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第62回 株式会社IMATO

事業を興す夢を持って30年あまり

漁師を愛した男が興した事業とは・・・

「越の干蟹」。ほぼカニ1パイ分の脚が独自の製法(特許出願中)
で干されている。1袋800円(税別、卸値)。IMATOでの直売の他、
富山県内では新湊・庄川の道の駅などで販売。

 まずは右の写真をご覧いただきたい。これは富山湾産のベニズワイガニを用いて作った「越の干蟹」(こしのほしがに)。左右それぞれのツメと最後列のアシを除いたものをむき身にして干したもので、そのまま酒の肴に、あるいはカニ雑炊の具にと、食べ方は工夫次第でいろいろ。取材の際、試食させていただいたが、口に含むと唾液で身が戻ってほぐれ、カニの甘味で満たされてくる。
 この干蟹。氷見出身の東海勝久氏が、縁あって新湊で漁師になり、これもまた縁あって漁業権を得て一人親方として漁を行うかたわら、漁師の収入の安定を模索する中でたどり着いた逸品だ。その試みはまだ緒についたばかりであるが、起業家精神が旺盛な氏のチャレンジを紹介しよう。

新湊で漁師に、カレイで収入の安定化図る

氷見生まれながら、新湊で漁師になり漁業権も得た東海勝久社長
干物の分野で新境地を拓こうと奮闘中。

 中学生の頃から、いずれ自分で事業を興したいと模索していた東海氏。友人・知人に誘われるままいくつかの仕事を経験し、事業のネタ探しをしていたのだが、22歳頃、友人の職探しに同行して新湊職業安定所(当時)を訪問することに。友人が「漁師募集」の求人票をたまたま手にした時、東海氏の人生行路が変わり始めた。その場(つまり職安)から網元のもとへ面接に赴くと「一緒にいる君もどうだ!」と誘われたのだ。
 「氷見でも一時漁師をやった経験があり、おもしろかったという記憶があったので、友人とともにそこで働くことにしました。そこで3年ほど働くうちに友人は辞めたのですが、漁業にまつわる仕事が自分には合っている気がして、漁師、仲買、小売り、海産加工、海産物の運送、港湾整備……のどれかで事業を興したいと思うようになりました。その後しばらく大敷網の鰤漁に携わっていたら、当時の新湊漁協の組合長が、『若い漁師を育てたい』といわれて、『君が本気なら漁業権を認める』といってくれたのです」
 こうして新湊の海で、新しく漁業権を得た東海氏。大きな漁場の手前の、「前浜」の言葉がピッタリくる小さな漁場であったが、大敷網の従業員との兼務の形で前浜に網を下ろし、よくとれたマコガレイを後には「万葉かれい」と称してブランド化し、収入の安定を図ったのだ。
 「当時は、カレイよりヒラメに人気があって、高値で取引きされていましたが、私の漁場ではカレイがよくとれました。ある時親しくなった仲買人に、カレイを扱ってくれないかとお願いしたら、『大きいものを無傷で生きたまま持ってきたら、1枚500円で買う』といってくれたのです。それで大型のカレイを無傷で水揚げするようにすると、確かに1枚500円で引き取ってくれましたが、豊漁の場合はさすがにすべての買付けは難しかったのです。そこで、さてどうしようと思案していた矢先に、ヒラメに寄生虫がついていることがわかり、北陸の料亭などが私が水揚げしていた大型カレイを注目するようになったのです」(東海氏)

主婦の声をヒントに商品開発

IMATO創業時、「創業・ベンチャー挑戦応援事業」の支援を受け
て進められた、「越のひもの」のげんげ。富山湾の珍しい魚も干
物化し、保存法にも工夫して、保存料無添加にしてある(写真上)
とやま起業未来熟を受講中の、東海社長の様子(写真下、左端)

 時には、浜値で1枚2,000円の値をつけるように。こうなると、新湊の海では新参者だった東海氏の存在も認められるようになり、カレイ漁に挑戦したいと若手の漁師数人が手を挙げたのだ。さっそく「沿岸漁業研究会」を立ち上げた。そして生きたまま無傷で水揚げするカレイ漁のノウハウを共有し、「万葉かれい」の商標も登録。水揚げ後、一昼夜以上はきれいな海水で生かして泥を吐かせ、その後に出荷するなどのルールも明確にして、平成24(2012)年からは「万葉かれい」のブランド力強化を図った。
 一方で氏は、新湊の若い主婦の求めに応じて、魚のさばき方や料理法を教える料理教室を開催。そこで幼子を持つ母親から「市販されている干物は塩分が濃く、保存料なども使われているから不安だ。子どもが小さいうちは自分ではつくれないから、東海さん、塩分の薄い干物をつくって商品化してほしい。そういうふうに思っている母親はたくさんいると思う」と声をかけられたのだ。
 調べてみると、そうしたニーズは確かにある。富山湾からは、1年を通じてさまざまな魚が水揚げされるため、魚種ごとに塩分濃度や加工法、保存法を工夫していけば、塩辛くて硬い干物ではなく、“新鮮な干物”ができるのではないかと思いついた。それを親しい漁業関係者に相談すると、「新世紀産業機構に相談してみたら」と答えが返ってきた。
 その干物の中にはベニズワイガニの身を干すこともアイデアの1つにあったのだが、調べてみるとカニの干物は全国どこにもなく、商品化については不安しかなかった。今度はそれを射水商工会議所に相談すると、「とやま起業未来塾に入塾してビジネスプランを練ってみたらよい」と薦められたのだ。
 時は平成30(2018)年が明けて数カ月した頃のこと。漁師のかたわら水産加工業にも乗り出そうと、IMATO創業に向けて準備をしていた時で、「自分で事業を興したい」と夢を描いていた時から30年近い月日が流れていた。

“新鮮な干物”とカニの干物を商品化

ベニズワイガニを前にして、「越の干蟹」の成功を誓う東海勝久
社長。2020年から本格展開の予定。

 “新鮮な干物”については、当機構の「創業・ベンチャー挑戦応援事業」の採択を受け、また富山県食品研究所の協力も得て、魚種ごとの開き方、肉厚、時期による塩の振り方、乾燥時間などについて、味や旨味のデータを逐一とって最適な製法をマニュアル化し、「越のひもの」の名前で商品化することができた。
 干蟹については、カニを干物にするアイデアの独自性、新規性は誰もが認め、入塾が認められた。そこで未来塾に通いながら干蟹の製法を開発し、商品化することに。また食品の流通や加工に詳しい「富山県よろず支援拠点」のコーディネーターにも相談し、1年半近くかけて商品に磨きをかけるとともに、ビジネスプランについては未来塾を2年連続して受講し、ブラッシュアップを図ったのだ。
 「控えめな販売計画ですが、1日100袋の干蟹を生産、月20日稼働、1袋800円の卸値で試算すると、年間売上は1,920万円になります。ただ現実問題として、その100袋分のカニの調達が難しい。カニ漁が盛んな鳥取県から仕入れることも一案ですが、輸送費がかさんで原価が合わなくなる。原価の中でカニそのものが占める比率も高いのです。そこで『越の干蟹』は富山を中心とした近隣での流通に限定し、全国展開には海外産のカニも使って『かにぼし』のブランド名で販売していく。こちらは内容量を増やして、生産量、卸値も上げて先ほど同様に試算すると9億6000万円のビジネスになるのです」(東海氏)
 商材がカニだけに、滑らずに横ばいしたとしても毎年10億円近いお金が動き、仮に50%増で右肩上がりになった場合は、3年先には22億円のビジネスに成長する。
 IMATOのリーダーとして本格的に干蟹ビジネスに取り組むことになった東海勝久社長。県産ベニズワイガニの調達のメドも立ったというから、2020年からの3年間は横ばいではなく右肩上がりになるのでは・・・と期待するところだ。

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作成日  2020/01/30

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