TOP > オーダーメイドの企業支援 > 第51回 株式会社中村機械
「専門家派遣」を効果的に活用、
人材確保でも助成制度を生かして!
村田製作所を主な取引先として発展してきた同社の工場。
「確か平成24年のことです。大学生の息子が就職活動を始めたのですが、当社のホームページを見て、『今どき、採用情報を載せていない企業はない。最近の学生はまずホームページを見るところから就職に当たっての情報収集をするから、なんとかしたらよい』と勧めてきたのです」
と6年前のことを振り返るのは(株)中村機械の中村郁代常務。当時の同社のホームページは、仕入先に見積システムを提供するもので、事業や製品を丁寧に紹介するコンテンツではなかった。従来の人材確保は、創業者や現社長の知人などからの紹介が主で、ハローワーク経由の採用がたまに行われる程度であったが、業務の拡大と高度化を図ることを念頭に従業員を増やそうと思ったところから、大学新卒者の採用に関心を持ち始めたのだ。
「就職氷河期と呼ばれる時代にも当社には応募が殆どありませんでした。息子の就職活動を見て、ハローワークだけで求人をする時代ではなくなっている。ホームページをリクルート用に変更することが先決と考えました。ただ、今まで一般の方を対象にホームページの構成を考えたり、就職活動をしている大学生向けに当社のPRを試みたりしたことがありませんでしたので、どうしたものかと悩んでいました。いろいろな会社のホームページを見ていて取引先のホームページのつくりがとてもよいので相談すると、中小企業支援センターを紹介され、専門家派遣という制度があることを教えてもらいました。その取引先では、専門家の指導を受けながらホームページをつくったというのです」(中村常務)
さっそく常務は当センターに一報を入れ、専門家派遣を申請したのであった。
マシニングセンタなどの精密加工機が並ぶ加工工場の内部。
専門家の指導を受けてホームページをリニューアルし、大学新卒者向けの求人情報を載せた効果は絶大であった。会社訪問の希望者が殺到し、整理用の番号札を学生に渡すほど盛況だったのだ。そして実際の応募は、事務職1名、技術職2名の募集に対し、10倍近い応募が寄せられたというから、初めての本格的な大学新卒者の採用活動としては極めて順調にいったといってよいだろう。
ただそのホームページも、数年後には再びリニューアルが必要になった。景気が上向いたのと、東京オリンピックの準備や災害復旧のために建設・土木関連の業界を中心に広がった人手不足が他にも波及。学生の大企業志向、都会の企業志向がそれに追い打ちをかけて、地方では人材確保が難しくなってきたのだ。
中村常務が振り返る。
「最初のリニューアル版のホームページは、内容的にはほのぼのとして、先輩社員も楽しく働いているという感じのものでした。それを再度のリニューアルでは、当社の技術の高さを紹介し、『ここで働けばよりスキルアップできる』と訴えるものにしました。目的意識を持って当社を志望していただこうと思ったからです。中途採用でもそれを意識し、これをより確実なものにするために、人材確保の助成制度なども活用させていただくことにしました」
人材確保の助成制度については後述するが、専門家派遣により、経営上の目の前の課題を解決することができることを経験した常務は、これを機に当センターに相談することが増え、マネージャーの勧めに応じて、この後3度の専門家派遣を受けることに。平成25年度は、従業員が増えつつある中で、社員のモチベーションを高め、能力開発課題を示す経営の仕組みを構築するために人事考課の制度を充実させたいということで社会保険労務士に指導を仰ぎ、翌年は工場の増設を何度も重ねた結果、電気系統の全体像を把握できる者が社内外にいなくなったため、その把握と節電についてのレクチャーを受けるためにエネルギー管理士を招聘(しょうへい)。そして29年度には、以前に取得したISO9001、14001の更新にあたり、2015年改訂版に対応した総合マネジメントシステムを作成するためにISOに詳しい経営コンサルタントを招いたのであった。
超精密加工が必要とされる機器・部材は温度や湿度が24時間
管理される恒温工場で行われる。
「工場では電動の工作機械をたくさん使い、エアコンも多く動いています。特にミクロン単位の正確さを要する超精密加工の工場では、24時間の恒温化が必要で、現場はエアコンがフルタイムで稼働しています。しかし、増設の繰り返しでこれらの電気系統が、まったく把握されていなかったのです。こうしたところに、原因が解らず漏電ブレーカーが落ちたことが何度かあり、速やかな対処ができませんでした。そこで電気系統の全体像を明らかにし、エアコンなどを効率的に使うことによって、節電が可能ではないかと思ったところから、エネルギー管理士に診断していただくことにしたのです」(中村常務)
同社の電力使用量の7割前後は、工作機械等の加工機が使用している。節電のために、加工機の出力を落とす、あるいは間欠運転をする、というのは本末転倒で、エネルギー管理士は電力使用量の3割前後を占める空調や照明などにスポットを当てた。そこで明らかになったのは、同社の空調機は空冷式と氷蓄熱式がほぼ半々に存在するものの、その利点が生かされることなく稼働していたのだ。
エネルギー管理士は、始業から午前10頃までと午後3時頃以降は負荷が低い状態であることから空冷空調機での冷房を勧め、負荷が高くなる日中は氷蓄熱式空調機を稼働させることを提案。また、超高精度部品を製作している恒温室(2部屋)は、エアコンで温めて冷やすことを繰り返して温度変動が±0.5度未満を保っていたが、恒温室の1部屋は若干の温度変化が許される加工であることから、冷房のみでの温度管理も可能と判断。恒温室内のあらゆる箇所で温度を測定し、冷房のみでも加工には支障がないことを検証するとともに、照明をメタルハライド灯からLEDに切り替えるなどの努力を重ねて、年間数百万円の節電を実施。さらに、国の節電の助成制度を紹介し、電力の使い過ぎをリアルタイムで知らせるデマンド監視装置の導入も勧めたのであった。
こうした取り組みを踏まえて中村常務がいうには、「実行して即結果が出るという節電への取り組みを通じて、全社的にコスト意識が高くなったことがよかった」そうだ。
射水市に建設予定の新工場のパース。事業の拡大をさらに図る
ことができるところから、計画された。完成予定は2019年8月。
さて、ホームページのリニューアルの箇所で触れた人材確保の助成制度のことだ。中村機械では事業の拡大と高度化を狙って、工場の拡充や従業員の増員を図ってきたことは先述の通り。ただ、人材確保についてはここ数年難航してきた。電化製品の軽量・小型化に伴い、それに搭載される半導体部品もさらに小型化が進んでいく傾向にあり、他社と差別化できる製品やサービスを提供できる競争力がない企業の存続は難しい時代となってきている。競争力の源泉は人材であるが、その確保が思うように進まない時期もあったようだ。
そこで中村機械では、雇用初期の人件費の助成を受ける「ものづくり人材育成支援事業」(平成27年度)、「高度ものづくり人材正社員確保支援事業」(平成28年度)、「高度ものづくり人材正社員確保支援事業」「ものづくり人材等正社員育成支援事業」(ともに平成29年度)の採択を受けて、人材確保を強力に押し進めることにしたのであった。
「おかげさまで28年度には、システム開発やサーバーの運用管理、セキュリティ対策等幅広い情報処理の経験のあるIT系のエンジニア(40代)と、経理財務に明るく、人事総務等の知識を活かした実務及び業務マネジメントのできる管理部門のスタッフ(40代)を発掘することができました。製造業の当社がIT部門、管理部門に目を向けて強化できたのは助成制度のお陰です。AIやIoTなど新しいテクノロジーが生まれる中で、IT部門を強化したことは、今後の事業運営の大きなポイントになっていくと確信しています。2人とも即戦力として重要な働きをしています」
中村常務は満面の笑みを浮かべてこの人材確保事業を振り返るが、それにはわけがあった。この事例は、「プロフェッショナル人材事業 成約事例」として全国に紹介されるほどの成功事例だったのだ。
同社は、平成24年に創業者から現社長への事業承継がスムーズに行われるとともに、事業の拡大や高度化を徐々に進めてきた。従業員はこの6年で倍の60名近くになり、射水市での新工場建設の準備も進めつつある。
中小企業支援センターのマネージャーは、今後はどのような相談を寄せていただけるかと、楽しみにしているところだ。
所在地/氷見市上泉145-1
代表者/中村 吉延
資本金/1500万円
従業員/59名
事 業/各種機械装置の開発・設計・製造
TEL/0766-91-5585
FAX/0766-91-1588
URL/http://nakamurakikai.co.jp/
作成日 2018/12/28