第27回 株式会社山口久乗 現代仏具 おりん TONIO Web情報マガジン 富山

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企業活動には山あり谷あり。谷から脱却し、右肩上がりに導いた経営者のひと言には再起のヒントあり。

第27回 株式会社山口久乗

苦節14年のおりんの展開
現代仏具にもう一つの波が…

蝋燭立ての本体の部分と芯の部分が簡単に
分離する構造にして、地震の際、芯が凶器にならないようにした。
この改良が、現代仏具のブームを起こすことにつながった。

 平成7年1月17日早朝。後に阪神・淡路大震災と名づけられた悪夢が、神戸などを襲った。その時、山口久乗(やまぐちきゅうじょう)の山口敏雄社長は高岡にいたが、別な意味で、地震による衝撃を受けたのだった。
 当時を振り返って同氏が語る。
 「地震から数日して、被災された問屋さんのお見舞いと復旧のためのお手伝いを兼ねて、神戸にいきました。ご存じのように街は壊滅状態。被災されたお宅の仏壇を拝見すると、側面が穴だらけになり、とても修理できる状態ではないものがありました。原因は仏壇の中の蝋燭立てです。地震の衝撃で蝋燭立てが仏壇内で乱舞し、針のように尖った芯が側面に刺さり、穴を開けた。平安を願う仏具が凶器になったわけです。そこで、これではいけないと思い、安全な仏具を開発することにしたのです」
 神戸から帰った山口社長は、さっそく蝋燭立ての改良にとりかかった。その際、安全な設計にするとともに、現代調のデザインにして仏具の新たな市場を開こうとしたのである。現代仏具の始まりだった。
 この試みは、仏具業界にあっという間に広まった。各社一斉に現代仏具へと舵を切ったのは、高度成長以降ライフスタイルの変化によって仏具の販売が低調になり、皆そこからの脱出を求めていたからだ。

音の効果を科学的に証明して

14年間おりんに導かれてきた山口敏雄社長。

 仏具が次々と、現代調のデザインに生まれ変わっていく中で、おりんは寄り道しながら今の形になってきた。
 「おりんにキズがあると、音が割れてしまいます。そこで私たちは全商品検音しているのですが、ある時、おりんによって音階が違うことに気づき、ドレミでそろえることができるのではないか、と思ったのです」(山口社長)
 出発はいわば、遊び心だった。さっそくおりんで、音階をつくった(平成14年)。そこまでいったら、次はメロディーにして楽しみたいところだ。学校や保育園のチャイムを、おりんの音階でつくった。列車発車時のメロディーも、おりんで奏でた。こうした活動をしていると、“変わった仏具屋さんがある”と伝わり、テレビや新聞でも取り上げられるようになった。
 一方で山口社長は、“おりんの音を聞くと心が落ち着いてくる”と常々感じていたのだが、それは自分の思い込みなのか、それとも根拠のあることなのかを知りたいと思い、研究機関等に検証・実験を依頼したのだ。
 その依頼先のひとつが、日本音響研究所であった。実験結果をまとめたレポートには、おりんの音により脳からアルファ波が出され、それによって落ち着きや癒しを感じるようになると結論づけられていた。また、おりんの音にはミッドアルファ波をもたらす効果があるとも記載されていた。
 ミッドアルファ波。これも脳波の一種だ。平たくいうと、ミッドアルファ波が出ると、自分の能力をフルに活用できるリラックスした状態になり、最高のパフォーマンスを出せるのだという。
 また富山大学では、ある教授の協力を得て心理学的な実験を実施。学生を被験者にして、おりんの音を聞く前と後での気持ち変化を調べた。その結果、学生からは“憂鬱・不安な気持ちが、おりんの音によって少なくなった”“やる気のない状態だったものが、おりんの音を聞いてがんばろうという気になった”などプラスの評価が多く聞かれた。
 「おりんの音による癒し効果は自分の思い込みではなく、科学的にも証明された」
 山口社長は今度は、そう思い込んだ。そして、おりんのセールス、おりんの音のセールスに邁進したのだった。

売れない。目先を変えて…

東京インターナショナル・ギフトショー2010に出展した際の、
アクティブデザイン&クラフト・アワードコンテスト大賞の
記念の楯。

 ところが、なかなか売れない。仏教系の幼稚園に、「チャイムで使うほか、子どもの情操教育に…」と売り込んでも、「そんなにいいものでしたら、喜捨して(つまり寄付して)いただけるとありがたい」といわれる始末。セレクトショップなどを回っても、首を横に振られるばかりで、売り場そのものを確保することができなかった。分厚く高い壁が、立ちはだかったわけだ。
 「当初は本当に、鳴かず飛ばずでした。ただ仏具の問屋さんが、現代調のおりんの開発を試みている当社を、側面から応援してくれたのです。ですから続けることができました」(山口社長)
 変化が表れたのは、平成20年頃からだ。売れ行きそのものの好転はまだ先のことだが、マスコミに取り上げられることが格段に増えてきた。それも地方紙、ローカルネットだけでなく、全国版からの取材も時々受けるようになった。
 「それでもなかなか売れませんでした。このおりんを売るということは、単なる物販ではなく、まったく新しいビジネスモデルだと自分に言い聞かせ、試行錯誤を続けてきました」
 山口社長はそう語りながら、優凛(ゆうりん)シリーズのおりんを次々出して、にこやかに音色を聴かせてくれた。

優凛シリーズの「どれみりん13音セット」。
澄んだ透明な音が魅力です。
You tube上に同社のおりんの音を紹介するコーナーもある。
生の音より音質は劣るが、雰囲気はわかる。

 平成22年度に入って、山口社長は目先を変えた。まずは9月に行われた「東京インターナショナル・ギフトショー2010」に出展(費用は自社負担)。その際、同社の優凛は、その年の出展作品の中からデザイン性に優れた商品が表彰される、アクティブデザイン&クラフト・アワードコンテストで大賞を受賞し、耳目を集めた。またブースで出会ったバイヤーが、セレクトショップでの販売を仲介してくれたほか、雑誌「家庭画報」の通販コーナーでの採用に向けて尽力してくれたのだった。
 そして年が明けた2月。県内で企画・製造される工業製品で、性能、品質およびデザイン性に優れたものを選定する「富山プロダクツ」に選ばれ、そのカタログや県産品の販促イベントなどでも紹介されるようになった。

支援の輪が共鳴して…

優凛シリーズのひとつ「まわりん」。
ペーパーウエイトに使われる方がいるそうで、
使い方は消費者によって異なるかも…。

 「おかげさまで仏具の流通とはまったく違う方々から引き合いをいただき、少しずつ商品が動くようになりました。この過程で、私たちが売ろうとしている商品は何かを改めて考えました。もともとの本業の仏具ではない。といって単なるインテリア小物でもないし、ホビー商品でもない」
 山口社長の悩みは尽きないようだ。ちょうどその頃富山県では、県産品のブランド化支援に乗り出しており、同社では優凛シリーズで「明日のとやまブランド」に選定されて(平成23年度)、ブランドイメージをつくるための指導を受けた。また24年度には、当機構の「とやま新事業創造基金 地域資源ファンド事業」と「販路開拓ステップアップ事業」に採択されて、新たな商品開発とその販促支援、また既存の優凛シリーズの販路開拓に乗り出した。
 「ステップアップ事業では、流通に詳しい専門家の方から『○○に営業をかけたら、道が開けるのではないか』とアドバイスいただき、当社からそこへアプローチしました。そういう推薦をいくつも受け、今のところ3店で販売していただけるようになりました」と山口社長は語り、それとは別に進行しているOEM生産に発展しそうな案件があることも教えてくれた。
 一方のファンド事業では、新商品開発とその販促支援を実施。2月6日から開催される「東京インターナショナル・ギフトショー2013」に新商品をデビューさせるために、この取材の1月中旬時点でも細部のデザインを検討しているのだという。
 開発中の新商品を見せていただいた。ギフトショーでお披露目した後は、ホームページなどでも随時公開していく予定というから一般の読者の方にはそれを待っていただくより他ないが、仏具、インテリア、ホビー、この3つの趣きを兼ね備えた、おりんである。

 「遊び心で始めたことが、事業としてやっと芽が出そうです。苦節14年…」
 そうはいいながらも、新商品の試作品をテーブルに出す時の山口社長は、イキイキとしていた。「おりんの音の一番の実証実験は、社長だったのでは…」と、思わず口にしてしまったほどだ。
 現代調にデザインされたおりんを売るのは、単に物を売るビジネスではない。また、音を売る商売でもない。おりんの音のあるライフスタイルを提案し、お気に召していただいた方に買っていただく。仏具の販売とはまったく異なり、ビジネスモデルそのものが違っていたわけだ。
 長く寄り道しながら歩んできた同社であったが、ひょっとしたらおりんに導かれて最短距離を歩いてきたのではないか…。そんなふうに思える取材であった。

連絡先/ 株式会社山口久乗
〒933-0941 高岡市内免2-8-50
TEL0766-22-0993 FAX0766-22-8293
URL  http://www.kyujo-orin.com/

作成日  2013/01/30

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