TOP > イノベーションが産む金の卵 > 第51回 北酸株式会社
廃棄マグネシウムの安全な処理法開発にチャレンジ
装置の開発、水素の活用、新素材開発も視野に
同社で廃棄マグネシウムの処理法の開発や副生物の水素
の利活用などに取り組んできた河内豊氏。
富山県は豊富な水資源があったために水力発電が盛んで、比較的安価に電力を調達することができる地域の特徴を持っている。その電力を利用してアルミニウム産業、マグネシウム産業が発展してきた歴史的背景がある。今回テーマとなるマグネシウム切り屑についても、他都道府県よりも多く排出されているという地域特性を持っている。
マグネシウム(合金含む、本稿では以下同)は、軽くて強度があり、加工性が高い。また振動吸収性に優れ、リサイクルしやすいなどの特性を備えている。こうしたことから、マグネシウムは幅広い場所で使われることとなった。例えば自動車のホイールやエンジン関係の部品、航空・宇宙機器やノートパソコン・スマートフォンをはじめとする電子機器の部品、車椅子や杖などの福祉用具等々、用途は年を経るごとに増えてきた。
ただし、リサイクルしやすいとはいえ、条件がある。JIS規格に適合し、2mm以上の大きさのものはリサイクル可能だが、JIS規格でないマグネシウム合金や2mm以下の大きさのものは、リサイクルが難しいのだ。JIS規格のマグネシウム合金であっても、2mm以下の場合は自然発火の危険性がある。そこで、その処分が地域の課題となったわけだ。
北酸(株)がこの研究開発に本格的に取り組み始めた令和4年以前の、廃棄マグネシウム1kgあたりの処理費は約2,000円(送料含)。廃棄マグネシウムを排出する工場は、県外の処分場に送っていたのであるが、地元でのリサイクルが求められるようになったのである。
「マグネシウムの切り屑にメタノールを加えて反応させると、マグネシウムの残渣と副生物の水素ができます。反応の途中でメタノールは蒸発しますが、回収可能ですから再び切り屑に加えることができます。マグネシウムの残渣はそのままでは利用が難しく、加熱乾燥して水酸化マグネシウムを取り出すことは可能で、水素は別に集めてエネルギー源として利用することができる。当社は当時、この水素をビジネスに利用できないかと漠然と考えていたのですが、メタノールによる処理は思っていた以上にコストがかかったため、この方法での廃棄マグネシウムの処理は断念しました」
語るのは、同社で廃棄マグネシウムのリサイクルの研究を率いてきた環境エネルギー部の河内豊氏。そこで、従来から研究開発のアドバイスを受けていた国の産業技術総合研究所の研究員に相談すると、塩水(えんすい)によるマグネシウムの処理を勧められたのだ。
初期の廃棄マグネシウムの中規模処理装置(3kgの廃棄マ
グネシウムを1回で処理)。左は各部の名称。右は処理
の手順およびプロセスの概要。塩水処理の「塩」は家庭
にある一般的な塩でよい。初期の装置は、水素を大気中
に放出していた。
河内氏が続けた。
「廃棄マグネシウムの塩水処理については、実験レベルでの研究は進んでいましたが、装置レベルでの実証はどこも行っていませんでした。そこで令和4年度の『グリーン成長戦略分野研究開発支援事業』の助成を受けて、『廃棄マグネシウム塩水処理による水素製造実証および水素利活用法の検討』に取り組むことにしたのです」
研究開発にあたっては、1回の廃棄マグネシウムの処理量は3kg程度、1回の処理に要する時間は1時間程度、処理費用は1kg2,000円以下を目安にし、安全で反応が均一に進む処理法の開発を目標に掲げた。また組成の異なる廃棄マグネシウムでの実証を行うために、県内の工場で排出される20種の廃棄マグネシウムを集め、それぞれの処理状況を確認。実験を進めると、ある濃度の塩水処理ではスムーズに反応が進むのだが、80%ほどしか処理が進まなかったという。
「そこで残り20%の処理法を模索したのですが、以前メタノールで処理を行っていた際に、装置の洗浄にクエン酸を用いたところ、きれいに洗浄できたことを思い出し、塩水処理の後でクエン酸を添加する手法にたどり着いたのです」(河内氏)
この研究開発では、廃棄マグネシウムのリサイクルのために前処理が必要か否かの判断と、その分別法の確立のために富山高等専門学校が共同研究に参画。マグネシウムを高純度化させる手法として知られる真空蒸留法を前処理として廃棄マグネシウムに施したところ、処理後のマグネシウム凝集物では不純物が減少し、リサイクルしやすい高純度のマグネシウムを得ることができたのだ。
その結果、県内で集めた20種の廃棄マグネシウムは、いずれもリサイクルが可能であった。処理の所要時間は、目標1時間程度のところ、最低でも4時間必要なことが判明。また廃棄マグネシウムの処理量は、大型プラントでは1回あたり10kgの廃棄マグネシウムが安全に処理できることも明らかになった。処理費用については、排水処理費を含まない試算で1kgあたり700円を少し下回り、排水処理費を加えても1kgあたり2,000円以下になることが推測された。
課題は、発生する水素の濃度が16%だったことだ。「ドラム缶に簡便な蓋をした」(河内氏)だけの気密性のない容器に水素を集めていたため、大気の混入が予想されたが、この水素の純度を高め、化石燃料と混ぜて発電装置に利用することで、二酸化炭素の発生を抑えることができるのではないかと期待されたのだった。
同社環境エネルギー部の福島晴貴氏。「廃棄マグネシウ
ムの処理法の開発から始まったプロジェクトは、廃棄マ
グネシウムを利用し尽くす方向に進んでいるようです」
と。
北酸ではこれらの成果を踏まえて、令和5〜6年度には「グリーン成長戦略分野研究開発支援事業費補助金」の採択を受けて「廃棄マグネシウム安全処理技術を活用した水素混焼発電実証およびサプライチェーンの構築」に乗り出し、回収した水素を活用してのビジネスの可能性も探った。
「前年までは、水素を貯めることは意識していなかったので、容器はスカスカでした。大気中に放出していたといってもいいくらいです。そこで今回は、純度の高い水素を回収するためにプラントや容器の改良から始めました。ただ、反応槽の構造から空気の混入を完全に防ぐことは困難であるため、純度80%の水素の回収を目標にしました」
河内氏はこう言って、令和5年度の開発当初を振り返った。
その結果、純度93%の水素を回収することができたのだ。これを燃料電池で使えるようにするには、99.97%以上に純度を高める必要があり、コスト等の面から同社では純度93%の水素の活用法を開発することに。前年度の研究の終盤には、ディーゼル発電機の燃料として、軽油にこの水素を混ぜたらどうかのアイデアまで到達していたため、その実用化とCO2排出量の削減についての実証実験が行われた。
また将来の事業化に備え、廃棄マグネシウムの回収・処理、水素利用、残渣や廃液の処理までを見通したサプライチェーンの構築を目指し、産業廃棄物処理業者の(株)HARITA(当時、ハリタ金属(株))の協力を仰ぐとともに、富山大学と富山高等専門学校とも連携し、回収した水素の分析や混焼発電で発生する排気ガスの分析などを進めたのだった。
「水素回収のためのプラントや容器の改良とともに、市販のディーゼル発電機の改造にも取り組みました。発電機の吸気部分に水素を注入するための管を取り付け、空気と同時に水素を取り込ませることで、水素を混焼させることにしたのです」
同社環境エネルギー部の福島晴貴氏が本格的に進んでいく研究開発の模様を語った。
昨年12月6日、完成した廃棄マグネシウム処理装置の試
運転の様子を公開した。
水素混焼発電実証実験では、水素の混焼割合を発熱量比で0〜50%の間(6段階)で実施(令和5年度。令和6年度は0〜70%までの8段階)。水素の割合が高まるほど軽油の使用量は減り、発電機の正常な稼働が確認された。またCO2の排出量は、軽油のみを使用した場合と比べ、約20%削減されていることが分かった(令和6年度の水素混焼割合70%では、CO2削減率57%を達成)。
サプライチェーンの構築については、廃棄マグネシウムの回収・処理、水素の貯蔵・利用までは北酸が実施。残渣や廃液の処理についてはHARITAが請け負い、残渣は埋め立てへ、廃液は河川放流ができるまでになった。北酸ではこの廃棄マグネシウム処理装置の販売を目指しているのだが、装置購入者が廃棄マグネシウムの回収から水素の利用までを行い、残渣・廃液の回収・処理についてはHARITAが担うことを想定しているという。
ちなみに処理費用は、廃棄マグネシウム1kgあたり1700円程度になったようだ。
* * *
処理費用については、この先の装置の改良によりさらなる低減が見込まれるのだが、「実はこの研究開発には続きがあるのです」と河内氏は語り、以下のような将来展望を明かした。
「廃棄マグネシウムの塩水処理の後で発生する水酸化マグネシウムを含んだ排水を対象としたCO2の回収技術を確立し、またそのCO2回収過程で得られる炭酸マグネシウムを加えた、付加価値の高いプラスチック素材の開発を目指すことにしました。本年度は『産学官オープンイノベーション推進事業費補助金』の採択を受けて基礎研究を行い、来年度は国の支援を受けて新素材の製造法を確立するとともに、その実用化を図りたいと思っています」
廃棄マグネシウムの安全で安価な処理法の開発から始まった事業は、装置の開発や副生物の水素の利活用に発展。ビジネスの可能性はさらに広がり、新素材の開発も視野に入れるようになったのだ。
北酸株式会社
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作成日 2026/01/05
