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TONIO創立20周年記念特集

「敷居が高くなく、相談に行きやすかった」

魚岸精機工業が語るTONIOの支援

「富山県新世紀産業機構は敷居が高くなく、
販促や商品開発、技術開発、新分野進出
などで相談にのっていただき、さまざまな
支援もいただいた」とこの二十数年を振り返る
魚岸精機工業の魚岸力会長。

 「弊社の富山県新世紀産業機構(以下、TONIOと略す)とのお付き合いは、TONIOが設立された平成13年の数年前からだったと思います。TONIOの前身のひとつである富山県中小企業振興財団の相談員の方が時々訪ねてこられて、首都圏や中京圏等で開催されていた商談会にお誘いいただき、また『商品開発などで困ったことがあったら相談に乗ります』と振興財団の業務内容を紹介するパンフレットなどをいただきました。商談会には何度か参加させていただいた記憶があります」
 そういって20年前を振り返るのは、射水市に本社を構える魚岸精機工業(株)の魚岸力会長。同社は、自動車メーカーや航空機メーカーなど各種機械メーカーやその部品メーカーに金型や部品を納めている県内ものづくり企業のトップランナーともいえる企業で、魚岸会長は「私が社長を務めた30年のうち、20年ほどはTONIOに伴走していただいた」と先のコメントに付け加えた。

TONIOの支援を受けて国の助成事業申請

射水市の同社の本社(写真上)と
『中小企業支援事例集平成13年版』の
同社の記事(写真下)。
金型のピンホール発生を防ぐための
「真空バルブ」の開発について記されている。

 ここで当機構が設立された経緯について振り返ろう。二十数年前、中沖豊富山県知事(当時)は「産業立県」を政策の柱に掲げ、IT、バイオ、深層水等の新規成長産業の振興や企業の新事業展開への支援を積極的に取り組むことに。従来からあった3つの産業支援機関((財)富山技術開発財団、(財)富山県中小企業振興財団、(財)富山県産業情報センター)を統合してひとつにまとめたのが財団法人富山県新世紀産業機構。分散していたそれぞれのオフィスを、現在地の富山市高田に集め、ワンストップで県内企業の困りごと解決に乗り出した。扱う主なテーマは「創業・ベンチャー」「経営」「新商品・新サービス開発」「販路開拓」「産学官連携」「新産業・新技術」「海外展開」「人材育成」「事業承継」等々。ひらたくいうと、“企業のためのよろず相談所”のような役割を背負って、平成13年4月1日にスタートしたのだ。
 魚岸会長が続けた。
 「実は平成11年に、先ほどの相談員に書類作成の支援を受けて経済産業省の『創造技術研究開発事業』に申し込み、真空バルブ開発にあたっての助成を受けました。その成果が出たのが平成13年。『TONIOのスタートと重なって幸先がいい』と相談員の方と喜びを分かち合ったものです」
 機械の部品などを多量につくる場合、通常は金型をつくり、そこに溶かした金属を流し込み、冷えて固まったら型から外してバリ(鋳物にできる不要な突起。金型の隙間、継ぎ目などでできる)をとる。溶けた金属を流し込む際、溶解の状態や気温などにより金属の流れ方にムラが生じ、空気を巻き込んでしまうことがある。この微細な空間をピンホールというが、ピンホールができると部品の強度が落ちるなどの弊害があるため、鋳造の現場ではピンホールができない鋳造法が模索され、川上にあたる金型メーカーにはその防止策についての相談が寄せられていた。
 「私どもが金型を納めていたメーカー様からもご相談をいただいていました。同じ金型を使ってもピンホールができるときと、できないときがある。また前回は右側にできたけど、今回は左側というふうに異なった部位にできることもある。ピンホールができた部品はX線検査により『不良品』として取り除かれるのですが、不良品の発生率を抑えたいというのがメーカーの要望でした」
 魚岸会長は真空バルブ開発の背景をこう語るが、金型内を真空にし、溶解した金属を流れやすくするとともに空気の巻き込みも抑えて、ピンホールの発生を抑えようとしたのだ。当機構発行の『中小企業支援事例集平成13年版』を見ると、試作された真空バルブの写真とともに、不良品率が30%超から5%程度に減った部品メーカーの例も紹介されている。

航空機産業への参入を試みる

同社の金型から生まれる製品例の
1つ、自動車のエンジン部品(写真上)
と魚岸精機工業のタイ法人の
工場外観(写真下)。

 これを縁に魚岸精機工業では当機構の支援メニューを積極的に活用するように。翌平成14年にはタイに営業所を構え、16年には工場も建てて現地での金型生産も開始。世界の自動車メーカーが工場を構えたところから、タイは「東洋のデトロイト」と称されるようになるが、同社のタイ法人は日本への金型輸出の他に、タイに工場を構える自動車メーカーにもアプローチして、その足場を徐々に固めたのであった。
 「タイ進出にあたっては、JETRO富山事務所やTONIOの環日本海経済交流センター(平成30年4月、アジア経済交流センターに改組)で情報収集し、それらをもとに立地場所を決めました。平成23年にはタイで大洪水が発生し、多くの企業が浸水しましたが、幸いにも弊社タイ法人の営業所も工場も浸水した地域より1メートルほど高いところにあったのと、排水設備が整備されていたため被害はありませんでした」(魚岸会長)
 ちなみに当機構では平成23年4月、環日本海経済交流センターに「海外販路開拓サポートデスク」を設置。大手商社OBをコーディネーターとして迎え、アジア・東南アジアへの進出の機会をうかがう富山県企業をより強力にサポートすることに。また富山県では平成24年12月、タイ・バンコクに「富山県バンコクビジネスサポートデスク」を、平成25年1月、台湾・台北に「富山県台北ビジネスサポートデスク」を開設し、富山県企業のさらなる展開を現地で後押しするようになった次第だ。
 話をもとに戻す。
 平成17年に入ると魚岸精機工業では、当機構の中小企業支援センターの仲介で、ある企業の航空宇宙部門とマッチング。金型製作技術を背景に精密部品づくりの分野でも実績を出しつつあったところから、飛行機やロケットの部品製造を受注できないかと試みたのだった。
「自動車業界に金型や精密部品を納めさせていただく過程で、より微細な加工ができるようになり、また品質アップも果たしました。会社の将来を考えたら、『次は航空・宇宙だ』と考えが至り、TONIOの紹介のもとで弊社のPRに赴きました」
 魚岸会長は当時を振り返り、ハツラツと語りながらも一転、顔を曇らせて続けた。
 「ただこの時は、治具の検査機は納品させていただきましたが、目標の部品の受注まではいきませんでした。弊社が、航空機業界特有の品質保証の基準をクリアしていなかったのが大きな理由ですが、『いずれまた』と決意を新たにするよい機会になりました」

再チャレンジで飛行機部品を受注

新分野参入を促すための当機構の研究会の一例。
写真上は航空機産業参入のための「富山県航空機
産業講習会」、写真下は次世代自動車産業についての
「HV車部品展示会」の様子。

 この話には、だいぶ後のことながら後日談がある。6年後の平成23年、当機構では県内ものづくり企業の技術の高度化やさらなる発展を期して、「次世代自動車ネットワークの形成」「航空機産業への参入促進」の目標を掲げ、県内企業への情報提供や研究会を開催するように。その初期メンバーに同社はかつての夢を果たそうと名乗りを上げたのだった。
 「TONIOの担当者からこの構想をうかがった時、6年間温めていた構想を実現する時がきたと思いました。それで弊社も含めて県内企業6社が世話人役を務め、有志企業を募りました。最終的には70を超える企業が集まり、後は関心の方向性に合わせて分科会を組織し、それぞれの分野で各企業は技術の高度化などを目指しました」(魚岸会長)
 ある分科会では電気自動車丸ごと1台を分解し、部品一つひとつの素材や形状、機能を確認。その上で自動車メーカーには「◯◯を□□に改善したら、△△が何%向上する」というふうに具体案を示し、受注拡大を図ったそうだ。航空機産業への参入については、メーカーから提供される素材を、提示される設計図どおりに加工するものだが、本稿の冒頭で述べたようにピンホールは一切あってはならないことはもちろんのこと、部品の精度はミクロン単位(±10μ)の正確さが求められ、今日つくった部品と10年後につくった部品が同じ品質であることの保証も求められる厳しさだったという。おまけに発注される個数はあまり多くなく、売上げ貢献度は高くはなかったそうだ。「とはいっても、副次的な効果はたくさんありました。航空機の部品をつくっているというと、『魚岸精機工業は管理体制がしっかりしている』『あそこの製品は品質が極めて高い』と見られた」(魚岸会長)様子。10年ほど前の人気小説(ドラマも)『下町ロケット』のような話は本当にあったようだ。

「型」づくりの会社、型破りな会社をめざす

X線検査により、鋳造不良と
判定された製品の画像(写真上)。
こうした不良品発生を防ぐために、
鋳造の際の湯流れのシミュレー
ションを行い、不具合の発生を
解析する(写真下)。

 そして平成26年度には、中小企業庁の「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」(通称「ものづくり補助金」)の採択を受けて、溶かした金属が金型の中を流れる様子をパソコン上でシミュレーションするソフトを導入。その解析技術を高め、ピンホールやキズなどの不具合発生を防ぐ対策を講じて金型を設計するように。さらには、他のメーカーから解析の依頼を受けて金型改善の提案を行うなど、業務の幅も広げてきた。
 また令和元年度に、当機構が管理団体となり経済産業省の「戦略的基盤技術高度化支援事業」(通称「サポイン事業」)の採択を受けた魚岸精機工業は、「ダイカスト金型破損の原因解析と解析結果を基とした低廉化金型の商品化」にチャレンジ。通常、金型は部品を大量生産する際にコストの低減などでその威力を発揮するのだが、多品種小ロット生産が増えつつある中では、そのメリットを発揮しづらい場面も出てきた。そこで金型制作費を抑え、小ロットの部品づくりでもコストダウンができるようにと新しい技術開発を試みたのだ。
 このサポイン事業については、中心になって進めている魚岸成光社長が付け加えた。
 「ダイカスト金型は、従来は自動車業界を中心に用いられてきました。ただ時に突発的に金型が破損して、不良な部品を生産することがあります。その無駄を省くためにも破損原因を究明し、自動車ほど部品生産のロットが多くない分野でも安価に金型をつくって製造ラインに組み込めないかと思ったのです」と技術開発に期待を込め、「有望な分野は・・・」と複数の機械・機器のジャンルを挙げた。
 ちなみに同社の事業承継は、日本中が(世界も)「コロナ禍」で喧(かまびす)しかった令和2年に実施。先代社長(現会長)は「私が社長を引き受けたのは40歳、創業者の私の父は70歳。今振り返ると、いいタイミングでした。それで私も『70歳を迎えたら・・・』とかねがね考えていました。一昨年、息子は39歳。私の時より1つ若いですが、気力体力ともに十分だと思い交代しました」と振り返った。
 「コロナ禍で先行き不透明だから社長交代を1〜2年延ばそうとは考えなかったのか」と尋ねると、魚岸会長は「私が社長を継いだ時はバブル崩壊で大変でした。経営に楽な時はありません。好調でも気を緩めたら真っ逆さま。どん底の時に引き継いだら、後はのぼるだけや」と、新社長の背中を軽く叩いた。

令和2年の事業承継で、経営を引き継いだ魚岸成光社長。
「型破りな先進企業」を目指すという。

 最後に新社長に今後の抱負を尋ねると、以下のような答が返ってきた。
 「社長就任1年目に、これから弊社の柱になっていく中堅幹部と、2030年に向けての中期ビジョンをまとめました。『魚岸スピリッツ』を引き継ぎ、従来の金型事業の進化・拡大を図るのはもちろんですが、新規事業も立ち上げたい。弊社は金型という『型』をつくってきた企業ですが、さらなる飛躍のためには『型破りな先進企業』を目指さないといけません。そのためには、みんなでワクワクする技術開発もしたいし、ワクワクする新しいものづくりもしてみたい。その過程でTONIOに支援をお願いすることもあるでしょう。私自身は、社長としてそういういろいろな要素を組み合わせて、ワクワクするような会社経営を心がけたい」
 富山の企業がつくった部品が、ロケットの基幹システムに採用されて宇宙を旅する日がくることを祈るばかりだ。

○問合せ先:(公財)富山県新世紀産業機構 企画管理課
所 在 地:〒930-0866 富山市高田527 情報ビル
TEL 076-444-5600  FAX 076-444-5642
URL : https://www.tonio.or.jp/

作成日  2022/02/09

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