第42回 ぷちロール&とべーぐる(株式会社オオサワ) 富山県産農水産物/地域資源ファンド助成事業 TONIO Web情報マガジン 富山

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第42回 ぷちロール&とべーぐる(株式会社オオサワ)

ベーグル専門店をさらに増やし、首都圏にも…。
“砂場のアリ”経営論で、元気なお店に!

「ぷちロール」定番のロールケーキ「大和撫子」、「抹茶きなこ」
等。自分用に買われる人も多いが、手土産用には人気の逸品。
さて、毎日何本焼かれているか…?

 「事業計画を書いた私自身も驚いているのですが、ここまでうまく行くとは…」
 商売の神様・恵比寿様も驚くような満面の笑みを浮かべるのは(株)オオサワの社長・大澤安明さん。社名を聞いてピンとくる方は少ないと思うが、ロールケーキでおなじみの「ぷちロール」のオーナー、あるいはベーグル専門店「とべーぐる」のオーナーといえば、「ああ、あのお店」とうなずく方も多いだろう。暮れには砺波で3店目の「とべーぐる」をオープンし、先行する富山・高岡の店とともにほぼ毎日、長い行列ができるお店として有名になっている次第。トレンドに疎いお父さんは「何か有名ブランドのファッションのお店か」と思うかもしれないが、それは早合点というもの。ベーグルといってパンの一種を焼いて販売しているのだが、客足がよくて売り切れてしまい、次に焼き上がるのを待つお客さんが行列をつくっているのだ。
 こうした好調を背景に大澤社長はこんな青写真を描いている。
 「とべーぐるの店は県内に11店舗くらいまで増やし、それと並行して首都圏に出る準備をする。首都圏のお店がうまくいったら、全国に展開する」
 当初は、1号店(富山店/富山市平吹町)のオープン(平成24年9月)から3年以内に2号店を出し、その後順次展開していく夢を持っていたのだが、売れ行きが極めて好調なため25年9月に高岡店、12月に砺波店をオープン。現実が夢を追い越してしまった。
 この商売繁盛の背景には、大澤社長が長年の経験から導き出したケーキ屋・菓子店運営のノウハウとともに、根気よく世の中をリサーチした結果の売り方があり、そしてちょっぴり公的支援制度もお手伝いしているのだった。

富山の人は“ふわふわ”が大好きだ

湯布院での劇的な出合いが、今日の「ぷちロール」の出発点に
なっていると振り返る大澤安明社長。事業欲は満々です。

 もともと大澤社長は、菓子職人になりたいと思っていたそうだが、「ちょっと道に迷って」フランス料理の道に入った。若いころはフレンチレストランで修業し、何度もフランスを訪れ本場の味を探求。そして平成10年に自分の店「プティ・レギューム」を持ち、料理に力を入れるとともに、元々の夢であったオリジナルスイーツの開発に心血を注いだ。
 平日のランチタイムには、毎日30人以上の来店客が。そこだけを見ると極めて流行っているお店だった。しかし夜の部では週末は満席になるものの、平日は波があり、「赤字になったことはなかった」というが、先行きに不安を感じていたそうだ。大澤社長が十数年前を振り返る。
 「不景気風が強く、その数年後、世間では『失われた10年』といわれました。外食される方はだんだん減り、先行きに不安を感じたものです。そこで昔からの夢であった菓子職人になり、店を持とう、と。買って帰って、家族や友達と食べるのは景気に左右されにくいと思ったのです」
 「菓子職人になって店を持つ」といっても、最初からロールケーキ専門店を念頭に置いていたわけでなく、広くスイーツの店を考えていた。ただ、フレンチレストランでのスイーツづくりの経験から、洋菓子の分野であったことは間違いない。また一口に洋菓子といってもショートケーキ、ロールケーキの他に、プリン、バームクーヘン、カステラ、クッキー、ゼリーなど、枚挙にいとまがないほどたくさんの種類がある。そういう中で大澤社長はロールケーキをメインにしたお店を選んだのだが、それには、ちょっとした理由(わけ)があった。
 フレンチレストランの社員旅行で、大分・湯布院に旅した時のこと。宿に入り、一休みしてから街を散策すると、多くの旅行客が同じ袋を持って歩いているではないか。事情を聞くと、ある土産物店のロールケーキで、湯布院土産の人気商品だった。大澤社長はさっそく買い、宿に帰って食べてみた。ふわふわして、うまい。その時思ったのだ。
 「富山県の人って、“ふわふわ”した食感と“もちもち”した食感が大好きだ。将来、洋菓子店をやる時はふわふわなロールケーキをメインにしよう」
 この構想をレストランの仲間にも話してみた。今まで一度も全員そろって賛同したことはなかったが、この時ばかりは「確かに、富山の人はふわふわお菓子が大好きだ」で一致。ロールケーキ専門店に自信を持った次第だ。
 念のため、テクノホールで行われたイベントに出展し、ロールケーキの試験販売もしてみた。2日間の会期中に販売したのは、700本ほど。1本千数百円のロールケーキが1日350本前後売れたのだ。展示会では来場者の多くは午前10時から午後4時ころまでに来るが、1人1本買ったと仮定して、この6時間、1分毎に1人のお客さんをこなしたことになる。レジの経験のある方ならすぐにわかるのだが、これはものすごく忙しい状況だ。
 試験販売のロールケーキがなぜそこまで人気だったのか。半ば義理買いした他の出展者がロールケーキを買って会場で食べ、うまいと評判になり、それが口コミで一般の来場者にも伝わり、2日間で700本を超えたのだ。ロールケーキ専門店への自信は、その日以来、確信になった。

閉店時間前に売り切れに

季節に合わせた「ひなまつりロール」「母の日ロール」「こいのぼ
ーる」などのロールケーキもある。ちなみに素材は、定番品も季
節品も、地元富山県産を多く使うようにしている。

 満を持して「ぷちロール」をオープンしたのは平成15年のこと。レストランとの、二足のわらじを履いての毎日になった。朝は早くから「ぷちロール」に入ってケーキをつくり、10時前にはレストランでランチの準備を始めた。ランチが終わって後片づけをしてから「ぷちロール」に戻り、明日の生地を焼く。そして夕方再びレストランに帰って、夜の部を迎える。仕事を終えて帰宅するのは、いつも午前様だった。
 「ぷちロール」では、定番もののロールケーキが3~4本、富山の旬の素材を使ったロールケーキも同じく3~4本、そして歳時記に合わせたロールケーキが数本と、常時10種類前後がショーケースを彩り、来店客を迎えた。
 たちまち人気のロールケーキ屋さんになり、「夕方、あるいは午後の早い時間には売り切れて、お目当てのロールケーキがない」とスイーツファンを騒がせたものだ。そのうち、空港やアピアでも販売されるようになったが、オープンから5年たった今でも閉店前にロールケーキがなくなることが多いという。
 ただそこには、大澤社長独自の店舗運営のノウハウがあり、「売り切れ御免」にも計算された一面があった。それはある意味、意図的に売り切れ状態をつくり出したのであって、例えば、あるロールケーキが1日100本売れると予想された場合は、予備を見込んで105本つくるのではなく、80本とか90本と予想より少なめにつくって、閉店時間前に売り切れるようにするのだそうだ。
 お客さんが「いつ行っても、あのケーキはある」と思うのと、「早めに行かないと売り切れてなくなっている」と思うのでは、お店や商品に対しての意識や行動に違いが出てくるという。後者の方を大澤社長は、「お客さんに、ある意味、ストレスがかかった状態」と評した。「お店に行ったけど、売り切れて買えなかった。残念」という思いがストレスになって、「次は早い時間に行こう」と思い立たせ、また友達などに「買いに行ったけど売り切れで買えなかった」と話させることによって、一面ではストレス発散の場をつくると同時に、ケーキを口コミでさらに広めさせてもいるわけだ。

トレンドに敏感な女性を観察して…

同店のベーグル。一度に20個ほど買って冷凍し、その都度
トースターで温めて食べる方もいるとか。

 この考え方をさらに進化させたのが、ベーグル専門店の「とべーぐる」だ。ベーグルとは簡単にいうと、パン生地をゆがいた後で焼くもの。外側は一般のパンと同じようにサクッとしているが、湯煎によって小麦粉がアルファー化して、内側はもちもちになっている。もともとはポーランドで生まれたパンの一種で、休日の礼拝の後で信者が一堂に集まって食べたものが始まりではないかという説もある。一般的なパンに比べると、バターや卵を使わないためカロリーや脂肪分が低く、若い女性の間で数年前から人気になっているものだ。
 大澤社長は、「もちもち食感が好きな富山県人にベーグルは合うのではないか」と思い、ベーグル専門店を出すことを念頭に、トレンドに敏感な女性を観察することを始めた。観察の視点は、どんな生活をしているのか。一般的な行動パターンは? どんなことに興味があって、趣味は何か。よく読む雑誌は何か…、などなど。詳細は大澤社長独自のノウハウであるため明かすことはできないが、2年近くに及ぶリサーチからトレンドに敏感な女性像が得られた。その女性を初期のリーダー的なお客ととらえて、そのお客さんを飽きさせない工夫をお店でするようにした次第。その結果が、冒頭でも紹介した恵比寿顔になったわけだ。
 当初の事業計画では、1日の売り上げをある金額に設定。ベーグル1個の値段は160~250円で、客単価700円程度を想定していた。ところが実際に富山店をオープンすると、客単価は1000円程度で、来店者数も想定より2割ほど多いという。
 お店では、フル回転でベーグルを焼いているのだが、お客が求める数がそれを上回るため、間に合わない。その結果、行列ができ、お客さんに待っていただいている。事情は高岡店も同じだ。行列が次のお客を呼ぶ形になって、オーブンもレジもフル回転している。
 同店のベーグルは、富山県産の農水産物をふんだんに使っている。例えば紅ズワイガニ、シロエビ、梨、コシヒカリ、小麦粉、加積リンゴなどなど。旬の時期のこれらの食材を使うところはロールケーキと同じで、そこが評価されて平成24年度の「地域資源ファンド助成事業」に採択され、当機構では、試作品の開発や広告宣伝の分野などで支援しているところだ。

店舗数を増やし、おしゃれな総菜も販売したい

「とべーぐる」のお店では、県産の材木も使っている。(富山店)

 前述のように3年以内に2店目という目標は、1年後にクリアして、その3カ月後には砺波店もオープンさせた。実はこの砺波店、フランチャイズによるオープンで、大澤社長の指導の下でベーグルを焼いている。
 「当店では、生地を冷凍し、各お店にデリバリーして現地で焼いています。ですからベーグルの品質は均一で、お店によって味が違うということはありません。3店目の出店に合わせて、生地をつくるための工場を拡張し、設備も拡充しました。『とべーぐる』を県内に11店舗まで増やすのが夢なのですが…」
 大澤社長は遠慮がちに話すが、ここでも現実がすぐに追いついてくるような気配だ。行列を見た、起業意欲にあふれた人が、直接・間接に大澤社長にアプローチしてきて「フランチャイズで○○市で店を出させて欲しい」という依頼が多数入るように。当初は、直営店での展開を考えていた大澤社長であるが、身はひとつであると冷静になり、フランチャイズでの展開も視野に入れるようになったわけだ。ちなみにフレンチレストランは、「とべーぐる」の開店に合わせて閉店してしまった。
 これにより、首都圏や他県での展開もしやすくなり、一方で大澤社長は「とべーぐる」での2つ目の試みの準備を始めた。その試みとは、テイクアウト用の総菜を販売すること。いわゆるお袋の味、家庭料理の総菜を販売するのではなく、フレンチシェフの腕を生かして、ホームパーティー用のおしゃれな総菜を販売しようというのだ。
 「本当は、富山店をオープンした3カ月ほど後から総菜を販売したいと考えていたのですが、ベーグルの方があまりにも忙しくて…。でも生地をつくる工場の体制を整え、また『とべーぐる』のフランチャイズ展開の可能性も出てきたので、総菜の方は準備ができ次第なるべく早く始めたいと思っています」
 大澤社長の事業欲は、レストランのオーナー、街のケーキ屋さんには珍しいものがある。そこで最後に、「なぜそこまで新しい事業や多店舗展開にこだわるのか。街のケーキ屋さんの店主として、普通に商売を続けてもいいのではないか」と尋ねてみた。
 大澤社長は「自分なりのビジネスモデルを考えるのが好きなところもある」と前置きして、以下のように続けた。
 「ケーキ屋にしてもベーグル店にしても、いい時もあれば悪い時もある。頑張って売り上げを伸ばして、お店を大きくするといっても、いわゆる街のケーキ屋には限度がある。また仮に大規模化の可能性があっても、大手が資本力を生かして真似してきたら、ひとたまりもなく潰されます。私はそこで砂場のアリを思うのです。砂場のアリは、人に踏まれても、砂の隙間で身を守って潰されません。小さいお店をいくつも持つというのは、私にとっては砂場のアリになることです。仮にどこかのお店が潰れても、元々の規模が小さいからリスクも小さい。また潰れる前に移転するという手もある…」
 大澤社長の経営論はこの後も続いたが、氏のお店が元気なのは当然のように思えてきた。

株式会社オオサワ
富山市清水町4丁目3-6
TEL・FAX/076-493-9539
事業内容/ロールケーキをメインに洋菓子の製造・販売、ベーグルの製造・販売
従業員/10名(パート等含)
ぷちロール http://petit-roll.com/
とべーぐる http://t-bagel.com/

作成日  2014/1/16

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