若い研究者を育てる会30周年記念講演会  TONIO Web情報マガジン 富山

TOP > 特集 > 若い研究者を育てる会30周年記念講演会

TONIO主催のイベント等の概要をご紹介。TONIOの視点は、ビジネスのトレンドをうかがい知る羅針盤。

若い研究者を育てる会30周年記念講演会

「JAXAにおける宇宙開発と研究」
宇宙航空研究開発機構(JAXA)研究開発部門第二研究ユニット 島 明日香氏

若い研究者を育てる会は、富山県内企業の若手研究者と大学・富山県工業技術センターとの共同研究を通じ、現場で即戦力となる企業技術者の育成とリカレント教育、そして企業の枠を超えた技術者同士の連携の輪を広げることを目的として活動を続け、本年度創立から30年を迎えました。これを記念し、JAXAで活躍する富山県出身の若手研究者を招き宇宙開発について講演いただくとともに、「若研30年を振り返って」と題して、若研の誕生のいきさつから共同研究の事例などが紹介されました。

JAXAにおける宇宙開発と研究

宇宙航空研究開発機構(JAXA)研究開発部門第二研究ユニット
島 明日香氏(富山県小矢部市出身)

 このたびは若い研究者を育てる会30周年おめでとうございます。このような機会をいただき光栄です。本日はJAXA(Japan Aerospace Exploration Agency)の研究活動の一端をご紹介いたします。
 お話に入る前に、宇宙について少しご紹介いたします。宇宙といいますと、一般的には地球を含む空間の全てを指します。しかしJAXAをはじめ各国の航空宇宙開発関係の機関で使用される「宇宙」は、地上から高度100kmより上空を指しています。上空100kmというと遠く感じますが、地上での100kmは遠くありません。富山市のこの会場を基準に考えると、福井県の福井市は100km圏には入りません。長野県の長野市も入りません。新潟県では上越市までです。こう見ると、宇宙って意外と近いということをご理解いただけると思います。ちなみに国際宇宙ステーションの飛行高度は約400km。地上での400kmには日本列島の全ては入りません。
 では本論に入ります。まずアウトラインですが、最初にJAXAおよびJAXAでの研究開発の概要について説明をさせていただきます。次に有人宇宙活動、国際宇宙ステーションの利用について触れ、最後に私の研究分野である将来の有人探査に向けた空気再生技術について紹介します。
 JAXAは正式には国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構といいます。この組織は宇宙航空分野の基礎研究から開発、利用に至るまでを一貫して実践する機関として、別々に研究開発を行っていた3機関を統合して平成15年に設立されました。27年には独立行政法人から国立研究開発法人に移行しています。主な事業所は、本社であり私も在籍している調布航空宇宙センターや筑波宇宙センター、相模原キャンパスなどがあります。その他、ロケット発射場、実験場、観測所、通信所など日本各地に施設を持っています。職員は約1500人。予算は平成25年度で1541億円です。職員数も予算も、NASA(National Aeronautics and Space Administration/アメリカ航空宇宙局)の1/10程度の規模です。
 JAXAは日本政府の下に設立されておりますので、その活動指針は日本が目指す航空宇宙開発ビジョンに基づいて設定されます。現在は、国の安全保障に役立てる、航空宇宙開発を産業の活性化に結びつける、そしてフロンティアへ挑戦する、これらのビジョンが総合的に動いています。具体的な活動としては、実用衛星の開発、月・惑星探査、有人宇宙活動等、これらに関連する研究開発です。もちろん飛行機に関する研究開発も進めていますが、本日は主に宇宙開発について話を進めさせていただきます。

ペンシルロケットから自前でロケットを打ち上げるまで

「はやぶさ2」/H-IIAロケット26号機打ち上げ(画像提供:JAXA)

 日本で初めてロケットの研究がされたのは、1954年の、糸川英夫先生のペンシルロケットでした。その後、アメリカからロケットを購入するなどして研究を進め、今では国産化したロケットを打ち上げています。現在は新型基幹ロケットの開発を進めていて、2020年の打ち上げを目標にしています。
 ロケットがどのように製造・運用されるのか、H-IIAを例にご紹介いたします。製造は、三菱重工業の愛知県の工場で行われ、種子島で発射されます。大きなコンテナに入れて愛知県から船で種子島まで搬送し、種子島ではトラックで陸送します。コンテナは大きいので、深夜、種子島の公道を交通規制し宇宙センターに搬入しています。
 現在運用しているロケットはH-IIA、H-IIB、Epsilon(イプシロン)の3種です。全てのロケットで、現在のところ96.6%以上と非常に高い発射成功率を維持しています。なお、イプシロンは、鹿児島県の内之浦から打ち上げられています。
 ロケットで打ち上げられているのは衛星です。衛星には2種類あり、1つは実用人工衛星です。これは安全保障や災害対策のためのものです。皆さんご存じの気象観測衛星「ひまわり」もその1つ。他には例えば「だいち」があります。「だいち」は、地球の陸地を観測するための衛星です。「だいち」によって撮られた画像により、2008年東北で起きた地震の前後でどのように地形が変わったのかが判明しました。また最近は気候変動が激しく、局地的に大雨が降るようになっています。そこで、どのように雨が降っているかなど、地球環境の変動を長期的に観測するための衛星をアメリカと共同開発して、地上の降水量、水蒸気量などの観測を行っています。
 衛星のもう1種類は探査衛星です。科学衛星と呼ばれることもあり、月や惑星の探査など、フロンティアとして宇宙のナゾに挑戦するという学術目的を持つ衛星です。例えば2010年に打ち上げて、一度は軌道投入に失敗しましたが、その後の再挑戦で周回軌道に投入された金星探査機「あかつき」。「あかつき」は現在、金星の観測を進めています。「はやぶさ2」も現在飛行中で、有機物や水が多い小惑星からのサンプルどりを目標にしています。このサンプルによって、太陽系と生命誕生の秘密に迫ろうと考えています。将来打ち上げを予定しているプロジェクトには、BepiColombo(ベピ・コロンボ)計画という水星探査プロジェクトがあります。水星は太陽に近すぎて環境が厳しいため、これまで探査が進んでいませんでしたが、欧州宇宙機関(ESA)と共同で進めているこの計画は、水星磁気圏探査機(MMO)と水星表面探査機(MPO)の2機の探査機によって、水星を総合的に調査することを目標としています。
 このように様々な人工衛星をどのように開発しているかといいますと、まずはミッションの設定とそのミッションを実現するための宇宙機の設計から始めています。ここで念頭に入れておかなければいけないことが2つあります。1つ目は、衛星が宇宙で壊れたら修理ができないということ。2つ目は、衛星が宇宙に行くまで宇宙環境下での試験ができないということです。さらに宇宙特有の問題として宇宙環境やリソースの制約があります。打ち上げられる衛星のサイズや重量はロケットの打ち上げ能力に依存しますので、そこには上限があるのです。また、これは後ほど説明しますが、近年はデブリ(宇宙ゴミ)問題も起きています。これら全てをクリアした衛星を設計し、製造しなければいけません。衛星開発は、様々な技術要素を含む、いわば総合工学なのです。
 例えば衛星の製造にあたっては、空気の清浄度が管理されたクリーンルームで作業をしています。ホコリや小さなゴミも衛星の中に入り込まないように気をつけています。月周回衛星「かぐや」では、大きな真空チャンバーに衛星を丸ごと入れて、熱に対する耐性試験を行いました。この試験装置は筑波にあります。このほか、振動試験や衝撃試験など様々な試験を行って衛星の機能を確認しています。

開発が盛んになって出てきたデブリ問題

陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)
/H-IIAロケット24号機VOS内作業の様子
(画像提供:JAXA)

 続いてJAXAの技術開発例を紹介します。まずは衛星推進系。これはエンジンの話です。衛星のエンジンには2種類あり、1つは軌道を変えるための推進系。ロケットを所定の軌道に到着させたり、軌道を維持させたりする役目を持っています。もう1つは姿勢を変える推進系です。衛星の姿勢を制御するステアリングの役目を持ちます。これはとても小さく、例えばスプレーからガスをシューッと出すと反作用の力が出ますが、その反作用で姿勢を制御しているイメージです。JAXAでは、ロケットを打ち上げる非常に大きなものから15cm程度の小さなものまで、用途に合わせて推進系を開発しています。
 地球観測衛星「だいち」の後継機、「だいち2号」に搭載された新しい技術について紹介しましょう。それ以前の衛星は、地上でその位置を観測し、軌道修正などの作業も地上で行っていました。しかし「だいち2号」は自律的軌道制御システムを搭載していて、今まで地上で行っていた作業を衛星が行い、自律的に軌道修正できるようになっています。
 宇宙飛行士の活躍、国際協力についてもお話しします。フロンティアとしての宇宙へ有人活動を通した挑戦、これは国際協力の下で展開しています。JAXAでは宇宙飛行士の選抜や訓練、宇宙医学・健康管理などを行っています。宇宙ステーションに荷物を運ぶ「こうのとり(HTV)」の開発・運用も行っています。
 JAXAは研究開発機構でありますので、ロケット・衛星の開発にとどまらず、航空宇宙に関わる基礎研究から実用化までの様々な研究を行っています。飛行機に関して一部紹介しますと、ソニックブーム低減に向けた研究、エンジンの開発、複合材(炭素繊維強化プラスチック)の研究などを行っています。宇宙に関してはこの後で詳しく説明しますが、宇宙ゴミの研究などを行い、これらによって将来のプロジェクトを支えたり、プロジェクトを導いたりすることで人々の役に立てる成果を上げようとしています。
 では宇宙ゴミ、すなわちスペースデブリの研究について紹介します。まずはスペースデブリとは何か、です。これは軌道上にある不要な人工物体の総称です。宇宙のゴミにも種類がたくさんあります。大きいものでは、使用済みあるいは故障した人工衛星やロケットの上段などがあります。衛星を打ち上げた際、その途中で放出した部品やレンズキャップ、クランプバンドなどもあります。さらにはそういうゴミ類がぶつかってできた、あるいは爆発してできた破片もあります。その他、固体ロケットモーターの燃えカスや塗料片など、実に様々なものがゴミとして浮いています。

増え続けるデブリの除去法は?

 宇宙空間に、人類が飛ばしたもので浮いているものが2種類あります。1つはカタログ物体です。これは直径10cm以上で、地上から位置の特定ができます。地上から追跡して、その軌道が公開されているのでカタログ物体といいます。その数は約1万8000個。このうち実際に、「だいち2号」や「ひまわり8号」など運用されている衛星は約1400機です。残りは全てデブリです。
 さらにカタログ化されていない物体、これは直径10cm以下で全てデブリですが、1cm以上のものは50万~70万個、1mm以上ですと1億個以上あるといわれております。この大きさのものは地上から観測できないので数は推定です。でも非常に多いことはご理解いただけると思います。
 デブリの地球周回速度は、高度400km~1000kmですと秒速7km~8kmで飛行しています。この軌道は全てバラバラです。これが何かの拍子でぶつかった場合、相対速度は約10~15km/秒です。ピストルの弾丸は1秒あたり数百mですから、デブリの速度は非常に速いと言えます。正面衝突した場合は、大変危険です。1mm以下のものが衛星に衝突した場合は、何らかの故障を起こします。1cm以上のデブリが衛星に衝突すると、最悪の場合はミッション終了になることもあります。10cm以上のカタログ物体同士がぶつかると、さらに小さいデブリが多数発生します。運用している衛星に関しては、カタログ物体が近づいてきた場合は、衛星を動かして衝突を回避しています。
 10cm以上のカタログ物体は、宇宙空間に均一に広がっているわけではありません。地球からの高度により、密度の濃いところ・薄いところがあります。これは衛星の打ち上げや運用に使う軌道が、大体決まっていることによります。まず、地上観測衛星などが使う高度700km~1000kmくらいのところが混雑していて、その上はしばらく空いています。次にGPS等の衛星が飛行する高度1万8000kmあたりがまた混雑しています。その外はまたほとんどなく、今度は高度3万5000kmあたりで混み合います。ここは各国の気象衛星や通信衛星などが多数ある静止軌道です。静止軌道では現在のところは低軌道ほど深刻なデブリ問題はないのですが、将来的には除去の必要があるのではないかと考えられています。
 微小のデブリは衝突回避ができませんので、直接的なリスクがあります。しかし、その除去は非常に効率が悪いことが知られています。微小デブリは、宇宙空間全体的に広がっています。この微小デブリを除去しても、10cm以上の大型デブリ同士が衝突すると大量の微小デブリが発生しますので、結局のところデブリは増加していくのです。仮に将来、運用が終わった衛星を軌道の外へはずしていく、あるいは衛星を地球に落下させてデブリにならないようにしても、今浮遊しているデブリ問題を解決しないと、ゴミは増え続けていくばかりなのです。
 そこで、JAXAは現在、大型デブリの除去を通して微小デブリの大量発生防止を考えています。その方策は、小型衛星による大型デブリの除去で、小型衛星から大型デブリに取り付けたテザー(ひものこと)を通電させ、それと地球の重力とで発生するエネルギーによって、大型デブリの飛行にブレーキをかけようというものです。この実証試験は、今年打ち上げ予定の宇宙ステーション補給機「こうのとり」6号機(HTV6)で実施予定です。

厳しい宇宙環境で活動するには……

スペースシャトル「アトランティス号」から撮影されたISS
/撮影日2010.5.24(画像提供:JAXA/NASA)

 次は有人宇宙活動について。有人活動を行う宇宙環境はどのようなところかといいますと、高真空、さらには無重量すなわち微小重力環境で、このあたりはよく知られています。宇宙ステーションが飛行する付近の気圧は10のマイナス5乗パスカル(10-5Pa)です。原子状の酸素が飛んでいて非常に危険です。そして微小重力。重力はゼロではなく、地上の1/100万~1/1万程度です。その程度ですので、物質の重量は消失します。すなわち浮力も、対流も、静水圧も、沈降もない。このように非常に特殊な環境になります。
 さらには高温で極低温。太陽光が当たれば100度以上の高温にさらされますが、日陰ではマイナス100度以下になります。つまり温度差200度以上の環境におかれます。宇宙ステーションは90分で地球を1周しますので、この高温/極低温を1日に何度も繰り返していることになります。加えて、宇宙放射線も大きな問題です。地上では、大気があるために宇宙から降り注ぐ銀河宇宙線、太陽粒子線、ヴァン・アレン帯の粒子線、それらが物質に衝突してできる二次粒子線など様々な宇宙放射線はほとんどが除去されていますが、宇宙ステーションではそれらがすべて降り注いでいます。このようなところで人間が生きていくためには、宇宙環境に耐えられる仕組み、すなわち生命維持技術が必要になります。
 こんな宇宙環境の中で、宇宙ステーションの内部はどのような環境なのか。ISS(International Space Station/国際宇宙ステーション)の業務従事者に聞いたところ、アポロの時代から比べると今日の宇宙ステーションの環境はだいぶ変わってきているそうです。まずは圧力のコントロール。宇宙船に乗っている時は宇宙服を着ていますが、ISS内では宇宙服は着ていません。これはステーション内が1気圧に与圧されていて、窒素80%、酸素20%の成分でコントロールされているからです。
 ISS内はこのようなガス環境ですが、例えばHTVをつないだ時、船外活動をした宇宙飛行士が船内に戻ってくる時、あるいは出て行く時など様々なシチュエーションで少しずつガスは漏れていきますので、宇宙船が接続した際には、ガスを補充して気圧と成分を一定に保っています。温度コントロールもしています。ステーションの外側は、先ほどもいいましたように太陽光の下で100度以上、日陰でマイナス100度以下ですが、宇宙服の中も含めて船内は18.3度~26.7度に調整されています。さらに相対湿度は25%から75%に調整されています。
 温度、圧力、空気、湿度に加えてコントロールしているものがあります。まずは衛生環境のコントロールです。風がありませんのでエアコンで船内空気を循環させて、人体や装置から出る有害ガス濃度を制御したり、そのガスを除去したりしています。人体からはいろいろなものが出ます。以前、NASAが分析したところによると、宇宙飛行士およびステーションにある装置から出てくる微量有害ガスは、実に200種以上あることがわかっています。その有害ガスの成分ごとに、人体に悪影響が出ない濃度条件を設定し、有害ガスをコントロールしているのです。例えば二酸化炭素では、4000ppmがISSの上限値です。ちなみに最近の地球は二酸化炭素濃度が上がっているといわれますが、だいたい400ppmです。宇宙服では約1%を上限にコントロールされています。宇宙船中は、そんなにきれいではないともいえます(笑)。さらには浮遊するホコリや微生物なども除去しています。

アメリカ・ロシアが先行する生命維持装置の開発


静電浮遊炉(ELF)のサンプルカートリッジを交換する大西宇宙飛行士
(画像提供:JAXA/NASA)

 こうしてISSでは空気や水の成分など、様々な衛生環境をモニタリングしてその維持に努めています。それでも宇宙ステーション内ではカビが生えたりするそうです。
 宇宙飛行士の体調のコントロールも重要なことです。たとえば、重力がありませんので筋肉の減少や骨からのカルシウムの流失が認められ、その対策がとられています。これは地球における予防医学の観点からも注目され、研究が進められています。
 これら環境のコントロールがどのようになされているかといいますと、現在はほとんどアメリカ・ロシアの装置によって行われています。日本が打ち上げた実験モジュール「きぼう」には、どのような生命維持装置を自前でつけたかといいますと、吸気口、温湿度調整器、ファン、バルブなどです。要はエアコンやファンの一部がついているだけで、有害ガスや二酸化炭素を除いたり、圧力を調整したりする生命維持技術はアメリカとロシアに頼っているのが現実です。そこでJAXAでは、現在の「きぼう」の活用や補給機「こうのとり」の運用に加えて、将来は環境や生命維持技術で国際貢献できないかと考え、研究開発を進めています。これについては、後ほど研究紹介のところでご説明いたします。
 「きぼう」で行われている微小重力実験は、現在の国際貢献の1つです。例えば、微小重力下では地上とは異なる結晶成長が見られます。過去の実験では、地上では観察できない、完全に滞留が抑制された状態での氷の結晶成長過程の観察が実施されました。また非常に高品質な結晶が得られることから、宇宙で得られたタンパク質結晶を用いて構造解析を行い、これまで解析されていなかった分子構造を解明し、それを創薬に結びつけようという研究も行われています。また「きぼう」では小動物すなわちマウスの飼育実験を行っています。宇宙では骨量の減少や筋萎縮などが観測されて久しいのですが、微小重量下で小動物を飼育することでその発生現象を解明し、骨粗鬆症や高齢化にともなう病気の予防などに生かしたいと考えています。
 静電浮遊炉実験という実験も行っています。地上ではものの加工・分析の際には対象を容器に入れて行いますが、宇宙では重力がありませんので空中に浮かせて加工することができます。これにより容器や装置など、外側から不純物が混ざらない超高純度な物質をつくることができます。さらには分析には、例えば加熱して分析する場合は、容器も高温に耐えられなければいけないのですが、宇宙では容器による制約がなくなりますので、3000度や5000度の非常に高い融点の材料に関しても、溶融状態の熱物性を高精度に測定することができます。これにより材料生成プロセスの改良や新機能材料の創出に貢献できると期待されています。

非再生・使い捨て型では長期有人活動は難しい

 さらにJAXAでは、「きぼう」の船外利用の多様化、多頻度化、民間利用の拡大にも取り組んでいます。例えばISSに50kgくらいの小さな衛星を持ち込んで、それを放出したりしています。これにより衛星はつくることができても、打ち上げることができない国や企業などに使用していただくことが可能で、国際的な協力の下、この機会の拡大を現在考えているところです。
 ここまで、ISSの特殊な環境とそれを活かした「きぼう」での取り組みをご紹介してきましたが、ISSにはもう1つ大きな特徴があります。それは現時点では、生命維持に必要な物資のほとんどは地球から補給しているということです。人間は普通に生活しているだけで、1日に約800gの酸素を必要とし、ほぼ等モル量の二酸化炭素を排出します。水は飲料や食事に含まれたりしますが、だいたい2.5kgくらい必要です。食事では1日に約1.1kg消費します。生命維持に必要な物資はトータルで1日に4.4kgくらい。現在はそのほとんどが地上から補給されています。
 地上からの補給船で、生命維持に必要な物資を運搬・補給しているということは、今のシステムで将来、長期有人宇宙活動を行うには限界があるということです。その限界を解決するための1つの方策として、私も加わって進めている、将来の長期有人宇宙活動に向けた空気再生技術の研究があります。少し専門的になりますがこれから、この空気再生技術について説明します。
 先ほど、宇宙での活動では生命維持のため1人1日約4.4kgの物資が必要だと申し上げました。一方、将来の有人探査では、火星探査が考えられています。火星まで行って帰るだけで約1000日かかります。単純に1人1日4kgとして1000日で4000kg。その人数分と、途中で何かあった際の予備を含めて……と考えると、ものすごい量の物資を持っていかなければなりません。これでは、今日のシステム、つまり非再生・使い捨て型は火星探査のような長期有人宇宙活動には向かないことが明らかです。そこで物資の再利用・循環が求められるのです。
 この循環は多岐にわたります。例えば水の供給には水処理が必要になります。それに絡んで食物の供給があり、それぞれにエネルギーが必要になります。空気の循環も考えなければなりません。私の所属する研究グループでは現在、この空気再生について特に注目して研究しています。先ほども申し上げましたが、現在はステーション内の二酸化炭素濃度は4000ppmに保っていて、それを超える分の人が出した二酸化炭素は除去しています。その一方で、地球から持っていった水を電気分解し、その結果出る酸素をクルーに供給しています。その際一緒に出る水素は捨てています。このシステムですと連続的な二酸化炭素および水素の廃棄と、地上からの水の補給が不可欠になり、遠くなればなるほど輸送する水の重量は増えて、コストは高くなります。

廃棄していた二酸化炭素と水素を利用して……

キューポラ(観測窓)から撮影された富山湾、富山市(富山県)
(画像提供:JAXA/NASA)

 ではこれを循環させるにはどうするのか。われわれは、二酸化炭素の除去と、水を電解して酸素を供給するところは同じですが、除去した二酸化炭素と水電解により副生した水素から水を再生し、地上からの水の補給を低減しようと考えています。ここにも様々な技術課題があることから、JAXAでは次世代の循環型空気再生システム確立を目指して、基礎研究から技術の高度化研究までを実施しております。
 二酸化炭素と水素から水をつくる反応にはいくつかあります。JAXAを含む各国研究機関で現在実用化を検討しているのは、サバチエ反応です。これは触媒存在下、二酸化炭素に4倍の水素を作用させることでメタンと水をつくる方法で、他の反応に比べると350度と比較的低い温度で反応が進行します。ただ、まだ様々な技術課題があり、私たちは4つの目標を掲げて研究開発を始めています。その4つとは、(1)反応温度を下げられる新しい触媒の探索、(2)触媒の量産化と既存技術に対する優位性の証明、(3)より実用に即した反応器の設計と触媒技術の高度化、(4)既存技術に対しシステム全体での省エネ化、小型軽量化です。 (1)の反応温度を下げられる新しい触媒の探索に関しては、私たちの研究とは別個に、2009年、富山大学の製作した新しい触媒が、従来反応温度に300度以上必要なサバチエ反応を、160度という著しい低温下でも高効率で進行させることが報告されました。もちろんこれは研究室レベルの、希釈条件下の小規模な実験ですが、著しく反応の低温化を実現できたところから、われわれはこの触媒を採用、富山大学との共同研究の下で、この新しい触媒の有人宇宙技術としての実用化検討を開始しました。
 次の目標は(2)触媒の量産化と既存技術に対する優位性の証明です。(1)で見出した触媒の性能は、あくまでも論文スケールです。論文では、10%二酸化炭素ガス約10ml/minに対して水素を流す実験で、160度でほぼ定量的に反応しています。一方で、例えば昨年公開されたSF映画「オデッセイ」で考えると、火星に6人で行くためには、100%二酸化炭素ガスを24時間運転で1分間に2リットル以上処理する必要があります。これは、論文のスケールや条件とはかなりかけ離れており、触媒をこのまま実用化するのは現実的ではありません。
 そこでJAXAでは、4つのポイントから研究を進めました。そのポイントは、①この触媒を量産できるか、②希釈しない二酸化炭素中でも期待する反応が得られるか、③量産触媒の性能を上げる触媒調製条件は何か、④宇宙利用を企図した二次成形をしても性能は維持できるか、の4つです。④はどういうことかといいますと、論文の触媒もメーカーと試みた量産化の触媒も粉末ですが、粉末の触媒は反応層で大きな流体抵抗を生じさせるためにガスが通りにくくなり、これが宇宙ではシステム負担になることが懸念されます。また微小重力下の宇宙では、粉末の取扱いは非常に困難です。地上では、粉をこぼした場合は下に落ちます。落ちてもかき集めて掃除機で吸ったりすることもできますが、微小重力下では粉末は落ちません。そのまま空間を漂って、バルブや装置の隙間に入って不具合を起こすことが考えられます。従って粉末でのISS持ち込みは非常に危険です。そこで、こうしたデメリットを解消するために、無機物の三次元網目状構造体への固定化、ここでは二次成形といいますが、二次成形して触媒を使うことを考えています。

誰もが行ける宇宙を目指して

 研究は実際に大型装置で触媒を量産するところから段階的に進めていきました。その結果、最終的に得られた触媒は、大学の粉末触媒以上の反応を示し、二次成形しても反応活性を維持することに成功しました。さらに、基礎研究レベルの反応スケールではありますが、二次成形後の触媒で市販品に比べて100度程度の反応温度の低減が観察されました。これにより、(2)の既存技術に対する優位性を証明することができました。
 次に、(3)の、より実用に即した反応器設計、触媒技術の高度化についてです。先ほどの映画「オデッセイ」の話に例えると、飛行士が6人の場合は毎分約2リットルの二酸化炭素を処理しなければなりません。JAXAの基礎研究ではスケールはまだ小さく、100%二酸化炭素では35ml/minです。大ざっぱにいって「オデッセイ」の1/60の実績です。この小さいスケールでは、まだ装置は宇宙へ持っていけません。そこで現在は、クルー2人分の二酸化炭素の処理ができる装置の開発を目指しています。また、先ほども紹介しましたが、二酸化炭素の還元は単独ではできません。二酸化炭素の除去や水の電解など他のシステムと統合して実際に動く装置になるかどうかが課題になります。実際に装置を大型化して試験したところ、クルー1人分の二酸化炭素の処理には成功しましたが、2人分では反応で発生した熱により温度制御ができなくなり、残念ながら途中で実験を中断する結果となりました。実は、サバチエ反応では人1人分の二酸化炭素の処理で50ワット程度の反応熱が出てくるのですが、この実験の結果から、その反応熱の処理が課題として浮かび上がってきました。さらに、帝京大学との共同研究で反応器の数値解析をしたところ、現行の反応器ではガスの拡散が全然得られていない様子が示されました。つまり、触媒をたくさん詰めているのにきちんと働いていない、働かないような反応器の設計になっていることが明らかになったのです。現在は、これらの課題をクリアできるような反応器設計や触媒の改良を検討しています。
 その他、実用化に当たっては触媒の耐熱性や耐被毒性など、触媒活性以外の性質にも注目しなければならない現状があります。課題はまだあり、例えば微小重力下での挙動の模擬も課題の1つです。このように、研究目標(4)を含め、触媒実用化にはまだまだ長い道のりが予想されるところで、皆様からのご提案やアドバイスをお願いする次第です。
 最後に「来るべき未来に向けて」と題して、今は無理でも、いつかは実現するかもしれない宇宙の夢の話を。例えばヴァージンギャラクティック社というアメリカ企業は「スペースシップ構想」を持っています。また日本の清水建設は「宇宙ホテル構想図」をホームページに載せています。こういう構想が実現する未来は、今のような特殊な訓練を受けた宇宙飛行士だけが行く宇宙ではなく、誰もが行ける宇宙でしょう。そこで必要になってくるのは、今よりも快適・安全な宇宙環境の確保です。私たちJAXAはこれに向けて研究開発を進めていく必要があると思っています。

質疑応答

 宇宙船からステーションに人が乗り移る時などに、空気が漏れるとのことですが、対流のない宇宙で、その空気はどこへ行くのでしょうか。

 ステーションは1気圧に与圧されています。もちろんエアーロック等で厳重に管理はしているのですが、開け閉めを繰り返す中で、圧力差の低いところへガスは抜けていってしまいます。そして宇宙に拡散によって広がっていきます。

 JAXAに入られる前から、宇宙には興味があったのでしょうか。

 小さい時から宇宙飛行士になりたいという夢を持っていました。ただ、私が大学院に在学中に最後の宇宙飛行士の選抜試験があり、その時は応募できず、私の夢は叶わなくなりました。そこで考え方が変わりました。私が宇宙に行くより、私がつくった装置や研究成果が宇宙へ行く方が早いのではないか、と。そこで今度はJAXAに入ることを目標にしました。

作成日  2016/12/08

このページのトップに戻る

Copyright (C) 2005-2013 Toyama New Industry Organization.All Rights Reserved.