品化にも2年ほどの年月を費やしたのだ。
「夏場は暑いので、冷やっとした商品が求められます。そこで私は『水羊羹』や『水まんじゅう』の開発に取り組みました。これらは大阪の修業時代に考えていた和菓子です。商品が完成して冷蔵のショーケースを導入したところ、『水羊羹』と『水まんじゅう』だけではショーケース内がさみしいのです。そこでもう1つ欲しいと思ってひらめいたのがプリンでした」(山崎社長)
そこででき上がったのが「まんじゅう屋のぷりん」だ(注:この段階では「和ぷりん」ではない)。ただこのぷりん、無添加では6日の賞味期限しかなく、売れ残りを廃棄するリスクが高かった。実際、商品化して店頭に並べてみると、売れ残ることが多々あり、賞味期限の最終日には従業員と分けて食べていたそうだ。
「いろいろ工夫しましたが、自力では解決できませんでした。『何かよい手立てはないか』と富山商工会議所の指導員に尋ねると、『富山県よろず支援拠点に、食品加工に詳しいコーディネーターがいるから相談してみたら…』と勧められ、さっそく訪ねました。私の希望は、無添加・常温で1カ月の賞味期限でしたが、コーディネーターは材料の牛乳と卵の性質上、無添加・常温で1カ月の賞味期限は現状では難しく、『無添加・冷蔵で1カ月なら可能性がある』とアドバイスをいただきました」(山崎社長)
コーディネーターから示されたレシピ、製法をもとに山崎社長はプリンづくりを進め、コーディネーターに試食していただいて改良の道を探った。また試作品を富山県食品研究所に持ち込んで、賞味期限の検査なども実施したのだ。その一方で、平成29年3月、国の「革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金」(平成28年度補正)の採択を受けて、プリンの製造や真空包装のラインを整備。プリンの量産と賞味期限の延長(1カ月)に向けて設備の充実を図ったのだ。
和菓子ならではの水羊羹(小倉・抹茶)とカスタードを融
合させた二層の『まんじゅう屋の和ぷりん』(写真上)。
商品開発にはよろず支援拠点のコーディネーターが一役
買っている。贈答用(写真下)もあり、二層の新食感が注
目されている。
新商品「まんじゅう屋の和ぷりん」が発売されたのは令和元年11月のこと。翌年早々、新型コロナウイルスが猛威を振るい始め、富山県では3月下旬から感染者が急増したのだった。
山崎社長が振り返る。
「おかげさまで『まんじゅう屋の和ぷりん』は人気商品に育ちましたが、あと4〜5カ月発売が遅れていたらここまでの人気商品に育たなかったかもしれません。コロナ禍で人やモノの動きが鈍くなる前に、和ぷりんの認知がある程度進んだおかげで、リピートのお客様がついてくださったように思います」
ただ全体としてみると、新型コロナウイルスの蔓延は他社同様に、竹林堂分家にも暗い影を落とした。度重なる「緊急事態宣言」の発出や感染防止の注意喚起により来店客数が激減したのだ。
そこで同社では、コロナ対策補助金の「富山県中小企業リバイバル補助金」(令和3年度)の採択を受けて、自社のホームページにオンラインショップのシステムを追加。店頭に来れないお客様向けに通販を始めたのだ。また翌年度には「富山県中小企業ビヨンドコロナ補助金」を活用して、店頭の空調システムを一新。空気清浄機能のある設備に入れ替え、商品の品質保持と顧客満足の向上を図ったのだ。そして令和6年度には「とやま中小企業チャレンジファンド事業 小さな元気企業応援事業」の助成を受けて、ホームページの全面リニューアルとオンラインショップのシステムの改良を試みたのだった。
「おかげさまで富山出身で県外に転出された方、あるいは県外で贈答品で『甘酒まんじゅう』に出合われた方などからご注文をいただくなど、少しずつオンラインショップも繁盛するようになってきました」と山崎社長は語り「ウチの『甘酒まんじゅう』には『酒』の文字が使われていますが、アルコールはまったく入っていません。優しい甘さは、お子さんにも気に入っていただけると思います」と結んだ。
所在地 / 富山市旅籠町3-15
代表者 / 山崎 はじめ
資本金 / 300万円
従業員 / 4名(パート等含)
事 業 / 和菓子の製造・販売
T E L / 076-421-3785
F A X / 076-421-3692
U R L / https://chikurindobunke.com
作成日 2025/09/10