TOP > 未来を創るアントレプレナーたちの挑戦 > 第83回 合同会社エイト・ビイト
「福祉タクシー」で創業しました
苦節3年を経て・・・
高齢婦人のつぶやきをきっかけに福祉タクシー
の事業を始めた谷端勝隆社長。創業希望者の研
修を受け入れ、業界の底上げを図っている。
「福祉タクシー」というビジネスモデルをご存じだろうか。
病気や障害などにより車の運転ができない方を、有償の福祉車両で、病院や高齢者福祉施設などへ送迎する事業だ。病院から病院への転院、病院から高齢者福祉施設等への転所(この逆も)などもこれに該当する。中には買い物やカラオケ、居酒屋などへのお出かけ用の“足”として利用される方もいるようで、平成18年4月施行の「道路運送法改定」により「福祉運送事業限定」が新設されて始まった。
この福祉タクシーの事業で、(合)エイト・ビイトが創業したのは令和3年3月末のこと。4月19日の営業初日から運送のオーダーが入ったそうだが、新しいビジネスにチャレンジした谷端勝隆社長にお話をうかがった。
同社が保有している福祉車両。送迎の費用は運
賃に介助料、設備貸出料などが加算される。
ものづくり企業で、30年ほど電子部品の製造等に携わってきた谷端氏。縁あって、ある総合病院の患者送迎車両のドライバーに転職。求職中に「何かいいことがあるかもしれない」と大型車両の免許を取っておいたことが功を奏したようだ。
その病院に勤め始めて半年ほどしたある日のこと。高齢の婦人を病院から施設へと送迎していたところ、婦中町の大型ショッピングセンターの前を通った時、「私ここへ行ったことがないの」とつぶやいたそうだ。そのつぶやきには“車いすの私が、家族に連れていって欲しい、と言ったら迷惑がかかるから言えない……”という、半ば諦めの意味合いが込められていると谷端氏は感じたそうだ。
そのあらましを知人に話し、「私だったら連れていってあげるのに……」と漏らしたところ、「そういう意識があるのなら、福祉タクシーをやったらいい」と勧められたという。知人は以前、福祉タクシーを営む会社での勤務経験があり、業務内容を詳しく教えてくれたそうだ。
そこで谷端氏は福祉タクシーに興味を持ち、2種免許を取得。また基礎的な介護技術を学ぶために、旧ホームヘルパー2級に相当する介護職員初任者研修(合計130時間)を修了したのであった。
「2種免許と福祉車両があれば福祉タクシーの事業登録は可能ですが、歩行困難な方や車いすの方もおられると思い、念のため介護職員初任者研修は受けました。介護の資格がなくても開業は可能ですが、資格がないと介助料金などは受け取れませんから、資格はあった方がいいのです」
開業から5年間の経験を踏まえて、谷端社長が語った。
同社が保有するストレッチャー(移動式寝台
ベッド)。点滴や医療用酸素ボンベも搭載可能。
法人としてのエイト・ビイトを立ち上げたのは、高齢婦人の“つぶやき”から約2年半が過ぎた時だった。4月19日から運行開始と定めたものの、どこにも営業には行けなかったという。
谷端社長が振り返った。
「実は、お客様がどこにいるのかわからなかったのです。それで草創期には名刺もチラシも用意していませんでした。しばらくして福祉関係の仕事をしている友人から、『行政の包括支援センターや病院の地域連携センターなどへ行ったらよい』とアドバイスを受けましたが、それでも最初のオーダーを受けるのに、1カ月以上はかかりました」(谷端社長)
冒頭に、運行初日からオーダーが入ったと記したが、それは福祉事業に携わっていた先輩からの紹介でたまたま入った仕事。同様の依頼は散発的に舞い込んできたが、開業当初は開店休業に近い状態であった。包括支援センターや地域連携センターに足しげく通っているうちに、その事務局やそこで紹介された患者や入所者からの依頼が、徐々に入るようになったという。
同社が保有するリクライニング車イス(点滴、
医療用酸素ボンベ搭載可能)と利用者宅の狭い
玄関や廊下の搬送も可能にするスクープスト
レッチャー。
こうしてエイト・ビイトの初期を過ごした谷端社長。公的な支援事業がないかと富山県庁に尋ねると、当機構を紹介された。そして当機構で偶然、友人が「富山県よろず支援拠点」のコーディネーターを務めていることを知り、エイト・ビイトの販促についての相談を持ちかけると、「ワクワクチャレンジ創業支援事業」(令和3年度)への申請と、それを活用してのホームページの開設を勧められたのだった。
谷端社長が「苦節3年」を振り返る。
「福祉タクシーの経営で難しいのは、いわゆるリピートのお客様が少ないということです。利用者の大半は、病院や施設への入院や入所、あるいは転院や転所の際に利用されますが、ほとんどがそれ1回に限られます。在宅療養されている方が、定期的な通院のために乗車されるようなケースは少なく、当社の場合は約1割がリピートのお客様です。お出かけ用の足として、繰り返し利用される方はほんのわずかです」
業界団体がないため統計等の整備が進んでいないようだが、谷端社長によると他の福祉タクシー業者も似たような状況ではないか、と。とすると約9割のお客は一見(いちげん)さんで、それを毎月、安定的に確保することは「至難の技」と言っても過言ではないようだ。
また「苦節3年」の要因には、「富山県独特の事情があるのではないか」と谷端社長は推測する。
富山県は世帯当たりの自動車の保有台数は全国トップクラス。郊外(郡部)に行けば、成人では1人1台に近い状況だ。その結果、日常生活でのタクシーの利用は極めて少なく、「そういうところから、運賃になじみがないのではないか」と説く。続けて谷端社長は「基本的な運賃は、福祉タクシーも一般のタクシーと同じような料金体系をとっていますが、そもそもタクシー料金になじみがないため、その料金そのものを高く感じられる。そこに例えばストレッチャーを使用される場合は、運送の技術料として運賃の2割増をいただきますが、基本料金が高いと思っておられるところに、2割増しと言われると、『えっ!?』となる。さらにはストレッチャーの賃貸料が加算されると、『そんなに高いの!』と驚かれる方もおいでになります」と患者さんやご家族とのやり取りを思い出しながら語った。
同社が保有する医療用酸素ボンベ。富山市消防
局より民間救急の認定も取得している。酸素投
与や人工呼吸器、点滴をしながらの送迎も可能。
車にはAEDも搭載している。
こうした厳しい経営環境にあるにも関わらず、雨後のタケノコのように新規参入の業者が現れているようだ。谷端社長は「富山県内には60社前後の事業者がいるのではないか」(谷端社長)と推測。個人営業で副業的に、空いた時間にのみ運送のオーダーを入れている事業者もいるようで、同社には「独立開業の前に修業させてほしい」といって、福祉タクシー事業の実地研修を希望する者が後を絶たないという。
「将来の起業を目指して、今まで10人以上の実地研修希望者が、当社を訪ねてきました。彼らには数週間、送迎の実務を見せ、体験もしてもらいました。また当社の決算資料を見せ、売上や経費なども把握してもらいました。送迎の現場はきれいに舗装された道路ばかりではなく、アスファルトに亀裂が入ってはがれたところや砂利道を、体の不自由な方を乗せて車椅子を押すのは一苦労ですし、車の保険や車検、メンテナンスの費用も結構かかります。そういう現実を見て、意気消沈される方もいました」(谷端社長)
エイト・ビイトでは、事業が軌道に乗るまでに3年を要した。病院や介護施設への地道な営業活動が功を奏したようだ。そして4年目に入ってスタッフ1人を雇用し、谷端社長も含めて2人体制に。車も2台に増やした。のちにはさらに増員し、昨年5月には3度目の拡充を図り、4人・4台の体制にしたのだった。
取材を締めくくるように谷端社長が語った。
「福祉タクシーの業界は、過渡期にあると言っていいでしょう。『運ぶ』という運送業の意識で臨んでおられるところがたまに見受けられますが、私たちはものを運んでいるわけではありません。人の命を運んでいるのです。そこはしっかりと認識してハンドルを握っています。
当社のスタッフは病院や福祉施設で介護等の実務経験を重ね、病気や体の不自由な方を安全・安心に目的地までお送りしています。どちらかというと接客業・サービス業の意識で臨んでいます。こうした点が評価されて、選ばれる福祉タクシー事業者になっているのではないかと思います」
連 絡 先 :合同会社エイト・ビイト
所 在 地 :〒939-2245 富山市加納
従 業 員 :3名
T E L :090-1267-0888
U R L : https://r.goope.jp/eightbite/
作成日 2026/03/25
