TOP > 特集 > コロナ対策「再起支援」で1,000者余りを支援。
富山県内で、新型コロナウイルスの感染者が出始めたのは、昨年3月末のことだ。報道によりその情報が県内に伝わると、自粛ムードが一気に拡散。富山市内ではいち早く飲食店や娯楽施設で客足が遠のいた。
一方で年の初めからは、感染対策によって中国国内の製造ラインが停止の状態となり、日本の製造業や建築関係では部品・部材の調達が間に合わず、予定どおりの生産活動ができない状況も現れ始めていた。経済活動の減速は、短期間に、そこかしこに見られるようになったわけだ。
そうした中、当機構では富山県内の中小企業者や小規模事業者(個人事業主、フリーランス含む)が、経営力を取り戻し、反転攻勢につなげるため、販路開拓・売上向上、感染症対策の強化など、迅速な再起に取組む事業者を支援しようと、「富山県地域企業再起支援事業費補助金」事業を急ぎ実施。その第1弾の募集を、富山県の緊急事態宣言が解除されてから2週間後の令和2年5月27日から行い、事業活動再開のための支援に乗り出したのだ。
[写真上]カフェ「ほんごうの木珈琲 ピエロ」を運営する
(株)Li Starの西田隆宏社長と同店の外観[写真下]。
新型コロナウイルスによる売上減の対策として、
店舗前の広い駐車場をドライブスルー形式の販売所と
して活用する。
「富山県地域企業再起支援事業費補助金」の概要を紹介しよう。この補助金は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、売上が減少した県内の中小企業者等を支援しようというもの。補助対象事業の区分としては「販路開拓・売上向上」「新商品開発」「環境改善」「働き方改革・人材育成」の枠が設けられた。そして7月1日から始まった第2弾の募集では「デジタル革命推進」枠が追加。非接触型ビジネスの展開やシステム開発、ビッグデータ活用、AR・VR活用のほか、「働き方改革・人材育成」枠からテレワークやweb会議システム普及を「デジタル革命推進」枠に移し、その一層の進展に拍車をかけようとしたのであった。
第1弾の募集では334者、第2弾では744者(従来枠582者、デジタル枠162者)の再起プランが採択され、延べ1,000者を超える事業所の「アフターコロナ」対策が実行に移されたのだ。直近のTONIO Newsの取材では、「未来を創るアントレプレナーたちの挑戦」のtototo(トトト)、「中小企業ルネッサンス」のヴィレッジ・セラーズ(株)もその採択を受け、前者は販路拡大のためSNSでの情報発信システムをつくり、後者は自社商品販売のためECサイトの開設に取り組んだのだった。
ここに取り上げる「ほんごうの木珈琲 ピエロ」もその1者だ。同店は商業施設のリノベーションを主な業務とする(株)Li Starが運営するカフェで、一昨年秋(つまり新型コロナウイルスが流行する前年の秋)にオープンしたのだった。
オーナーの西田隆宏社長が振り返る。
「店舗のリノベーションを手掛ける当社がなぜカフェの運営に乗り出したのか。それは、実際に自分たちでリノベーションしたお店が流行っているところを店舗のオーナー様にご覧いただき、私たちのプランに説得力をもたせたかったからです。そのためには、消費者の皆様の動向をとらえ、どのような方々をお客様として想定し、どのようなサービスをご提供するかなどのプランを綿密に立て、それをお店のコンセプトに落とし込んでいくことが必要になります。ピエロはその手始めに取り組んだカフェでした」
ピエロは、若い女性や子育て中のママさんたちの憩いの場として営業を始めると、ターゲットとした女性たちの人気を博し、予約制を取り入れることに。富山県内で新型コロナウイルスの感染者が出る前までは、1日3回転(1回転あたり40~50人)の利用者に恵まれ、時には結婚式の2次会などの各種パーティーにも利用され、1カ月あたりの利用客は5,000人を優に超えていたという。
「ピエロ」がテイクアウトマルシェで販売したメニューの
一例(トマト煮込みハンバーグBOX)[写真上]と
テイクアウトマルシェでのドライブスルー形式の
販売の様子[写真下]。
それが新型コロナウイルス感染症の急襲を受けて、カフェの様子は一変したのだ。
「首都圏で緊急事態宣言が発令され、富山でも自粛ムードが少しずつ現れていました。それでも昨年3月下旬頃までは、1日2回転を超えるお客様に恵まれていました。ところが3月30日に県内で最初の感染者が出ると、翌日からキャンセルの電話が入り始め、4月2日の来店者はゼロ。その後も開店休業のような状況が続き、4月の売上は通常月の95%減でした」
西田社長は、昨年3月末から4月初めの県内のコロナ関連の出来事を日毎に、正確に覚えていた。それほど店舗運営では衝撃的な出来事が続いたのだ。「4月2日の来店者ゼロの日には、『誰か間違って休業の看板を出しているのではないか。念のため確認して』とカフェの従業員に道路際のサインの確認に行かせた」ほどだったという。
そして4月7日、親しい飲食店経営者3人(西田社長含む)が集まって、今後の展望について協議。「このままでは店が潰れる」と意見が一致して、テイクアウトを実施することに。「テイクアウトマルシェ」と銘打って、同店前の駐車場を利用して、ドライブスルー形式によりあらかじめ用意した各お店の料理を販売することにしたのだ。
販売開始は6日後の4月13日。1週間もない準備期間の間に、容器の準備、容器に合わせてのメニューのアレンジ、メニューチラシの作成、SNSを通じての従来の利用客への告知などを、カフェのスタッフと分担して行ったのであった。
「最初は3店舗で企画したテイクアウトマルシェでしたが、そのうちに『うちの店も参加させて欲しい』と仲間が集まって後には9店になりました。また他の地域でも『テイクアウトマルシェをやりたい』と名乗りを上げ、私たちのやり方を見学に来られる人々が増え、本家本元の私たちは『テイクアウトマルシェ富山』と名乗り、富山市内の他地域の方々は、富山の後に地元の町名を入れたり、別な自治体では市の名前を替わりに入れたりされました」(西田社長)
テイクアウトマルシェ富山では、各店50~100食分の料理を用意して、平日の午前11時に開店。ピエロ前の駐車場を利用してドライブスルー形式での料理の販売を試みたのだ。その取り組みが全国に報道されると、各地から視察が相次ぐように。中には西田社長にアポイントをとってテイクアウトマルシェの運営方法を聞き出し、それぞれの県に持ち帰って、ご当地テイクアウトマルシェの運営に乗り出したところが全国に9カ所あるという。
[写真上]テイクアウトマルシェ用に同店が作成した
チラシとポスター[写真下]。いずれも「富山県地域企業
再起支援事業費補助金」の支援を受けて作成された。
西田社長らは6月下旬に入ると、今度は「夕方テイクアウトマルシェ」を企画。月曜日から土曜日の夕方(16時〜18時30分)、「おうちでお店ごはん」のコンセプトのもとで夕食の1品を販売し、合わせて金曜日、土曜日の夜(16時~20時30分)には、駐車場に座席を設けて「ビアガーデンマルシェ」も開催するようになったのだ。
「これらテイクアウトマルシェの取組みは、昨年12月の初めまで、時々休みを入れながら続けました。お客様方には助けていただいて感謝の言葉しかありません。通常の営業に比べたら売上は大幅にダウンしましたが、カフェスタッフの雇用はなんとか守ることができました」
西田社長は波乱に富んだ令和2年を振り返るが、同店ではテイクアウトに取組み始めた初期に、「富山県地域企業再起支援事業費補助金」への申請を実施。その採択を受けてテイクアウトマルシェでの料理の告知用のチラシやポスターを作成するとともに、感染対策の資材を購入するなどし、安心・安全な販売環境の下での事業の進展を図ったのだ。
「令和3年に入って感染状況が落ち着き、3月には2回転弱までお客様は戻りつつありました。ところが4月に入って感染が拡大傾向にあり、5月末の今も予断を許さない状況にあります。富山県内でも感染者がさらに増えると、今年も何か対策を打たなければ・・・」
西田社長は感染状況を鑑みながら、次の一手を模索している様子。消費者ニーズを掘り下げて必要とされるサービスを提供しようとするその姿勢には、商売人としての矜持(きょうじ)が感じられ、今後ピエロがどのような対策を講じるのか、楽しみなところだ。
さて、令和3年度が始まった。コロナ禍の爪跡はまだ残っている。ワクチン接種が始まる一方で、5月中旬には緊急事態宣言が全国の10都道府県に拡大。蔓延防止等重点措置も8県(5/27現在)で実施されるなど予断を許さない状況になってきた。
こうした状況に鑑み、当機構では本年度、「富山県中小企業リバイバル補助金」事業を実施。新型コロナウイルスの影響を受け、売上が減少した富山県内に主たる事業所を置く中小企業者、小規模企業者(フリーランスやNPO法人、医療法人含む)を対象に、コロナ後を見据えての事業の再建や成長発展を図るために、販路開拓や感染症対策の他、企業間連携や業態転換による新ビジネス創出などに意欲的に取組む事業者を支援していく。
その第一次募集では1,000を上回る企業からの応募があり、順次、採択企業の発表がなされ、6月中旬からは第2次募集が始まる。このリバイバル補助金は、昨年度の「富山県地域企業再起支援事業費補助金」に採択された企業も申請することが可能で、多くの事業者の利用を呼びかけている。
○ 問合せ先
(公財)富山県新世紀産業機構 中小企業支援センター
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作成日 2021/05/31