TOP > オーダーメイドの企業支援 > 第55回 有限会社セルダム
「自社ブランドの商品を持ちたい!」を
雇用・開発・販促など多面的に支援
フェザーコットンの糸(写真上)とオリジナルブランドで
販売中の新生児用のブランケット(写真下)。
繊維の長い超長綿を用いているためチクチク感が
ほとんどない。
スポーツチームのユニフォームなどを縫製・販売していた(有)富山ハート。県内でも有数のニットの技術を持ち、著名なチームや部活のユニフォームなどをOEM生産で受注し、スポーツ用品メーカーなどを経由して消費者に提供してきた。その富山ハートでの20年ほど前のこと。「この技術を活かして自分たちのブランドの商品を販売したい」と有志が立ち上げたのが、今回の取材先の(有)セルダムだ。創業から数年後には、品質にこだわってインドへ綿探しの旅を挙行。これがのちにフェザーコットン誕生につながるのだが、「糸づくりから始めなければならない。そのためには高級綿のあるインドへ行きたい」と当時の担当者が声を上げた時、社長は一瞬、声を詰まらせたものの笑顔で「行ってらっしゃい」と送り出したという。今から15年前、平成17年のことだ。
平成28年に商品化を試みたフェザーコットンを使用した
タオル。ブランケットとともに富山県の「トライアル発注
制度」にも認定されて、県発行のパンフレットやホーム
ページでも紹介された。
担当者が向かったのはインド南部のデカン高原。「良い糸をつくっても市場がない」と断り続ける現地の人々を説得し、世界でもわずか5%ほどしか生産されていない超長綿(繊維の1本1本が極めて長い)の中でも、最低限度の農薬しか使わずに栽培された綿を原料にして糸を紡ぐことに成功したのだった。
「糸は、細い繊維数本が撚糸されてできます。例えば同じ綿100%のTシャツでも、短い繊維を原料にしたものと、長い繊維でできたものとでは、肌触りはまったく違います。短い繊維では接合部が多くなり、繊維の端が肌にあたる箇所が多くなる。反対に長い繊維、当社の場合はその中でも『超』がつく長い繊維を使っていますが、繊維の端の肌に当たる箇所が極めて少なくなり、肌触りが極めてよく敏感肌向けの生地になっています」
同社オリジナルの糸を堀裕見子社長はこう説明するが、実は超高品質なるがゆえに生産や販売には苦労する面もあった様子。初期に商品化を試みたのはタオルだった。今治のタオル工場(今治は日本一のタオル産地)に生産を委託し、ホテルやデパートなどに卸そうと営業をかけたのだが・・・。
「規模の大きな高級ホテルも行きましたが、ホテルのタオルの採用基準は強度でした。繰り返し洗って使っても、生地が傷まないことが求められ、肌触りの善し悪しは採用基準ではありませんでした。デパートの場合は、最終的には価格。いくら肌触りがよいといっても、そこまでのニーズがあるのか不安だったのでしょう。もう1つネックになったのは、生産量です。今治の工場に製造をお願いするにしても、最低ロットはフェイスタオルで1,000枚、バスタオルで500枚。これから販路開拓という時に最初からこれだけの在庫を抱えるだけの体力は当社にはありませんでしたので、量産計画は後年にとっておくことにしました」(堀社長)
写真上は通常の縫製。生地を重ねてミシンで縫っていく。
写真下はリンキングの刺し方。生地の端のループに糸を
通して2枚の生地を繋ぐため、縫い代が少なく、肌当たり
がよい。
「繊維業界について詳しい人がいるらしい」と当機構中小企業支援センターの噂を聞いたのは、フェザーコットンを用いたタオルの企画に取り組み始めてしばらくした頃。自力での販路開拓に限界を感じた同社では、中小企業支援センターのマネージャーのアドバイスを受け、また支援メニューを活用して事業の進展に弾みをつけようとした。
支援内容に分けてその概要をお知らせしよう。まずは雇用の支援に関するものから。同社では平成27年度に「高度ものづくり人材確保支援事業」、30年度に「高度ものづくり人材正社員確保支援事業」の採択を受け、高度な技術を有する人材を雇用して社内でのノウハウ構築を図ることに。27年度、同社ではサンプルの服をつくるための新型の編み機を導入したのだが、パソコンによる制御など新しいシステムを搭載した編み機であったため社内にはそれを使いこなす人材がいなかった。そこでそのノウハウを有する人材を雇用し、編み機を使ってサンプルの製作を進めるとともに他の従業員へ技術の伝承を図ったのだ。
また30年度は、高級ニットで用いられるリンキングという技術を習得するために、ノウハウを有する人材を雇用。リンキングはニット製品の2つのパーツを接合する際、重ねて縫い合わせるのではなく、並べてそれぞれの端のループに糸を通してかがるようにするため、縫い代がなくニット特有の伸縮性も保たれる技術である。
「フェザーコットンでの試作品開発や、肌触りの良さを保つための縫製を技術を残したい」(堀社長)という思いからの人材確保であったが、OEMで生産している衣類にも導入し、品質の向上に役立てたのだった。
クリエイティブ産業振興事業を活用して制作したホーム
ページ(写真上)と贈答用に開発したパッケージデザイン
(写真下)。
販路開拓では、平成27年度に「中小企業首都圏販路開拓支援事業」の採択を受けて、フェザーコットンの拡販に取り組んだ。商社OBのコーディネーターからアドバイス受け、アトピーなど敏感肌向けの衣類の生地に採用されないかと首都圏の企業に売り込みをかけたのだが、品質についての理解は得られるものの、価格の面からなかなか折り合いがつかず難航していたところ、思わぬところから声がかかった。地元の北日本新聞が興味を示し、「TOYAMA MOYOU(富山もよう)」事業の一環としてタオルハンカチ、フェイスタオルを商品化するようになったのだ。
また、翌28年度には「クリエイティブ産業振興事業」を活用してフェザーコットンを紹介する同社のホームページを作成するとともに、フェザーコットンのロゴマークも作成。併せてフェザーコットンを使ったおくるみやタオルの贈答用パッケージも作成するなど、ブランド化も図った。
次期社長に内定している取締役の中安純平氏。
技術や製品開発でもセルダムは積極的に当機構の支援メニューを活用。平成28年度には「産学官連携推進事業」を活用して妊婦用の保温着の開発に着手。腹帯のようなものをつくろうとしたのであるが、ニットゆえに伸びるためホールド感がなく、途中で方向転換して最終的にはレギンスの開発と相成った。
この開発では、富山県工業技術センター(現・富山県産業技術研究開発センター)の生活工学研究所の協力を得て、“フェザーコットンは、一般のコットンより軽く、夏涼しく冬暖かい”と言われていたことを科学的に解明。顕微鏡写真等で糸の断面を見ると、インド産の超長綿を紡いだフェザーコットンには、ルーメン(内腔)と呼ばれる中空構造があり、それをつぶさないように紡績されているため糸が空気を含み、夏の涼しさ、冬の暖かさにつながっているというのだ。
「この支援での何よりの収穫は、フェザーコットンの特長が科学的に証明されたことです。それ以前は経験則で『一般のコットン100%より軽くて、暖かい』などといっていたのですが、この時以来、根拠も示すことができるようになりました」とは取締役の中安純平氏の言葉。「後にこの関連データをある大学の先生が学会で発表されました。すると弊社に問合せがたくさん入り、糸が欲しい、生地が欲しいという要望がたくさん入りました」と続けた。
同社ではここ数年、頻繁に当機構の支援メニューを活用して、技術の蓄積、販路開拓、製品開発等に取り組んでいるが、それは20年前に持った「自社ブランドの商品を販売したい」という夢を実現するため。ネットでの通販や産科医がフェザーコットンのブランケットに理解を示し、少しずつ販路は広がってきているものの、 同社の次世代を背負う中堅メンバーにとっては、まだ道半ばというところか。当機構としてもさらなる支援を通して、夢の実現を応援していく所存だ。
(*「フェザーコットン」は(有)セルダムの登録商標です)
所在地/富山市上冨居3丁目2-3
代表者/堀 裕見子
資本金/300万円
従業員/6名
事 業/各種ニット製品の企画・縫製・販売、OEMでのニット製品の製造
TEL 076-451-1039 FAX 076-451-0048
URL/http://feathercotton.com
作成日 2020/03/30