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とやま産学官金交流会2014

富山の産業と未来を拓く新幹線

去る12月2日、とやま産学官金交流会2014が開催されました。2015年春には北陸新幹線が開業しますが、これを契機に富山のものづくりをさらに強化し、県内産業の育成・発展を図る道が探られました。交流会では基調講演の他に「とやまのプロジェクトX」と題して、北陸新幹線の概要とともに、新幹線に採用された県内企業の製品が紹介され、その開発の背景なども明かされました。また県内の大学や企業の開発部門からは、各々の技術シーズなどがパネルにより発表され、質疑応答も盛んに交わされました。このレポートでは、基調講演を要約してお知らせします。

基調講演
「富山県のものづくりの更なる強化に向けて」

YKK株式会社取締役副社長
一般社団法人富山県機電工業会会長 大谷 渡(おおたに わたる)氏

 本日の講演は「富山県のものづくりの更なる強化に向けて」というテーマですが、私のYKKにおける技術経営の考え方がベースになっていることをまずご理解いただきたいと思います。そこで初めに、YKKにおける技術経営の考え方について説明し、引き続き富山県のものづくりの強み、そしてそれを更に強化するための産学官金各分野への提案という流れで進めていきます。
 まずYKKグループの概要について。創業は1934年(昭和9年)で、2014年1月に80周年を迎えました。事業構成は、グループにはファスナーを中心としたファスニング事業と、窓を中心とした、一般的には建材事業と呼ばれているAP事業、そして、ファスニング事業とAP事業を技術面で支える工機技術本部の3つを柱としています。現在、世界71カ国・地域で108社の連結経営を行っており、従業員は約40,000人。うち海外は約23,000人で、海外社員の方が多い状況です。連結売上高は2013年度で約7,000億円です。

基本となった善の巡環と一貫生産

 ファスニング事業はファスナーを中心とし、ジーンズのボタンやテープなどもつくっています。これらを総じて我々はファスニング事業といっています。AP事業では窓事業を中心にしており、住宅建材にはじまり高層ビルの窓まで展開しています。現在、私が担当している工機技術本部では、ファスナーや窓をはじめとした製品の材料開発や、それらを製造するための専用機械やライン、製品をつくるための金型、更には専用機械を構成する専用部品の開発・製造などに取り組んでいます。ここで開発した専用機械は、世界の工場に供給されており、現時点でファスナーの専用機械は、海外の各工場で、約40,000台が稼働しています。
 YKKではファスニング事業とAP事業を中心としたグローバル経営を展開し、6極による地域経営を行っています。6極とは日本の他に、北中米・南米、EMEA(Europe,MiddleEast&Africa:欧州・中東・アフリカ)、中国、アジアで、それぞれに地域統括会社を置いています。
 YKKの成長の原動力は、1社1社の成長にあります。創業者・吉田忠雄は1959年から海外展開を積極的に行い、それら1社1社の成長が、YKKグループ全体の強さに至ったものと理解しています。海外に出ていく際に、創業者が社員に対して必ず語ったのが、YKK精神の「善の巡環」です。「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」という意味です。YKKの社員は皆これを実践してきました。その結果、顧客あるいは社会から信用を得て、成長してきたのです。我々の強さは、海外の1社1社が強いということであり、本部が全体をコントロールしてきたわけではありません。本部には世界70カ国すべての実態はわかりません。創業者は、現地のことは現地が一番よくわかっているのだから、彼らに任せる、といってきました。1社1社に責任を持たせて経営してきた総和が、今日のYKKグループを表わしているのです。本部・本社は、共通の目的や共通の方針を共有させることに専念してきました。
 一方、技術面では、創業者は「一貫生産」を標榜してきました。最高の品質を保つためには、製品の材料、それをつくる機械までをすべて自社で開発・製造することによって、ファスナーや窓に最適なものができる、と考えたのです。創業間もない頃には、ファスナーを構成するテープを調達する際、最適なものが手に入らなかったことがあり、“それならば自社で……”と、糸の開発までさかのぼることになり、材料からの一貫生産という考えが生まれました。現在では、取り巻く環境が変わっているので、すべて一貫生産でなければならない、ということはありませんが、この考えを継続進化させてきたからこそ、会社の成長につながったと理解しています。
 ただ一方で課題も生まれます。先ほども申しましたように我々は、製品はもちろんのこと、材料も機械も一貫生産を行ってきました。機械部品一つとってもその熱処理などを自社で行い、作業はすべて内製化してきたといってもいい状況です。ところがすべて内製化すると、他方面で進化する関連技術との比較がなされませんので、競争力を失う危険性があります。我々はそこに気をつけ、競争力の維持強化に努めてきました。

目先の課題から技術者を逃さない

 これらの技術を更に強化するために、私は2010年から工機技術本部を担当しましたが、私は元々技術者ではありません。一般的にいうと事務屋です。事務屋の私が、技術本部長になった。同じ規模や業種の会社と比較しても、珍しい技術本部長だと思います。私は、前任の経営企画室長の時から、技術力強化のあり方を考えており、現場での確認を通してそれらを一つひとつ実行してきたのですが、そこには富山県のものづくり力の強化と共通する内容がありますので説明したいと思います。
 就任して私はまず、技術開発の領域を明確にしました。我々はファスナーと窓のものづくりに特化しているわけです。そうであるならば技術開発の領域も、まずはファスナーと窓の事業領域に限定すべきだと経営企画室長時から考えていました。また、世の中一般にあるように、かつて私たちには研究開発機能を担う組織があり、そこでは“第3の柱の模索”などをやっていました。しかしながら、ファスナーや建材の周辺領域のすべてが十分でない中で、変化の激しい時代に新しい領域でアウトプットを求めることは更に難しくなります。従って、まずは現在の事業において、できていないところを強化して、着実に事業強化を図ることが必要であると判断し、技術開発をファスナー専用機械と窓専用ラインの改善・改良、進化に限定しました。その上で、設備開発を担当してきた工機事業本部と、研究開発を担当していた研究開発センターを1つに統合して、工機技術本部に改めたのです。
 私は工機技術本部をスタートさせるにあたり、技術は実践と理論が50対50であるべきだと考えていました。私は技術者ではありませんが、これを持論としています。日々の仕事が忙しいと、どうしても実践に偏ってきます。一方、研究開発本部的な部署では、理論だけを追いがちです。企業経営において技術力強化を図るということは、実践だけ強くてもいけません。理論がわからないと技術のブレイクスルーはできませんし、逆に、研究だけしていても、アウトプットのない技術開発は企業経営において成り立たないからです。
 ファスナーの専用機械の開発についてお話します。ファスナーは発明されてから130年経っていますが、ファスナーの機構そのものは、基本的にあまり変わっていません。製品の機構が変わらなければ、機械の原理もあまり変わらない。その中で我々は高速自動化を求めていました。ところが専用機械単体の高速自動化を図っても、周辺の機器がそれについてこなければ、高速自動化の効果は出せないのです。そこで大事なことがわかりました。性能や機能を高めて、その専用機械を海外の工場に送っても、現地の人がオペレーションできなければ意味がないのです。ということは、日本で考える高速自動化より、現地の人が使いやすい機械の方がコストダウンにつながるのです。そこで開発方針を変え、技術を前面に押し出した、いわゆるテクノロジープッシュ型の考えから、製造現場に適応する開発に転換しました。30年間、高速自動化に取り組んできた技術者にとっては、これには戸惑いもあったようです。しかし今では製造現場で効果を出してこそ、専用機械としての効果があるのだと、意識を変えつつあるところです。そして一方では、中長期的な視点からの技術開発にも取り組んでいます。特に材料、プロセス開発の強化は、我々の事業の生命線ですから、その開発は怠ることなく続けていく必要があります。
 また、技術や技能は、継続的に仕事があるからスキルが高まるものであり、頭の中で考えているだけでは技能を高めることはできないと思います。手を動かし、絶えず加工したり開発したりしているから、その人の技術や技能は高まるのです。そのためにも、継続・安定した投資をしていくことで技術力の強化を図ることが重要です。
 イノベーションについて。これは一般的には、「技術革新」と訳されます。技術革新とは、“今までにないものを……”と捉えがちですが、私は業態によってイノベーションの定義は違うと思っています。これは技術を担当する前からの私の考え方です。先ほども申しましたように、製品の機構が同じなのに機械が今までにない、まったく新しいものになるはずがありません。そこで我々の会社にとってのイノベーションは、改善・改良、進化であると。YKKではこれを徹底しています。
 私は技術者ではないから言えるのかもしれませんが、技術者は目先の課題に行き詰まると新しいことに手を出しがちです。新しいことに手を出したら上手くいきそうな気がするのでしょうが、目先の課題を解決できない人に、その先の技術開発などできるはずがありません。YKKでは目先の課題を一つずつ改善・改良していくことによって、その後の進化につながると考えています。進化は一度にはできません。私が技術経営で一番大事にしていることは、目先の課題から技術者を逃がさないことです。徹底して目先の課題に取り組ませます。たし算・引き算を理解していない人が、ある日突然、微分・積分がわかるようになることはあり得ません。

企業訪問をしてわかったこと

 YKKの中で、私自身が経験してきたことを整理して申し上げてきましたが、これらを土台に、富山県のものづくりの強みについて考えをお話しします。
 2014年6月から、私は富山県機電工業会の会長を務めています。就任時に、会員企業220社すべてを訪問させていただくことを公約としました。
 訪問に先立ち、就任以降繰り返し申し上げているのは、機電工業会に加盟していただいている会社1社1社には強みがあり、1社1社が強くなることの総和が富山県全体のものづくりの強化、活性化につながる、ということです。富山県では製造業が盛んですから、ものづくりが強くなれば、富山県全体の活性化にもつながります。
 それともう一つは富山県のものづくりの強さを、もっと県外に発信する力を高める必要がある、ということです。富山県の中では当たり前のことも、県外では知られていない・わかっていないという前提に立たないと、外の人にはなかなか理解してもらえないものです。富山の人は、外に向かって訴えることが上手ではないように思われます。外に訴えていかないと、ビジネスの商機は広がりません。この二つのことを各社訪問時にお話させていただきました。
 なぜ企業訪問に取り組むことにしたのかといいますと、統計データからはうかがえない現場の実態を知りたいからです。現場を見ないと、何で困っているのか、どういう課題を持っているのかはわかりません。まだ70社あまりしか訪問できていませんが、大変勉強になりました。また今日の講演のために、訪問できていない企業の方々にお集まりいただいて懇談会を開き、ご要望をうかがう機会をつくりましたところ、40社あまりの皆様にご参加いただき、貴重なご意見をたくさんいただきました。
 共通の課題として、人材採用力の強化がありました。特に、中小規模の企業からは、「採用で非常に困っている。何とかしてください」という声が多数寄せられました。教育支援への要望もありました。「若いスタッフを教育したいが、当社では仕事が忙しいためなかなかできない。これを何とかして欲しい」というのです。あるいは「富山県外に対しての商機づくりをもっと積極的にやってもらいたい」という話しもありました。

県内企業同士での技術融合、技術伝播ができる

 これから具体的に、富山県のものづくり強みと、産学官金各分野への提言の話に入っていきますが、会員企業の皆様からうかがったことの他に、シンクタンクとして、野村総合研究所にお願いして富山県の客観的なデータをいただきましたので、それらを合わせて話を進めていきます。
 まず、富山県のものづくりの強みには、製品、材料、設備分野の産業が集積していることがあります。県の総生産に占める工業割合は、富山県は32%で全国平均の23%を大きく上回っています。これが強みです。また、地域ごとに産業が集積して、ものづくり基盤が形成されているのも強みの一つです。例えばアルミは高岡、工作機械・電子部品は富山、新川地区では金型というふうに地域ごとに集積した産業基盤ができています。それとものづくりに適した自然環境とインフラ整備として、安価な電力、豊富な工業用水、高い教育水準と、それらを後押ししてきた産業政策があります。
 次に、ものづくり基盤を支える中規模企業が集積していることも、富山県のものづくりの強みです。機電工業会の会員比率でいうと中規模企業は63%あり、全国平均の45%を大きく上回っています。また、中規模企業は収益性が安定しており、長期間で持続的に成長してきたことで、安定した事業基盤を持っていると言えます。つまり富山県には、中堅を中心とした中小企業が多く、そこが富山県のものづくりの成長発展をリードしてきたということであり、それらの1社1社が、強みを持っているということでもあります。
 さらには富山県内では大企業、中規模企業、小規模企業が役割分担をしています。そしてそれらが連携することで、ものづくりができる産業構造の基盤を形成しています。会員企業を訪問してわかったのは、各社の強みにはバッティングするところが少ないということであり、これはそれぞれの企業が役割を持っているからだと理解できました。
 これらによって、県内企業同士での技術融合、技術伝播ができる、というのも強みになります。県内企業間の取引きは多いようで、製造業全体での県内取引き割合は、富山県は24%で東京・大阪・名古屋の大都市圏や、そこからの遠隔地に次ぐ全国9位です。県内での共通取引先割合では、金属の場合は愛知県に次いで富山県は第2位、化学も東京に次いで第2位でした。また各社が地理的に近いのも富山県が持つ強みです。
 ここで、富山のものづくりの強みを整理します。まず富山県のものづくり企業は1社1社が特徴と強みを持っており、それが長期間にわたって成長しているということです。1社1社が強くなることは全体を強くすることにつながります。従って1社1社が更に強くなって行くことが大事だということです。
 そして、地域全体で一貫生産を行うことができる、ものづくり基盤が形成されている点も強みです。ただこれらの強みが、きちんと生かされていないという課題があるようです。

足もとを固めることが第一

 企業訪問を通して、課題の共通項で大きなものは、中・小のものづくり企業では、人材採用力を高めることでした。工作機械関連の企業では、現在忙しい状況にある一方で、電子部品関連ではまだ回復に至っていないという現状があります。工作機械関連の会社で一様に出てくるのが、「人を採ろうと思っても富山県ではなかなか採れない」ということでした。ニーズに合った人を採用するのに1年かかったという話もありました。そこで「例えば機電工業会で技術人材をプールして、電子部品の方で技術人材に余裕がある時は、工作機械関連の方に回すというような、会員間で融通し合う仕組みはできませんか」という話も出ていました。
 共通項の2番目には、富山県外における富山県のものづくりの強さを認知していただくことが挙がっていました。中堅・中小企業を訪問した際、仕事の割合を聞かせていただきましたが、対県外の仕事は6~7割、県内は3~4割というのが平均的なところです。今以上に中堅を中心とした中小企業を発展させるためには、県外の仕事を増やさないといけません。そのためには富山県のものづくりの強みを、まずは県外の人々に知ってもらう必要があり、それをどのように発信していくかが課題になっています。
 3番目の課題として、富山県固有の強みを踏まえた産業の発展シナリオを構築していく必要があると考えました。富山のものづくり企業には、技能を伴った強さがあります。まずはそこをもっと強くし、裾野を広げていくとともに、その延長で成長産業について考えていったらいいと思っています。将来、どの産業が成長するかは、はっきりしたところは誰にもわかりません。可能性はいえますが、確かではありません。であるならば、まずは足もとをしっかり固めることが第一だと思います。昔、国の施策にテクノポリス構想があり、富山県も認定されていました。しかし、これは富山のものづくりの強みとは違っており、極端な言い方をすると、ITとかハイテクは富山県のものづくりとは分野が違うと考えています。こういう分野は最後には、設備ありきのコスト競争力の差となって現われ、それは人のスキルではなく、設備に依存することになります。その後の経緯からもわかるように、コスト競争は世界競争となり、人件費が大きな要因を占めるようになりました。ですから日本の家電・IT機器は競争力を失ったのです。そこには、ものづくりの技能がありません。人による付加価値のない、設備中心のコスト競争力しかなくなっているのです。そういうところでは富山のものづくりの強さは生かしきれるものではありません。
 成長産業について補足します。「富山県ものづくり産業未来戦略会議」では私も委員で、将来の成長産業に焦点を当てていくことに否定はしていません。しかし先ほども申し上げたように、我々はYKKの経営の中で、中・長期的視野に立って技術開発を行ってきましたが、ウエートはあくまでも製造現場に適合する設備開発に置きました。競争力を高めるには、製造現場で効果を出さないといけないからです。現場を盤石にした上で、将来の産業を考えるということが必要なのではないでしょうか。プライオリティーの置き方はいろいろありますが、私はそう考えます。

アルミや工作機械の特別講座を15コマの連続講座で!

 以上申し上げたことを背景に、産学官金それぞれの分野への提案をまとめました。初めに産、すなわち企業の方々への提案で、その1つ目は「事業活動を通じたものづくり技術の継続進化」です。何度も繰り返していますが、各社の強みのもととなる専用技術の強化です。今持っている強い技術・技能を更に強くし、その強みを生かすためにまだ充分でない部分、すなわち弱い部分を補強していくことが大事です。まったく違う新しい分野に進む場合は、相当の経営資源を投入しないと、現実問題としてなかなか事業化できるものではありません。頭の中では上手くいきそうに思えても、現実は甘いものではありません。そうして新規の力のない部分に経営資源をどんどん投入すると、以前から持っていた強さを失う可能性も出てきます。よくお考えください。会社が大きくなってくると、多角化が試みられます。その多角化で、成功しているところは多いのでしょうか。私には失敗した例の方が多いように思われ、なおかつ、せっかっく持っていた強みを失ったケースも多々あるように思われます。
 また、富山県の企業連合としてものづくり力を形成し、それを強化していく必要があると思われます。そのためには、企業間の相互理解を深めなければいけません。これは、機電工業会の会員企業の訪問や、40社の方々との懇談会を通じて痛感したことです。隣県のある中堅企業の社長から、「富山県にはものづくりにおいて我が県より強い会社がたくさんあり、上場企業も多い。でも富山県の企業は、強さを持つ企業が1社1社分かれていて、共同で物事に当たることが苦手に見える」といわれたこともあります。相互理解を深めることに関しても、「我が県の企業懇談会では、テーブルに座ってじっくり話し合いますが、富山県の企業懇談会では立食パーティーが多く、慌ただしく名刺交換しているだけで、じっくり情報交換ができない」というご意見もいただきました。これは批判ではなく、会長に就任して間もない私に、アドバイスのつもりで助言いただいたのだと思いますが、検討の余地があるように思われます。
 次は、学への提案です。先ほどYKKの技術者は、実践50、理論50を目指しているとお話しました。大学では理論を教えています。これは大事なことです。ただこれからの時代は過去と違って、学生は目的意識も高く、入社後できるだけ早い時期に自信を持って仕事をしたいと思うでしょうし、会社はできるだけ早く戦力になる人材を求めているところです。そこで例えば、富山の基幹産業であるアルミ、工作機械、電子部品、金型などについて、富山大学あるいは富山県立大学で、特別講座を持っていただけたら、富山のものづくり企業にとっては非常にありがたいことになります。その特別講座も、1コマ程度ものではなく、15コマの連続講座。私も依頼されて、大学のスーパーエンジニアリングコースなどで技術経営について話したことがありますが、1~2時間、1回話しただけでは、「良い話を聞けた」ということはあっても、その後で継続的に考えを深めていく、ということには至らないようです。15コマ連続的な講座にしてこそ、実践的な勉強ができ、富山県のものづくり企業から見れば即戦力が期待される人材に育つわけです。

北海道物産展が札幌で開催されないのは……

 3番目は官への提案です。採用が難しいということをお話しましたが、データからみても、富山県内にはものづくりを志望する人材は、企業の募集に対して少ないことがわかっています。その現実を踏まえて考えると、富山県外から、ものづくり人材として富山県に移住してもらうことが必要です。そこで官には、移住者に対する優遇制度を設けていただくことはできないかと考えます。例えば農業の分野では、既に新規就農者に対する支援制度がありますが、ものづくりの分野でも公的な支援をお願いできないかということです。要件はいろいろあるでしょうが、例えば5年間以上、富山のものづくりの中堅・中小企業で働くことを目的に移住してくる人には、支度金を支給する、研修費用を支援する、税金を免除するなど。人材不足の解消には、現実を踏まえ、具体的な策で臨む必要があると思います。
 県外への富山のものづくりのPRについては、機電工業会は県と一緒になって「富山県ものづくり総合見本市」を開催しているところです。見本市を富山で行って、県外から富山に来ていただく、というのは一つの考えではありますが、富山県以外で見本市を開催して、富山県のものづくりの強さを知ってもらった上で、富山県に来ていただくことが筋であると考えます。
 例えば、皆さんもご存じの北海道物産展、デパートの人気イベントで、東京ではよく開催されています。北海道物産展は、札幌では開催されていません。東京の物産展で北海道を知っていただいて、お客様に北海道に来ていただくことを目的としているからです。富山のものづくりの強さのPRに、こういう視点があってもいいのではないでしょうか。富山県外の人は、富山県のものづくりの強さを知らないという前提に立って、こちらから出ていって富山に人を呼び込まないといけません。北海道物産展の件は、たとえ話として私はよく話すのですが、同様の趣旨のことを企業訪問時にも耳にしました。ですから見本市は、例えば東京などの様々な分野の人が集まる県外と富山とで交互開催するのが良いのではと考えます。
 そして、ものづくりの裾野が広がる産業を誘致するのも、一つの策として検討する余地があるのではないでしょうか。ITとかハイテク関連の企業が、富山で主流を占めるようになるかというと、前にも申し上げたようにそれは極めて難しいと思います。富山県のものづくりの強さは、技能を持ったものづくりの強さです。そういう背景を踏まえて、例えば汎用の大手工作機械メーカーが富山に工場をつくるなど、機電工業会の会員企業には、関連しているところが多くありますから、需要拡大が期待されるところです。
 将来の成長産業として、航空機やナノテク関連の産業に期待が集まっていますが、それは本当に有望なのか。これは誰にもわかりません。企業訪問の際、航空機産業への参入で、ビジネスが拡大すると明言された方はいませんでした。可能性はゼロではないでしょうが、航空機産業に本気で取り組む気があるのなら、その工場自体を富山に誘致するつもりでやらないといけないでしょう。それでこそ、富山のものづくりの裾野が広がります。距離のある他県の工場に部材を納めるだけでしたら、コスト競争にさらされるだけで、ものづくりの本当の強さを発揮できない恐れもあります。
 最後は金融への提案です。1社1社が強い富山のものづくり企業ですが、前述のように共同して事にあたることは得意ではないようです。そこを上手くコーディネートできるのは、金融機関をおいて他はありません。各自治体などでもこのような取り組みがある事例もありますが、公平性も重要視される中で、本来の競争力を鑑みた対応には限界があります。金融機関は企業に融資するなど、ビジネスを通して企業の強み・弱みをすべて把握しています。また、バッティングするような企業の組み合わせを斡旋するはずがありません。ある地銀は、地元企業の連合に積極的に取り組んでいますが、お話をうかがってみると、事業目利きのできる人材が必要なようです。連合を斡旋するにあたっては、これも重要なポイントになってきます。
 本日私は、総論だけでなく各論に踏み込んでお話させていただきました。中にはあえて極端な言い方をした部分もあります。総論だけ話していたら何も進みませんし、きれい事だけでも何も解決しません。各論やあえて極端な言い方をしたのは、これをたたき台に議論が起きて欲しいからです。議論を進めていくと、実行できるものと実行できないものが明らかになってきます。実行できない場合は、アプローチの仕方を変えていけばいいのです。こういう中で富山の産学官金が連携していけば、1歩を踏み出すことができて、富山のものづくりを更に強くできると確信している次第です。ご静聴ありがとうございました。

質疑応答

 富山県人の県民性との絡みの中で、富山のものづくりの強さ・弱さのお話には興味深いものがありました。自己PRがあまり得意でない点は確かにその通りですが、2015年春に開業する北陸新幹線は、新たな交流を生むチャンスではないかと思います。これが富山県のものづくりにどのような影響を及ぼすとお考えでしょうか。

 北陸新幹線に関しても、開業したから人がくるはずだと思い込まずに、その前段階として北陸新幹線と北陸のことを知っていただくことが重要です。知っていただいた上で、もっと来ていただくという姿勢が必要でしょう。北海道物産展はその好例で、北海道の方々が先に東京や大阪などにやってきて北海道の宣伝を地道に行い、その上で多くの人々を北海道に呼び込みました。
 私は生まれは埼玉、育ちは東京で、仕事に就いてからも東京や海外工場が長く、工機技術本部の担当になって富山で仕事をする機会が増えました。最近はだいたい、月の1/3は富山にいます。富山に来る機会が増えてわかったのは、ここで培われている技能は他県では再現できない、真似ができないということです。それがわかって私は、工機技術本部の工場を80億円かけて、富山でつくることの決断ができました。富山にはものづくりの素晴らしいポテンシャルがあります。全国でもトップクラスです。それを知っていただくことが、まず大切だと思います。

作成日  2015/01/06

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