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はじめての起業・創業セミナー

コロナに負けられるか。創業だ! ~変化をチャンスととらえて~

講師 富山県よろず支援拠点コーディネーター 布目大剛

 富山県よろず支援拠点では、サテライトの相談コーナーを置く富山市立図書館の協力を得て、創業や起業を考えている方、あるいは創業して間もない事業主を対象に、「はじめての起業・創業セミナー」を開催しました。コロナ対策のために、受講者を定員の半分に抑えて実施しましたが、セミナールームは創業を志す方々の熱気に包まれて、活気にあふれました。講演の概要を要約して紹介します。
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差別優位性とは

 創業にあたっては、まず自分を知ることから始めます。ご自身がお持ちである経営資源やノウハウをいま一度確認されたほうがよい。自分自身に問いかけ、「何をしたいんですか」、「自分にしかできないことはあるんですか」、「それは誰にでもできるんですか」と。もし誰にでもできることを考えているならば、「他との違いを出せますか」とさらに問う。この違いを「差別優位性」といいます。教科書的には差別優位性は絶対に必要だといわれ、皆さんもそう思われるでしょう。ところが実際に商売をして、差別優位性があるから全てがうまくいくかといいますと、そうではありません。うまくいかなかった例もありますので、それを紹介しましょう。
 ある方が、今までにないピザ屋を計画されました。そのピザ屋の差別優位性は「よそにないピザをつくる」ということで、きんぴらごぼうをピザにトッピングしました。確かに他にそういうピザはありませんから、差別優位性にはなります。しかしそのきんぴらごぼうは、ピザのトッピングになじむ食材なのか。そこのところをピザ屋の経営者は考えていなかったようです。
 またお客さんが、それを求めているのか。きんぴらごぼうが乗ったピザを好んで食べてくれるのかどうか、を検討されていなかったようです。この場合のきんぴらごぼうを、私たちは「コンテンツ」といっています。お客さんが求めるコンテンツを、適切に理解して提供し、お客さんに喜んでいただいているか・・・。これを考えずに、自分のアイデアがすぐれていると思い込んで、商売を始めることについてはお勧めできないケースもあります。

金額に換算できる商品・サービスか

 ではここで経営資源について洗い出しましょう。経営資源にはハード面とソフト面があります。ハード面は施設や設備で、状況や資金がそろうならば整えることは可能です。しかしソフト面を整えることはなかなか難しい。ソフトには、経験、人脈、独自性、情報力などがありますが、私は情報力を重視しています。そこには情報を集める力、情報を分析し判断する力、情報を生かすための方策を考え、工夫する力なども含めて私は情報力といっています。情報の活用の仕方の詳細については、富山県よろず支援拠点には様々な業界に詳しいコーディネーターがいて、皆様のご相談に応じますのでお気軽にお越しください。
 創業に当たって避けて通れないのが、「自分が考えている事業が、対価を得ることができるビジネスか」を考えることです。物の売買の場合はまだ考えやすいのですが、サービスを伴う場合は容易ではありません。そのサービスに対して、対価という形でお金が戻ってくるかどうかを検証しなければいけません。これを明確にすることが事業計画をつくるスタートラインになります。ただ金額に換算できるサービスかどうか判断が難しい時もあります。そういう場合、私どもはテストマーケティングをお勧めすることもあります。

自社の強み、弱みとは

 事業計画の立案のためには、図で紹介するような基本的ステップを経て立案します。これから創業される方は、だいたいこのようなイメージで事業計画を立てるのだというイメージを持っていただければよいのですが、内部環境と外部環境を調べることが必要だということは覚えておいてください。これらは事業計画を立てる上で、事業の方針や戦略を立てる上で重要になってきます。
 事業計画を作成する手順を列挙しますと次のようになります。 ①要旨 ②事業概要 ③製品・サービスの特性と優位性確認 ④市場の状況把握 ⑤基本的な戦略記述 ⑥事業の展開計画、生産計画、マーケティング、販売計画 ⑦財務計画
 この中の①〜③は、仕事の概要についてです。自分はこんなものをつくろうとしている、こんなサービスを提供しようとしている。それを進めるための技術やノウハウとしてこういうものを持ち、他社とはこういう違いがある、ということを明確にしていきます。
 ④の市場の状況把握は戦略を練る時に必要となり、自分の事業を取り巻く環境がどうなっているかを把握します。そこには想定する客層の環境、政治や経済、金融という環境もあります。また、ライバル会社の存在もここに該当します。外部環境を把握するに当たって、ライバル会社のことを知ることは大変重要になります。
 外部環境に対して、内部環境もあり、その把握も必要です。内部環境、すなわち創業しようとする自分自身のこと。ライバル会社と比較して、どういう優位性があるのか。自分の強み、弱みは何か。強みというのは単に得意なことではなく、弱みも単に不得意という意味ではありません。ライバル会社との比較の中で、ライバルに負けない強み、ライバルに劣る弱みということです。この強み、弱みを誤解している方もおいでになります。
 ⑤は事業を展開するに当たっての戦略のことで、それはとりもなおさず自分の強みを発揮することによって実現するものを指します。そして⑥⑦は、事業の今後の展開予定と経営状況を見越した上での損益計算書を作成することにつながります。そこには売上があり、その原価と会社を運営するために必要な経費があります。売上から原価と必要経費を引くといくら残るか。残った部分が、儲けに当たります。この計画を立てるために、①〜⑥の全体像を把握し、健全な収支計画を作成することは経営計画につながります。

富山のユニークな起業家たち

 それではここからは、私が創業や新分野進出などのお手伝いをした事例を紹介します。
 高岡市に大越工芸品製造(株)という会社があります。創業者は大越忍さん。最初、大越さんは鉄瓶に金箔を施すなどして販売していました。想定する市場は中国からのインバウンドや中国国内の富裕層。「爆買い」のころは相当に売れたそうですが、それが落ち着き始めた頃に、高岡の鋳造技術を銀器製作に応用し、銀瓶をつくりました。細かい細工が施されて見るからに高そうです。1つ100万円以上はするそうです。それをどうやって売ったのか。「日本のこのような高級品を使うのは、ステータスになりますよ」と中国の人たちに囁き続け、そういう文化をつくろうとしたのです。同社の強みは、金属加工の高い技術のある高岡にあったこともありますが、大越さんが中国語に堪能だったことです。彼は中国語を上手に話しながらこの銀瓶を使うことのステータスを説き、その銀瓶でいれる高級茶も用意しました。ひとつまみで5,000円ほど。銀瓶とお茶をセットにして120万円ほどで販売し、好調だそうです。

 この大越さんの例と好対象なのが、あみ結び協会・善田希さんの例です。好対象といいましたのは、創業を考えていた当初の善田さんの事業計画です。当初善田さんは、紙バンドでつくった工芸品の販売を予定されていました。作品のできは極めてよく、紙バンドとは思えないほどたいへん美しい。でもこれをいくらで売るのか。仮に5,000円の値段をつけたとして、事業として成り立つだけの個数が毎月売れていくのか。不安になりました。 そこで善田さんと私たち「とやま起業未来塾」の講師は考え直しました。紙バンドの工芸品を販売するビジネスに、その工芸品をつくるノウハウを伝える教室開催の事業を加えました。決まった場所での定期開催の他に、自治体や企業から依頼されての講座開催もしています。そこではお花の家元制度のような認定講師養成の講座も用意しましたし、教室に通われる方向けに素材としての紙バンドの販売も行うようにしました。とやま未来塾の期間中とその後の試行錯誤の中で紙バンドの工芸品販売のビジネスプランがここまで進化したのです。先日、善田さんに話を聞きましたら、「韓国でも講座を開催するようになった」といっていました。

お客が本当に求めているものは何か

 ではここでマーケティングについて話を移しましょう。一口にマーケティングといっても幅広く、奥が深いので、「お客は何を求めているか」という入口的な話をします。アメリカのマーケティング学者のレビット博士が、「マーケティング・マイオピア」という理論を発表されました。マイオピア(myopia)は近視眼という意味です。近いところしか見ていないということで、こんな例を挙げられました。
 ホームセンターにドリルを買いにきた男性がいました。自分で店内を探しても見つけることができなかったので、店員に「5mmの穴をあけるドリルはどこにありますか」と尋ねました。その時ドリルは売り切れていたので、「あいにく今は品切れです」と答えたところ、お客は帰ってしまいました。
 レビット博士はここで尋ねます。お客が本当に欲しかったものは何なのか?と。例えばそこで、「品切れです」に続けて、「それは何をするための穴ですか」と問いかけていたら、別なことが提案できたのではないかというのです。数個の穴でよければ、5mmの穴をあけるキリを紹介できただろうし、穴あけサービス、あるいは5mmの穴のあいた板を勧めてお客のニーズを満たしていたかもしれない。近視眼的にみると、お客はドリルを求めていますが、ドリルはあくまでも穴をあけるツールで、お客が本当に欲しかったものは穴なのです。この穴に思いをはせるところからマーケティングは始まります。
 皆さんが今、考えておられる事業モデルで、あれを売りたい、あのサービスを提供したいと計画されている時に、今一度、それは本当にお客が求めているものかどうか、振り返ってみてください。それはお客にとってのベネフィット(メリット)になっているかどうか。

マーケティングの手法も取り入れて

 マーケティングの手法のひとつにポジショニング分析があります。目標とする市場の中で、自分が投入しようとする商品・サービスはどういう位置づけにあるかを調べるものです。関数のグラフの縦軸、横軸を念頭においてください。横軸にはお客のベネフィット(メリット)、商品選択の理由の最大要因などを取り、縦軸にはコストを入れるのが一般的です。この座標軸の中に、競合各社の商品と自分が投入しようとする商品をプロットし、類似商品の中で自社商品がどの位置を占めるかを分析して、商品開発の方向性を修正したり、販促の手法を考えていきます。

 具体的な例を出しましょう。このポジショニングの分布図は、数年前にある自動車メーカーが作成したものです。縦軸は車が大きいか小さいか。横軸は車内の広さを尺度にしました。両方とも定量的に判断できますので、各社の自動車を正確にプロットできます。そうするとご覧のように、右下に空白部分があることがわかります。このメーカーでは「小型車だけど車内は広い」というコンセプトの自動車を商品化したところ、ヒット商品になりました。多分皆さん、心当たりがあると思います。
 ポジショニング分析を行うと、自分の狙い目が見えてくる場合があります。競合各社の商品がこういうふうに分布するなら、自分はここだと。ポジショニング分析の尺度にはいろいろありますから、自社の強みに合わせて切り口を変えてみる必要があります。

市場成長率が低くても商機あり

 最後にプロダクトライフサイクルの表、マーケティングの教科書などでもおなじみの表を紹介します。ある商品が市場に送られて注目を浴びると、競合各社も一斉に商品開発して、市場に商品があふれるようになります。導入期です。デジタルカメラが現れた時には、従来のフィルムカメラのメーカーの他に電気・電子機器メーカーも参入して数多くの商品が店頭を飾り、従来のカメラ店の他に家電販売店などでも売られました。デジタルカメラは今、成熟期にあると思います。スマートフォンもこれから5Gの時代になりますが、おそらく今は成熟期にいるのではないでしょうか。
 商品にはこのグラフに表したように、導入期、成長期、成熟期、衰退期というライフサイクルがあります。これを念頭において、皆さんが挑戦しようとされている商品はどの時期に当たるのかを分析して、販売戦略を考える一助にしていただけたらと思います。グラフの下には教科書的な方向性や見込みが書かれていて、成熟期・衰退期の市場成長率は「低い」と評価されています。低いから将来性が全くないという意味ではありません。ライフサイクルが終わりに向かうと、撤退戦略をとる事業者が現れます。つまり市場からライバルがどんどん減っていく。そうするとポジショニングに空白地帯ができることがあり、場合によっては短い期間とはいえそこでチャンスをつかむこともあり得るわけです。一種のニッチ戦略です。皆さんが持っておられる独自の技術やノウハウの強みを生かして、大きなシェアをとることができるのです。
 今日は事業計画の立て方やマーケティングについて、教科書的な考え方や、「こういう見方もあるよ」と視点を変えた考え方なども駆け足で紹介してきました。「もっと詳しいことを、私の事業計画に即してアドバイスして欲しい」という方がおいでになれば、このセミナールームのある富山市立図書館では毎月第2水曜日の午後に、よろず支援拠点の出張相談会を行っていますし、本部のある富山県新世紀産業機構では、平日毎日の相談を受け付けています。ご予約の上、お気軽においでください。

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作成日  2021/1/19

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