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事業承継&佐野政製作所

事業承継支援を通じて会社の方向性を明確化

「3K工場を魅力ある金属造形企業にしたい」

佐野政製作所の現経営者・佐野賢治社長。長男への
事業の引継ぎが進みつつあるところから「一安心した」と。

 「金融機関からの借り入れについては、5年ほど前に当社社長と金融機関との間で話し合いが行われ、経営者保証を外すことで合意していたため、事業承継に大きな障害はありませんでした。ただ、どのようなことを、どのタイミングで行えばよいかについてはまったくわかりませんでした。そこで販売促進の支援を受けた際に、事業承継のことも相談してみようと思ったのです」
 こう語るのは高岡市で銅や鉄の鋳造品を製造販売する(有)佐野政製作所の専務・佐野秀充氏。商売を切り盛りする父親(社長)の背中を見て育ったゆえか、「自分でも・・・」と子どもの頃から事業を営む夢を持っていたという。
 ただ残念なことに、その夢は家業を継ぐ方向ではなく、美容院やファッション店など別な方向に向かってふくらみ、最終的には飲食店に実を結んだのであった。
 「友人と共同経営で、高岡市内で複数の飲食店を持っていました。ところが私が24歳の時、父を助けて家業の切り盛りをしていた母が病気になり、しばらく療養することになりました。当時、私はアパートでの一人暮らし。母の病院への送迎を手伝ったりはしましたが、夕方から忙しくなる飲食店を営んでいたため生活のリズムが合わず、母の仕事や家事の穴埋めは、父や2人の弟が分担していました。療養生活が長引くにつれ『これではいけない』と思い、私が家業を手伝うことにしたのです」(佐野専務)
 聞くところによると、兄弟3人で「今後、家業をどうするか」の会議を開いたという。その際、2人の弟は「長男が継ぐべきだ」と声を合わせたそうだ。共同経営のお店は、最終的には友人にすべて任せ、華やかな世界から一転「3Kの代表格のような銅器屋」に転身。平成20年のことだった。

鉄鋳物で日用品を

「とやま中小企業チャレンジファンド事業」の支援を受
けてショールームの整備に取り組んだ際、「事業承継
計画支援(無料)」のことを聞き、佐野専務は課題や
スケジュールを明らかにするために、その支援も申し
込まれた。氏の前にあるのは同社のヒット商品・仏具の
「御念珠掛け」。ちなみに同社の事業承継は3年計画で
あったが、新型コロナの影響で半年〜1年ほど遅れる様子。

 さっそく職人としての日々が始まった。同社では、鋳造そのものは近隣の鋳物屋に外注し、型バラシ以降のバリ取り、研磨、梱包、出荷は社内で。グラインダーや研磨機を扱うことは時とともに慣れ、3〜4年もすると、佐野専務は業界を見渡しての家業の将来像を思い描くようになった。
 「かつての高岡では鉄の鋳造も盛んで、多くの鋳物屋が軒を連ねていましたが、その頃には1軒のみになっていました。そこでなんとか鉄鋳物を盛り上げたいと思うようになったのです。当時の高岡では昔ながらの銅器の枠を飛び出し、今日的なデザインが施されたスズやアルミなどの日用品・インテリア用品が盛んに開発され、新たな市場をつくりつつありました。それで私は、鉄鋳物でもそれができないかと模索するようになったのです」(佐野専務)
 高岡市では「工芸都市高岡クラフトコンペティション」が毎年行われ、新しい日用品・インテリア用品への関心が高まっているほか、銅器など伝統産業に携わる若手経営者や職人たちのモチベーションが高く、高岡伝統産業青年会などが中心になって商品開発や新しい販売ルートの開拓などが試みられてきた。佐野専務は、その旗振り役(高岡伝統産業青年会の専務理事や会長)を務めたこともあり、当社独自の道を探ろうと自社ブランドの商品開発を試みるとともに、それを通しての鉄鋳物復興の夢を抱いたのだ。

オリジナル商品の「isara」(鋳皿)と三次元の国旗の
オブジェ「View Point」。「isara」は富山プロダクツ
に選定された。

 その第一弾は、平成25年に商品化されたアートパネルの「hamon」(波紋)。続いて「isara」(鋳皿)やウサギの形をしたドアストッパー「LEPRE」等が企画され、クラフト店での委託販売のほかに、工場見学で当社を訪れる人を対象に売り出したのだった。
 「当時、伝産青年会では工場見学会を頻繁に開いていましたし、北陸新幹線の金沢までの延伸開業を控えて産業観光への関心が高まりつつありましたので、従来の販売ルートとは違う形での展開も期待されました。そこで、工場見学のほかに、小さなショールームのようなものを構えて、当社製品のすべてを見ていただくことはできないかと思うようになったのです」
 そういって佐野専務は、鋳物で造形した企業のキャラクターや記念品の数々を取り出し、「仏具のほかにこれらが当社の主力商品に育ちつつあるので、これも含めてショールームでお客様方にご覧になっていただきたいと思ったのです」と続けた。
 キャラクターや記念品等は、特定の企業からのオーダーメイド品であるため、不特定多数の人が閲覧する可能性のあるホームページやカタログなどではPRすることはできないが(このTONIO Newsでも)、商談のために来社された企業の担当者などに紹介することは可。それをショールームを新しく構えてPRしようと、「とやま中小企業チャレンジファンド事業」(令和元年度)の支援を受けて進めようとしたのだった。
 この時、事業承継についての支援も合わせて受けたのだ。

親族内承継が減ってきた

富山県事業承継・引継ぎ支援センターの高木喜義
センター長。「事業承継は単なる書類の書き換え
ではなく、技術の伝承や後継者の育成にも関わる
ので、早めに取り組んでほしい」と強調。

 ここで事業承継の支援について、その概要を紹介しよう。ポイントを簡潔にまとめて語ってくれたのは「富山県事業承継・引継ぎ支援センター」の高木喜義センター長だ。
 事業承継対策はもともとは国の事業で、各都道府県の産業支援機関が国からの委託を受けて実施。富山県の場合は平成27年10月、当機構に「富山県事業引継ぎ支援センター」を設けて、親族内承継以外の従業員・役員承継やM&A等による第三者承継を支援するように。また平成30年4月には、親族内承継を支援するために「富山県事業承継ネットワーク事務局」を設置して、商工会議所・商工会や金融機関等と連携して、早めの事業承継への取り組みを啓蒙するための活動などを始めた。この2つを統合したのが「富山県事業承継・引継ぎ支援センター」で、ワンストップでの事業承継の支援を図るために、令和3年4月に当機構内に設けられた。

中小企業の経営者年齢の分布(年代別) [図表 上]
中小企業庁「中小企業の成長と投資行動に関する
アンケート調査」(2015年12月)
形態別の事業承継の推移         [図表 下]
『中小企業白書2014』

 事業承継に取り組み始めた当初の、全国的な中小企業の状況について見てみよう。経営者の 年齢のピークは、平成7年(1995年)では47歳だったものが、20年後の平成27年は66歳になった(中小企業庁「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」2015年)。また、平成21年からの5年間で、中小企業の9.3%(約39万社)が純減しているが、廃業した事業者のうち54.6%は後継者難を理由に挙げているという(「中小企業白書」2013年版)。事業所の消滅は、従業員の雇用や技術・ノウハウの喪失にもつながるところから、事業承継が喫緊の課題として浮上してきたわけだ。
 中小企業の事業承継は、かつては7割近くが親族に引き継がれていた。それがこの当時では4割近くまで低下(今日では3割台を推移)。平成19年(2007年)以降は、第三者承継(親族以外の従業員や役員が継承する内部昇格、M&Aなどの合計)が親族内承継を上回るまでになった。白書は「この背景には、少子化や職業選択の多様化により、事業を引き継ぐ意欲を持った後継者を、親族内で確保することが難しくなってきていることがあると考えられる」というが、「事業の将来性を見通せない」ことも理由の1つにあるようだ。

経営者保証は見直す方向に

富山県の中小企業の事業承継準備の状況 [図表 上]
『富山県中小企業事業承継アンケート調査』(平成30年2月)
富山県の中小企業のM&Aへの関心     [図表 下]
『富山県中小企業事業承継アンケート調査』(平成30年2月)

 親族内承継では、現経営者(社長)の子息が後継者になることが多い。その際ネックになるのは、親族内での合意形成が不調に終わったり株式が分散したりしている場合だ。合意形成の不調には、複数の後継者候補が名乗りを上げる場合や、例えば3人兄弟のうちの2人は、もう1人が後継者になることに合意しつつも、「相続に該当する分を現金化して配分してほしい」と主張するケースなどがある。資金に余裕があればそれに応えることも可能だろうが、中小企業ではそうでない場合が多い。
 株式の分散も、時には事業承継の障害になり得る。安定的な会社運営のためには、後継者は2/3程度以上の株式を保有するのがよいと思われるが、親族以外の第三者から多くの出資を受けていると、事業承継時に“ものいう株主”として立ちはだかったり、「私が持っている分の株式を買い取ってほしい」と、これまたお金の問題が噴出する可能性があるのだ。
 高木センター長が語る。
 「私どもの支援センターでは、事業承継の相談を受けた際にこういう問題があった場合は、当事者間で話し合っていただくことを第一とし、場合によっては弁護士や税理士を紹介してスムーズな承継を図っています」
 事業承継の課題には、経営者保証すなわち経営者個人の債務保証もあり、この個人保証があるゆえに事業承継を拒否する例が相当数ある様子。例えば、「平成29年度中小機構アンケート」によると、「後継者候補はいるが承継を拒否されている」と回答された方のうち、59.8%が「個人保証を理由に承継を拒否」しているという。
 本稿の冒頭で佐野政製作所の佐野専務が「経営者保証を外すことで合意していた」というのは、父親であり同社社長の佐野賢治氏が、金融機関からの借り入れに対して行っていた個人保証について、その解除の合意を金融機関から得、後継候補の専務も保証を求められなくなったということだ。
 この制度は国が自主的自律的な準則として「経営者保証に関するガイドライン」を策定し(平成25年12月)、運用しているもの。経営者保証に依存しない融資の促進や事業承継時における経営者保証解除の促進などの基準を示し、令和2年4月からは保証解除を後押しするための「経営者保証コーディネーター」が事業承継ネットワークに配置され、中小企業の事業承継をより強力に支援するようになったところだ。

当支援センターの仲介でM&A実施

富山県事業引継ぎ支援センターの支援実績 [図表 上]
富山県事業承継ネットワーク事務局の支援実績 [図表 下]

 ここで第三者承継の中でも、近年多くなりつつあるM&Aのケースでの事業承継の流れについて概説しよう。現経営者から当支援センターにM&Aによる事業承継の相談があった際は、データベースに登録するとともに買収意欲のある企業情報の収集にあたる。このデータベースは、各都道府県の産業支援機関(当機構のような機関)でも閲覧可能で、つまり全国の事業承継支援センターでM&A情報が共有されることになるわけだ。高木センター長によると「ネットで不動産情報を見るような感覚で、都道府県の枠を超えてM&Aの情報に接することができる」という。また当支援センターでは、石川・福井の事業承継担当部署と年3回の連絡会議を開いて情報交換を行い、有益なM&A情報があった場合は相談企業に提供しているところだ。
 こうした公的なM&A支援の他に、中小企業者の依頼を受けて第三者への事業引継ぎを行う登録民間支援機関(金融機関等)やマッチングコーディネータ、M&A請負会社等に支援を依頼する方法もある。当機構の支援や県外の類似機関からの情報提供の場合は無料であるが、民間の機関を利用する場合は有料だ。契約内容によっては、着手金や成功報酬等が必要になる。
 前身の時代を含めての当支援センターでの相談件数は上のとおりだ。令和2年度までの6年間で558社から相談を受け、合計54件の事業承継をまとめた。中には他県の企業とのM&Aの案件も含まれており、センターの活動が新聞等で報じられたり、DMによるPRで、相談件数は徐々に増えてきた次第だ。
 事業承継のポイントをまとめた後で高木センター長が語った。
 「事業承継は、単に経営者の名義変更のみではなく、取引先との関係やノウハウの継承、後継者の育成なども含みますから、5〜10年かかります。ですから早めの準備が事業承継成功のカギとなります」
 ちなみに事業承継の支援には、事業承継計画策定支援(無料)のほかに、事業承継を円滑に進めるための税制の優遇や専門家活用のための助成金、M&A後の設備投資や販路開拓等の助成などさまざまなメニューがある。それらについては文末に紹介する中小企業基盤整備機構の『中小企業経営者のための事業承継対策』等に詳しくまとめられているが、当支援センターの窓口では相談企業の事情をうかがいながら、事業承継対策を説明し、支援メニューを紹介しているので、関心のある経営者には是非ともお越しいただきたいところだ。

事業承継計画策定支援を通じて方向性を明確に

令和元年には弟の竜也さんも転職して同社に入社。
病が癒えた母親も復職し、同社は社長も含めて6人
体制で運営。

 話を佐野政製作所の事業承継に戻そう。再び語るのは、佐野専務だ。
 「当社の経営者保証については事前に解決していましたし、株式譲渡に関しても出資者は父と母の2名で、私が後継者になることには家族皆が賛成していましたので、特に問題はありませんでした。ただ、距離が近いがゆえに聞きづらい、話しづらいところがあったため、支援センターへの相談をとおしてそういうところも明らかにしていきました。もっとも知りたかったのは、事業承継全般の流れと、何をどのタイミングで行えばよいかです。経営者保証の確認や株式の名義変更についてはなんとなく想像できましたが、各種書類の作成や名義変更にはどのようなものがあり、いつ変更すればよいか。仕入れ先や販売先への対応は、どの時点でどうすればよいか、等々はまったくわからなかったのです。事業承継の支援メニューを説明していただいた時、『事業承継計画策定支援を無料で行っています』とうかがいましたので、課題を整理するよい機会だと思いお願いした次第です」
 支援センターの相談員は、先述の高木センター長のような制度の概要に加え、同社の実情を踏まえた上での支援メニューを紹介するとともに、相談時から3年をメドとする事業承継計画表を策定し、何を、どの時点で行ったらよいかを提案したのだった。
 「この計画表をいただいて、自社ブランドの商品開発とキャラクター等の特注品の受注に力を入れなければいけないと確信し、今後の会社の方向性が定まったように思います」(佐野専務)
 同社では仏具を中心とした従来の主力商品の売り上げ比率は徐々に低下し、キャラクター等の特注品の売上げは半分に迫る勢いだ。それに自社ブランドの「hamon」等が拍車をかける形に。「とやま中小企業チャレンジファンド事業」(令和元年度)の支援を受けてのショールームの開設は、それを加速させるものと期待されたのだった。
 「ショールームは工場とは別棟に構え、令和元年の晩秋から誘客を図りました。ところが年明け早々に新型コロナウイルスが猛威を振るい始め、工場見学や特注品の相談のための来訪者はほとんどなくなり、ショールームは開店休業状態です。コロナ終息後のショールームの再開については、企画を練り直しているところです」(佐野専務)
 若い時から飲食店の経営に携わっていた経験があるゆえか、経営の「山あり谷あり」は十分理解している様子。佐野政製作所の次期社長としての自覚は日に日に高まり、「子どもが3人いますが、『継がせてほしい』といってもらえるような会社にしたい。今は3Kの代表格の金属加工屋ですが、職人として、商品プランナーとして胸を張って働ける職場にするのが私の夢です」と佐野専務は抱負を語り、取材を締めくくった。

○問合せ先:(公財)富山県新世紀産業機構 

        富山県事業承継・引継ぎ支援センター
所 在 地:〒930-0866 富山市高田527 情報ビル2階
TEL 076-444-5625  FAX 076-444-5648
URL : https://www.tonio.or.jp/

作成日  2021/9/3

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