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研究開発により誕生した新技術・新製品に秘められたイノベーションと、その原動力を探る!

第49回 株式会社北熱

表面処理メーカーが、研究開発の支援を受けて
技術のみならず装置も開発するまでに

   


厳しくなる金型の表面処理業界にあって、新技術の開発
で先行しようと公的な産業支援を活用しておられる同社
の嶋村公二部長。

 「金型業界は、電気自動車の普及により変革期を迎えています。電気自動車は、従来のガソリン車に比べて部品点数が少なく、必要な金型の点数も抑えられます。こうしたことを背景に、ガソリン車向けの金型の製造から撤退する金型メーカーも現れました。その結果、金型の熱処理・コーティング等を行うわれわれの業界にも、厳しい向かい風が吹きつつあります」
 こう語るのは、(株)北熱の嶋村公二氏。同社で技術開発を担うパイロット事業部の部長だ。
 もともと同社は、本県の基幹産業のひとつであるアルミ建材の金型の熱処理等を行ってきたが、今では各種ものづくり業界の金型も扱うように。クライアントの求めに応じて、より高度な熱処理やコーティングの技法を追究してきた。かつては市販の処理装置を購入し、そのマニュアルに従って加工してきたが、後には装置使用のノウハウを独自に考案し、さらには装置そのものの企画・設計・製造も行うまでになった開発型企業だ。

「もっと長持ちさせてほしい」というニーズが

金型の表面処理のためのセッティングを行っている様子
(写真上)とコーティング処理を施した例(写真下)。

 その直近の開発テーマの1つが、自動車向けのアルミ製部品をつくるための金型の長寿命化である。昨今は、燃費向上のために自動車の軽量化が求められ、それに応えるためにエンジンやミッション、足回りなどの部品にアルミが使用されるようになってきた。また自動車の電動化によって、eアクスル(モーターを主動力とする車両が、走るための主要部品を1つにパッケージ化した駆動ユニット)や車載電池ケースにもアルミが用いられるようになっている。そこでは高精度な部品が多量に求められ、ダイカスト成形がそのニーズに応えてきたのだが、製造ラインからは「金型が長くもつ」ことが求められてきたのだ。
 嶋村部長が語る。
 「金型に、約700度のドロドロに溶けたアルミを流し込んで金型の形状を転写させ、アルミが冷えたところで金型を取り外す。これを繰り返すと、金型の表面に亀裂が入ったりピンホールができたりして、正常な形の部品がつくれなくなります。この損傷の発生を遅らせるために真空熱処理やコーティングなどの技術が開発されました。表面処理すると金型の寿命は長くなりますが、『もっと長持ちさせてほしい』というニーズがものづくり業界で強くなっているのです」
 金型の長寿命化は、製造コストを抑え、また交換に要する人件費や時間の削減にも繋がることから、ものづくりの業界では絶えず期待されてきた。北熱では客先のこうした要望にさらに応えようと、当機構の「産学官オープンイノベーション推進事業」(令和2〜3年度)の採択を受けて、「アルミダイカスト成形用金型の寿命向上を実現する高機能複合表面処理の開発」にチャレンジ。経済産業省のサポイン (「戦略的基盤技術高度化支援事業」)の支援で開発した表面処理の技法も応用し、その実用化に取り組んだ。

4つの課題に挑戦

図/ヒートチェックが発生するメカニズム
加熱と冷却を繰り返すと、冷却時の引張応力により金型表面に
ヒートチェック(クラック)が発生する。

 開発にあたっての課題と解決のポイントを、嶋村部長がまとめた。
①耐ヒートチェック性の向上
 ダイカスト成形において、金型の加熱・冷却を繰り返すとヒートチェック(クラック)が発生する。金型に窒化処理(金型の表面から窒素原子を内部に拡散浸透させて表面を改質する技術)を施して圧縮応力を付与することで、ヒートチェックの発生を抑制することは可能であるが、従来の一般的な窒化処理は耐磨耗性の向上が主な目的で、耐ヒートチェック性の改善は重視されてこなかった。
   ↓
 今回の研究開発では、比較的高い圧縮応力を示す脆弱化合物層フリープラズマ窒化の放電電流密度や窒化の深さの最適な組合せを探り、圧縮応力の高い窒化層を形成させ、金型表面の硬さと、耐ヒートチェック性を向上させた。(→ 従来比3倍達成)

図/溶湯アルミ浸透のメカニズム
コーティング膜の結晶粒界(一種の亀裂)から溶湯アルミが浸透して
基材を溶損する。

②耐溶損性の向上
 一般的には、ダイカスト金型に耐熱性の高いPVDコーティング(耐熱温度800度のTiAlN(窒化チタンアルミ)膜)を生成させることで耐溶損性を向上することができるが、膜厚が非常に薄く(約3μm)、また結晶粒界(原子の配列が乱れて生じる亀裂のようなもの)が膜の表面から基材まで一直線となって到達しているため、溶湯アルミが鋼基材に浸透し、溶損(表面が減耗し、凹みが発生する)の原因となることがある。
   ↓
 この研究開発では、耐熱温度1000度以上のAlCrN(窒化アルミクロム)膜とAlCrSiN(窒化アルミクロムシリコン)膜を複合積層化し、また厚膜化(約10μm)することで、結晶粒界からのアルミ溶湯の浸透を遅らせた。(→ 従来比5倍達成)

③耐浸食性の向上 
 一般的にはダイカスト金型に硬質なPVDコーティング(TiAlN(窒化チタンアルミ)膜)を生成することで耐浸食性を向上することができる。しかしこの膜厚は非常に薄く(約3μm)、結晶粒界の方向に起因して早期に浸食が発生する。
   ↓
 今回の研究開発では、硬質なAlCrN膜とAlCrSiN膜を複合積層化し、厚膜化(約10μm)することで耐浸食性の向上を図った。 (→ 従来比18倍達成)

図/複合高機能処理のモデル
耐溶損性、耐浸食性のあるコーティング膜を積層し、その上に
離型剤を留まらせる凹凸を形成する。

④耐焼付き性の向上
 ダイカスト金型の耐焼付き性向上のために、従来、金型表面への離型剤の塗布が効果的とされてきたが、均一な塗布は容易ではない。しかも昨今は、金型表面に微細加工を施すことが多く、その凹凸に離型剤がたまって潤滑性にムラが生じることも報告されている。
   ↓
 本研究開発では、PVDコーティング表面に規則的かつ滑らかな微細凹凸加工を施すことで、優れた耐溶損性や耐浸食性を示しながらも、耐焼付き性の向上を図ることができると考案。ウェットブラスト法を用いて、コーティング面に微細加工(深さ0.5〜2μm)を施し、焼付き試験における引抜き荷重を2/3以下に低減させた。
(→ 従来比62%達成)



大学との連携の中で・・・

サポイン の採択を受けて進めた航空機部品への表面処理技術の開発
の際、金属表面を極めて硬くするプラズマ窒化技術を開発したが、
それを施す装置「PRIZE」(プライズ)の開発も行った(写真上)。
写真中はNEDOの「イノベーション実用化ベンチャー支援事業」
(平成26年)の採択を受けて開発した、深穴内面へ金属窒化物多層膜
を生成するアーク蒸着装置「diXis」(ディクシス)。
写真下は今回の金型長寿命化で開発・商品化した「ViOLA」と従来の
膜厚コーティングの「Acro9」(窒化アルミクロムの膜)の溶損の比較。
ViOLAは従来比で1.66倍、進化系のViOLA-Rは3倍の寿命になった。

 ①〜③については、北熱社内のエンジニアが試行錯誤を繰り返して長寿命化にたどり着いたが、「耐焼付け性の向上」の「ウェットブラスト法」については不案内であった。そこを補ったのが、共同研究に加わった富山県立大学だ。またその数年前にサポイン の支援を受けて進めた研究開発の成果も①〜③を後押ししたのだった。
 嶋村部長が振り返る。
 「微細な凹凸加工については、電子ビームで金型表面を溶かす手法など、過去には当社でもいくつか試みました。しかし期待した通りの凹凸ができず、この課題は棚上げ状態になっていました。今回の研究開発にあたり微細な凹凸加工について調べたところ、富山県立大学にはウェットブラスト加工に詳しい先生がおいでになることがわかり、協力をお願いした次第です」
 ウェットブラスト加工とは、粒子を含む水(スラリー)を圧縮空気にて加速し、ノズルより高速の霧状にして対象表面に衝突させ、微細な凹凸を加工する技術のこと。富山県立大学は、投射回数、ノズルの移動速度、スラリー濃度に注目し、その組合せの中から深さ0.5〜2μmの凹凸を均一につくる手法を開発したのだ。
 また先行したサポインの支援による研究開発とは、「世界初の脆弱化合物層フリー・発光分析フィードバック(ESF)プラズマ窒化による、航空機部品向け高品質・高能率・クリーン深窒化プロセスの開発」(平成27〜29年度)のことだ。その成果が今回の研究開発の後押しをしたが、その概要も紹介しよう。
 当時、航空機部品の業界では、部品の深部にまで効率よく窒化処理を行う技術が求められていた。そのニーズに応えるために、北熱では航空機部品向けの高品質・高能率・クリーン深窒化プロセスの開発にチャレンジ。三晶MEC(株)、富山県立大学、金沢大学、富山県工業技術センター(現・富山県産業技術研究開発センター)等の協力も得て技術開発が進められた。
 「この窒化技術の開発にあたって私たちは、窒化装置そのものも開発し、ジェットエンジンの部品での使用を想定して実験を進めました。極めて耐摩耗性が高い窒化処理技術を開発することができ、ある航空機メーカーに営業をかけたのですが、残念ながら採用にはなりませんでした」
 嶋村部長は、さも無念という表情を表しながらも「ただ、せっかく開発した技術です。プラズマ窒化を商品化し、金型や工具に施すなどして客先からは喜ばれています」と小さな“金の卵”が生まれたことに笑みを浮かべ、「また社内のエンジニアのスキルアップにつながりましたし、ユーザーからの特殊な要求にも対応できるようになるという、副次的な効果もありました」と続けた。
 大学や公設試験研究機関の協力も得て開発した技術を総合して、①〜④に掲げた「長寿命化」の目標は達成できた。しかしながら、その実用化には大きな設備投資が必要なことが判明。そこでいったんは「商品化を諦めなければならないか・・・」と雲行きが怪しくなったものの、窒化処理とコーティング技術を先行して厚膜タイプのコーティング「ViOLA」(ヴィオラ)を商品化。ある自動車メーカーの実機試験でも、従来のコーティングと比較して金型の寿命が3倍に伸び、正式採用になったというから喜ばしい限りだ。

開発した技術を売るために・・・

当機構の「とやま中小企業チャレンジファンド事業販路
開拓挑戦応援事業」の支援を受けて台湾(写真上)、
タイ(写真下)の展示会に出展した際の同社のブース
の様子。

 同社では今回開発した「ViOLA」の他にも、国や県の支援を受けて開発したコーティングや窒化処理の技術がいくつもある。それらを販売するために、専門誌や学会で発表する他に、各種の展示会・商談会等に参加してきた。当機構でも「とやま中小企業チャレンジファンド事業 販路開拓挑戦応援事業」(令和5〜6年/台湾、平成31年/タイ)や「海外バイヤー招へい商談会」(平成25年/東南アジア各国)などで販路開拓を支援してきたところだ。
 「金型の表面処理メーカーには、現地で育った企業、日本など海外から進出して現地で展開している企業もあり、激しい受注競争が展開されています。仮に金型の寿命が3倍になっても、往復の輸送料を勘案するとコストパフォーマンス的に厳しくなることもあります。タイをはじめ東南アジアの国々との商談では、“輸送費の壁”を痛感させられました。一昨年、昨年出展した台湾の展示会では、いくつかの金型メーカーは輸送費を考慮しつつも当社の窒化処理・コーティング技術に強い関心を持ち、サンプリングで表面処理した金型の寿命がどれだけ伸びるかの実機試験をしているところです。その結果次第では、採用の可能性もあると期待しているところです」
 嶋村部長はこういって、新しく開発した技術の販促に期待を寄せつつも、「公的な支援を受けての技術開発には、申請書や報告書を作成することが必須です。その書類をまとめるにあたって、現状の技術課題が整理でき、またコストやスケジュールについての意識を涵養することができます」と話し、若手研究者に書類作成を分担していることも明かしてくれた。
 冒頭にも触れたが、電気自動車の普及によって金型業界は今、岐路に立たされている。特に、アメリカのテスラが始めた「ギガキャスト」は、ものづくり産業を根幹から変える可能性があるため、日本でも注目の的だ。「ギガキャスト」とは、それまで数十個の個別の部品を組み立ててつくっていた大型部品を、1工程で一括成形する金型のこと。部品ごとに製作されていた金型は不要になり、その結果、金型や金型の表面処理メーカーも淘汰される可能性があるということだ。
 「従来の金型がギガキャストに取って代わられると、金型の需要は極めて少ないものになります。場合によっては、需要がなくなる表面処理技術が出てくるかもしれません。当社では車載電池や半導体といった成長分野に視野を広げ、そこで求められる表面処理技術を開発し生き残りを図っていきたいと思います」
 嶋村部長は意気軒昂にこう語り、取材を締めくくった。

株式会社 北熱
本社/富山市高木西115
TEL 076-471-7251
FAX 076-471-7252
URL https://www.hokunetsu.com

作成日 2025/2/13

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