第60回 Latticework BREWING COMPANY  創業ベンチャー挑戦応援事業  TONIO Web情報マガジン 富山

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第60回 Latticework BREWING COMPANY

自動車のエンジニアからビール職人へ

住まいも神奈川から高岡に移して・・・

千本格子の町並みが美しい高岡市金屋町でブルワリーと
飲食店を営む大島紀明さん。

「私は定年まで、サラリーマンとして働くつもりはありませんでした。漠然と考えていたのですが、大学を出て仕事人生の半分はサラリーマンをし、残りの半分は自分で事業を起こすなり好きなことをしたいと思っていました。大学院修了後は自動車メーカーでエンジニアとして十数年働き、2年間のアメリカ赴任を終えて帰国した時、30半ばでした。そこで『何をしようか』と顧みて、ものづくりの要素が詰まったビールづくりにとても興味を持ちました」
 ラティスワーク・ブリューイング・カンパニー代表の大島紀明さんは、アメリカで出合ったバリエーション豊かなクラフトビールを思い出し、「自分でもつくりたい」と創業を決意。自動車メーカーを退職し、栃木県のブルワリーで働きながらビールづくりを基礎から学んだ。時に大島さん38歳。「ものづくりの基本は、自動車もビールも同じ」と、新たな船出を迎えたのであった。

高岡の古い町並みが気に入って

天井の高い別棟をリノベーションし、ビール工場に。現在醸造は
フル回転で行われており、「可及的すみやかにタンクを1本増設
する予定」だそうだ。

 日本でもクラフトビールが注目されつつある。一過性で終わった二十数年前の地ビールブームとは違い、各地に味わい深いクラフトビールが育ち、ファンも確実に増えている。大島さんがこの時、クラフトビールに目をつけたのは、自身が愛飲者というだけでなく、ビールを取り巻く環境も踏まえた上でのことだった。
 「栃木で修業を始めてもうすぐ1年という時に、酒税法の改正が2018年4月に迫っていたこともあり、改正前に免許をとって自分自身でビールづくりを始めたいと思い、ブルワリーでの修業を1年で終了し、創業の準備を始めたのです」(大島代表)
 創業地としては、住まいがあった神奈川県を中心に首都圏近郊と富山県内が候補に。富山が候補地に挙げられたのは夫人の出身が高岡市であったから。そして最終的に富山での起業を決めたのは、先行している事業者が少ないことから競合激戦地で新規参入するより、自由度が高いという読みからであった。
 さっそく富山県内での物件探しを開始。自前のビールを提供する飲食店も併設することを前提に、高岡市の古い町並みが残る金屋町(千本格子が美しい町並み)を中心に情報収集していく中で、1軒の中古物件に出合った。
 「妻の兄が今いるこの物件が新しく売りに出された情報をたまたま得て、私のところに連絡をくれたのです。ここを見た瞬間、『決めた』と思いました」(大島代表)
 石畳の通りに面した町屋は2階建てで、その奥には天井の高い別棟がある。土地柄から、かつては職人が住居兼作業場として使っていたものか……。別棟は醸造タンクを設置するには十分なスペースで大島代表は数日のうちに契約へ。そして高岡市に住まいを移し、免許申請の準備に入った。酒類製造免許の取得には、工場の図面だけでなくタンク等設備一式の設置が前提になっているため、大島代表は別棟を急ぎリノベーションして設備も導入。書類審査や工場検査を経て、免許を得たのは翌年3月のことだ。

お客は口コミで開拓

定番のビール「金屋エール」(手前)とシーズンごとにテイストを
変えるビール(写真/上)。お店にはカウンター席(椅子+立ち席)
と奥に座敷があり、トータル20人ほどが入れるスペースがある。
(写真/下)

 そして実際にビールの醸造を始めたのは2カ月後の5月から。ひと月後にはビールができ上がり、地元のイベント「御印祭」でお披露目するとともに、その後は各種イベントに参加してビールを飲んでいただく機会を増やしていった。
 「広告媒体を使っての宣伝ではなく、あくまでも直接飲んでいただいてのファンづくりと口コミを大切にしました」(大島代表)
 同社は後(2019年1月)に、通りに面した1階部分を計画していたビールバーに改装して営業を始めるのだが、想定以上の消費量で推移しており、また卸し先の消費が伸びつつあるところから醸造設備の増強も図っているところだ。
 「ここのお店も口コミでお客さんが増え、様々なお客様がお見えになります。かつての勤務先の同僚も来てくれますし、市内外、県外問わず、足を運んで飲みに来ていただいています。最近では県外の飲食店からオーダーが入るようになりましたが、生産が追いつかないため今はお断りしている状況です」
 と大島代表はうれしい悲鳴を上げるのだった。

最も支出の大きい部分で支援を活用

金屋の町並みに合わせて千本格子が映えるように改装したお店の
正面。隠れ家的なビールバーの趣(おもむき)。写真下は、同店が
面する千本格子と石畳が美しい通り。

 さて、当機構は大島代表のビールづくりをどのように支援したのか。
 「実は高岡に住まいを移す前の年から、醸造設備の設置や免許申請、免許の交付、そして実際に醸造を始めるタイミングなどについて綿密なスケジュールを組みました。神奈川の自宅を売却して事業資金にあてる計画でしたが、いつ売れるか心配でした。そこで公的な産業支援はないかとネットで探したり、妻の兄に相談したりしている中で新世紀産業機構の『創業・ベンチャー挑戦応援事業』のことを知り、さっそく事務局を訪ねました。これにより、2017(平成29)年度の事業に応募させていただき、この事業を始めるに当たって最も支出の大きい醸造設備に活用させていただきました」とのこと。
 酒類製造免許申請時には、醸造タンク2本からの事業展開を計画し、将来的には延べ6本の設置まで描いた。この取材時では、「可及的速やかに生産量を50%増やしたい」ということだから、タンクを1本増やすということか。ビールバーの来店客が増えたため、この6月からホールスタッフとして1名を雇用するようになったところだ。
 最後に、自動車のエンジニアからビールづくりに転身したことの感想についてうかがうと、次のような答えが返ってきた。
 「皆さん大胆な転身だといわれますが、つくりたいものを最初にイメージし、それを元に設計し、設計書に忠実につくっていく。ものづくりの基本は自動車もビールも同じですから、私にとっては扱う商品が違うだけで同じものづくりの土俵にいます。変わったのは従業員から経営者になったことで、物事の判断のスピードが格段に早くなりました」
 取材を終えて石畳の通りに出ると、夜の帳(とばり)がおりて、千本格子のお店は400年続く金屋の町並みにすっかりとけ込んでいた。

Latticework BREWUNG COMPANY
所在地/〒933-0841 高岡市金屋町3-15
TEL/0766-75-9089
Facebook/https://m.facebook.com/Kanayamachibeer/

作成日  2019/09/02

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