第48回 株式会社タアフ とやまアルミコンサーシアム アルミ産業成長力強化戦略推進事業  TONIO Web情報マガジン 富山

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研究開発により誕生した新技術・新製品に秘められたイノベーションと、その原動力を探る!

第48回 株式会社タアフ

製造工程のグリーン化にチャレンジ
いずれは最適生産計画の策定に


とやまアルミコンソーシアムを構成するメンバーの
役割(上図)と初年度の支援取り組み例(下図)。

 「とやまアルミコンソーシアム」(以下「アルミコンソ」と略す)をご存じだろうか。本県の基幹産業の一つであるアルミ産業のさらなる発展を期し、企業、産業団体、高等教育機関、行政等が協力しながら、新事業創出や技術開発による新しい付加価値を生み出すべく、課題解決のためのプロセスを共有し、次世代のアルミ産業を創出することを目的として平成30年に設立された。事務局は当機構に置かれている。
 アルミコンソではさっそく、ボンベなどのアルミ製軽量容器の開発や、自動車部材用のアルミ合金の溶接法の開発など4テーマの研究開発の支援に着手(〜令和2年度までの3カ年)。続く令和3~5年度にかけて規制緩和に向けた中小企業の取り組みや、企業が有する課題を公募して伴走支援するアルミサンドボックスを実施した。アルミサンドボックスでは、“安全性を確保するためにカシメ構造に限定されているフライパンの製造方法を、溶接工法でできないか”“農業用水路への転落防止用のカバーをアルミを用いてつくれないか”などの身近な11テーマが掲げられた。
 そして同じく令和3年度には、アルミのリサイクル(グリーン化)に向けた研究開発の支援にも着手。また循環型アルミ産業網強化に向けた研究会を立ち上げ、富山県立大学DX教育センターの協力を仰ぎながら、作業工程から得られるデータの見える化、そのデータを元にした作業改善の立案、作業改善案の現場へのフィードバックなどのアルミバリューチェーンの構築を目指しているところだ。

製造工程のグリーン化が課題に

タアフの社屋外観(写真上)と今回のグリーン化の研究
開発のリーダーを務める野原豊理事(写真下)。「公的
助成を受けての研究開発は初めてでしたが、機会が
あればまた・・・」と意欲を見せておられた。



 グリーン化・環境対策については、各界で注目されている。昨今では「カーボンニュートラル」(温室効果ガスの排出を全体としてゼロとすること。排出せざるを得ない場合は、同量を吸収または除去することで、差し引きゼロを目指す)を施策に掲げる国が増え、企業でも取り組む例が増えつつある。ここに紹介する立山科学グループの(株)タアフ(TAF)もその1社だ。
 タアフは立山マシン(株)の加工部門が独立してできた会社。ロボットや半導体製造装置、航空機などの精密部品の製造を主な業務とし、扱う素材はアルミニウム(合金含む)、鉄、ステンレス等々。加工に要する電力量の削減や工作機械による加工により排出される切削クズのリサイクル等が課題に上りつつあったのだ。
 「当社のお取引先企業もカーボンニュートラルについては関心を持たれております。今はまだそういうリクエストはないのですが、将来的には『この部品のCO2削減についてはどう取り組んでいますか』というような問い合わせが入る可能性があると思い、何か対策をと模索していました。そうした中で、アルミコンソがアルミリサイクル(グリーン化)に関する研究開発を支援しているという情報に接し、『これを機会にチャレンジしてみよう』と手を挙げたのです」
 語るのはそのチャレンジでリーダーを務めるタアフの理事・野原豊氏だ。アルミリサイクルに関する研究開発の支援は、当機構の「アルミ産業成長力強化戦略推進事業」の中で進められているもので、同社が申請した「アルミ切削工程における生産効率の向上と温室効果ガス低減を考慮した最適生産システム構築」は、令和4年度に採択され、3カ年計画で進められた。


切削クズのリサイクルも

同社の工場内部の様子(写真上)。記事の中に「切削
クズが円柱状になって出てくる」とあるが、それは写真
下のような状態。現状では金属種による分別はされて
いないが、将来的には分別も検討しているという。

 開発に当たって、当初掲げた目標は「生産性(加工時間削減)15%アップ」、「現行工程のCO2排出量15%削減」だ。工作機械や工具、切削過程で用いる切削液の使い方により、生産性やCO2排出量は異なってくる。そのため加工する製品や工程ごとに所要時間などの現状把握を開始。また工場の設備ごとの使用電力量も計測し、最終的にはそれらを踏まえた上での最適生産計画の立案も視野に入れたのであった。
 野原理事が振り返る。
 「工作機械やそれに取り付ける工具の性能は、年々上がっています。加工スピードが上がることで同じ製品でも加工時間は短くなっていきます。ひょっとしたら工作機械の動力が上がることで使用電力量は増えているかもしれないと考え、まずは現状把握から始めることにしました」
 工作機械に電力モニターを取り付け、切削工具毎の加工時間と使用電力量を把握するようにし、同じ工具でも回転数を変えての使用電力量も調べた。これによりCO2排出量も算出できるようになった。また加工の際に用いる切削液の濃度、温度、pHのモニタリングによっても加工の効率や工具の寿命に違いがないか、なども調べたという。
 金属の切削クズの分別回収技術も試みた。タアフでは多品種小ロットの部品を製造しているため、切削クズも多様だ。素材としてはアルミニウム(合金含む)を使うことが多いものの、鉄、ステンレス等もある。切削液の使われ方も製品毎に異なる。工作機械毎に製造する部品を決めているわけではなく、柔軟に対応する混合生産だ。従って、ある工作機械からはアルミの切削クズが出ることもあれば、ステンレスの切削クズが出ることもある。また、切削液の使用により、切削クズに付着した状態で排出される。
 「切削液が付着した切削クズは、水切りするように液の除去に努めますが、完全ではありません。一部の工作機械では、切削クズを圧縮機にかけて円柱状にすると同時に切削液を分離して再利用します。同じ製品が生産される場合は、異種金属の混ざりはありませんが、材種の違う製品が混合した生産の場合は、混ざった状態で円柱状に成形されます。将来的には切削クズの分別も検討しています」と野原理事は言い、「わかりやすく言うと、アルミ缶はアルミ缶にというような同一物への水平リサイクルが理想ではないかと思います」と続けた。


相当の電気料金削減も見えてきた

使用電力量や工作機械の稼働状況をモニタリングして
いる様子(写真上)と、切削液の温度、濃度、pHなどを
モニタリングしている様子(写真下)。現状の把握と解析
から効率の悪い作業工程を改善し、15.8%の生産性
向上を達成した。

 こうした現状把握や解析、また切削液のモニタリングなどは、タアフ1社ですべてをこなせるわけではない。特に、切削液の使用状況や解析については特殊な技術や知見を要する。同社ではその分野での協力企業の紹介をアルミコンソに依頼したところ、富山県産業技術研究開発センターのOBで企業との共同研究の経験のある職員が、大阪のA社を推薦。アルミコンソ経由でA社にこの研究開発への連携の可否を打診すると、「当社研究開発センターの研究員が協力する」と回答し、共同研究の一員に加わったという。
 製造する製品毎の使用電力量やCO2排出量の把握(使用電力の見える化)や工具によるその差異、切削クズの成分による分別については富山県産業技術研究開発センターの指導を仰ぎ、これらのデータを総合的に活用した上での最適生産計画の立案については富山県立大学の協力の下で行うこととした。
 「工作機械の稼働状況を把握していくと、部品毎あるいはワーク毎の加工時間や使用電力量がわかり、その解析から効率の悪い作業部分が見えてきました。そこを改善すると、今年の8月までに生産性(加工時間短縮)を15.8%上げることができたのです。またその結果、現行工程のCO2排出量も15%削減することができ、初期の目標を達成する見込みです」
 野原理事はこのように3年近くに及ぶ取り組みを振り返り、そして続けた。
 「この成果は、当社で製造している部品のうち1.8%でモニタリングした結果ですが、同様に他にも広げていくと相当量のCO2削減が期待できますし、年間数百万円以上の電気料金のダウンが見込まれます。全体的な最適生産計画の立案については、部品の1.8%しかワークの状況が把握されていませんので、今後の課題となりました。ただ将来的には、詳細にとったデータをもとに生産計画を立てることは可能で、こうなると工場のIT化は相当進むことになりそうです」

                    *      *      *      

 タアフのこの取り組みは、従来のこのコーナーの趣旨とは趣を変え、近視眼的には売上拡大に直接結びつくものではないが、「何か副次的な効果はありましたか」と野原理事に尋ねると、大要、以下のような変化がもたらされたと答が返ってきた。
 その1つ目は、製品毎、加工工程毎の使用電力量を把握した(見える化した)ことにより、データを踏まえて考察することの重要性を社員が再確認したことだ。そして2つ目は、カーボンニュートラルに取り組むことは、環境対策のみならず生産性向上に直結すると意識を新たにしたことだという。またそれに合わせて原価意識の高まりが見られ、これが3つ目の効果としてもたらされたそうだ。
 そして野原理事は取材を締めくくるように語った。
 「航空機部品製造の認証をとって、実際に製造を始めた時、当社のものづくりの技術レベルが1段上がったように感じましたが、今回のグリーン化の研究でも同じ印象を受けました。ご協力いただいた企業や大学等から刺激を受け、モチベーションアップにつながったのではないでしょうか。残りの主要な製品においてもグリーン化の取り組みを継続し、お取引先様に『タアフのカーボンニュートラルの取り組みは、これこれこうです』と自信を持ってお答えできる会社にならなくではいけないと思います」

株式会社タアフ
 本社/富山市月岡町3-31
 TEL 076-429-6225
 FAX 076-429-6654
 URL https://www.tateyama.jp/taf/

作成日 2024/12/23

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