TOP > 未来を創るアントレプレナーたちの挑戦 > 第84回 Dining&Bar Bel Canto(ベルカント)(株式会社B-blle)
化学メーカーのエンジニアからオーナーシェフに転身。
飲食店運営のさじ加減はいかに・・・。
富山駅近くの「すずかけ通り」に面している
「Bel Canto」の外観(写真上)と店内の様子
(写真下)。「Bel」の「B」は、本文に出てくる
A店の頭文字、「Canto」の「C」はB店の頭文字
からとり、「Bel Canto」は「美しい歌声」を意
味する。村井氏は居抜きに近い状態でお店を引
き継ぎ、「富山県中小企業ビヨンドコロナ補助
金」(令和5年度)の採択を受けて、業務用冷
蔵庫を入れ替えたところ「毎月の電気代がほぼ
半分になった」(村井氏)そうだ。
「イタリアンのお店『Bel Canto(ベルカント)』をオープンする前、私は大手化学メーカーで工業用資材をつくっていました。高品質・高性能な製品でしたが、エンドユーザーの声を直に聞く機会はほとんどなく、『末端のお客さんの使用感はどうなのか』と思ったりもしました。そうした中で、学生時代、飲食店でアルバイトをした際、お客様から『おいしかったよ』と言われてうれしくなったのを思い出し、いずれは自分の店を持つ夢を描くようになったのです」
語るのはBel Cantoのオーナー村井丈仁氏。大手化学メーカーを20代半ばに退職し、イタリアンのお店A店で修業することに。イタリアンを選んだのは、見た目が華やかだからだ。そこには「食べる楽しさ以外の付加価値をお客様に提供できる可能性がある」と思えたそうだ。そこで接客、ホール、仕入れ、経理などをこなせるようになった後で、その姉妹店(B店)では厨房に立ち調理の技術も磨いた。
「A店のオーナーは私の独立願望を知っていて、『俺を踏み台にして店を持て……』と飲食店運営にまつわる業務をひと通り経験させてくれました。そこで1年弱、2つのお店で修業していた時に、ここ(Bel Cantoがテナントとして入っている現在地)が空くと聞き、この機会に自分のお店を出そうと決心したのです」(村井氏)
ただその立地は、飲食店には向かない様子。数年ごとに、テナントとして入っていた飲食店が撤退し、長く続かなかったらしい。そうしたことを背景に、富山駅に近く、路面店ではあったものの、“あそこで飲食店は無理だ”と見られていたようだ。従って村井氏が出店の意欲を見せた際には、「止めておいた方がよい」と何人からもアドバイスを受けたという。
ところが村井氏は手を挙げた。制止の声より「チャンスをつかみたい」という欲望が優ったそうだ。また、メニューも一部変更し、オーダー数を増やすことによって経営の安定が図れるのではないか、という目算もあったらしい。
学生時代からバンド活動をし、イベントの企画
も得意な村井丈仁代表(写真上)。Bel Cantoで
はミニライブを行うことも(村井氏はヴォーカ
ル)。「ブライダル1.5次会」のアイデアは、バ
ンド活動で場を盛り上げてきた経験などがヒン
トになっている様子。写真下はコロナ対策補助
金を活用して導入したキッチンカー。コロナ禍
中は弁当の移動販売などを行い、昨今はイベン
ト会場でBel Cantoの味をファンに届けている。
村井氏が前身のお店の撤退情報を得たのは、令和元年2月のことだ。2カ月後にお店の引き渡しを受け、店内を一部改装してBel Cantoをオープンしたのは5月1日だった。急な出店であったため告知活動は十分にできず、実施できたのはInstagramによるお店の情報発信のみ。ところがそれが「当たった」のだ。
「当時、東京や大阪ではInstagramを利用して商品情報や店舗情報を発信することが流行り始め、また一般の方が、ご自身が見たワンシーンを写真に撮ってInstagramに紹介するようになり、後にはその中の感動的なシーンが『インスタ映えしている』などと言い表すようになりました。今では当たり前ですが、当時、富山ではそういう例は少なく、当店でもいち早くInstagramによる告知を取り入れました。すると、お客様の中でInstagramを利用している方が、当店の料理を紹介してくれるようになったのです。それらが相乗効果を発揮して、お店はスタート時から多くのお客様に恵まれました」
村井氏はこう言って、Bel Cantoのオープン当初を振り返るが、それに冷水を浴びせたのが新型コロナウイルスの蔓延だ。令和2年3月末、富山市内に1人目の感染者が出ると、翌日から商店街・商業施設に人がいなくなり、県内全域に広まっていったのだった。
「『売上激減』とよく言われましたが、当店の場合は売上ゼロでした。お客様が1人も来ない日が続きました。そこで4月半ば過ぎからテイクアウトのお弁当を始め、テイクアウトマルシェが開かれたので、それにも参加しました。また、修業したA店のオーナーと協力して、その駐車場で『青空デリ』と銘打ってマルシェを行いました。それでも通常営業時の売上には及びませんので、公的な助成を受けてキッチンカーを導入し、お弁当や総菜の移動販売も始めました」(村井氏)
その「公的な助成」とは当機構がコロナ対策で行った「富山県地域企業再起支援事業費補助金」(令和2年度)のこと。県内の中小企業支援のためにコロナ禍早々に立ち上げた補助事業で、同店ではその採択を受けてキッチンカーを導入し、富山市内3カ所でお弁当の移動販売を始めたのだ。
このキッチンカー、翌年には金沢市で開かれたイベントに定期的に参加するようになり、そこではフルーツサンドを販売。それ以降も各種のイベントに参加してBel Cantoの味を告知する働き者として、今日も活躍しているという。
富山大学の近くにあったかき氷の名店(現在は
閉店)の協力を得て開発したフルーツかき氷
(写真上)と、修業時代のA店のオーナーと共
同で開催した「青空デリ」の様子(写真下)。
青空デリでは県産農林水産物を用いた弁当など
を販売して、コロナ禍対策の一助にした。
このコロナ禍の最中、村井氏はA店のオーナーからお店を引き継ぎ、その舵取りもするように。前オーナーは姉妹店(B店)の運営に注力するために、店名とともにお店を手放そうとしたのだった。
村井氏が当時を思い起こす。
「A店は駅前からは離れた市街地にあり、十数台の駐車場を併設した広いお店で、ネームバリューもありました。私にとってはルーツとも言えるお店です。暖簾(のれん)が第三者に渡るのが忍びなく、『だったら私に引き継がせてください』と申し出たのです」
緊急事態宣言が発出されるなど、新型コロナウイルス蔓延による混乱が続いたため、数カ月の休業を経てお店を再開したのは令和2年11月だった。再開を待ち望んだお店のファンは、引き継がれたお店の味に舌鼓を打ったのだった。
ただし、新型コロナウイルスの蔓延は波状攻撃のように続き、お店の安定経営に重くのしかかった。そこで村井氏はA店のメニューを一部変更し、夜はイタリアン酒場と銘打ってアルコール飲料も提供するように。また翌年度には当機構の「ワクワクチャレンジ創業支援事業」の採択を受けて、フルーツかき氷の事業を開始。富山市内の、超人気かき氷店と共同で新しいかき氷をブランド化し、それをA店で販売するとともに、その製法やシロップをフランチャイズ展開して、かき氷の多店舗販売を試みたのだった。
さらには、「富山県小規模事業者緊急支援補助金」(令和3年度)の採択も受けて、「青空デリ」の定期開催を模索。他の飲食店にも呼びかけ、県産農林水産物を用いた弁当や総菜の販売を続けたのだった。
このかき氷の販売は、売上確保に苦しむ飲食店にとっては救い主になったのだが、コロナ禍が収まりつつあった令和6年2月に休止。シロップをつくっていたA店を休業せざるを得なくなったのだ。
村井氏がそのあたりの事情を話す。
「私はスタッフやアルバイトの協力を得て、昼はA店、夜はBel Cantoというふうに掛け持ちでお店を運営していました。ところがコロナ禍が徐々に収まってきた令和5年ごろから、Bel Cantoが少しずつ忙しくなり、翌年には掛け持ちができなくなりました。A店にも徐々にお客さんは戻ってきてくれたのですが、Bel Cantoが忙しくなって兼務できなくなったのです。スタッフにA店を任せきりにすることもできず、泣く泣く休業の決断をした次第です」
ちなみにこの時に開発したかき氷は、実店舗での販売は行っていないものの、イベントに出店した際の販売や、高齢者福祉施設に招かれて入所者へのお楽しみに利用していただくなど、細々とその味を守り続けている。また村井氏はA店の店名(商標)をしっかりと守り、お客様との再会を夢見ているようだ。
富山市中央通りに開いたフラワーショップ
「LARGO」(写真上)と贈答用(母の日)の花
の一例(写真下)。
令和3年には、これもコロナ対策補助事業である「富山県中小企業リバイバル補助金」の支援を受けて、富山市中央通りにフラワーギフトショップの「LARGO」(ラルゴ)をオープン(令和4年1月)。補助金を店舗の改装に当てるなどして、ギフト用の生花やプリザードフラワーなどを主に扱う花屋を開いたのだ。
「これに関しては、私の全くの経験不足から休業することになりました。花には食品の扱いより繊細さが必要で、蕾のうちに売り切らなければいけません。そこの見極めが甘かったようです」と村井氏は語り、「実店舗は閉じましたが、『お店の開店祝い用のスタンド花を用意してほしい』などのご要望はBel Cantoで受けつけています」と続けた。
ここまで、創業時の様子を語った村井氏。「何にでも飛びついているように見えるかもしれませんが、実は、私なりにビジネスの未来像を考えて取り組んでいて、明確なゴールを持っています。それはブライダルです」と付言した。
かつてのブライダルは、結婚式・披露宴・新婚旅行がセットになって大々的に行われるケースが多かった。ところが昨今は価値観の多様化により、簡素化や一点豪華主義など様々な形で行われるように。披露宴に関していうならば、形にこだわったものではなく、新郎新婦の親しい友人を中心に数十人で食事会を催し、2人の門出を祝いたいというニーズも現れつつある。村井氏が目標としているブライダルとは、いわゆるレストランウエディングを、もっと柔軟にした1.5次会のパーティーと言っていいだろう。それを客席数をもっと増やしたBel Cantoで行うことを描いているのだという。
Bel Cantoの人気メニューの一例。写真上は
「バルミジャーノチーズリゾット」、写真下は
「チーズフォンデュ風アヒージョ」。同店の
メニューにはお客の目の前で調理のひと手間
を加えるものが多く、味はもちろんのこと目で
も料理を楽しんでいただくことをモットーとし
ている。
冒頭に、イタリアンは「食べる楽しさ以外の付加価値をお客様に提供できる」という村井氏の弁を記した。言い直すとそれは「見て楽しい、食べておいしいイタリアン」だろうか。Bel CantoやA店はそれをモットーとしてきたのだ。
例えばBel Cantoの看板メニューとも言える「バルミジャーノチーズリゾット」は、オーダーが入ると大きなチーズが客席の横まで運ばれる。そのチーズの上に、熱々のリゾットが載せられ、チーズが万遍なく絡むようにかき混ぜられ、器に盛られる。この間、リゾットからは湯気が立ちのぼり、また熱々のリゾットにチーズが溶けてその香りが漂ってくる。他のメニューも、可能なものは最後の一手間を客席で加えるようにすることで、「見て楽しい」料理にしているのだ。
こうしたエンターテイメントの要素を備えたBel Cantoの料理を祝宴で供し、LARGOでノウハウを得たギフト用のフラワーが会場に彩りを添えると……。場合によって、はフルーツかき氷が1.5次会を締めくくるデザートになる。50〜60席に客席数を増やしたBel Cantoでのブライダル1.5次会が村井氏の頭の中には描かれているのだろうか。
「どの経験も、私にとって無駄になるものはなく、いずれも次のビジネスのヒントになっています」と村井氏は語り「これからは私が踏み台になって次代オーナーシェフを育てたい」と取材を結んだ。
連 絡 先 :株式会社B-blle(店舗Bel Canto)
所 在 地 :〒930-0093 富山市内幸町2-14
従 業 員 :4名
T E L :080-6352-5011
U R L : https://belcanto-0501.com
作成日 2026/09/07
