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第61回 株式会社SUDACHI

リハビリから健康経営、そして美容整体へ

2度の未来塾受講を通じてビジネス発展

リハビリ特化型デイサービスで起業し、他にも事業展開を図る
SUDACHIの小川順大社長。手にしているのは、この記事の終盤
で紹介する「コーポレートスタンダード」。事業の方向性や目標を
5年ごとに作成し、社員と意識を共有しているという。

 近年、看護師や理学療法士などの医師以外の医療関係者が独立・開業するようになってきた。ここに紹介する小川順大氏もそのひとり。氏は9年近くある総合病院でリハビリ専門職として勤務した後で独立。学生の頃や勤め始めた当初は、「起業」の二文字は頭の片隅にもなかったそうだが、理学療法士としてキャリアを積むうちに、それが芽生えたという。
 「年数が経つにつれ、初期に思い描いていたリハビリや理想の理学療法士像について具現化したいといった思いが強くなりました。思いを前職の職場に提案しようと思ったこともあるのですが、組織が大き過ぎてなかなか難しいところもある。そこで『だったら自分が理想とするリハビリを提供できるように開業したらいい』と思い至って創業しました」
 リハビリ特化型のデイを運営しながら、後にビジネスゲームという手法で企業の健康経営をサポートするようになった(株)SUDACHIの小川順大社長は旗揚げの経緯をそう振り返るが、当機構は氏の起業を側面から応援したのであった。

ほとんど口コミで集客

SUDACHIのリハビリルーム。富山市南部を中心に利用される方
が多く、最近ではその北側の旧富山市内にも口コミで広がって、
利用者の間からは「支店を出して」という要望も上がっているという。

 小川社長が語る。
 「リハビリ専門職としてずーっと働いてきましたので、経済・経営、事業所の運営などについてはあまり知りませんでした。そこで本を読んだりしてそれらについて学び始めたのですが、知人から『とやま起業未来塾』のことを聞きました。また同じ頃、訪問リハビリを事業化している理学療法士からも『未来塾っていいよ。私もいって勉強になった』と勧められて、2013(平成25)年度に受講することにしたのです」(小川社長)
 ゼミ形式で進められ、講師や他の塾生との議論・討論も積極的に交えて行われる未来塾の講座。ビジネスプランの立て方や販促、マーケティングについての考察などでは、乾いた土に水がしみ込むように小川社長に入ってきた。
 氏は、塾ではまず、後に「リハビリ倶楽部」と名づけられる介護事業について検討。倶楽部では介護保険の要支援1・2、要介護1〜5の認定をお持ちの方を中心に、リハビリをメインとした運動機能の回復サービスを行うのだが、「人のお役に立ちたい」という理想の陰で忘れられがちな、「事業として継続可能かどうか」について厳しく講師陣からのフィードバックを受けシミュレーションがなされた。
 「開業当初の人員イメージは、私を含め3人でしたので、月平均何人の利用者に来店いただき、1人当たりの平均サービス料はいくら、事務所の維持費などの必要経費がいくらと想定し、損益分岐点を出しました。またそれを確保するための、集客の方法や病院などのリハビリ部門との差別化を図る工夫などについても未来塾で練り上げました」(小川社長)
 宣伝・集客は、事務所を構える富山市で活躍するケアマネージャー(要介護者本人やその家族からの要請で、本人の心身の状況に応じて適切な介護サービスが利用できるよう市町村やサービス事業者の調整を行い、要介護者が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識・技術を有する者として介護支援専門員証の交付を受けた者)に、開業をお知らせするパンフレットを持って行った挨拶まわりのみ。病院勤務時代から該当地域のケアマネージャーとは親しくつきあい、要介護者のリハビリの進捗状況については、ケアマネージャーに報告するのはもちろんのこと、家族にも詳しく伝えていたところから、その信頼関係をもとに新しい要介護者を紹介していただけるのではないかと期待していたのだった。
 「宣伝用のパンフレットを使ったのは初期のその時のみで、その後は口コミで広がっています。利用者さんやご家族の方へ、誠実に向き合い続けたおかげだと思います。スタッフの雇用も徐々に進み、4年間で6人に増えました。最近では、利用者間での口コミにより来店される方も増え、支店を出して欲しいという要望もいただくようになりました」と小川社長はニコニコ顔で語り、「今は『私に店長を任せてください』とスタッフが手を挙げるのを待っているところ」だという。

従業員の健康も会社の資源

健康経営ゲームで使用するツール(上)とゲームの開催風景(下)。
健康経営のホームページ

 こうしてリハビリ倶楽部を進めるうちに、小川社長は「企業に健康経営の視点を取り入れる必要がある」と気づいた。そのきっかけは、リハビリ倶楽部利用者のほぼ半数は男性で、「病気になって初めて健康を意識するようになった。自宅のテレビをつけると健康関連の番組が日中多い。病気になる前に知っていたら・・・」と多くの方々が話していたことによる。
 「ショックでした。私たちが健康に対して当たり前だと思っていたことが当たり前ではない。ということは、50代60代になってから予防や対策に取り組むのはすでに遅いのかもしれない。介護業界で私たちが経験している、ご病気になった方々の悔しい思いを、次の世代にしっかりと届けることが必要ではないか。そのためには20代30代の若い時から健康について意識してもらう方が効果的ではないかと思いました。そこでの取組みは、予防というより教育といった方が適切でしょう」
 小川社長がさらに続ける。
 「最近少しずつ知られ始めていますが、健康経営とは社員の健康増進への取組みが、『将来的に収益性等を高める投資である』という考えのもと、健康管理を経営的な視点から捉えて戦略的に実践することです。その大切さを理解するツールとして、楽しく学ぶことができるビジネスゲームを開発して商品化すれば、経営陣にも社員にもわかりやすいのではないかと思いました」
 そう閃いた小川社長はビジネスゲームの開発を数多く手がけている、あるプランニング会社に協力をあおぐとともに、再び「とやま起業未来塾」(2018(平成30)年)に入塾して、「健康経営ゲーム」の事業としての可能性を探ったのだ。
 健康経営ゲームは、「いい会社をつくる」ことを目的とし、かつ、健康経営の認知を進めるためのツールであり、関連市場も育ちつつある。国では「健康経営優良法人認定制度」を始め、認定を受けた企業は自社の働き方改革の取組み例として紹介するとともに、求人活動に活かす企業も現れているという。
 「私にとって2度目の未来塾が始まった頃には、ゲームの商品化は完成しており、販売はこれからという状態でした。受講しながら販売戦略を練り、実行しながら軌道修正する。その繰り返しでした。その中で得た販売方法は体験会を通じて告知し、そこで気に入っていただいた企業に導入していただく、というものです。このゲームは8名から100名規模で実施が可能で、弊社からスタッフを派遣してゲームの運営をしますが、社員の方にノウハウをマスターしていただければ、それ以降は社内単独での開催も可能になるようプログラムされています」(小川社長)
 初期の販売先は、東京や大阪を中心とした大都市圏の企業だそうだが、最近では富山県内での導入も進みつつある様子。開発費回収のメドも立ち、今後の展開次第では「収益の柱」になることが期待されているようである。

5カ年計画を社員と共有

富山市内の美容モールにオープンした美容整体の「Re-gale」
(リガーラ)(上)と、整体施術の様子(下)。建物の反対側に
モールの総合受付があり、内部の通路経由で美容、ネイル、
まつエクなどのコーナーにも行ける。Re-galaのホームページ

 小川社長が2度目の未来塾で「健康経営ゲーム」の販促プランを練り始めてしばらくした時、富山県内屈指の美容グループとの提携話が持ち上がった。それは美容室、まつげエクステサロン、ネイルサロンなどの総合美容モールの中に、美容整体のコーナーを設けようというもの。その美容整体をSUDACHIが引き受けて運営できないかというのだ。
 「髪や爪、まつげを整え、美しく化粧をしても、姿勢が悪いと台無しになります。そこで腰痛を改善したり姿勢を正したりするための施術を理学療法士の知識と技術を使って行うわけです。美容と健康は、多くの共通点があります。美しくなるには食事や運動が必要で、健康になるためにも食事と運動は必須です。たとえ、入口が違っていても、結果、多くの方に健康を技術としてご提供できれば、介護業界で私たちが経験している、ご病気になった方々の悔しい思いを、次の世代にしっかりと届けることができるのではないか。そして、例えばネイルを整えるために来店されたお客様であっても、美容整体に関心を持たれて利用されることがありますし、その逆もある。美容と健康の相乗効果を狙ってひとつの美容モールの中で営業しようというわけです」(小川社長)
 モールでの美容整体のオープンは2019(令和元)年6月。小川社長は「相乗効果を狙う」と未来塾のビジネスプランの中でも期待していたのだが、その通りの結果になりつつある。オープン当初から月単位の収支で黒字が出るようになり、順風満帆なスタートを切ったのだった。
 同社では今、社を挙げて世界最先端の心理学ともいわれる「選択理論」(アメリカの精神科医、故ウィリアム・グラッサー博士が提唱)を学んでいる。これは「コントロール理論」と呼ばれるもので、人の行動は外からの刺激により動機づけられるものではなく、本人の内側からの内発的動機を基に、自ら選択しているといった理論。仮に人間関係で何か問題があった場合、相手を動かして(コントロールして)問題解決を図るのではなく、自分から選択し自ら変わろうというもので、「良好な人間関係を築く技術」を身につけることができるという。
 「人は弱く、周りに責任転嫁しがちです。しかし、それでは何も解決しません。自分の行動の責任は自分にある。自分で人生を切り拓いていく。選択理論はそういって、私の背中を押してくれています。
 リハビリや介護の現場では、障害を持っていながらもイキイキと生活できている方と、困難に直面したままの方がいらっしゃいます。その原因の多くは、夫婦関係や親子関係などの人間関係にあります。だからこそ、まずは自分たちから率先して、多くの仲間と共に『社会的健康』つまり『身近な人との良好な人間関係と経済的豊かさ』を実現していきたいと思います」
 小川社長はそういって、手帳サイズの、手製の「コーポレートスタンダード」を取り出した。そこには2018年を起点にしたSUDACHIの5カ年計画が記され、会社が大切にしている価値観や事業目的、事業展開の方向性、売上目標を社員全員で共有しているという。そして、半年毎に改善をし、事業の進捗状況を踏まえて次の5カ年計画を練り始め、これを繰り返して事業の成長を図ろうというのだ。
 「社外秘」の大事な資料らしいが、ちらりと中を見せていただくと「美容整体東京進出」の文言があった。“未来塾の効果はこんなところにも出ていたのか”と編集子はひとり満足の笑みを浮かべたのであった。

株式会社SUDACHI
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TEL 076-461-6627  FAX 076-461-6628
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作成日  2019/10/24

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