第68回 株式会社とやまなび 富山県よろず支援拠点 とやま起業未来塾 若者・女性等創業チャレンジ支援事業 富山県地域企業再起支援事業費補助金  TONIO Web情報マガジン 富山

TOP > 未来を創るアントレプレナーたちの挑戦 > 第68回 株式会社とやまなび

TONIOに集う夢・情熱・志。気鋭のアントレプレナーたちとTONIOが紡ぐ挑戦の棋譜を読む!

第68回 株式会社とやまなび

「塾選び」のサポートを事業化する中で

水平展開、オンライン化のアイデアも

とやまなびが運営する「塾選び富山」のトップページ。
令和2年12月末時点で、県内197カ所の学習塾や
家庭教師が登録されている。

 学生時代、塾の講師をしていた早水由樹さん。「いずれ自分で塾を持ち、子どもたちに教えたい」と夢を描くようになり、ある進学塾に就職したのであった。
 起業の夢が具体的に動き出したのは、進学塾に勤めて3年が経過した時のことだ。早水さんが当時を振り返る。
 「私の担当教科は英語でした。進学塾ですから、テストや受験で1点でも多く得点できるよう指導していました。ある時、上司から『小学生の国語もみて欲しい』といわれて授業を進めるうちに、子どもの変化に気づいたのです。読解力が増してくるとともに、物語の主人公に思いを寄せて情緒が豊かになる子、趣深い詩を書くようになる子、将来の夢を描く子など、人としての変容が起こりつつあるのを目の当たりにしました。高得点をとるための指導も確かに大事ですが、学力の土台になる生きる力を養うような塾をやってみたいと思うようになったのです」

リクルートでビジネスの基礎を

とやまなびの代表を務める早水由樹社長。
「コロナ禍による苦境を当機構が行っている
『富山県地域企業再起支援事業費補助金』
により乗り越えることができた」と語る。

 そこで進学塾を退職。「学生時代から『先生』と呼ばれて世間知らずなところがあるため、創業前に多くの人と出会って刺激を受け、仕事の進め方なども基礎から学びたい」と早水さんは、転職セミナーで出合った(株)リクルートに就職。結婚情報誌『ゼクシィ』の北陸地区の営業を担当し、ドレス、エステ、指輪、引出物など、式場以外の業者からの協賛募集に歩くようになったのだ。
 「それらの広告情報を載せるための、新規開拓が私の担当です。企画書を書いてお店を訪れ、オーナーと商談するのが楽しく、成績も自然とついてきました。そのうちにチームリーダーを任せられ、若手の育成やマーケティングなども担当するようになったのです」(早水さん)
 営業職が水に合っていたのだろうか。任される仕事は徐々に大きくなり、転職して3年が過ぎようとする頃には、上司から「昇任試験を受けないか」と勧められるまでに。早水さんは「本当は、3年ほどの間でいろいろノウハウを学んで、自分の塾を開こう」と秘めたる計画を持っていたのだが、「もっと大きなマネジメントについても経験し、その後で独立しよう」と軌道修正した。
 「その頃の私は、単に『塾をやりたい』から、私と同じような思いを持った塾講師を育て、彼らをスタッフとして『塾を経営したい』と夢が膨らんでいたのです。そのためにはマネジメントのノウハウが必要で、中間管理職になってそれを習得しようと思ったのです」
 早水さんは昇任試験を受けた時をこう回想するが、それまでの3年間と、管理職になってのその後の3年半の間で早水さんの働く環境は大きく変わった。結婚し、子どもが生まれたため、夕方から夜にかけてが忙しい塾の仕事が難しくなったのだ。
 6年半勤めたリクルートを退職したのは平成26年のこと。直接塾に関わり、子どもたちと接することが難しいと感じた早水さんは、前職時代の『ゼクシィ』のビジネスモデルをヒントに、子どもや保護者の塾選びをサポートするサイトの運営を企画。塾が支払うサイト登録料を収入源としたビジネスモデルを考案し、その収支計画を立ててみた。そして、それが妥当かどうか、見落としがないかどうかのアドバイスを得ようと、当機構の富山県よろず支援拠点を訪ねたのだ。

富山県よろず支援拠点で
「とやま起業未来塾」を紹介されて

「とやま起業未来塾」(平成27年度)のビジネスプラン
発表会で、塾選びのサイト運営について
プレゼンテーションする早水さん(写真上)。
同氏のプランは優秀賞に輝き石井隆一富山県知事
(当時)より表彰を受ける(写真下)。
※ 石井隆一富山県知事 (当時)の名の「たかかず」
  の「たか」の漢字は、正しくは「隆」の「生」の上に
  「一」が入った字体です。ホームページではこの
  字体を表示できないため「隆」を用いています。

 「あるコーディネーターに事業計画書を見ていただきました。ビジネスモデルについては『概ね大丈夫だ』と背中を押していただき、後はどのように登録する塾の数を増やすかが課題だと激励していただきました。私が不安だったのは、収支計画の中での支出でした。リクルート時代にクライアントの事業計画立案をサポートしてきたとはいえ、一から立ち上げる企業で、全国でも稀なサービスを軌道に乗せるには、どのくらいの販促コストがかかるのかの見立てが難しかったのです。また私が担当していたのは、優秀な人材が揃っている企業が多く、スタートアップしたばかりの企業の人材採用・育成・組織づくりにかかる期間などを考慮した上での事業計画を立案する経験はあまりありませんでした。そのあたりの不安をどう解決したらよいかと相談すると、『そういうことなら、とやま起業未来塾で学ぶことができる』と入塾を勧められたのです」
 こうアドバイスを受けた早水さんは、翌27年2月に「塾選び富山」のサイトを開設して事業を始めるとともに、その年の5月に「とやま起業未来塾」に入塾。走りながら学ぶ道を選んだのだ。
 初期のサイトへの登録者集めには苦労したようだ。前職のようなブランド力のある媒体が後ろに控えている訳でもなく、DMを出して商談のアポイントを取ろうにも、「この若いの、何を言っているの!?」と取り付くシマもないケースもあったという。塾経営者には実年世代以上が多く、ネット経由での生徒集めといってもピンとこない人が多かったようである。
 ただ中には、従来の新聞広告や折り込みチラシでの生徒募集には限界があると感じている塾経営者もいて、「富山 塾」「富山 家庭教師」などの検索ワードが毎年30%増になっていることを伝えると、「掲載を前向きに検討する」と約束してくれるとともに、知人の塾経営者を紹介してくれるなど、追い風が吹くケースもあったという。また同じく27年度には当機構の「若者・女性等創業チャレンジ支援事業(現 若者・女性等スタートアップ支援事業)」の採択を受けて、事務所や備品の整備に取り組み、店頭での登録の商談や保護者から塾選びの相談も受付け可としたのであった。

「塾選び」の水平展開も視野に

塾選びのサイト運営のかたわら、教育講演会なども
実施。写真上は、わが子4人を東大理Ⅲに送った
佐藤亮子さんの子育てについての講演会の様子。
定員120名を想定していたが、数日で埋まって希望者が
絶たないため300名まで増やした。会場横のロビーでは、
県内の学習塾による合同説明会も行われた(写真下)。

 事業が軌道に乗り始めたのは2年目からだ。「塾選び富山」を経由して塾を探す子や保護者が多くなり、そのPR効果を認める塾が増えてきたのである。それが塾経営者の間に口コミで伝わり、登録者増に拍車がかかるようになり、次なる展開が早水さんの頭を過(よぎ)るようになった。
 「例えばピアノやバイオリン、そろばん等の習い事を、『塾選び』のビジネスモデルを応用して展開することができますし、他の都道府県で『塾選び』を展開することも可能です。ここ数年は、今後の展開についての種をまいたり、新芽を枯らしたりの繰り返しですが、いずれこのビジネスモデルを水平展開していきたいと考えています」
 ただ、順調な滑り出しは元号が変わった令和元年までであった。令和2年には、富山の塾業界に暗雲が漂うことに。少子化の影響か、富山県内大手の学習塾が2月末に校舎を閉鎖し、3月1日、その倒産が明らかになった。また2月下旬から、新型コロナウイルス感染対策として小中高校の一斉休校が検討され、3月2日から実施されたのだ。3月、4月は学習塾にとっては「新入生募集」の書き入れ時であるが、この年、塾業界はそのチャンスをつかみ損ねたのであった。
 「当社としては、『塾選び富山』のサイトを日頃よりご愛顧いただいている塾の先生方を応援するために、また当サイトを利用されて塾を選ばれたお子さんや保護者のために、『塾選び富山』の中にサブサイトをつくり、そこでオンライン授業を開催してきました。この先生の授業を受けたいと予約いただければ、1対1で指導を受けることができるのです。塾の先生にもお子さんにも費用負担は一切なく、システムの整備は当社の責任で行いました。ご家庭からはスマホでも見ることができるようにしましたので、利用されたお子さんは結構おられます」(早水さん)

オンラインでの相談や転勤族支援も

店頭での塾選びの相談の様子。オンラインによる
相談なども今後は展開していく予定だという。

 今期、「塾選び富山」のサイトを訪れた人(ユニークユーザー)は約25万人。同サイトのメインターゲットは、小学5年生から中学3年生までの子どもとその保護者。小学校受験を意識して、子どもが幼稚園の時から「塾選び富山」のサイトを閲覧する保護者もいるらしく、また高校3年生になってからの訪問者も後を絶たないという。25万人ものサイト訪問者がいることは、他の都道府県からの閲覧者が多少含まれているとしても、富山県内での注目度は極めて高そうだ。
 そこで早水さんは閃いた。塾講師によるオンライン授業が人気を博したところから、「オンラインによる塾選びの相談受付も可能ではないか」、「富山出身の転勤族の子どもへの勉強のサポートもできるのではないか」・・・と。数年後、小学生1人1台のタブレット配布が実現すると、「可能性はもっと広がるのではないか」と早水さんはさらなるビジネス展開に期待を寄せるのであった。
 新型コロナウイルスにより先を見通しづらい状況が続いているが、早水さんの反転攻勢の取り組みを今後とも当機構としても支援していきたい。

連絡先:株式会社とやまなび
所在地:〒930-0953 富山市秋吉163-1ファースト秋吉Ⅲ1F
TEL:076-461-8517
Mail :info@jyukuerabi.com
従業員数:7名
事 業:塾選びのサイトの運営
URL:https://jyukuerabi.com/


作成日  2021/2/2

このページのトップに戻る

Copyright (C) 2005-2013 Toyama New Industry Organization.All Rights Reserved.