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研究開発により誕生した新技術・新製品に秘められたイノベーションと、その原動力を探る!

第30回 株式会社ニッポンジーン マテリアル

得意な遺伝子検査技術を応用して
植物病害診断の手法を確立

植物病理の診断に長年関わってきたところから、
日本植物病理学会の評議員も長年務める金山晋治副社長。

 「事の始まりは、2016年にパプアニューギニア政府から問い合わせをいただいたのがきっかけでした」
 株式会社ニッポンジーン マテリアルの金山晋治副社長が、産学官連携推進事業による支援を受けて始めた研究開発を、当初にさかのぼって語り始めた。その話をまとめると、大要、以下のような経緯があったようだ。
 パプアニューギニアでは、ファイトプラズマによるココヤシの枯死(こし)が問題になっていた。ファイトプラズマとは、ヨコバイ等の吸汁性昆虫などを介して伝搬される植物病原細菌で、世界で700種以上の植物に感染し、黄化(養分欠乏により葉が黄化する症状)、萎縮(茎や葉の生長が害され、萎縮する症状)、叢生(側枝が異常に多く発生する症状)、てんぐ巣(側芽が異常に発生し、小枝や小葉が密生する症状)などの病気を引き起こし、最終的には植物を枯死させてしまうことが知られている。
 株式会社ニッポンジーン マテリアルは、株式会社ニッポンジーンの子会社であり、ニッポンジーングループにおいて、ヒトや動物、植物などの遺伝子検査用の試薬製造などを担っている。ファイトプラズマの検出に関しては、ニッポンジーンにおいて東京大学植物病理学研究室の指導を受けていち早くファイトプラズマユニバーサル検出キットを開発。その情報に接したパプアニューギニア政府の関係者が同社にコンタクトをとってきたものと思われた。

画期的な検査キットをさらに画期的に

パプアニューギニアのココヤシ林(上)。幹だけになっているのが
ファイトプラズマに感染している。下はその病害菌を検出する
「ファイトプラズマユニバーサル検出キット」。
マイナス20度での保管が必要。

 「そのご相談を受けて弊社のスタッフが現地に赴きました。ファイトプラズマに感染したココヤシは哀れにも枯れ果て、枯死して残った幹の部分だけが林立していました。さっそく持っていったファイトプラズマユニバーサル検出キットを使って、残っているココヤシが感染しているか、健全かを検査すると正確に結果が得られました。パプアニューギニア政府は、健全なココヤシをファイトプラズマに汚染されていない島に移し、そこで苗を増やして病害駆除が終わった元の島に移植するという遠大な計画を持っていたのですが、実験的に行った最初の検出に自信を持ち、この要領で島のココヤシの検査を進める計画を練り始めたのです」
 同社で研究開発グループのマネージャーを務める木谷雅和氏は検査キットの有効性を胸を張って語ったが、一つだけ問題があった。それはデリバリーに関することだ。キットの試薬は、日本国内の輸送・保管では冷凍状態が維持されている。今回のパプアニューギニアへの輸送でもドライアイスによる冷凍保存により直接持ち込まれたが、日本からの輸出時にはドライアイス梱包を受け入れない運送業者が少なくないことから、コールドチェーンをすべてのルートで用意できるかとなると、実際には困難な面が多いようだ。金山副社長が引き取って続けた。
 「つまり常温状態で輸送や保管ができ、常温で使うことができる検査キットが必要になったわけです。新興国では冷凍設備が十分に普及していないことがありますし、停電によって冷凍設備が機能しないケースもある。過酷な環境下でも試薬が安定して機能することが必要であることがわかりました」
 同社では平成28(2016)年度の産学官連携推進事業に応募し、東京大学大学院農学生命科学研究科と共同で、世界初となる常温での輸送・保管が可能なファイトプラズマユニバーサル検出キットの開発に着手。従前のキットは、冷凍状態での輸送・保管が必要とはいえ、検査の現場ではお湯を入れた魔法瓶を用いるだけでファイトプラズマが検出できたため、「画期的」と植物病理を専門とする研究者や深刻な被害に直面している農業団体から絶賛されたものだが、それをさらに簡便に使用できるようにしようというのだ。

ココヤシの次はダイズで

産学官連携推進事業の支援を受けて開発された常温での
輸送・保管が可能な乾燥試薬の検出キット。

 「私たち共同研究のチームは、温度変化に影響されない安定的な試薬の形態は何かを考え、試薬を乾燥させることにしました。そこでさまざまな乾燥技術を検討し、長期間の輸送・保管でも試薬の性能が劣化しない乾燥方法の開発に成功しました」
 東大の研究チームとともに試行錯誤を繰り返した前出の木谷マネージャーはその成果を強調する。乾燥試薬キットは20〜25度の室温で1年間保存しても性能が維持されるばかりか、高温下(45度)でも90日間その性能を保つことができるそうだ。
 さてこうなると、今後はこれをどうビジネスに生かすかである。開発終了後、国内外の学会やシンポジウムで、積極的に本乾燥遺伝子検査キットを紹介し、ファイトプラズマ対策を模索する農業関係者や行政、あるいは研究者等には有償サンプルを出荷しており、更にその引き合い件数は拡大していることから、他項目の植物病の乾燥遺伝子検査キットを順次開発し、新たな市場を創出し、植物病検査において世界のリーディングカンパニーを目指しているところだ。

ダイズ黒根腐病菌に感染すると、葉が黄化し、黄色い斑点が
生じる(上)。同社では植物病害診断キットを製造・販売する他、
病害菌に汚染されているかどうかの検査サービスも実施している。

 ちなみにこの「長期室温保存を可能とする乾燥技術を用いた植物病遺伝子検査キットの開発」は、富山県の「第6回ものづくり大賞」の特別賞に選ばれた。
 続いての話題は、キット開発の翌年度の産学官連携推進事業に採択された「土壌中のダイズ黒根腐病菌の迅速定量技術開発」だ。ダイズ黒根腐病は、文字通り大豆の根を黒く腐敗させる土壌伝染性の病害の1つ。大豆の収穫量減少と品質低下の大きな要因で、水田転作による大豆栽培の増加に伴って、富山県のみならず全国でも被害が拡大しつつある。そのためダイズ黒根腐病への対策は喫緊の課題であったが、効果的な防除法や圃場リスクの診断方法は確立されていなかった。
 同社が定量技術の開発に乗り出したのは、かねてよりダイズ黒根腐病の研究をしていた富山県農林水産総合技術センターの研究員をはじめ、幾人もの植物病理学者から「手を貸して欲しい」と共同研究を呼びかけられたから。筑波にある国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の協力も取り付け、従来の手法で課題になっている点の洗い出しから始めた。
 今まで行われてきた遺伝子診断や培養法では、検体(畑の土壌)から病原菌のDNA抽出や培養のためのサンプル調製が煩雑であり、特に培養法は検出までに時間を要する。また菌には見た目がよく似ているものが存在するので、菌種の判定には高度な専門知識も要求された。この検査過程のどこかでミスをすると、多数の菌が存在するにもかかわらず「汚染されていない土壌」と判断されるケースがあり得る。この場合は黒根腐病に感染して収穫量や品質を落としてしまう。またその反対の場合は、汚染されていない土壌にもかかわらず、農薬散布など本来なら無用な対策を講じることになるわけだ。

得意の技術を活かして

マネージャーとして2つの産学官共同研究を率いた木谷雅和氏。
手前は土壌センチュウを診断するキット。ちなみに本文中に紹介
されたパプアニューギニアのココヤシの診断・移植計画は、
政権が代わったためその後で一時中断となっている。

 「弊社はもともとDNA抽出技術について高いノウハウを有しており、他の植物病害のキットや検査サービスなど実績を積んでいますので、その技術を用いることにしました。その上で共同研究の相手先とはLAMP(ランプ)法による遺伝子解析の手法を確立しました」(木谷氏)
 LAMP法とは栄研化学が開発した特許の技術。サンプルとなる核酸 (DNA、RNA) 、プライマー、鎖置換型DNA合成酵素、基質等を混合し、一定温度(65度付近)で保温することによって反応を進ませ、検出までの工程を1ステップで行う画期的な手法だ。ニッポーンジーン マテリアルでは同社の許諾のもとでこの技術を応用し、30分程度の検査反応でダイズ黒根腐病菌の定量解析を可能に。早く反応した場合は黒根腐病菌が多いことを示し、反応に時間を要した場合は少ないことを表す。時間がかかっても反応を示さなかった場合は、検出限界以下ということだ。
 この基本的な技術を開発したあと同社では、生産現場における大豆作付予定圃場からの病原菌の検出結果や過去の栽培履歴などから病気の発生リスクを予測し、これと実際の圃場における病気の発生について比較・検証を試みており、これらの結果を農家の意見もフィードバックしながら今後の展開を模索しているところである。金山副社長は「新年度からのサービス開始を目指したい」と意気軒昂な姿勢を示し、「早期にビジネスとして軌道に乗せたい」と抱負を語るのであった。
 植物病害の被害は深刻だ。植物は、食物をはじめ人間生活に利用されるものも多く、生産可能量の1/3が植物病害により失われているのではないかともいわれている。日本ではかつて、桑がファイトプラズマに感染して奇形を起こし養蚕業大打撃を受けたことがあり、昨今はアジサイが葉化病に罹って衰弱して枯れる事例が報告されている。またこれはファイトプラズマではないが、ウメ輪紋病により大きな梅林が丸ごと抜根され、梅の花を楽しむ日本ならではの風物を奪われた地域もあったことを覚えている人も多いだろう。
 遺伝子検査については、ヒトや医療に関する分野では華々しいスポットライトを浴びる傾向があるようだが、ヒトが生きていく上では植物(食物)も重要な要素であることを考慮すると、同様に注目すべきではないかと思えてきた。

[株式会社ニッポンジーン マテリアル]
 本社/富山市問屋町1-8-14
 TEL 076-411-0277
 FAX 076-452-0399
 URL https://www.nippongenematerial.com/

作成日  2019/03/22

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