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「T-Messe2021」をオンラインで開催コロナ禍が生んだ新しいビジネスショーのスタイル

「富山県ものづくり総合見本市2021」の開催を告知する
北日本新聞(10/27朝刊)(写真上)とホームページ上
での基調講演紹介コンテンツ(写真下)。

 ご承知のように昨年10月に予定していた「富山県ものづくり総合見本市2021」(略称:T-Messe2021)は、新型コロナウイルス感染症の蔓延を考慮して、対面式のリアルな展示会・商談会のスタイルからオンラインを活用したバーチャルな展示会・商談会に変更して実施。国内からは91社、中国、タイ、アメリカ、ポーランドなど世界14の国・地域からは151社が参加し、各社の商品が紹介されたほか、国内・海外のバイヤーを招いての商談会も開催。また企業活動のさらなるIT化や、その先のデジタル変革(DX)への取り組みが急務となりつつある時代背景をくみ、基調講演では富士通(株)のデジタル変革の取組例を紹介するとともに、県内企業のIoT取組例や環境ビジネスセミナー、海外の地方政府担当者や貿易促進担当者らによる投資セミナーも活発に行われた。
 本稿では「デジタル変革(DX)にどう向き合うか?〜富士通をケースに考察する〜」と題して話された富士通(株)の執行役員常務の福田譲氏の基調講演の概要をお知らせするとともに、IoTセミナーで自社の取組例を発表し、またバイヤー商談会に参加した高岡市の旭東機械製作所(株)のコロナ渦での販促や生産性向上の取組みなどを紹介する。
 ちなみに、バーチャル展示会の登録者は2,023人、来場者は7,310人、総閲覧数は45,436pvにのぼった。

単なるIT化とDX変革は異なる

基調講演の講師・福田譲氏(富士通(株)執行役員常務、
CIO(最高情報責任者)、CDXO(最高デジタル責任者)
も務める)(写真上)と、基調講演の表題(写真下)。

 基調講演に立たれた富士通の福田氏は、もともとはドイツのソフトウエア会社で20年以上にわたってソフトウエア開発に携わってきた方。富士通がデジタル変革に取組む際、同社の最高デジタル変革責任者でもある時田隆仁CEOの補佐役として2020年4月に入社し、同社のデジタル変革(DX)を牽引してきた中心人物だ。
 福田氏はまず「単なるIT化」と「デジタル変革」の違いを解説。ふた昔以上前、写真といえばフイルムカメラしかなく、運動会などのイベント等ではサンプルのプリントを掲示して、焼き増しを受け付けたりしていた。それがデジタルカメラが出現してフイルムや現像はなくなったものの、希望者からの焼き増し依頼は依然として受け付けていた。ところが昨今はスマホで撮影して、LINEで画像を送るだけ。このフイルムカメラからデジタルカメラへの移行は、一部がIT化されただけで本質的なところは変わっていないが、フイルムカメラからスマホ、あるいはデジタルカメラからスマホへの移行は、デジタル変革であるという。その結果、町のカメラ店(特に現像・プリントサービスをメインにしていたお店)のビジネス環境は劇的に変化し、お店の存続そのものが難しくなっている。
 こう例えた後で福田氏が続けた。
 「仮にお客様の記憶や記録に残すような画像を扱うビジネスを行うにしても、かつてのような現像・プリントというニーズはほとんどなくなり、画像のライブラリー化などサービス内容は以前とはまったく違ってきました。そこでは価値観が変わり、必要とされる人材像が変わり、企業の経営戦略も変わってきます」
 デジタル変革の時代に必要なのは「OODA(ウーダー)ループ」だという。それに対するかつての言葉は「PDCAサイクル」。計画を立て(Plan)、実行し(Do)、評価して(Check)改善のための行動(Act)を起こす。それをもとに次の計画を立て・・・。企業の事業計画はこうして年度ごとに立てられ、同業他社の動向を探りながら市場での生き残りが図られてきたが、正解のない変わり続けるデジタル変革の時代には、変化を観察し(Observe)、ゆっくり分析せず対応の仮説構築(Orient)を行い、すぐに意思決定(Decide)して行動(Act)を起こすことが求められるという。富士通ではこれを「DX担当部署の皆さんよろしく」ではなく、CEO自らが最高デジタル変革責任者に就き、全社一丸となってお客様への価値創造のあり方そのものを変えていく途上にあるという。
 これをより加速させるためのプロジェクトが「富士通トランスフォーメーション」である。2020年10月に立ち上げられたこのプロジェクトは、同社では「フジトラ」の愛称で親しまれることに。経営陣自らがリーダーシップを発揮して取組むとともに、全員参加・現場が主役を徹底し、変化し続ける企業になるよう企業のカルチャーそのものを変えようとさまざまな課題に取り組んでいるという。

パーパス・カービングで社員の意識を変革

富士通の本社で講演し、各視聴者に配信される
福田氏の姿(写真上)と講演の資料(写真下)。
画面右下にワイプで本人の画像が示される。

 ではこの変革のエンジン、原動力は何か。同社ではこれを「富士通のパーパス」、すなわち富士通の存在意義と位置づけ、「わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです」と定めたのだった。
 簡単にいうと「富士通がいてくれたおかげで、◯◯がよくなった」(福田氏)といわれるような技術・サービスを提供し、社会での富士通の存在意義を高めるのだという。ただ社員一人ひとりの立場から「イノベーションによって社会に信頼をもたらす」といわれても、日々の仕事の中での関連性は見出しにくい。そこで同社では社員一人ひとりに「パーパス・カービング」を実施。「◯◯を開発して人々の不便を解消したい」「□□を普及させて世の中の役に立ちたい」と富士通入社を志望した当初の純粋な気持ちをカービングし(彫出し)、2022年3月末までに約13万人いる社員全員のパーパスを確認する予定だそうだ。
 福田氏によると「パーパス・カービングを行うと、社員の意識が変わってくる」という。世の中の変化をとらえて「目の前の仕事にこだわっている場合ではないのではないか」と考えたり、「同じ事業を続けるにしてもやり方を変えたらよいのではないか」と、「過去や現在に安住することなく、未来を見つめるようになる」そうだ。そして続けていう。
 「パーパスは多種多様で、一人ひとり少しずつ違います。しかしながら指し示す方角でいうと、だいたい皆同じ方向を向いているのです。この多様性が多様な推進力を生んでいるのです」
 パーパス・カービングを行うと「何十年ぶりの自分探しみたい」と若い頃を振り返って上気する社員もいるようだ。「この極めてアナログ的ともいえるパーパス・カービングにより、変革の礎ができあがる」と福田氏は強調し、「パーパスを彫出すことによって富士通のカルチャーを根本から変えようとしている」と続けた。
 最後に福田氏はデジタル変革を阻む要因を5つ挙げ、その裏返しとしてデジタル変革を実現するためのポイントを以下の5つにまとめた。
(1)利益追求ではなくパーパスの確認・実現を重視する。
(2)組織の階層構造をそのままにぜず、横のつながりを大切にする。
(3)社員を管理するという発想から、能力を開花させるという指導へ。
(4)綿密に計画を立て実行するより、仮説を立てて早く実行するように。
(5)経営陣だけの情報共有ではなく、可能な限り社員に情報公開する。
 (5)に関して富士通では、部下に信頼されていない上司のランキングがあり、社員なら誰でも検索できる様子。そこでは上司の氏名までは公表されないそうだが、福田氏によると「部署ごとにランキングが発表されるため、どの部署の上司が信頼されているか、あるいは信頼されていないかがわかり、部下から信頼されていない上司はそれを改善しようと努める」と結び、講演を締めくくった。

ムダ・ムラを解消するために・・・

「IoT取組例」を発表される旭東機械製作所の
般若克彦社長(写真上)と同社の主な製品の
自動車部品用鍛造金型(写真中)、アルミ押出用ダイス製品
(写真下)。

 続いては、旭東機械製作所のIoT取組例の紹介。テーマは「機械稼働状況の視える化による『やらされ仕事』からの脱却」だ。
 そもそも同社が工場の生産ラインにIoTを導入したのは、工作機械や加工機の稼働状況を把握して、「ムダ」や「ムラ」を解消し、生産性を高めることができないかと、平成30年ころに試行錯誤を始めたのがきっかけ。ちょうどその年、総務省では「IoTサービス創出支援事業」の募集があり、富山県立大学が代表機関として採択を受けた。構成機関である(一社)富山県アルミ産業協会から当事業への協力依頼を受けた同社では、富山県立大学の岩本健嗣准教授の指導を受けながら、生産ラインへのIoTの導入を試みたのだ。
 旭東機械製作所の般若克彦社長が振り返る。
 「その前年の8月、私は父から事業を引き継ぎました。その前後にシニアの方々が定年を迎え、代わりに若手が入社して技術的なことを指導するようになりました。その際、指導者によって工程が違うことがわかり、まずは作業の標準化を図りました。標準工程ができると、若手・ベテランによる多少の差はあるものの作業時間の標準化が期待されると思ったのですが、そうはいきませんでした。社員が働いている様子を観察すると、皆忙しそうに動いてはいるものの、作業の進捗がそれほどではないのが感覚的にわかり、さてどうしようかと思っていたところに『IoTサービス創出支援事業』を紹介されたのです」
 当事業で同社は、先述の岩本准教授指導の下、工作機械や加工機にその稼働状況を把握するためのセンサを設置。それを事務所で一元管理し、機械が止まる状況を把握すると、「意外に長い時間、機械が止まっている」と社長も社員も認識するようになり、その理由を分析するようになったのだ。

社員の「やらされ感」を解消

同社の工場と、今回のIoT化の一貫として
各工作機械の上部に取付けられたシグナルタワー
(写真下)。センサと連動し、機械が止まった際は
点滅して知らせる。

 機械が止まる理由には、さまざまなものがあった。プログラムが間違っていた、途中で部品が壊れた、担当者が病気で休んだ、隣の機械のトラブル対応のために自分の機械も止めた等々。理由が明らかになると対策も立てやすい。全社的にプログラムのチェックや部品のメンテナンスに気を使うようになり、また病欠やトラブル対応の際は、どのようにリカバーすればよいかを、周りの社員と相談してよりよい方法をとるようになったという。
 般若社長がまとめた。
 「以前は、『ちゃんとして』『納期に間に合うのか』と感覚的なことしかいえず、社員にしてみれば、『やらされている』という感覚があったようです。しかしながらIoTを導入して機械の稼働状況を明らかにしていくと『作業効率が悪い』と社員一人ひとりが意識して改善のために行動を起こすようになり、『やらされ感』がなくなったばかりでなく、作業効率もよくなったのです」
 この一連の取組みを、般若社長は富山県ものづくり総合見本市の「IoTセミナー」で発表。同社の取組みは「IoTサービス創出支援事業」の報告書(『「共有型とやまのものづくりIoTプラットフォーム」導入・取組事例報告書』)や『富山県IoT導入事例集2019』などでも取り上げられ、また地元の新聞などで企業の最新動向として報道されたため、ものづくり企業の間では注目されてきた案件。今回のセミナー視聴者や、過去には報告書や事例集、報道等を目にした関係者の間でも興味を持たれたところがあり、「社員研修の一貫として、工場見学とラインの解説をお願いしたい」と打診してきた企業もあったという。

新工場を建て・・・

当機構が東京、名古屋、大阪などで開催している
広域商談会の様子(写真上は令和3年3月、名古屋の
広域商談会)。般若社長(写真下)は、今年(令和4年)
の夏に新工場を建て、同社の新時代を開く(社長の後ろ
にあるのは、新工場の完成予想図)。

 旭東機械製作所では、今回の富山県ものづくり総合見本市で「バイヤー商談会」にも参加し、販路開拓に努めたのだが、展示会出展は同社では数年前から取組み始めたばかりだという。
 「当社では、加工用の金属素材や工作機械、工具などの仕入先とのコミュニケーションを密にし、当社の得意な技術を活かせそうな企業を紹介していただき、発注先を増やしてきました。ただアジアの国々のキャッチアップも盛んですので、プラスαということで年に1〜2回、展示会や商談会等に参加するようにしています」と般若社長は語り、当機構が行っている名古屋での広域商談会参加(平成31年度、令和2年度)や、また富山県がブースを用意し、県内企業数社と共同出展した機械要素技術展(東京ビックサイト/平成30年)の名を挙げた。
 そして般若社長が続けた。
 「展示会や商談会への参加は、新規の顧客開拓を主な目的としていますが、当社では若手・中堅社員の教育という意味合いも持っています。周りのブースの方々と知り合い、熱心な売り込みを見たり、お客様のニーズを直接うかがったりすることは刺激になり、社員のモチベーションアップにつながります」
 ちなみに顧客開拓の成果に関しては、富山県ものづくり総合見本市のオンライン商談会で出会った企業が有望で、仕様や見積の相談が会期終了から4カ月経った今も続いているという。般若社長は今、今夏の新工場オープンと受注のさらなる拡大、また生産効率の一層の向上を目指して社員とのコミュニケーションアップを図っているところだ。

○問合せ先:(公財)富山県新世紀産業機構 

        企画管理課
所 在 地:〒930-0866 富山市高田527 情報ビル
TEL 076-444-5600  FAX 076-444-5642
URL : https://www.tonio.or.jp/

作成日  2022/3/25

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