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研究開発により誕生した新技術・新製品に秘められたイノベーションと、その原動力を探る!

第42回 株式会社高田製作所

鋳造が難しい高純度アルミで商品開発
新商品カーストッパーがヒット商品に

高岡市戸出の工業団地に本社を構える高田製作所
(写真上)と同社の主力商品の仏具の一例(写真下)。

 今回の取材先、高田製作所の主力商品は仏具である。中でも高岡市内の仏具メーカーや問屋から依頼されてつくる(OEMにて生産)伝統的な仏具は、経営的には同社の大黒柱といっても過言ではない。
 ところが・・・。「生活様式の欧風化」により、「昭和」の終わりころより仏壇を置く家が徐々に少なくなり、それに合わせてその周辺で用いる仏具の売れ行きにも陰りが見え始めた。その変化を急加速させたのが、「令和」に入ってからのコロナ禍だ。葬儀や法事の多くが近親者のみで行われることが増えたためか、伝統的な仏壇・仏具を見る機会が減り(つまり関心を持つ機会が減り)、購買意欲が低くなったのではないかと見られている。メーカーや問屋の中には、売上を8分の1程度まで減らしたところもあるそうだ。
 「当社でつくっている伝統的な仏具もそれに似た状況にありますが、一方で進めていた商品開発に救われた感があります。それは高純度アルミを使ったカーストッパーです。こんな世の中がくると予測していたわけではありませんが、商材の多角化を図っていたことが功を奏しました」
 と同社の高田晃一社長は、ここ十数年を振り返った。

「仏具以外も・・・」と模索

ヒット商品に育ちつつある同社のカーストッパーを手
にする高田晃一社長。手前の筒状の細長いのは
「アルデコール・フルート」、手にしているのは
「ZETTY」。

 金属製の仏具は、真鍮(銅と亜鉛の合金)を素材とするものが多い。高田製作所でも初期は、素材はそれしか扱っていなかったのであるが、家業を継ぐためにUターンして同社で働き始めた高田社長(当時、常務)は、「いずれはアルミを使って商品開発をしたい。できれば扱いが難しいAC7Aのアルミを素材にして・・・」と夢を持つようになった。平成9年のことだ。
 AC7Aのアルミとは、マグネシウムや亜鉛、マンガン、チタン、ニッケル等々が微量に含まれるアルミ合金のこと。高純度アルミともいわれている。高強度で耐食性に優れているところから船舶部材に使われることが多い。また、磨くと鏡のようになるが、鋳造は極めて難しいことも知られている。その鋳造法を開発するために、高田社長(当時、常務)は気心の知れたベテラン職人と二人三脚を組んだ。時には公設試験場や大学の金属工学が専門の研究者を訪ねたりもしたが、未知の分野のことゆえに答えはどこにもなかったという。
 「溶かしたアルミを型に入れると、温度が低めの場合は鋳物の表面によじれたような隙間ができます。私たちはそれをヒケと呼んでいます。また温度が高めの場合は、アルミの中のわずかな水分が蒸発して、そこが空洞になります。これをピンホールといいます。アルミの溶解温度によって、鋳込みの際にそれらができるのですが、ヒケやピンホールの発生を防がないと、表面はきれいに仕上がりませんし、強度も低いものになってしまいます」(高田社長)
 職人との試行錯誤は2年あまり続き、鋳造技術を確立したのは、平成11年に入ってからのこと。当初、高田社長(当時、常務)は「きれいに磨いて美術工芸品をつくろう」と思っていたそうだが、もともと自動車やドライブが好きなのと、コンビニの駐車場などでコンクリート製の割れたカーストッパーを何度か見るうちに「アルミ製のカーストッパーをつくればいいのでは」と企画を温め始めたのだった。それを実行へと進めるきっかけとなったのは、若手女性社員のひとこと。「駐車場を足元から美しくする製品をつくりましょう」と提案された高田社長(当時、常務)は、「コストが高くても、高強度で美しく、高付加価値なカーストッパーであれば売れるのではないか」と判断し、商品開発を始めたのであった。

新たなヒット商品誕生

高級車のディーラーやおしゃれなお店の駐車場などで
人気を博したところから設置が進む同社のカーストッパー
「アルデコール」。グッドデザイン賞の受賞を機にます
ます注目され、色のバリエーションは12色に増えた。

 新商品のカーストッパー「アルデコール」が売り出されたのは平成27年のことだ。建築商材を扱う問屋やオンリーワンクラブ(デザインや機能にこだわってエクステリア用品をつくるメーカーや問屋により構成される団体)に加入する問屋を通じて市場に送ると、消費者の反応は極めてよかったという。
 「従来はコンクリート製のカーストッパーが主流で、一部、樹脂製や陶製のものがありました。いずれにしてもデザイン的にあまり工夫されておらず、デザインにこだわった当社の『アルデコール』は、特にオンリーワンクラブに属する問屋の間で人気を博し、当初は1色での販売でしたが順次増やして今は12色になり、デザインのバリエーションも増やしてシリーズ化を図っています」(高田社長)
 人気の「アルデコール・フルート」の標準タイプは1本20,000円(標準小売価格、駐車1台分2本で40,000円)。コンクリート製カーストッパーは2本で6,000円前後。丈夫で長持ちし、デザインや施工性がよいため、「アルデコール」はコンクリート製より6〜7倍高価であるにも関わらず消費者の支持を集め、鋳物製カーストッパーはエクステリア商材の中に1つのジャンルを確立するまでに。名古屋や浜松では、ある高級車のディーラーがショールームの駐車場用にと20〜30台分まとめて設置したり、グッドデザイン賞も受賞(平成30年)するなど営業トークのネタができると、「アルデコール」はますます売れるようになり、鋳物メーカーの中には“二匹目のドジョウ”を狙うところも現れたという。
 ただ、課題がないわけでもなかった。「アルデコール」は、コンクリートが打たれた駐車場ではしっかりと固定されるのだが、アスファルトが敷かれた駐車場では固定用のボルトが抜けて、外れるということがいく度か起きた。そのわけは、敷かれたアスファルトの厚みが薄いため。コンクリートが打たれた駐車場ではその厚みは10cmほどあるが、アスファルトの場合は3〜4cm程度で、その下は砂利の場合が多い。これでは、しっかりとした固定は難しく、その改善は喫緊の課題として持ち上がってきた。

販路開拓マネージャーの協力を得て

アスファルトの駐車場用に開発されたカーストッパー
「ZETTY」。自動車の自重で動かなくなるよう形状が
デザインされている他、固定用のボルトの位置、
長さも工夫されている。

 「いろいろ検討した結果、『アルデコール』を改良するのではなく、カーストッパーの形状そのものをアスファルトの駐車場用に設計し直した方がよいと判断しました」
 時代が「平成」から「令和」に代わったころの取り組みについて高田社長はそう振り返り、令和2年度の「とやま中小企業チャレンジファンド事業(ものづくり研究開発支援)」に採択されたのを機に本格的に開発に着手。初期には型紙を用いてストップ部(タイヤを止める部分)やステップ部(タイヤを載せる部分)の高さ、幅、その移行部のカーブの形をいろいろ試作し、自動車の自重でカーストッパーが動かなくなる理想的な形状を模索したのだった。
 開発にあたっては富山県産業技術研究開発センターの協力を仰ぎ、耐久性試験などを通して安全性の確認を行った。またある特許事務所からは、タイヤがステップ部に載った際、テコの原理でカーストッパーが起き上がらないようにするため、固定用のボルトの位置を工夫したらよいとアドバイスを受け、そのポイントを探り当てたのだ。
 「このポイントは、物理に詳しい方でしたら誰もが知っている“ゼロモーメント”の考え方ですが、その考え方を応用してカーストッパーを設計した人はいませんでした。そこでこれを特許申請し、具体的な設計、試作品づくりをとおして『ZETTY』(ゼッティー)を開発したのです」(高田社長)
 その販促にあたっては、先述のオンリーワンクラブに加入する問屋の協力を得た他、新たな販売チャネルを開拓するために「中小企業首都圏販路開拓支援事業」(令和3年度)の採択を受けて、販路開拓マネージャーの指導を仰ぎながら、輸入車のディーラーや店舗の設計・建設などを手がける建築会社、個人医院開業をサポートするコンサル会社など、駐車場の設置と関わりのあるような各種企業を訪問。その中に、全国にコインパーキングを展開するA社があり、そこが今「ZETTY」に強い関心を持っているそうだ。
 高田社長が語る。
 「A社は全国に約70万台分の駐車場を持っておられます。ただし、利用効率が悪いと駐車場としての利用を取り止め、毎年20万台分ほど入れ替わっているようです。この際、券売機や遮断機は再利用しているのですが、コンクリート製のカーストッパーは割れるなどして使い回しできないことが多く、解決策を模索されていました。そういうところで当社の『ZETTY』に関心を持たれ、ある市の駐車場で実装試験をされています。うまくいったら・・・」
 「仮に、年間1万台分ずつのオーダーが入ったとして・・・」と編集子が問いかけると、「カーストッパーは、当社の経営の柱に、それも太い柱になります」と高田社長はえびす顔になった。
 ちなみに「ZETTY」は1本15,000円。駐車場1台分で30,000円。1万台分で・・・。
 車は止めても、この勢いだけは、ゼッタイに止まらないことを祈るばかりだ。
 (《注》商品の価格は取材時のものです。材料費の変動により変わることがあります)

 株式会社高田製作所
 本社/高岡市戸出栄町54-7
 TEL 0766-63-6800
 FAX 0766-63-6345
 URL https://imono.com

作成日  2022/11/4

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