第75回 株式会社IoTRY(アイオートライ) IoT ワクワクチャレンジ創業支援事業 専門家派遣事業 TONIO Web情報マガジン 富山

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第75回 株式会社IoTRY(アイオートライ)

学生社長が試みる工場へのIoT導入

工程の最適化、効率化をさらにUP

製造業向けIoT導入サービスの事業を展開する
加藤哲朗社長。富山県立大学の大学院生
(博士課程前期)であるが、休学して新事業を
立ち上げた。

 加藤哲朗さん、富山県立大学大学院・博士前期課程の院生。厳密にいうと2年生に進級する令和4年4月に休学届を出し、のちに(株)IoTRYを設立。休学中とはいえ学生と社長の二足のわらじを履く、青年実業家だ。
 では加藤さんはなぜ、学生の身でありながら起業したのか。本人は「今の時代は高校生も起業する時代。私は学生の時だからこそ起業していろんなことにチャレンジしたかったのです」というが、その経緯から紹介しよう。
 加藤さんが富山県立大学に入学したのは平成29年4月のこと。その同じ年、本県では「富山県IoT推進コンソーシアム」が立ち上げられ、富山県立大学を中心に富山県、各種産業団体なども参画し、製造現場でのIoT化が試みられた。IoT化とはわかりやすくいうと、様々なものに通信機能を持たせ(例えばセンサをつけて)、インターネットに接続したり相互に通信したりすることにより、自動的に認識や制御、計測などを行うこと。例えば工作機械にセンサを取り付け、ドリルが折れたりして作業が中断した場合は「異常停止」を意味する赤色灯が点いて近くの作業員に注意を喚起する。また予定通り作業が終わった場合は「計画停止」を表す黄色灯が回転して、次の作業への移行を促す。管理部門の視点からは、機械が止まる要因を分析し、停止時間を少なくし、工場をより効率的に運営するためのツールにしようというものだ。

学生社長誕生

ある金属加工業の工場への導入事例。工作機械の
上部に「計画停止」(黄色)「異常停止」(赤色)を
示すシグナルタワーがあり、センサで感知して点滅
するようになっている。

 話を加藤さん起業の背景に戻そう。
 コンソーシアム立ち上げの翌年には、総務省の支援を受けて富山県アルミ産業協会の会員企業が、製造業へのIoT導入と効率化の実証実験に参画。その際、中心的な役割を担う富山県立大学がシステムを提供し、情報工学に詳しいI准教授(当時)がその陣頭指揮をとることに。そこで試された、「ものづくりIoTプラットフォームの導入」は一つのモデルケースとして次年度以降も引きつがれ、I准教授の研究室では継続的な課題として取り組むことになった。
 3年生になった加藤さんは、その年(令和元年)の秋、I准教授の研究室に所属することに。もともとIoTに関心のあった加藤さんはこの取り組みに魅せられてリーダーを務め、のちには大学院に進学してAI(人工知能)も取り入れるなどして、その技術を研究するようになったのだ。
 「私が大学院への進学を控えた頃、IoTの導入支援はビジネスとして展開できるのではないかと期待され、県の方でもそれが自走することを望んでおられたようです。そのことが研究室の仲間の間で議論され、『誰かこれをビジネスにしないか』と提起されたのです。その時私が『やってみたい』と手を挙げたのです」
 起業の背景を本人は以上のように振り返った。指導のI准教授は「技術というのは現場で使われてこそ意味がある」が信条のような研究者で、「加藤社長」の背中を押したのだった。
 課題は「親の説得であった」という。長らく中学の教員を務めた父親は、「学生のうちに起業しなくても・・・」「社会人になってからでいいのではないか」と最初のうちは理解を示さなかったそうだ。そこで加藤さんは、父親を相手に「どういうビジネスをやりたいか。それがどういう意味のあることか。自分が学生のうちに起業することのメリットなどをまとめてプレゼンテーションを行った」のだ。コロナ禍で県外への移動の自粛が求められた時であったため、そのプレゼンテーションはオンラインで実施。最終的には「私の人生に責任を持つのは私自身だ」という息子の熱弁に折れ、「では頑張りなさい」と船出を祝す方に回ったという。
 創業は令和3年7月。翌年4月には「休学届」を出してビジネスに専念することに。さらに7月には事業所を法人化して「株式会社IoTRY 代表取締役社長 加藤哲朗」は、ここに正式に誕生したのであった。

デジタル化で、もっともうかる工場に

従来のIoT化をさらに進め、県内企業のDX化を
促進する「Digi-Poc TOYAMA」の実証実験に取り
組む加藤社長の試みを紹介する「県広報とやま」
2023年1月号。

 創業にあたっては当機構の「ワクワクチャレンジ創業支援事業」の採択を受けて、機材の充実などを図った。一方で社長として、IoTプラットフォームの販売先の開拓も実施。富山県機電工業会、富山県アルミ産業協会などに加盟する会員企業を訪ね、「IoT導入による機械の稼働状況の見える化と稼働率アップ」を訴えたのだ。
 故郷の愛知県の中小企業を回ったこともあるという。愛知県といえば、(株)トヨタ自動車、(株)デンソーのお膝元。合理的、効率的なものづくりの総本山のような地域だが・・・。営業に歩いた日々を加藤社長が振り返る。
 「確かに愛知県は自動車産業を中心に、効率的なものづくりの仕組みをつくっておられますが、そういった本社から少し離れると、まだまだアナログな現場はたくさんあります。富山県では各種業界団体協力の下、数年前から工場のIoT化についてPRしてきましたので、その認知については他県の中小企業よりは進んでいるように思われます」
 こうした地道な営業活動が功を奏して、富山県内の企業数社から声をかけられた他、県立大学からのシステム開発も受注。またセンサによる検知に加え、作業現場の撮影データや人工知能も導入し、デジタル技術で工場の見える化を従来にも増して進め、業務改善を図ることを試みたのだった。
 県内企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を促進するこの試みは、県の「Digi-Poc
 TOYAMA」(デジポック・トヤマ)の実証実験に採択され(令和4年度)、高岡市のある企業の工場でその有効性や運用の仕方が確認されているところだ。
 「まず、工場の作業環境をコンピュータ上に仮想空間として再現します。そこに実際の作業の現場の情報を流し込んで、その仮想空間で再現します。この再現技術をデジタルツインといいますが、“ある時点での作業を、こう改善したら、生産性はこのように改善する”というのをシミュレーションすることができます。Digi-Poc TOYAMAが目指すのは、工場の現場での工程の最適化や効率アップです」(加藤社長)
 門外漢には、なかなかわかりづらいかもしれないが、「生産ラインの、あの時こうしたら」の「たら・れば」の話を、データに基づいてシミュレーションして見せて、説得力のある話にして「もっと儲かる工場にしよう」というのだ。

1年後には復学して・・・

「Digi-Poc TOYAMA」の実証実験に取り組む県内
のある企業の工場とその打ち合わせの様子(写真上
・中)。稼働状況のデータをベースに生産の
ミュレーションを行う(写真下)。

 DX化による最適化・効率化の試みは、何も工場に限ったことではない。センサによる検知は「異常発生」「作業完了」だけでなく、一定の数量より「増えた」「減った」、人が「いる」「いない」などさまざまな場面で活用できる。また見える化による最適化・効率化は他の業界でも求められていることだ。加藤社長は今、これまで培ってきたノウハウを他の業界で活かすことを模索中で、システムの販売先の拡充を図っているところだ。
 最後に、今後の予定、抱負についてうかがった。「休学中」とはいえ、それは限度のある話で、復学するのか、それともビジネス1本に絞るのか・・・。
 「今のところの予定では、もう1年休学し、このビジネスに私自身がTRYします。そして令和6年度に復学し、博士前期課程での研究を再開します。起業して、営業や資金繰りなどに気を使い、学生ではできないことを数多く経験させていただきました。いろんな会社の社長や業界団体の会長などにもたくさんお目にかかり、事業を続けることのたいへんさも学ばせていただきました。IoTRYをさらに続ける、博士後期課程に進んでシステムの高度化を研究する、可能性はいろいろあります。私自身の人生設計に関わることなので、じっくり考えます」
 ものづくりが盛んな本県としては、IoT化、さらに進んでDX化により、工程の最適化や効率化を従来以上に実現したいところ。その牽引役を加藤社長に期待したいのだが・・・。

連 絡 先 :株式会社IoTRY(アイオートライ)

所 在 地 :〒931-8333 富山市蓮町1丁目7-3 SCOP TOYAMAセンター302

従 業 員 :−

資 本 金 :70万円

事   業 :製造業向けIoT導入支援、業務効率化のシステム開発

 T E L  : 090-1724-4600

 U R L  :https://www.iotry.jp

作成日  2023/03/17

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