第41回 有限会社スクラムアートワークス バラ風呂専門ショップ「リフレス」 TONIO Web情報マガジン 富山

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第41回 有限会社スクラムアートワークス

デザイン会社が試みたネットショップの運営
バラ風呂のお店はイバラの道の後で…

同社が扱うバラ風呂のセット「フローラ」(pink)。
バラ風呂は美容にいいといわれ愛好者も多い様子。

 「ここにシャンパンでもあれば最高。毎日バラ風呂に入ったクレオパトラは、こうだったのね。し・あ・わ・せー」 
 今にも高笑いしそうになったのは、取材にさきがけてお風呂用品専門ショップ「リフレス」のバラ風呂を、自宅で試したM女史。最初は2~3輪のバラの花びらだけでとどめるつもりだったが、バスタブに広がるバラを見ているうちに1ケースのバラ全てを浮かべた方がリッチな気分にひたれると思い、15輪のバラを使い切ったのだった。冒頭の言葉は、バスタブ一面に広がったバラの花びらの中に体を沈めた時に女史がつぶやいたものだが、「毎日とはいかないまでも、年に数回はクレオパトラになりたい」と続けたそうだ。
 さて今回の取材は、ネット上でお風呂用品専門ショップのリフレスを運営する砺波市のスクラムアートワークス。パンフレットや広告などのデザイン制作をメインとしながらも、ネットショップも併せ持つなど意欲的なデザイン会社だ。
 代表の中嶋和也氏は、「好漢」(こうかん)と評されてもいいような青年社長。高岡のデザイン会社から独立した際には、クライアントを1社も持ち出すこともなく、砺波で一から客先を開拓してきたのだった。
 「砺波でデザイン会社を運営するのは、企業数からみて無理ではないか」「都落ちだ」と業界雀は騒いだ。ところが大方の予想を覆して5人を雇用するまでになったというから、まさしく、いい漢(おとこ)だったのだ。

「このチラシを見て、自分は買うか」

「創業以来いろいろありましたが、スタッフのおかげで続けてこれ
た」と15年を振り返る中嶋和也社長。

 創業は15年前の平成10年6月。29歳だった。“とにかく3年間は看板をおろさない”と決意してスタート。前職の社員時代から付き合いのあったカメラマンや同業のデザイナー、印刷会社などからの紹介で、途切れることなく仕事は入ってきたそうだ。
 「わりと保守的な土地柄で、従来のチラシやパンフレットをつくっている業者から、他社に乗り換えることをあまり好まない経営者が多く、新規参入の難しさをヒシヒシと感じました。ただ、従来のパンフレットの改訂や延長ではなく、新しい販促ツールを企画する際にお声をかけていただいたようで、そういう社長やお店のオーナーがたくさんいてくれたお陰で、今日の当社があるのです」
 中嶋社長はこの15年を振り返って語るが、この間、県内の観光ポスターのコンペティションで優秀な成績を収め、それが全国的なポスターコンクールで入賞することも。また金沢のデザイン専門学校の非常勤講師を務めるなど、多彩な活動が氏の経歴に華を添えた。
 県内でも評判のデザイナーになった中嶋社長。ここで編集子が常々疑問に思っていることについて尋ねてみた。「売れるパンフレットのつくり方って、あるのですか」と。
 「デザインの世界ではそれは永遠の課題ですが、数学の計算問題のように正解にたどり着くことはできないのです」と笑いながら答え、概要以下のように続けた。
 デザイナーはかっこいいパンフをつくりたがる。クライアントは、より商品が売れるパンフが欲しい。両者がコミュニケーションを密にとる中で、ある着地点が見えてくる。ただ、今年のパンフでたくさん売れたからといって、来年もそれで売れるとは限らない。そこで中嶋社長がいつも心がけているのは、「自分がパンフに紹介されている商品を買う立場だったら、それを買うだろうか。他のお店のパンフに紹介されている類似商品より、自分がこれからつくろうとしているパンフの商品の方が、魅力的に見える企画やデザインになっているだろうか」と自問するようにしているのだという。平たくいうと、“そのパンフレットを見て自分が買うか、否か”というわけだ。

ネットショップも開始

初期のリフレスのホームページ(トップと商品紹介のページ)。
バラ風呂のオススメ度は割りと高かったが、あまり目立ってい
ない。

 こうして砺波や南砺エリアで徐々に存在感を示してきた中嶋社長。広告やパンフレットのデザイン制作に併せて、ホームページもつくれないかという打診が多くなってきた。
 「15年前、ホームページを使っている人は少なかったのですが、販促に役立つものでしたらパンフレットでもwebでもいいわけですから、今後普及するだろうという予感は持っていました。そこで簡単なものは自分でもつくれるよう準備したのです」(中嶋社長)
 砺波での旗揚げと同時に、ホームページの制作依頼も飛び込んできた。初めのうちは、広告・印刷物のデザイン制作もwebの制作も兼務でこなしていたのだが、ともに受注が増え、またweb関連のソフトの進化が速いため、webデザイン専門のスタッフをおいて受注拡大を目指した次第。今ではwebデザイナーは2名になり、売り上げの比率も昨年までは6:4で広告・印刷物のデザイン制作の方が多かったが、今年は5:5になる勢いだという。
 「ホームページの制作に関しては、以前は、商品を紹介することが目的でしたが、2年ほど前からは売り上げはどれだけ増えるのか、に関心が移ってきました。われわれもそれに答えることができるようにと、ネットショップ運営の秘訣などのセミナー・講演会に参加し、また関連する書籍や雑誌も読むよう心がけました。でもお客様からの問い掛けに、“○○したらいいと書いてありました”、“△△が売り上げアップの秘訣だと有名なネットショップコンサルタントがいっていました”では、どうも説得力がないのです。それで、だったら自分たちでネットショップを運営して、成功も失敗も経験した上でお客様との打ち合わせに臨もうと思ったのです」
 そこで中嶋社長が選んだのは、お風呂用品専門のショップ。もともとインテリアや生活雑貨に関心があったのだが、それではあまりにも幅が広すぎるためお風呂用品に絞ったわけだ。ただそこで、あるネットショップコンサルタントの言葉を思い出した。
 「ネットショップ成功の確率を高くするには、取り扱い商品を多くすることが大事だ」
 商品選びは楽しかったという。複数のお風呂用品を扱う問屋に仕入れ業者の登録をし、デザインに凝った商品を選んだ。ひとつ1万円のお風呂のイス、イスと洗面器がセットで2万円、生地が厚くても滑らかなバスローブ(1着1.5万円~)、1個数千円の石鹸…。お風呂用品専門ショップ・リフレスは、中嶋社長がこうして選んだ商品約1000点をそろえ、平成23年2月にオープンした。

赤字の受注もあった

 セミナーや書籍などから得た知見を下地にしてリフレスを開設したのだから、さぞや繁盛したのだろうと思いきや、反応はほとんどなかったという。まず、リフレスのサイトに入ってくる人がほとんどいない。たまに入店があっても、「買い物カゴに入れる」までなかなか進まない。発注率は1%にも満たなかった。
 また、たまに注文があっても、商売としては赤字になるケースもあったという。例えば あるお客様から、石鹸、シャンプー、ボディーブラシのご注文をいただいたとする。石鹸は問屋A、シャンプーは問屋B、ボディーブラシは問屋Cから仕入れるのだが、それぞれに送料がかかる。ところがご注文いただいたお客様にお送りする際にはまとめて発送するため、1口分の送料しか請求できない。つまり仕入れ2口分の送料はリフレス側の負担になってしまうわけだ。本来なら、2品、3品とまとめて発注してくれるお客様はありがたい存在なのだが、在庫をまったく持たずにその都度商品を仕入れるようにしたため、利益率が低くなってしまった。特に小額商品のまとめ買いの場合は、赤字になることが多々あったようだ。

バラは富山県内でも有数のバラ園で栽培。ハウスで栽培されて
いるため、冬の出荷も可能(ただし、気温が低くなると出荷数に
限りがある場合も)。

 「ネットショップへの来店数や発注率が、なかなか伸びないことは頭ではわかっていました。でも実際にやってみて、運営の大変さを実感しました。また商品構成があまりよくないのも徐々にわかってきました。お風呂用品1000点を品揃えしたといっても、他店でも扱っているものが多かったのです。また単にアイテム数が多いためランディングページがつくりにくいことも、実際に運営して初めてわかりました」(中嶋社長)
 ランディングページとは、商品紹介をしているページのことだ。デザイン制作が専門の同社が、商品紹介のページがつくりにくいということは、お客様からすると“見にくいページ”“理解しにくいページ”ということになる。そんなランディングページから、「買い物かごに入れる」に到達するのは至難の業といっていいだろう。リフレスをオープンして2カ月ほどで、大きな壁に立ちはだかれたのだが、解決策はすぐには出なかった。独立以来はじめてのピンチだ。ネットショップに関するセミナーや講演会の資料、書籍の中に妙案はないかとひっくり返したが、見い出せなかった。
 そんな中、バラ風呂の注文がポツポツと入るようになり、雲間からもれる一条の光のように輝き始めたのだ。バラ風呂用のバラは、小矢部のバラ園から仕入れたもので、花そのものはしっかりとしたいいものだった。

月商100万円が見えてきた

初期のバラ風呂のセット。後に「キャロル」と命名し、ご自宅
用にした。

 “ひょっとしたら、バラ風呂だけでいけるかもしれない”
 リフレスを立ち上げてから半年が過ぎようとする頃、中嶋社長はこう思った。その一方で、「ネットショッピングでは商品アイテムを多くした方が成功の確率が高くなる」と力説していたコンサルタントを思い出し、逡巡したのである。
 そんな時だ。かつて当機構のアクセス解析関連の講座を受けた経験のある中嶋社長は、一緒に受講したネットショップのオーナーから「新世紀ネットビジネス道場とやま・月商100万円突破コース」という半年間の連続講座があるのを聞きつけ、早速、リフレスの店長と2人での受講を申し込んだのであった。
 「ネットショップをつくる課題が講師から出され、その課題を“小学生の宿題”のようにこなしていきました。そういう中で、商品構成やランディングページのつくり方、集客アップの方法、成約率アップの方法などを段階的に教えていただきました。また受講生が実際に運営しているネットショップを、講座の視点から、あるいはお客様の立場に立って、評価し合うことを半年間続けたのです」(中嶋社長)
 リフレスに対しても、講座仲間や講師は真剣に意見を出してくれた。ぐさっときたのは「1000点の商品があるけど、何を一番売りたいのか。リフレスのオンリーワン商品って何?」という問い掛けだ。バラ風呂に心が傾きかけている時だっただけに、この一言は響いた。そして取り扱い商品を徐々に絞るようになり、9月の終わり頃にはバラ風呂だけを残し、他のお風呂用品の取り扱いは中止したのだった。
 商品のパッケージ方法にも、講座仲間や講師は忌憚(きたん)のない意見を出した。当初、バラを入れるケースは、プラスチック製の卵のパッケージだった。パッケージ1つに10輪のバラが入り、安くて包装しやすいという利点があった。それに対して講座仲間は「優雅な気分にひたるためのバラを、卵のパッケージに入れて夢を壊す気か。それはあんまりだ」と中嶋社長に直球で攻めてきた。

水を含んだオアシスに刺してバラを送るため、花は新鮮な状態で届く。

 確かにそうだ。かといって専用のケースを用意すると、ケース代を価格に転嫁するか、あるいは価格は据え置いて原価アップをのみ込むか、どちらかの判断をしなければならなかった。そこでリフレスがとったのは…。ハート型のケースを用意して「フローラ」と名づけたプレゼント用の新商品をつくり、従来のパッケージには「キャロル」と名づけて自宅用にしたのだった。
 平成23年度、中嶋社長が参加した「月商100万円突破コース」は暮れに終了となったが、講師や講座仲間との意見交換はその後も続いた。そして運用しながら改善を続けたところ、リフレスは「ネットショップコンテスト北陸2013」でファイナリスト賞を受賞(発表3月18日)。また開設して2年が経過したころから、月商50万円がほぼ安定するようになったのだ(ただし、シャワーだけになる人が多い夏は、若干下がる)。
 「失敗の方が多い2年あまりでしたが、その分、お客様にお話できることがたくさんあります。砺波や南砺には、SEO(検索エンジン最適化)対策で、ネットショップコンサルティングの会社から勧誘されている企業やお店がたくさんありますが、表面上のSEO対策では何も解決しないこともわかりました」
 イバラの道を歩んだだけに、中嶋社長の言葉には重みがある。月商50万円には2年かかったが、100万円にはそこまでは必要ないのではないか。

*     *     *     *     *

 クレオパトラの気分を味わったM女史の後日談だ。入浴後、バラの花びらをすくい上げ、一端水切りして冷蔵庫に入れ、花びらを蘇生させた。花びらの香りは少し薄らいだ。しかし色や形はしっかりしていたので、ポプリにしたという。今では甘いほのかな香りが部屋に満ち、プチ・クレオパトラ気分を毎日味わっているそうだ。

有限会社スクラムアートワークス
砺波市本町13-27アラックスビル砺波2F
TEL0763-32-8528   FAX0763-32-8527
事業内容/広告・印刷物のデザイン制作、ホームページの制作、
       お風呂用品専門ショップ「リフレス」(ネットショップ)の運営
従業員/5名(パート等含)
URL http://www.scrum-aw.co.jp/
バラ風呂専門ショップ「リフレス」 http://www.refres.net/

作成日  2013/8/12

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