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研究開発により誕生した新技術・新製品に秘められたイノベーションと、その原動力を探る!

第39回 とやま成長産業創造プロジェクト推進事業                    グリーン成長戦略分野キックオフセミナー開催

キックオフセミナー開会に当たり挨拶する
新田八朗富山県知事

富山県では、2050年のカーボンニュートラル(脱炭素)に向け、温暖化への対応を成長の機会と捉えた国の「グリーン成長戦略」において成長が期待されている分野での事業化が進むことを目指している。これを受け当機構では、今年度、本県における産業集積の活用が期待できる(1)自動車・蓄電池関連、(2)水素・燃料アンモニア関連、(3)次世代再生可能エネルギー(風力・太陽光・地熱)関連の3つの分野に関する研究会を新たに設置の予定。これに先立ち、こうした分野のビジネスの将来性や課題、先行事例などを紹介し、関心のある企業によるネットワークを構築することを目的に、キックオフセミナーを開催した。
 本稿ではその基調講演・事例紹介を要約してお届けする。

【基調講演】
「脱炭素をビジネスチャンスと捉え、成長戦略につなげよう」

株式会社INCJ代表取締役会長 
元・日産自動車(株)代表取締役COO(最高執行責任者)
志賀 俊之 氏

志賀俊之氏/(株)INCJ代表取締役会長。
1976年3月、大阪府立大学経済学部卒業。
同年4月、日産自動車(株)入社。
2005年6月、同社代表取締役COO(最高執行責任者)。
2013年11月、同社代表取締役副会長。
2015年6月、(株)産業革新機構代表取締役会長
2016年6月、武田薬品工業(株)社外取締役(現職)。
2017年6月、日産自動車(株)取締役。
2018年9月、(株)INCJ(旧 株式会社産業革新機構)
        代表取締役会長(現職)。

 皆さんこんにちは。株式会社INCJの志賀です。INCJは旧産業革新機構で、2018年に名称変更しました。産業競争力強化法によりできた官民ファンドでございます。本日はよろしくお願いします。
 カーボンニュートラル、脱炭素の取組みは各所で始まっています。スタートは2015年のパリ協定。この協定では、産業革命以前に比べて地球の温度上昇を2℃に抑えよう、努力目標としては1.5℃に抑えよう、と定めました。ところが温暖化はどんどん進んでいます。その原因は温室効果ガス、代表的なものは二酸化炭素(CO2)です。日本国内での排出量は約12億t。排出元で1番多いのは発電所で、39.1%が発電所からです。日本は今、原子力発電が止まり、火力発電に頼らざるを得ません。次は産業です。各種工場から25.2%。3番目は輸送で17.9%。残りは生活の中で排出されるCO2です。その中には家畜の牛が出す、げっぷ由来のメタンガスがあります。メタンガスにはCO2の何倍もの温室効果があり、環境に敏感な人の中には牛肉を食べない人もいます。

モビリティの進化

 自動車について言うと、1886年にガソリン車が開発されました。ただ1900年のニューヨークの写真では、馬車ばかりで自動車は見当たりません。1908年にT型フォードが生まれ、5年後の1913年のニューヨークはほとんどがT型フォードになりました。自動車は経済発展に貢献し、人々の生活を豊かにしました。反面、地下資源を消費し、地球温暖化を生み、大気を汚染し、交通事故を起こしてきました。大気汚染や交通事故で、多くの方が亡くなっています。
 この課題を解決するために、いろいろ取り組まれています。今日起きているモビリティの進化は、頭文字をとって「CASE」と呼ばれています。Cは「Connected」、繋がる車です。車は今、インターネットに繋がらない状態で走っています。これを、これからは常時接続して、車同士が通信したり、車とインフラが通信したりして、安全性を高めようとしています。次のAは「Autonomous」、自動運転です。自動運転の最大の狙いは交通事故をなくすこと。事故をなくすために、機械に運転させる。それにより移動が困難な高齢者や体の不自由な方が、移動の自由を得ることができます。
 3番目のSは「Shared」。自動車は基本的には個人所有される商品でしたが、共有化されていく。自動車は通勤で使っていない方の場合は、1日の95%が駐車場で止まっている。通勤で使っている方も、職場の駐車場に長く置いています。これをSharedするとたくさん利用されます。自動車は個人所有なので、目的に合わせてその都度自動車を変えるわけにもいきません。ですから2tクラスの大きな車に1人で乗って仕事に行く、また近くのスーパーにも行く。これを共有にすると、用途に合わせた使い方ができ、環境にも優しくなるのです。
 最後のEは「Electrification」、電動化です。産業革命以前の大気中のCO2濃度は250ppmくらいだったものが、今日では410ppmくらいになっている。これが450ppmを超えると、悲劇的なことが起こると予想されるところから、パリ協定では抑えましょうという話になりました。2000年比で、CO2を90%削減しよう、と。
 ではCO2を90%減らすとはどういうことか。2000年度、日本で販売された新車の平均燃費は、14km/ℓくらいです。単純計算すると90%減らすというのは、1ℓ当たり140km走る自動車を開発することです。でもこれは技術的にほとんど無理です。そこで、CO2を90%減らそうとすると、再生可能エネルギーでつくった電気もしくは水素で走る車、すなわちEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)が一躍脚光を浴びたわけです。
 ただ電気自動車といっても購入の際は躊躇します。その最大の理由は「航続距離が短い」ことです。日産では2010年に初代リーフを出しました。その時は24kWhのバッテリーを積んで航続距離は200kmでした。今年の冬に発売予定のアリアは90kWhのバッテリーを積んで610km。ガソリン車と変わらない航続距離になります。

木造ビルの建設が始まる

 では2050年に、カーボンニュートラルになると世界はどう変わるでしょう。間違いなく火力発電所はなくなる。製鉄所の高炉も残っていません。ペットボトルやプラスチックごみもなくなっていると思われます。都市ガスも何かに変わっているはずです。新しく起こることでは、飛行機はバイオ燃料で飛ぶようになります。先日、ユーグレナではミドリムシからつくった燃料でジェット機を飛ばしました。
 家を建てる時は、ヨーロッパではすでに実施されていますが、太陽光パネルの設置が義務化される。また少しでも空き地があれば、風力発電、太陽光発電に利用される。電気の地産地消が進みます。木造ビルの建設も進むでしょう。東京の丸の内では、17階建ての木造ビルの建設が始まっています。なぜビルを木造にするか。木を切って、新しい若い木を植えてCO2を吸収してもらうためです。
 カーボンニュートラルの政策は、すべての事業者に大きな影響を与えます。今まで使っていた灯油や重油を用いた設備は使えなくなり、新しいものに更新しないといけません。電気も今までの安いものを使うわけにいかず、再生可能エネルギーを利用し、工場の屋根にソーラーパネルを置くなどして電気を賄う。これらによりコストが上昇します。
 またカーボンプライシングでは、自社でつくった製品のCO2排出量が多いと、炭素税という形で税金を徴収されます。そういう商品を輸出する場合は、国を跨いでCO2を出していると見られ、ヨーロッパでは国境炭素税が課せられます。さらにはいろんなサプライチェーンの中で、部品メーカーとして納入している場合、この部品をつくる上でどのくらいのCO2を排出したかをアセスメントし、その開示が義務化されていきます。そして例えば「当社に部品を納めている会社は、いつまでにCO2排出をゼロにしなさい。達成しないと取引を停止します。」となる可能性があるのです。

電気を自動車に貯め、足りない時は自動車から

 こうした厳しい姿勢から、カーボンニュートラルに消極的になる傾向もありますが、今日は「これをビジネスチャンスに捉えよう」とおすすめするところです。
 例えば同じ製品をつくる場合でも、「CO2の少ない生産方式を取っています」とアピールできます。通常、部品を納入する時はQCD、すなわちクオリティ(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)の関係性の中で選定されます。そこに、これからはCO2排出をどれだけ抑えたかも選定の基準に加わります。グリーン調達では、CO2排出量の少ないものを購入します。
 従来の節電や省エネの先に、カーボンニュートラルはありません。そこで、イノベーションが必要になるわけです。電気自動車でいうと、今はリチウムイオンバッテリーが使われていますが、世界中の自動車メーカー・電池メーカーは全固体電池の開発を目指しています。そこでさらに航続距離が伸び、コストが下がるわけです。
 今まで、再生可能エネルギーは高いというイメージがありました。日本の資源エネルギー基本政策委員会のレポートでは、コストが一番安かったのは原子力発電でした。石炭とほぼ同じ。1kW発電するのに大体5円。再生可能エネルギーの風力発電や太陽光発電は12円くらいです。しかし今年のレポートでは、原子力はその後の使用済み核燃料にかかるコストや廃炉に必要なコストをプラスすると1kW当たり11円くらい。逆に再生可能エネルギーは下がって、8円くらいになっています。
 風力発電や太陽光発電では、需要と供給のミスマッチが起こります。余剰電力をどう貯め、足りない時にどう補充するか。これを電気自動車を使うことで、余剰電力の有効活用ができます。ハワイのマウイ島では、風が強い時には余剰電力を日産リーフに貯め、風が吹かず足りなくなった時にはリーフから補充するという、エネルギーマネージメントの実証実験も行われています。
 当社が最近投資した案件に、積水バイオファイナリーがあります。この会社では、ごみを微生物に食べさせてエタノールをつくり、そのエタノールからジェット燃料をつくろうと試みています。これが成功すれば、全国の自治体も取り組むことが可能です。
 われわれは変化をビジネスチャンスと捉えることが大事です。今まで当たり前だったものが当たり前ではなくなる。そういう時がビジネスチャンスです。これを今日のテーマに置き換えると、「カーボンニュートラルなんて無理だ」ではなく、他社の先取りをして動き、脱炭素戦略をアピールする。それを競争の優位性に変えていく。そこでイノベーションを起こすのです。

水素発電やアンモニア発電も視野に

 最後に、INCJを紹介します。INCJは、オープンイノベーションによって次世代の国富を担う産業を育成することを目標にしています。これまで1兆3000億円の公的資金を使い、144社に投資してきました。おかげ様で回収額は投資累計を上回っています。
 環境関係で投資した例を紹介しましょう。最初はLEシステム。再生可能エネルギーによる電気を貯める電池に、レドックスフローバッテリーがあります。今の蓄電の主流はNAS電池やリチウムイオンバッテリー等ですが、レドックスフローバッテリーの容量が非常に大きく、期待されています。LEシステムは、レドックスフローバッテリーに用いるバナジウム電解液を、廃棄物からつくる技術を持っていて、その開発を進めています。2つ目のビークルエナジージャパンは元は日立系の電池メーカーでしたが、当社とマクセルが共同して買収し、ハイブリッド自動車用のリチウムイオンバッテリーを生産しています。この他にも、当社はカーボンニュートラルに貢献する投資を行っています。
 カーボンニュートラルの実現は、簡単ではありません。火力発電の代わりに、今研究が進んでいるのは水素発電やアンモニア発電です。アンモニアはNH3で、窒素と水素でできている。この窒素と水素を利用して電気をつくろうというのです。まだ研究段階で実証されていませんが、従来の発電所も活用しながら、新しい発電法を並行して開発していく。そうやってイノベーションを起こさないと2050年のカーボンニュートラルは難しくなります。私たち一人ひとりもカーボンニュートラルにどのように貢献していくのか。こういったことが課題になるでしょう。できる限り時代の先を読み、後追いではなく先んじて、会場の皆さんもカーボンニュートラルを成長戦略の糧にしていただきたいと願います。

【事例紹介】
「グリーン成長戦略の波に乗り、新しいビジネスで成長しよう」

アークエルテクノロジーズ(株)代表取締役CEO
宮脇 良二 氏

宮脇良二氏/アークエルテクノロジーズ(株)代表取締役
一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了。
1998年4月、アクセンチュア(株)入社。
2009年9月、マネジングディレクターに昇進。
2010年9月、電気・ガス事業部門統括に就任。
2018年9月、スタンフォード大学客員研究員。
2018年8月、アークエルテクノロジーズ(株)設立、
        代表取締役就任。
2011年〜現在、九州・アジア経営塾指導パートナー。
2020年6月、早稲田大学商学部講師。

 日本も2050年のカーボンニュートラルを宣言し、昨年12月には政府からグリーン成長戦略が示された。そして2030年の目標として、温暖化ガス排出量を13年度から46%削減、再生可能エネルギー比率の約20%増という野心的な方向性が打ち出された。世界的にこれから30年でエネルギーを取り巻く状況が大きく変わることは疑いようのない未来であり、その変化から巨大ビジネスが生み出される。企業は今、自社のカーボンニュートラルを進めつつ、いかにグリーン成長戦略の波に乗り、自社のビジネスを拡大させるかが問われている。直近、特に大きなビジネスチャンスと考えられているのが、洋上風力、水素、自動車・蓄電池である。それぞれの技術とビジネスの仕組みを正しく理解し、できるだけ早くそのエコシステムの中で活動し始めることが、グリーン成長戦略の波に大きく乗るための第一歩となる。

洋上風力

 わが国において、これから最も確実に来る再生可能エネルギーの大きな波は洋上風力発電である。部品点数が約2万点といわれ、サプライチェーンの裾野も非常に広いことから、一大産業領域を形成する可能性が高い。国内だけでも2030年に向けて原子力発電所10基分に相当する1,000万kWの導入が計画されており、この波に乗るためには可及的速やかに、そのエコシステムの中で活動する必要がある。

水素

 わが国で最もイノベーションが期待される領域であり、各所で研究開発が進んでいる。水素の利用方法は発電、自動車、定置式燃料電池と幅広いが、重要なことは再生可能エネルギーから生成されるグリーン水素を利用することである。扱いの難しい水素の輸送・貯蔵インフラの整備と合わせて、グリーン水素の生成・確保は我が国において大きなチャレンジとなる。

自動車・蓄電池

 世界各国で自動車の電動化が急速に進みつつある。電動化により自動車の製造方法は大きく変わり、裾野の広い自動車産業の大きな構造転換が予想される。電動化においてコアとなる技術が蓄電池であり、これから様々な技術開発が進む。蓄電池は再生可能エネルギーの柔軟性を確保する手段としても有効であり、再生可能エネルギーの大幅拡大が進む上で、重要な位置付けとなる。

作成日 2021/10/21

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