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第48回 天野漆器株式会社

高岡漆器の特長を生かして新商品を開発。
国内外に年十数回の展示の機会を得て…

天野漆器の天野隆久社長(左)と天野真一常務。螺鈿ガラスは
ともに取り組み、販路開拓については主に常務が担当。

 平成20年頃のことだ。天野漆器の常務・天野真一氏は思った。
 「伝統工芸の産地は全国どこも厳しい。高岡漆器が生き延びるためには、その特長を前面に押し出した新商品が必要ではないか」と。
 山中・会津・紀州など歴史ある漆器の産地はいくつもあるが、ライフスタイルの変化によりいずれも消費は低迷している。当時(平成20(2008)年)、経済産業省がまとめた「伝統的工芸品産業をめぐる現状と今後の振興施策について」をみると、全国の漆器の生産額は、平成2(1990)年の539億円をピークに、平成18(2006)年には202億円まで落ち込んでいる。事業所数や従業員数も同じような比率で減っていた。天野常務でなくても「何か手を打たなければ……」と思うのは、当然のことといえるのではないか。

螺鈿ガラスの1つ「金杯(万華鏡)」。日本酒を注ぐと螺鈿が周りの
ガラスに反射し、万華鏡のように輝く。

 高岡漆器の特長は、青貝塗で施す螺鈿細工(らでんざいく)だ。アワビなど虹のような輝き持つ貝殻から細片をつくり、花鳥風月などを表していく手法である。常務はこれを、従来の木地以外の素材で表現できないかと考えた。
 「ガラス、陶器、銅などを中心に色々な素材で試してみました。その中で、ガラスとのコラボレーションでは見た目もきれいで魅力的だったので、まずはこれで何かやってみようと思ったのです」と語り、「国の地域資源活用プログラムの支援を受けて本格的に商品開発に乗り出すことにしました」と続けた。地域資源活用プログラムは、経済産業省が進める地域の中小企業の活性化をめざす施策のひとつで、商品開発から販路開拓までを支援するものである。

新商品まずはパリでデビュー

販路開拓挑戦応援事業の支援を受けて出展したパリ(上)と
香港の展示会の様子。

 その採択が決まったのは平成23年2月のこと。さっそく商品開発に乗り出し、杯やワイングラスなどの酒器での展開に的を絞ることに。実際に試作を始めると、技術的な課題が浮かび上がってきた。
 「ガラスの底に螺鈿を貼り、液体を入れると、より螺鈿が神秘的に輝くことに気づきました。ただ、そのためには、従来の木製と違い、ガラスの杯の底の、裏側から螺鈿を貼る必要があった。つまり杯の上から、ガラス越しに螺鈿が見えるように貼り、漆を塗る。この時、螺鈿の接着面が見える面になるため、螺鈿の輝きを損なわないように貼る技術とともに、ガラスと螺鈿のすき間に漆が入ってにじむと、せっかくの螺鈿細工が台無しになってしまうため、塗り方にも、工夫が必要でした。ガラスの透明度も螺鈿の美しさに関係していました」(天野常務)
 技術的な課題はいくつもあったが、「螺鈿ガラス」と名づけられた試作品ができたのは、開発に乗り出してまだ1年も経たない時。たまたまその頃、「パリのメゾン・エ・オブジェで日本の工芸品等を展示するので天野漆器も出展しませんか」とジェトロから誘いを受けたのだ。同社が地域資源活用プログラムの採択を受けていたのは先述のとおりであるが、螺鈿ガラスの海外展開については申請当初は計画されていなかったため、当機構の「販路開拓総合助成事業(海外分)」の支援を受けて螺鈿ガラスはパリでのデビューとなった次第(平成24年1月)。また翌年度も同支援を受け、今度はジェトロのアジアキャラバンに参加。上海・北京・香港で螺鈿ガラス展示の機会を得たのであった。
 「パリでは展示会の期間中、上海ではあるショールームの一角での1年間の商品展示をさせていただきましたが、成果に結びつくところまでは行きませんでした。また北京では『北京国際ギフトショー』に、香港では『香港Mega Show Part1』に出展し、高岡漆器や螺鈿ガラスを紹介しました。いずれも会期終了後に十数社との商談を続け、上海のある企業とは代理店契約を結ぶに至りました」
 天野常務は、初期の海外挑戦の結果を以上のようにまとめるが、黒漆に繊細な意匠の螺鈿が好まれる日本と違って、中国では赤漆に大胆に力強く螺鈿が貼られたものが好まれるのがわかるなど、別な意味での収穫を得ていた。

出展を重ねるうちにTVが注目

手になじむよう形や重さが考慮されたグラス。ウイスキーや焼酎
などを楽しむ上質なグラス。

 転機は、平成25年度の「販路開拓挑戦応援事業」(県外分)の採択を受けて、「テーブルウエア・フェスティバル2014」に出展した時に訪れた。この頃には螺鈿ガラスの商品化も進み、ラインナップも増えつつあったので展示会場でも目を引くように。フェスティバルでは約30社余りから引き合いがあり、そのうちの10社ほどと取引が始まった。中には、オリジナルデザインの杯を求める声があり、またもっと大きなグラスなどの展開ができないかという意見も寄せられるようになったのである。
 さらにこの年からは、富山県や高岡市等の公的助成制度の活用の他に、全額自社負担での展示会出展(共同出展や商品の出品だけも含む)も積極的に展開。海外の展示会も含め、年十数回は螺鈿ガラスが人目に触れるようにしてきたのである。

螺鈿・漆で装飾されたワイングラス。螺鈿の神秘的な輝きが、
ワインを楽しむ雰囲気を格別にしてくれる。

 「実際に見ていただかないと、螺鈿ガラスの杯の美しさはご理解いただけませんから……」と天野常務は積極攻勢に転じた背景を語るが、ある時、NHKの「イッピン」で取り上げられることに。番組の制作担当者が、螺鈿ガラスを展示会で見たことが事の始まりだった。
 「番組では女優の安田美沙子さんがレポーターを務められ、高岡漆器の螺鈿や職人さんの作業風景なども放映されました。確かに螺鈿ガラスがメインでしたが、当社や私が出たのはほんの一瞬で、連絡先等の紹介はありませんでした。NHKだから仕方がないか……と思っていたのですが、放送から数時間後にはネットで螺鈿ガラスを販売されている取引先から『急に商品が売れ始めて品切れになった。急いで補充して欲しい。何かあったのか!?』と問い合わせが入りました。それもいくつもの販売業者からです」
 天野常務は「おそらくネットで検索されたのでしょうね」と話し、続けて番組の後で店頭販売されている取引先でも商品が動き始めたことや、「金沢に行く途中で寄り道した」といって天野漆器本社を訪ねたお客さんが何人もいたことを紹介してくれた。
 また、JR西日本の新幹線車内誌『西Navi北陸』等のメディアに大きく取り上げられたことなどが功を奏して、螺鈿ガラスは徐々に売り上げの柱に育つように。その後も各種のビジネスショーや当機構が開催している「海外バイヤー招へい商談会」(平成26年度)に参加するなどして、商品の告知や取扱店の開拓に努めてきたところ、螺鈿ガラスの売り上げは、今では3割程度を占めるまでになった。

他から声がかかるように

漆、螺鈿による装飾がほどこされた有田焼のプレートとボウル。
デザインディレクターに梅野聡氏を迎え、「DEN」のブランドで他の
漆器製品とともに展開している。

 この勢いをさらにのばそうと、同社では陶器と螺鈿のコラボ、水晶と螺鈿のコラボについても検討を始めた。そして前者は当機構の「小さな元気企業応援事業」、後者は地元高岡市の支援施策を活用し商品開発に乗り出したのである(ともに平成28年度)。
 「実は、展示会に出展した時にデザイナーと知り合い、『従来の漆器とは異なる方向性、異素材とのコラボは素晴らしいアイデアだが、商品のデザイン開発も大事にした方がいいのではないか』とアドバイスをいただきました。そのデザイナーは陶器の産地・有田とのコラボレーションをされていたので、そのご縁で有田焼と螺鈿・漆のコラボレーションへと発展した次第です」(天野常務)
 そのコラボ商品ができあがったのは、29年の6月に入ってから。早速同月開催の「インテリアライフスタイル」に出展して取扱店の開拓に乗り出したところだ。

江戸切子の作家から依頼されてグラスの底に螺鈿をほどこした例。
切子独特の細かいカット模様に螺鈿の色合いが映える。

 こうして活発に商品開発を行っていると、他社からのコラボレーションの申し込みが入ってくるようになった。その代表例に、江戸切子の作家が螺鈿・漆による装飾を依頼してくるようになったケースがある。
 「ガラスに限っていっても、耐熱ガラスや強化ガラスに螺鈿を施すことができないかという問い合わせがあり、可能性はまだまだあります。また異素材とのコラボはもっと……」と天野常務はシルバー等の貴金属への螺鈿の装飾など、アクセサリーでの展開について縷々語った後で、「一度にすべてを行うことはできませんので、一つずつ形にしていきたいと思います」と続け、「9年前に螺鈿と異素材のコラボに取り組んだ時、こんなに可能性が広がるとは想像できませんでした。公的機関の企業支援により背中を押され、商品開発や販路開拓に突き進むことができた結果だと思います」と取材を締めくくった。
 この先どこまで螺鈿ガラスや螺鈿と異素材とのコラボの裾野は広がっていくのか。漆器業界に限らず、その行く末を注視している人は多いのではないだろうか。

所在地/高岡市波岡245
代表者/天野 隆久
資本金/1000万円
従業員/7名
事 業/漆器の製造・販売
TEL/0766-23-2151 FAX/0766-25-6150
URL/http://www.amanoshikki.com/

作成日  2018/01/11

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