TOP > オーダーメイドの企業支援 > 第63回 有限会社桂樹舎
越中八尾の和紙製品で
世界の市場をうかがう
G7教育大臣会合の歓迎夕食会の席上、イタリアの
ジュビッペ・ヴァルディターラ教育・功績大臣に
記念品を贈る新田八朗富山県知事(写真上)と
各国(機関)向けにつくられた和紙製の手提げ袋
(写真下)。
「G7広島サミット2023」の開催に合わせて、G7教育大臣会合が富山市・金沢市で開催された(5/12〜15)。7カ国の教育相の他に、欧州連合(EU)、経済協力開発機構(OECD)、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の首脳3名も加わり、議論されたのは「コロナの影響を踏まえた今後の教育のあり方」。視察や討議の様子は各種のメディアでも報道されたためご覧になられた方も多いと思われるが、本県での歓迎夕食会の席上、新田八朗富山県知事が来県の記念品として10名の教育相・首脳の一人ひとりに手提げ袋を贈るシーンがあった。
その手提げ袋は、今回の取材先である(有)桂樹舎が県からの依頼で特別に制作したもの。国旗や団体旗の色使いをヒントに、和紙による一品ものの手提げ袋を仕上げたのだった。そのデザインは、同社の従来の民芸品の枠からはみ出すようなものだったが、実はその試みは少し前から始まっていた。
同社の人気商品の和紙製の鯉のぼり
(写真上)とクッション(写真下)。
室町時代(1336年〜1573年)に始まったと伝わる越中八尾の和紙づくり。薬袋や薬包紙などに使われるなどして発展してきた。江戸の終わりから明治の初め頃の最盛期には、八尾の多くの家庭で手作業による紙すきが行われたという。ところが機械による製紙(洋紙の生産)が始まると、他の和紙産地同様、衰退の一途をたどったのだった。
それを食い止め、八尾和紙の再興を図ったのが桂樹舎の創業者・吉田桂介氏。現社長・吉田泰樹氏の父親である。「私の父親は、民芸品に八尾和紙の活路を見出そうと試行錯誤を重ね、インテリアや日用雑貨への展開も模索してきました。今ある和紙製品の多くは父の時代に原型が始まり、時代に合わせて改良されてきたものです。そのサンプルを持って、父は全国の民芸品の販売店に営業に歩いたのです」
同社の和紙製品(民芸品)を扱うお店は、全国に70店近くあり、「そのほとんどを創業者が訪ね歩いた」(吉田社長)そうだが、それが功を奏して一般用途の和紙の出荷額が減少傾向にあるにも関わらず、インテリアや日用雑貨の和紙製品は伸びつつあったという。
「例えば和紙のクッションも珍しさから注目される商品になりましたが、生活の中で普通に使うようになると『水をこぼしても大丈夫か』というお問い合わせをたくさんいただくようになりました。紙は水に弱いですから、そういう不安を抱かれるのも無理からぬことです」(吉田社長)
「何か対策を・・・」と考えを巡らしていた時、中小企業基盤整備機構北陸本部に勤める吉田社長の知人から「経済産業省に『地域資源活用事業』という商品開発と販売促進を支援する事業がある。その支援を受けて、和紙製品の開発にチャレンジしてみては・・・」と連絡が入ったのだ。
渡りに船だった。さっそく申請して採択を受けた吉田社長は、「撥水・防汚処理を施した和紙製品(インテリア、日用雑貨)の製造・販売」をテーマに掲げ、平成21年秋より開発に取り組み、販路開拓にも勤しんだのだった。
「こういう公的支援でうれしいのは、販路開拓に取り組めることです。後に新世紀産業機構の知人からも、展示会や商談会の案内をいただくようになりましたが、バイヤーや消費者の反応を知るよい機会ですから、タイミングが合えば参加するようにしています」(吉田社長)
撥水・防汚処理を施すことにより、より実用的な和紙製品の企画が可能になり、展示会等でのPRの効果も相まって順調に売れ始めたという。
トリエンナーレ美術館で開催された
「ミラノトリエンナーレ国際展」での
桂樹舎製品のPRの様子。
桂樹舎では、(公財)高岡地域地場産業センターの支援の下、20年以上にわたって東京インターナショナル・ギフト・ショーに出展し、国内のバイヤーや消費者ニーズの把握に努めてきたが、7年前の平成28年からは海外の市場もうかがうように。同年にはイタリア・ミラノで開催された「トリエンナーレ国際展」で、富山県が企画した伝統工芸品のPR事業に参加して和紙製品の文庫箱やはがき等を展示。出展費用の一部は、当機構の「とやま中小企業チャレンジファンド事業 小さな元気企業応援事業」の補助を受けたのだった。また平成28年、30年には当機構が県の協力の下で開催している「海外バイヤー招へい商談会」(会場:ボルファートとやま)にも参加。この時は主に東南アジアのバイヤーと商談したのだそうだ。
「和紙にしても洋紙にしても、日本の製紙技術は欧米やアジアの国々と比較してもたいへんに素晴らしい。そこでウチの和紙製品がどういうふうに評価されるかを知りたくて、これらの展示会に出展しました」
吉田社長はこういってそれぞれの展示会を振り返り、以下のように続けた。
「これらの展示会・商談会に参加してわかったのは、素材については高い関心があるようですが、デザインが日本の伝統的な柄物ではなかなか触手が動かないということです。特にヨーロッパでは、この点に気をつけないといけないことがわかりました。ただ、詳しい経緯は分からないのですが、昨年、ミラノのあるお店から連絡があって、当社の和紙製品が扱われるようになりました。トリエンナーレに来られた方かどうかは確認していないのですが、当社製品を扱う計画を数年前から持っておられたようです」
取材の後で、工場見学をさせていただいた。その際、鯉のぼりの製造現場に出くわしたのだが、「数年前から北欧のある国に向けて、和紙の鯉のぼりを出荷している」とのこと。この受注の経緯も不明らしいが、同社の和紙製品は海外でも注目されつつあるようだ。
同社が自社サイトで運営するオンラインショップ
の様子(写真上)と、「工藝Style」を運営する
Creemaの「ハンドメイド通販サイト」での桂樹舎
のコーナー(写真下)。ハンドメイド通販サイト
では売れ行き好調、とのこと。
冒頭に、桂樹舎では全国の民芸品を扱う小売店へ販路を開いたと述べたが、ネットでの販売も熱心だ。同社のホームページをみると、「オンラインショップ」のコーナーが整備されているだけでなく、(一財)伝統的工芸品産業振興協会が主催しているネットショップ「工藝Style」(運営はCreema(クリーマ))に、他の産地と共同で和紙コーナーを設けている。さらには令和2年には、Creemaが主催するハンドメイド通販のサイトに、桂樹舎のコーナーを単独で開設し、同社の和紙製品のネット販売も試みるようになったのだ。
「コロナの影響で外出を控えるようになったためでしょう、民芸品の小売店での売り上げが徐々に落ちてきました。それである経営コンサルタントの方と話している時に、『Creemaのハンドメイド通販サイトで桂樹舎のコーナーを設けてみたら・・・』と助言を受けました。Creemaは『工藝Style』を運営している会社というのは知っていましたので、その助言を受けて出展しました」(吉田社長)
出展にあたっては、当機構の「とやま中小企業チャレンジファンド事業 小さな元気企業応援事業」(令和2〜3年度)の支援を受け、令和3年6月より販売を開始。この2年余りの売れ行きについて吉田社長が振り返った。
「ハンドメイド専門の通販サイトというのがよかったのか、こちらが期待した以上に売れています。Creema本部からは、毎月の販売状況の報告が届きますが、令和4年には何度か売上げ上位にランキングされました。特に人気の商品は鯉のぼりです。今年も昨年同様に伸ばしたいと思っていたのですが、コロナが収束しつつあるところから小売店からのオーダーも活発になり、生産が追いつかないため、ネット上では早々と『売り切れ』にせざるを得ませんでした」
吉田泰樹社長(写真上)と紙すきの様子(写真中)。
社屋は八尾の景観に溶け込んでいる(写真下)。
先般のコロナ禍にあって、需要低迷からの脱却を図って同社では新商品開発にも着手。「富山県中小企業ビヨンドコロナ補助金」(令和4年度)の採択を受けて、「既存商品とは一線を画す」和紙製品をつくろうと模索し始めたのだった。その際、富山県総合デザインセンターを訪ねて「プロダクトデザイナーを紹介して欲しい」とリクエストしたところ、このTONIO Newsでも取材したcolm design(コルム・デザイン)の成田吉宣代表を勧められたという。
「従来の当社製品は、型染めという工程を経て、それぞれの柄を染めています。民芸品の路線でつくってきましたから昔ながらの和風の家には合いますが、最近の欧風な住宅には馴染めないところもあります。ミラノの展示会に出展した時、これからは海外のお宅でも使っていただくことを念頭に置いて、デザインすることが大切だと思ったのですが、そういうところから『既存商品とは一線を画す』商品をつくろうと思ったのです」
吉田社長はそういって、試作品をいくつもテーブルの上に並べた。ここでは写真でそれらを紹介することはできないが、色合いはいずれも無地。あるものは和紙を圧縮して板状に加工し、その上に漆を塗ったものもある。漆を塗られた和紙には艶が出て、高級感が醸し出されている。また別の試作品には、一般の印刷物で例えるならば型押し・折り目のような加工が手作業で施され、浮かび上がる凹凸から表現されたデザインがわかるという、心にくいばかりのインテリアに仕上げられていた。
「こんな和紙製品、今まで見たことないでしょう。colm designの成田さんとはその改良を進める一方で、手作業ではなく工業的に和紙への型押し等がリーズナブルにできる方法はないかと模索しているところです」と吉田社長は意気軒昂に語り、「早ければ来春の東京インターナショナル・ギフト・ショーで、一線を画した新商品を紹介できるでしょうし、またチャンスがあればヨーロッパの展示会に出てみたい。イタリアはデザインの本場、ドイツは職人をマイスターと呼んでリスペクトする国です。そういった国々で、新しい和紙製品がどのように評価されるかに関心があります」と続けた。
「八尾の和紙製品 世界へ!」
そんな見出しが、各種メディアで踊るようになるのは、遠い未来のことではないのかもしれない。
所在地/富山市八尾町鏡町668-4
代表者/吉田 泰樹
資本金/300万円
従業員/19名
事 業/越中八尾の和紙・和紙製品の製造・販売
T E L /076-455-1184
U R L/https://keijusha.com
作成日 2023/07/04