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第64回 トモスメイカー合同会社

通販サイトの売行き分析を生かして新商品を企画

ニーズを形にすると「ハズレ」は少なくなる

大手通販サイトでの商品の売れ行き調査を踏まえ、
自社商品を企画・開発しているトモスメイカーの
松田大輔代表。

 大手プラントメーカーに勤め、ある年の技能検定で富山県内トップの成績を収めた松田大輔さん。しかしながら、ものづくり一本に絞った生き方と、いわゆる“宮仕え”に限界を感じてのちに退職。個人事業主としてネット通販を展開する一方、請われて人材派遣会社に籍をおいて店舗立ち上げのマーケティング業務を担当するようになった。平成24年、松田さん25歳の時のことだ。
 そして5年後の平成29年にはトモスメイカー(合)を創業して専業となり、それまでに培ったマーケティングのノウハウを生かしながら、各種商品の製造・直販に独自の道を拓いてきた。
 「数百年の歴史のある伝統工芸品も、マーケティングの視点を取り入れると、ハズレは少なくなります。課題は、消費者のニーズをいかにしてくみ取るか、です。万人請けする商品を狙って、結果としてあまり特徴のない商品をつくるのではなく、例えば市場規模の0.1%、あるいは0.01%でも、確実にファンを獲得するような、そういう商品を開発していけばハズレることはないと思うのですが・・・」  
 独自のマーケティング手法をもとに、数々の商品を世に送ってきた松田代表ならではの言葉だ。そのユニークな視点を紹介しながら、商魂たくましい氏の創業時の歩みを振り返ってみよう。

発注先の選び方は・・・

同社のヒット商品に育ったトモスライト夜釣り用
(写真上)とトモスライト災害時用(写真下)。
いずれもお客様の声を商品化に生かして
ヒット商品となった。

 まずは何をつくるかを、いかにして決めているのか。松田代表自身には、特定のジャンルの商品を出そうというこだわりはない様子。ネットや新聞・雑誌などに商品情報のアンテナを張り、ビジネスになりそうな商品を探すところから始めるそうだ。そして「ピンとくる商品があれば、アマゾンや楽天などの大手通販サイトでの類似品の売れ行きを調べる」(松田代表)という。
 そこで1日平均の販売数をつかみ、3カ月分の販売数を初回発注(つまり3カ月分の在庫)として原価計算や価格設定を行い、品質は同程度ながらも類似品より価格は若干安くなるように設定して、通販サイトでの販売を開始。商品の発注先は、一部商品は国内であるが、ほとんどは中国や東南アジアの国々の工場だ。しかもコストダウンを図るために、商社や代理店を通さず、商品の仕様・企画を直接工場に提示し、価格交渉も松田代表自ら行っている。
「こうしていけば、価格勝負になっても負けない」と語るが、商品の品質管理についてはどのようにしているのか、疑問がわいてきた。その疑問に答えて松田代表曰く。
 「ある国の工場に依頼したら、不良品が混ざっていてビジネスに支障をきたした・・・という話しをよく聞きますが、私はそうならないよう最初から手を打ちます。まずは、発注先候補の工場が、ISO9000シリーズの更新のための審査やその国の業界団体の監査・検査などを定期的に受けているかを調べます。これらを定期的に受けている工場は、信用できます。例えば中国の工場では、工場に専門的な検査員を派遣する制度があり、工場の品質基準では『OK』でも、検査員が『NO』の判断を出したら、出荷できません。そういう検査員を定期的に受け入れている工場に製造を発注するのです。それに仮に、中国の工場から不良品が届いたとしても、中国では30日間の返品は可能なシステムになっています。要はその国の、ビジネスの仕組みや商習慣を理解し、なおかつ第三者の検査や監査を定期的に受けている工場に発注すればよいのです」
 実際、同社では本稿で紹介する商品の中では、ヘッドライトの「トモライト」は商品を受け取って全数の検品を国内で行っているが、他の商品は工場出荷時の検品に任せ、不良品があった場合は、次回の発注時にその分を値引きすることにしているという。

ヒット商品誕生

着物問屋からの依頼で甚平(写真上)と
作務衣(写真下)の商品化も行う。
いずれもクラウドファンディングを利用し、
支援者(発注者)を募って商品の製造に入っている。

 こうして初期に商品化したのが包丁や自動車用の工具等の金属製品だ。いずれも、先述のように3カ月分の在庫を抱えるところからスタート。「時には完売までにもう少し日数を要したこともある」ようだが、2回目、3回目と発注を重ねるようになっているという。
 そして商品のアイテム数が増え始めた平成29年10月のこと。お客様から「夜釣りで使えるライトは扱っていないか」と問い合わせが入った。そのお客様とのやり取りや、ネットやSNS上での夜釣り用ライトにつての声を拾い集めてみると、「暗くて、使いづらい」という意見が結構あるのに気づいた。そこで松田代表は、ライトを5個つけたヘッドライト「トモライト」を企画。実際につくって販売してみると、類似品の3倍の売れ行きを示し、売上の柱に育ったのだ。
 「このライトはものすごく明るいのですが、フル充電で3〜4時間程度しか持ちません。一方、類似品はあまり明るくなく、乾電池で12時間近く持つものもあります。トモライトは、使用時間では劣っていますが、明るさは格段に勝っています。そこを評価していただいてヒット商品になったのではないか」(松田代表)
 このライトには後日談が2つある。1つは、あまりの売れ行きに嫉妬を買ったのか、某国の同業者と思われる筋から嫌がらせを受けたのだが、それがニュースとなり、なおかつ同社に問題がないことがわかったため、トモスメイカーの社名や商品の知名度が上がるという、逆の効果をもたらしたのだ。もう1つの後日談は、「トモライト」のユーザーから、「もう少し使用時間を長くできないか」という相談が入った。詳しく事情をうかがうと、そのお客様は平成30年の台風・豪雨災害の際、停電にあわれた様子。その時「トモライト」を使われたようだが、「一般の懐中電灯より明るくて助かった。できれば使用時間がもう少し長ければよい」と声を寄せていただいたのだ。こうして「トモライト」はシリーズ化されることとなり、災害時用はフル充電で7時間前後使えるよう改良されたのであった。

高級革のリサイクルも事業化

イタリア製の高級な革ジャケットなどをクリーニングし、
サイフ(写真上)やベルトポーチ(写真下)をリメイク。
「エキゾチックレザーを使った革製品を
実店舗でも販売してみたい」と松田代表はいう。

 松田代表のこうした活躍ぶりは、周囲に漏れ伝わるように。ある時、知り合いの着物問屋から、ネットで販売する手法を教えて欲しいという依頼が舞い込んだ。着物問屋は600近い商品を扱いながらも、今まで積極的にネット通販に取り組んだことがなかったという。
 手始めに、その問屋さんが扱っている甚平を通販サイトで販売してみた。すると想定以上の注文が入り、今年はオリジナルデザインの甚平をつくり、トモスメイカーブランドで販売するようになった。またこれと並行して同社では、お坊さんが用いる作務衣も企画。これはクラウドファンディング形式で注文を呼びかけたところ、1カ月で300着を超えるオーダーが寄せられ、問屋・工場の関係者はうれしい悲鳴を上げたそうだ。
 革のサイフもビジネスになりそうだという情報が舞い込んだ。さっそく革の加工が盛んなタイ・バンコクへと足を運ぶと、廃棄された革製品をリサイクルしたサイフの製造を思いついた。
「どのような革製品をリサイクルするかというと、イタリア製の羊革を素材にした高級なジャケットです。1着最低でも50万円以上はしますが、『もう着ない』ということで廃棄される方も多い。それを買い付けて汚れがあれば落としてサイフにリサイクルする。もともとの素材は高級品ですから、リサイクルしたサイフといえども品質は極めてよい。これもクラウドファンディング形式で注文を募ってから製造を始めましたが、1週間もしないうちに100万円のオーダーが入り、さっそく工場に発注をかけた次第です」(松田代表)
 好調な滑り出しを見せたところから革のサイフは後に追加を発注。また革のリサイクルでベルトポーチを商品化することを企画しところ、「クラウドファンディングで3日間で130万円を超えるオーダーを受付け、それが新聞で報じられて受注をさらにのばした」(松田代表)ようで、トラベルポーチなどの商品の企画も新たに練っているようだ。

助成制度を活用して新商品を企画

「通販サイトを活用した商品企画手法を体系化して、
若い人たちのチャレンジや伝統工芸品を
守ろうと努力している後継者たちを支援したい」
と語る松田代表。

 新しい商品を企画した際、設計や試作品づくりなどの初期投資は、自己資金あるいはクラウドファンディングにより投資を募る方式で行ってきた松田代表だが、公的な助成制度を活用しての商品開発も試みた。それは自転車用のライドで、ヘッドライトのシリーズ化の一環として取り組まれたものだ。
 「令和元年度の『創業・ベンチャー挑戦応援事業』の採択を受けて、新しいタイプの自転車用のライトの開発を目指しました。一定の暗さになったらライトが自動的に点(つ)き、周囲が暗くなるとライトは自動的に明るくなる。また自転車を降りればセンサーがそれを感知して、ライトを消す。自転車版のドライブレコーダーも搭載して、安全運転に寄与するようなライトで、どんな自転車にも簡単に着脱できるものです。もちろん充電式です。500万円近い初期投資が見込まれ、その一部を助成していただけたらと思ったのです。おかげさまで採択されたのですが……」
 続く松田代表の言葉を要約すると、以下のようになる。
 ライトの設計・試作品づくりは、計画通りに進んだ。しかしながら、年末から見込んでいた製造がまったく進まなくなってしまった。コロナ禍により、中国の工場が動かなくなったのだ。報道等によると、欧米や日本の企業より中国企業の生産活動の再開は速かったようであるが、末端の工場までとなると、今少しの日数が必要なのではないか、と松田代表はみている。
 「トモライトは、明るさ重視の夜釣り用、長時間使える災害時用、その中間型とシリーズ化してきましたが、ある通販サイトで1年間で3万個近い売上数を記録して、ライトのトモスメイカーとしては知られつつあります。自転車のライトも一定数は見込めるでしょう。新型コロナウイルスの影響がどのように続くか不明ですが、大都市周辺では密を避けるために自転車通勤をされる方が増えつつあるようですから、自転車用ライトの需要は計画時よりは上がっているのではないかと推測されます」
 こう語る松田代表の胸の内には、コロナ禍が収まることを願う祈りが静かに唱えられているように思われた。
 取材の最後に今後の抱負について尋ねると、2つのことについて「やってみたい」と返ってきた。その1つは、「富山市の総曲輪などの商店街で、エキゾチックレザーの商品を扱うお店を持つ」ことだという。エキゾチックレザーとは、クロコダイルなどの希少性の高い革で、こうした革でサイフなどをつくってのビジネス展開の例は日本ではほとんど例がないので、富山でお店を構えても商機は十分にあると見ているようだ。
 そしてもう1つは、「通販サイトの売れ行き調査を元にした商品企画についてのノウハウを体系化し、マーケティング手法の1ジャンルとして確立させたい」そうだ。それを教育の場で指導したり、伝統工芸品を守ろうと日夜努力している若い後継者にレクチャーしたりして、ものづくりの技術が受け継がれることを支援したいという。
 その夢がぜひ実現されるよう、当機構としても応援していきたい。

トモスメイカー合同会社
本社/ 富山市八尾町薄島57-24
Mail /info@urnai.com

作成日  2020/09/23

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