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研究開発により誕生した新技術・新製品に秘められたイノベーションと、その原動力を探る!

第15回 北陸テクノ株式会社

いくつもの連携を基に高効率の溶解炉開発
大手自動車メーカーも導入し始めて…

 自動車、機械、電子機器などに多用されるアルミダイカスト製品。その鋳造には、各々のものづくりの現場で小型の溶解炉が使われている。
 小型炉の市場では、環境問題が喧伝されるにつれて、CO2排出量の削減や熱効率の改善が声高に求められるようになり、北陸テクノをはじめとする小型炉メーカーの間では、それを踏まえた新製品開発の競争が激しさを増す一方だ。
 同社では設立以来、主にるつぼ式溶解炉の熱効率向上を目指して製品開発を行ってきた。一般的な炉では、バーナーの燃焼ガスが上に流れるため加熱にムラが生じ、ムダな熱も生んでいたわけだが、同社ではるつぼの周囲を燃焼ガスがらせん状(スパイラル)に巡るという独自の構造を開発。るつぼ全体に熱を行き渡らせ、熱効率の向上を図ってきたわけだ。
 その結果、燃料コストの削減に寄与したのはもちろんのこと、溶湯品質の均一化や湯流れの改善などという副次的な効果ももたらし、日本のみならず欧米の自動車や機械関連のメーカーからも高い評価を得てきたのであった。

予備実験から支援を受けて本格開発へ

小型炉の開発では定評のある北陸テクノの木倉正明社長。「中国、東南
アジア、 メキシコなどの自動車工場、機械工場などに、自社の小型炉を
積極的に販売していきたい」と意欲的だった。

 「ただ、技術開発には“これでいい”という終わりがありません。我々の業界には、昨今特にCO2削減や省エネへの要求が高く、今日A社が新しい技術で熱効率を上げてきたと思ったら、数カ月後にはB社が別な方法で熱効率の改善を図る。その後でC社が、と休む間もありません。それも世界的な動きなので…」
 木倉正明社長は、激しい開発競争の様子を紹介するが、その間隙を縫って、単に他社の技術をまねたような、いわゆるコピー製品を世に送るメーカーもあるようで、各社の生き残り策には戦国時代さながらの絵巻があるのだという。
 スパイラル構造を取り入れて一歩先んじた同社であったが、さらなる熱効率の改善を検討するように。廃熱の回収・再利用を通して、熱効率を向上させることができるのではないかと判断したのである。
 従来、排ガスからの熱回収は、炉の外側に取り付けられた熱交換機により行われ、回収された熱によって燃焼空気を予熱する方法が採られていた。しかしこの方式では、熱交換機が外側にあるため放熱量が多く、効率的に予熱がなされないという課題があった。それを此度の開発では、「廃熱の回収を炉内で行う」ことを目標に掲げ、製品開発に臨んだのだ。
 技術顧問の東海清澄氏が、開発に乗り出した平成19年当時を振り返る。
 「アルミは700度くらいで溶けますが、バーナーの火炎は1300度くらい、炉内の平均温度は1100度くらいあります。いったん炉外に出された排ガスの温度は少し下がって900~1000度くらいですが、炉内で熱を回収すると、溶解効率が上がるのではないかと思ったのです」

試作機の概念図。炉内で廃熱回収を図って製品化が試みられたのは業界
では初めてのことで、「REX-SR炉」と名づけられた新しい炉は特許も取得
した。

 予備実験を重ねていくと、まずまずの成果が得られた。そこで同社では、試作機による本格的な実証実験を経て製品化することを図り、当機構の「新商品・新事業創出公募事業」(平成20年度)に申し込むとともに、燃焼技術に詳しい富山県立大学の教授にアドバイスを依頼したのだ。
 新しい炉の基本的な概念は左の図で示したとおり。炉内で燃焼された高温の排ガスは、炉中心部より蓄熱室(図ではオレンジの点々部分)にいったん送られ、予熱用パイプを温めた後で炉外に排出される。熱の回収・再利用・排出は切換弁(図では4つの黒い部分)の作動により行われ、切換弁は高温に耐えるようにとセラミック製の弁が選ばれた。
 「試作機での実験では、排ガスからの熱の回収率は10%ほど高まり、予熱による空気の温度も130度ほどアップしました。またその結果、300kgのアルミを溶解する時間を従来より16分ほど短縮することができ、所期の目的を達成することができたのです」(東海氏)
 結果は上々で、実際の製品化と販路開拓が待たれるばかりとなった。

リーマンショックに立ち向かうために…

同社技術顧問の東海清澄氏。新しい溶解炉の開発をリードするとと
もに、同社の海外法人・海外工場に赴任するエンジニアに技術指導
なども行っている。

 ところがである。その年の秋、リーマンショックが世界の経済を襲ったのだ。
 「溶解炉に限らず、新しいシステムというのは、客先の製造ラインに組み込まれて、実際に稼働していく中で調整や改良が加えられていくものですが、リーマンショックでものづくりの現場は凍ってしまいました。予備実験や試作機での実験がうまくいっていたので、先行して営業にも行っていたのですが、予約はキャンセルになり、また強い関心を持ってくださった客先も急に関心を示さなくなり、『さてこの先どうやって売っていくか』と悩んだものです」(木倉社長)
 ここで同社が選んだ道は、経済産業省の「新連携」による支援を受けることだった。廃熱の回収・再利用・排出は先にも述べたように切換弁によって行われるが、高温という厳しい環境にあるため、流量や切換のタイミングを細かく制御できないという課題が浮かびつつあったのだ。また販売に当たっては、リーマンショックによる強い向かい風にさらされ、苦戦を余儀なくされていた。それを、燃焼機器や温度管理の制御システムに高度な技術を持つA社、金属材料の専門商社のH社と連携することによって打開しようと、平成20年暮に「新連携」の採択を受けたのである。
 北陸テクノではこの連携により、溶解炉のブラッシュアップを図った。そして4年に1度しか開催されない国際工業炉・関連機器展の「サーモテック2009」や、北京で開かれた第7回中国国際熱処理/工業炉展などのビジネスショーに参加。不況の逆風をはね返すべく販路開拓に努めたのだ。
 「燃焼効率を改善し、新たな販路も開拓しつつあったのですが、ただ1点、技術的な課題が残りました。それは切換弁が途中で割れたりヒビが入ったりして、機能しなくなるケースが発生したのです。いろいろ改善を試みましたが、解決策にたどり着けませんでした。そこで、いつまでもこの問題を引きずることもできませんので、この熱回収の方式はいったん棚上げにし、新たな方式を模索することにしたのです。」
 木倉社長にとっては苦渋の決断だが、客先に迷惑をかけるわけにはいかない。さっそく視点を切り替え、新たな開発に乗り出したのだ。

自動車メーカーでテスト、そして導入へ

大手自動車メーカーでの1年間のテストを経て本格的に販売されるように
なった同社の「ポット溶解システム」。

 「新しいプランでは、るつぼ式ではなくダイレクト溶解という方法を取り入れ、バーナーの火が炉の底部にも届くよう工夫しました。またこれは当社が開発したバーナーではないのですが、バーナーに廃熱を回収する機能を持たせています。そのバーナーメーカーの協力を得て、ポット溶解法という新しいシステムを開発することができました」
 技術顧問の東海氏は、“今度は自信がある”といわんばかりにポット溶解システムを解説。このシステムは、必要な時に、必要な分だけ溶解できるという経済的な炉で、また溶解後は溶湯をそのまま搬送することができ、工場での作業効率をアップさせる特徴がある、と強調したのだった。
 続けて木倉社長いわく。
 「我々としては自信作でしたので、ある自動車会社のエンジンをつくる部門で、テストで使っていただきました。1年間、何のトラブルもなく正常に稼働しています。それがご縁でこの自動車会社のタイ工場に導入されましたし、またグループ会社のダイキャストメーカーでも採用が決まりました」
 ポット溶解システムの開発に成功したのは、平成23年11月のこと。切換弁からバーナーでの回収方式に転換したものの、炉内での廃熱回収を試みてから4年が過ぎ、1年のテストを経て24年暮から本格的に販売できるようになった次第。ちょうど自動車産業を中心に景気回復の兆しが見え始めた時だ。東南アジアやメキシコなどの工場での関心が高いというから、この産学官連携から生まれた卵が、ヒヨコに孵るのも近いのではないかと思われる。

*     *     *     *     *

 同社では、このシステムの本格生産は海外で行い、現地での販売のほかに、現地法人や代理店網を通じて世界に輸出することを企画。ベトナム、タイの現地法人には日本から技術スタッフが赴任し、現地社員のスキルアップを図っているところだ。
 「お客様は、品質基準は日本に求め、価格の基準は現地レベルを要求されます。それを実現していかないと、競争に勝ち残ることができません」
 という木倉社長は、海外でのさらなる販路開拓の策を練っているところ。新たな連携も視野に入れているようだ。

[北陸テクノ株式会社]
 本社 富山県射水市青井谷1丁目8-3
 TEL 0766-57-1400 FAX 0766-57-1401
 URL http://www.h-techno.com/

作成日  2014/03/31

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