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第76回 bel tempo(ベルテンポ)

自分のお店を持ちたい一心で開業

事業計画等はおいおい考えて・・・

26歳で自分のお店を持った井口なつみさん(写真上)
と店舗の外観(写真下)。店名の「bel tempo」
(ベルテンポ)はイタリア語で「いい天気ですね」
という意味で、曇りや雨の日が比較的多い富山では、
気持ちも晴れにする挨拶のようだ。

 小学生の頃から、自宅のオーブンで菓子づくりをしてきた井口なつみさん。家族や友人にふるまうと、「おいしいね」「上手に焼けてるね」と笑顔が返ってくることから、「お菓子って人を幸せにするんだ。お菓子づくりを仕事にしたい」と思うように。中学の進路指導の三者面談の際には「将来はパテェシエになる」と自らの将来設計を具体的に語るほど、夢は大きく膨らんでいった。
 大阪の製菓専門学校を卒業したのは平成22年の春のこと。飲食店での勤務を経て、「夢を実現するために」と氷見市の洋菓子店に転職。「求人があったわけではないのですが、話題づくりが上手で地元の人々に愛されているケーキ屋さんだったので、そこで働きたいと思い、自ら売り込んでいったのです」と井口さんは当時を振り返った。
 その洋菓子店で3年近く、各種ケーキや菓子づくりに携わった後、今度は黒部市のパン工房へ。バウムクーヘンや焼き菓子の製造に従事しながら、後には自分のお店を持つための開店資金を蓄えるために飲食店でのアルバイトも兼務。平成30年に入ると、地元・魚津市の旧商店街に出店候補の空き店舗を見つけ、その年の9月のオープンを目指してお店のリフォームに取り組むなど、仕事を辞めて創業の準備を始めたのだった。
 時に井口さん26歳。「雇用される立場では、自分の好きな菓子づくりができない。小さなお店でもいいから、オーナーとしてドーナツを中心とした焼き菓子専門店をやりたい」とbel tempo(ベルテンポ)を構えたのだ。

自分の好きなお菓子を焼きたい一心で

メインのドーナツには魚津の加積りんごが練り込まれ、
上品な甘さがある(写真上)。店内にはイートインの
コーナーがあり、コーヒー等とその場で同店の焼き
菓子を楽しむことができる。

 ドーナツをメインの商品にしたのは、子どもからお年寄りまで幅広く人気があり、食べやすいから。それを「お母さんが子どものために用意した安全・安心なおやつ」「毎日食べても飽きず、健康的なおやつ」をコンセプトにして、地元の加積りんご、国産の小麦粉・きび砂糖を原材料に。米油でカラリと揚げてコレステロールの摂取を抑えるなどの工夫も凝らした。
 お店のPRは、SNSを用いて改装の様子をお知らせするところから開始。近々オープンするお店への思いの丈(たけ)も時には記し、試作品のドーナツや焼き菓子も画像にしてアップした。そして友人・知人が営むお店に、bel tempoのチラシを置いてもらい宣伝に努めたという。
 井口さんがお店のオープン当初を回想する。
 「最初は、『自分のお店を持ちたい』という一心でした。いわゆる事業計画のようなものはなく、『1日に30個でも売れたらいい』と思う程度でした」  同店のドーナツや焼き菓子の平均的な販売価格は、1個330円〜340円くらいだ。「粉ものは儲かる」と利益率の高さは昔から言われてきたところだが、「いい素材を使っているから、うちの材料費は結構高い」という井口さんの弁を考慮して、原価率を仮に30%とすると、1個あたり230円〜240円程度の粗利となる。これが1日平均30個。ひと月25日の営業としても、テナント料と光熱費を払えば手元に残るのは「多めのおこづかい程度」(井口さん)。給料と呼ぶには、いささか少ない金額といっていいだろう。
 「でも私は、それでもよかったのです。毎月、テナント料や光熱費はきちんとお支払いし、誰にも迷惑はかけたくはありませんでした。お給料については私一人分ですから、『あまり売れないのなら私が我慢すればいいこと』と割り切っていたのです」(井口さん)

「お店を大きくしたい」

マフィン(写真上)やクリスマス・お雛様など、
歳時記に合わせてデザインされたクッキー
(写真下)なども同店では人気の焼き菓子。

 井口さんのそうした考え方に変化をもたらしたのは、知人(当機構の支援メニューを利用したことのある飲食店経営者)の勧めで「若者・女性・シニア創業チャレンジ支援事業」(平成30年度)に応募したことがきっかけだった。申請書には、事業計画や販売体制、売上の見込みなどを記載する必要があり、井口さんは当該支援事業の担当者のもとを訪ね、書き方の指導を受けたのだ。
 「新世紀産業機構には何度も通い、申請書は自分でまとめました。その過程でお店を持って事業を始めること、事業を継続するにはきちんと売上を立てること、等々について自分なりの考えを整理することができました。支援事業は採択となり、お店の改装費等を助成していただきましたが、今振り返ると、走りながらとはいえ事業について考える機会をいただいたことがよかったと思います」(井口さん)
 bel tempoのオープンは平成30年9月。“1日30個”の控え目な目標は難なくクリアすることに。コロナ禍の影響もほとんど受けることなく、ゆるやかながらもこの5年間、右肩上がりの成長を続け従業員1人を雇用するまでになった。
 コロナ対策はどうしたのか。そのあたりを井口さんにうかがうと、大要、以下のような答えが返ってきた。
 「外出自粛が叫ばれた最初の年、1週間ほどお店を休みましたが、その他は営業を続けました。コロナ対策で当店が取ったのは、お菓子の個数と引き取り時間を事前に予約していただき、店頭が混むことを避けることでした」
 コロナ禍の3年間、イートインのコーナーは開店休業に近い状態であったが、ドーナツや焼き菓子は順調に売れ続けたのであった。
 最後に、井口さんに尋ねてみた。「お店のオーナーになるより、雇われ菓子職人の方が気が楽ではないですか」と。すると「雇用される立場は確かに楽ですが、それでは自分の好きなお菓子をつくることができません。私は自分のレシピでお菓子をつくり、それを食べていただいて『おいしい』とか『うれしい』と感じていただきたいのです」と間髪を入れずに返し、「気苦労は多いですが、お店を運営することにはやりがいがあります」と続けた。
 井口さんの次なる夢は、駐車場を備えた広いお店を構えること。ふるさと魚津の人々に「コーヒーでも飲みながらドーナツを楽しんでいただきたい」と喫茶コーナーを充実させた新店舗の青写真を描き、候補地について語るその姿には店舗経営者の片鱗がうかがえた。

連 絡 先 :bel tempo(ベルテンポ)

所 在 地 :〒937-0055魚津市中央通り2-1-15

従 業 員 :1名

資 本 金 :−

事   業 :ドーナツを中心とした焼き菓子の製造販売

 T E L  :0765-55-1717

 U R L  :https://www.instagram.com/beltempo72/

作成日  2023/08/02

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