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「とやまヘルスケアコンソーシアム」設立

事業展開活発に向けてキックオフシンポジウム開催

 長寿社会を迎えて健康やスポーツへの関心が高まっている。また、単に平均寿命を延ばすのではなく、生活の質(QOL/Quallity of Life)が高い状態での長生き(健康寿命の延伸)を望む人が多くなった。こうしたニーズに応えようと、ヘルスケアビジネスが盛んになり、新製品やサービスが開発されている。経済産業省によると、2016年のヘルスケア産業の国内市場規模は、約25兆円。これが2025年には33.1兆円にまで拡大すると予測されている。
 本県は、「元気とやま」実現のために県民の健康増進施策を進める一方で、2018年10月に「ヘルスケア産業研究会」を設立。当機構に事務局を置いた。また当機構では、2019年度に「産学官イノベーション推進事業」に新しく「ヘルスケア製品開発推進枠」を設けて、県内企業のヘルスケア製品開発をサポート。(株)オーギャの「歩行訓練用ポータブル足裏荷重分布検出センサセットの開発」、第一編物(株)の「ナノファイバー模擬皮膚材をベースとしたヘルスケア用品の開発」、ライフケア技研(株)の「ウェアラブル型飲酒による酔いの測定機器に関する研究」が採択され、開発が進められている。
 さらに、このような新製品開発を設備的な面から支援しようと、県は富山県産業技術研究開発センター生活工学研究所に、ヘルスケア製品開発棟を増設。人間工学的手法に基づいた製品開発を、より強力にサポートしようというわけだ。
 この間、ヘルスケア産業研究会では、セミナーや勉強会を開催しながら、県内企業のヘルスケアビジネスへの関心を高めるとともに、会員企業の募集も行ってきた。2019年10月の会員数は45社(団体等含む)。活動のさらなるステップアップが期待されるようになり、同年12月には「とやまヘルスケアコンソーシアム」が設立された。また、コンソーシアム設立を機に、ヘルスケアビジネスへの関心をより一層高めようと、キックオフシンポジウムを開催。経済産業省の担当官やヘルスケアビジネスの最前線で活躍する有識者を招き、製品開発や新しいビジネスの成功事例が紹介されるとともに、ヘルスケアビジネスに関心のある県内企業有志との情報交換の場を提供した。
 今号の特集では、シンポジウムの概要をお知らせする。

生涯現役社会の到来が近づく

 最初に、経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課の大谷壮史統括補佐が日本の人口・疾病構造の変化によるヘルスケア産業のニーズの高まり、経済産業省によるヘルスケア産業支援の取組みを概観した。大谷氏は、同省がヘルスケア産業の育成を図る理由として(1)ヘルスケア市場拡大への期待、(2)人々の健康維持による社会全体の生産性向上および労働力の確保、(3)国民の健康寿命延伸による社会保障費等の適正化を挙げた。
 日本の人口構造は急速に変化している。日本の人口構造は1960年代以前、50歳未満が多く、50歳以上は少ない「19世紀型構造」だった。しかし、現在の人口構造は、平均寿命の延伸などにより、50歳以上が半分近くを占める「21世紀型構造」に変化している。ここで留意すべきは、健康保険や年金などの現行の社会保障制度は、1960年代から70年代に設計された制度であることだ。つまり、19世紀型の人口構造を想定して、50歳未満の人間が50歳以上の人間を支える制度になっている。
 ただし、大谷氏は「年齢だけで(社会保障制度を)議論することは適切ではない」と指摘する。何故ならば、高齢者の運動能力や就労意欲も変化しているからだ。文部科学省の調査(2015年)によると、現在の70代前半の高齢者の体力や運動能力は、前回調査(2001年)時点の60代後半と同じ水準だった。また、内閣府による高齢者の日常生活に関する意識調査(2014年)では、60歳以上の回答者の約8割が70歳以降も働くことを希望している。
 この健康寿命の延びにより、定年退職後の高齢者による短時間労働やボランティア等の社会貢献など、第2の社会活動のニーズはこれまで以上に高まっている。このことから経済産業省は、生涯現役を前提とした経済社会システムの再構築が必要だとしている。
 いまや総人口の25%以上は65歳以上であり、2055年には総人口の25%以上が75歳以上と予測されている。大谷氏は「働きたい人が働くことのできる社会が実現すれば、75歳以上の人を社会が支える社会保障に変えることも可能だ」と述べた。

経済産業省によるヘルスケア産業支援策

 健康寿命を延ばし、働きたい人が働く世の中はどのように形成されるか。そのためには、日本の疾病構造を理解し、対策を立てる必要がある。厚生労働省によると、日本では1940年代、死因の中心は結核等の感染症だった。しかし、現在の死因の多くは、がんや心疾患等の生活習慣病に転換している。生活習慣病等に伴う疾患に対応するには、健康づくりなどの1次予防、重症化予防などの2次予防や再発防止等の3次予防が重要とされている。
 そこで、経済産業省では、健康維持のための予防を推進するため、様々な支援策を展開している。1つは健康経営の普及促進だ。健康経営は、企業が従業員の健康状態の改善を図ることで、企業の生産性向上を目指す考え方だ。米大手医療機器メーカーの調査によると、健康経営に関する投資金額の約3倍のリターンがあると言われている。ただし、健康経営は企業義務ではないため、同省は健康経営に取り組む企業を健康経営優良法人に認定するなど、健康経営の普及を図っている。
 また同省は、ヘルスケア事業者、自治体、医療機関や金融機関などの地域の関係者が連携した「地域版次世代ヘルスケア産業協議会(2019年11月末時点で全国45箇所が設置)」の設置を推奨している。同省は、このような地域の協議会が中心となり、地域間で切れ目なく健康サービスを提供できる仕組みの構築を期待している。また、地域の実情に応じたビジネスモデルの確立支援を目的に、事業総額の一定割合を補助する助成制度を用意している。
 このほか、ヘルスケア産業関連のイノベーションを支援するため「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト」を開催。2019年7月には、ヘルスケア関連のワンストップ相談窓口「ヘルスケア・イノベーション・ハブ」を設置した。同窓口には設置から半年で約100件の相談が寄せられている。
 同氏は、高齢社会は、経済が発展すると必然的にたどる道だとし「人々が高齢社会で活力を持って生きていくには、ヘルスケア産業を活かした予後や行動変容が重要だ。その取り組みを経済産業省は引き続き支援する」とした。

ホンダにおける福祉車両事業への取り組み

 次に、㈱本田技術研究所オートモービルセンターの五味哲也主任研究員が福祉車両市場の動向や長寿社会における高齢者向けの自操車開発を展望した。
 高齢者や障害者向けである福祉車両は大別すると、(1)車いす仕様車、(2)移乗補助車、(3)自操車の3つがある。車いす仕様車は、高齢者等が車いすのまま乗り降りできる車だ。移乗補助車は、高齢者等が乗り降りしやすいよう座席が回転・昇降する機能を持つ。
 主に介護者が運転することを想定している前述2種類(以下、介護車両)に対し、自操車は高齢者等自身が運転する車だ。自操車には、下肢機能障害者向けに手動のみで運転が可能な装置(手動運転補助装置)を搭載した車と、上肢機能障害者向けに足の動きのみで運転が可能な装置(足動運転補助装置)を搭載した車の2種類がある。
 福祉車両(自操車除く)の直近5年間の年度間販売台数は、約4万台で推移している。2018年度の種類別販売台数をみると、車いす仕様車は約2万7,000台(販売比率73%)、移乗補助車は約1万台(同27%)だ。また、自操車の販売台数は、約4,000台と推計されている。
 福祉車両事業は、ビジネス面からみるとどうか。五味氏は、本田技研工業㈱(以下、ホンダ)の事例を挙げて解説した。2018年度のホンダの福祉車両年度間総販売台数は、7,845台。種類別では、車いす仕様車は6,634台(同社販売比率84%)、移乗補助車は1,155台(同15%)、自操車は56台(同1%)だ。
 同社福祉車両の主要車種は、軽自動車のN-BOXをベースとしたものだ。年間5,000~6,000台の生産があるという。一般的に、自動車の研究開発は、莫大な投資金額を要する。このため、数千台の販売台数が無いと、利益は出ない。同社が展開する前述車種以外の福祉車両は、いずれも3桁の販売台数に留まっているという。しかし、五味氏は「ホンダは、社会の要請に応え、福祉車両を販売している」と強調した。

高齢ドライバー向けの自動車を開発するには

 現在の福祉車両市場は、介護車両が多くの割合を占めているが、五味氏は「今後は、高齢者が自分で運転することが多くなる」と自操車の需要拡大を予測する。地方に住む高齢者は、自動車を使用しないと生活に支障をきたす実情があるためだ。高齢者の運転免許返納の動きがあるものの、同氏は「健康寿命が延伸するなかで、身体に不都合が生じても運転可能な自操車を用意したい」と意気込む。
 ただし、自操車の研究開発にあたっては、高齢者の現状を正確に認識する必要がありそうだ。内閣府によると、2030年における65歳以上および64歳以下の障害者数(予測値)はそれぞれ約330万人、約100万人と全障害者の約75%は高齢者に該当する。1996年の65歳以上および64歳以下の障害者数(実績値)それぞれ約156万人、約125万人(同約55%)と比べると全障害者における高齢者の割合は増加している。
 要介護・要支援者も増加傾向にある。厚生労働省によると、2020年における介護サービス利用者数(予測値)約600万人に対し、2030年は約760万人、2060年には約880万人となる見通しだ。注目すべきは、要介護者等の増加だけではない。介護に至る主な疾病・症状は、脳血管や関節の疾患、認知症、転倒、骨折や虚弱など多岐にわたる。疾病・症状の多様化に伴い、各症状に対応した、より複雑なカスタマイズを施した自操車が必要となるだろう。
 自操車開発には、高齢ドライバーによる自動車事故の実態把握、運転能力の客観的評価も必要だ。内閣府によると、75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故は、工作物への衝突などの「単独事故」の傾向が最も高い。また、事故原因は「ハンドル、ブレーキやアクセルの誤操作」が最も高い傾向を示している。また、ホンダが高齢ドライバーの視知覚機能(反応の速さや正確さなどの認知・判断パフォーマンス)を調査したところ、60歳以上の高齢ドライバーは、20代と比べて機能低下がみられた。さらに、高齢ドライバーは、パフォーマンスの個人差が大きく、20代と比べ約3倍のバラつきがみられた。
 従来の現役世代向けの自動車開発とは異なり、高齢者向けの自操車開発は、症状・障害の多様化、事故対策や運転能力のバラつきへの対策を念頭に入れる必要があるだろう。五味氏は、高齢者向け自操車開発に必要なこととして、(1)個々の症状や状態に合わせた少量多品種生産のためのサプライチェーン構築、(2)高齢者の運転寿命延伸に向けたハード・ソフトの開発を挙げ、とりわけ、ハード・ソフト開発には分野横断的な技術が必要となるため、企業間連携や産学官連携の推進を期待した。

公費・自費のハイブリッドでサービスを提供

 最後に㈱NTTデータ経営研究所 ライフ・バリュー・クリエイションユニットの大野孝司マネージャーが経済産業省の委託調査により進めた「ヘルスケアサービス参入事例と事業化へのポイント」を解説した。
 大野氏は、ヘルスケアサービスの参入事例として、在宅高齢者向けの介護予防サービスを提供する㈱くまもと健康支援研究所を紹介した。同社は、在宅高齢者向けに半日程度の食事や入浴サービス、生活機能向上トレーニングを提供する「元気が出る学校」と、「学校」サービスの卒業者を対象に、同サービスにお出かけや旅行の付き添いを追加した「元気が出る大学」の2メニューを提供している。サービス利用料は、前者は主に自治体からの委託金で賄われており、後者はサービス利用者の自費で賄われている。
 大野氏は、同社サービスの特徴を(1)介護保険の保険者である市町村は、高齢者が行政サービスに頼ることなく、地域で介護予防を維持できる点、(2)サービスの提供を受ける要支援者・高齢者は、運動などの介護予防サービスの利用のみならず、地域コミュニティへの帰属意識を持つことができる点、とした。同社は現在、九州を中心に40以上の自治体と契約し、サービスを展開している。
 同社の特徴は、サービス内容だけではない。利用者確保や継続のための工夫も行われている。「学校」サービスは、自治体事業として地域包括支援センターから利用者を紹介されるため、営業コストをかけずに利用者を確保できる。また、同サービス利用中に、「大学」サービスの参加者との交流の場を設置。「大学」サービスへの参加モチベーションを向上させている。さらに、「大学」サービス移行後も、修学旅行など高齢者に人気のコンテンツを提供することで、コミュニティ内の交流を活性化させ、サービス利用者の継続率向上を目指している。
 サービスを提供する人材の育成についてはどうか。同社は、介護予防サービスのみならず、保険者向けコンサルティングや施設管理サービスなど、複数の事業を展開している。同社は、事業間で人材のローテーションを行い、人材育成を行っている。同社の人材が複数の事業を経験することで、介護予防サービスや地域コミュニティを多面的に捉えることができ、保険者への提案力向上につながっているようだ。また、同社は少人数でもオペレーションができるよう、ノウハウの構築や情報通信技術(ICT)を活用した環境整備に取り組んでいる。

ヘルスケアサービス事業化のポイントは

 大野氏によると、ヘルスケアサービスのへの参入は、すぐには利益に結び付かないケースが多いという。同氏は、事業構想段階など利益が見込めない苦境を乗り越えるには、「創業者の想いや原体験、企業理念・経営方針との一致が必要だ」と指摘する。また同氏は、このような志に加え、「自社の強みを掛け合わせて事業を創出する必要がある」と述べた。医療・介護民間企業であれば既存の顧客基盤や専門知識、医療等周辺民間企業であればヘルスケア業界や地域のネットワーク、異業種であれば他業界のノウハウが自社の強みといえる。
 事業構想の段階では、大野氏は「誰に向けて価値提供を行い、どこから対価を受け取るか」を意識し、それに応じてサービス利用者やビジネスモデルを設定すべきとした。一般消費者や民間企業、保険者などサービス利用者の性質によって、それぞれ留意する点は異なるという。例えば、一般消費者がヘルスケアサービスに求めるものは、不自由のない暮らしや趣味を楽しむための生活の質(QOL)向上であり、健康はあくまで手段だ。よって、「健康になれる」などの健康を主眼に置いた価値提供ではなく、健康のその先にある価値(楽しい、安心などの情緒的価値やコスト、時間節約などの合理的価値)を訴求することが大切だ。
 大野氏は、前述サービスの内容を踏まえ、対価を受け取るためのビジネスモデルを構築する必要があると説明する。同氏は、ヘルスケアサービスにおけるビジネスモデルに「BtoC」や「BtoBtoC」、保険者を含めた「BtoItoC」を代表例に挙げた。
 サービスの普及拡大段階では、「サービスの質と量をどのように確保するか」がポイントだ。ヘルスケアサービスは、人が人に対してサービスする対人サービス業の比率が高いためだ。同氏は、質の確保対策として、サービスのパッケージ化や人材育成プログラムの開発を挙げた。また、量の確保対策には、各地域でカスタマイズ可能なサービスモデルを確立してパートナーを募集することやヘルスケアサービスに関連した資格制度を創設し、一般に訴求する方法を挙げた。同氏は、ヘルスケア事業展開には「実施体制の構築や事業専従者の設置などの事業推進体制の整備が不可欠だ」とし、長期的な視点を持ち、腰を据えて事業に取組む重要性を示唆した。
 講演の最後に大野氏は、民間企業、自治体、NPO法人などが個別に事業に取り組むのではなく、「高齢社会を共通のアジェンダと認識すること」と警鐘を鳴らす。同氏は、立場の異なる部門が共通のゴールに向けて、互いの強みを発揮することで社会課題を解決する手段(コレクティブ・インパクト)を紹介。また、これを踏まえて自治体が取り組むべきことは、コレクティブ・インパクトのための環境整備だとした。

問合せ先  (公財)富山県新世紀産業機構 イノベーション推進センター
所 在 地 〒933-0981 高岡市二上町150

       富山県産業技術研究開発センター 技術開発館2F
TEL 0766-24-7112  FAX 0766-24-7122
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作成日  2020/03/19

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