TOP > 世界をリードするアジア経済交流 > 第50回 有限会社片口屋
海外への販路開拓に挑戦して7年目
「鰤醤」等のおいしさが徐々に・・・
片口敏昭社長(写真上)と氷見寒ブリを使った「鰤醤」
(写真下)。特殊な製法により、生臭さはほとんどない、
という。
「先だって、デンマークのレストラン『NOMA』の発酵食品担当のシェフが、当社の『鰤醤』(ぶりしょう)の製造現場を見学されました」
(有)片口屋の片口敏昭社長がいう「NOMA」とは、人気のゆえ予約がなかなか取れないことで世界的に有名なレストランのこと。そこのシェフが、「発酵食品について関心があるので、どこか見学させて欲しい」と富山県に依頼し、県の担当者が数カ所を推薦したところ、シェフは「鰤醤」の工場見学を希望されたという。また、シンガポールを中心に東南アジアの国々に販売網を持つあるバイヤーから、「鰤醤など片口屋さんの商品を輸入したい」と声をかけられ、この取材の時点では取引条件の細部を詰めているところだった。
「鰤醤」とは鰤を使った魚醤で、同社が平成26年4月に商品化したもの。同年の後期には国のもの補助(ものづくり・商業・サービス革新補助金)の採択を受けて量産体制を整え、国内はもとより海外への販路開拓にも着手し、県の商工労働部や農林水産部、また当機構などの補助事業を積極的に活用するように。「NOMA」からの工場見学や、シンガポールのバイヤーからの取引依頼の連絡などは、海外展開に本格的に乗り出した平成29年頃と比べると隔世の感があるようだ。
令和4年11月に行われた「海外販路開拓商談会」での
同社の商談の様子(写真上)と、同年9月シンガポール
の「HISシンガポール店」で開催された富山県産品の
プロモーションの際のポップアップストアの様子
(写真下)。
海外展開で、片口社長が手始めに試みたのは、当機構の「海外バイヤー招へい商談会」等に参加することだった。「鰤醤」と、のちに商品化した「鰤味噌」や「鰤味噌豆板醤」などを携え、東南アジアのバイヤーを中心に商品紹介に勤しんだのだ。
「タイにはナンプラー、ベトナムにはニョクマムといった魚醤があります。東南アジアには『鰤醤』が受け入れられる可能性があると思い、昨年まで6年連続してこの商談会に参加させていただいています。この間の成果としては、令和元年、香港のバイヤーとの商談がまとまり、『鰤醤』のご注文を4回いただきましたが、コロナ禍で騒いでいるうちに注文がなくなりました。また、昨年秋に出会ったインドネシアのバイヤーとの商談は、今年あたり実を結びそうです」(片口社長)
そのバイヤーは、インドネシアでフードデリバリーのビジネスを展開しているらしく、提携先のレストランにメニュー提案とそのメニューで使う食材を販売するビジネスを新たに企画。そこで「鰤醤」を使ったメニューも提案し、採用になった場合は「鰤醤」も販売しようというビジネスモデルだ。
さらに片口屋は昨年9月、当機構が実施した「シンガポールにおける県産品プロモーション・商談会」に参加。シンガポールの中心街にあるHISシンガポール店において1カ月ほど他の富山県産品と合同でポップアップストアに出品し、「鰤醤」「鰤味噌豆板醤」を展示販売しながら消費者ニーズを把握するとともに、現地バイヤーとの商談(オンライン)も実施したのだった。
片口社長が1カ月あまりの展示と商談会を振り返る。
「以前、シンガポールの食品スーパーを視察した際、『鰤醤』と同じくらいのサイズのナンプラーが日本円にして100円を超えるくらいの値段で販売されているのを見ました。当社の『鰤醤』は1,200円ですから約10倍。果たしてニーズがあるのかと思っていたところ、数十本売れたのです。また同時にPRした『鰤味噌豆板醤』は400g入り(3,800円)のものが数本売れました。このポップアップストアのプロモーターから、もう少し少量の『鰤味噌豆板醤』があればいいのではないかとアドバイスを受けたので、商談会では100g入りの小瓶を紹介したところ、あるバイヤーが関心を示し、後に輸出する運びになりました」
来場者アンケートでは、「鰤醤」は「とてもおいしい」(45%)、「おいしい」(35%)と高評価を得、「ナンプラーに比べて生臭さがない」「塩分控えめで口当たりがよい」などの意見が寄せられた。一方の「鰤味噌豆板醤」は「とてもおいしい」(30%)、「おいしい」(30%)と『鰤醤』と比べると伸び悩み、「辛さのレベルが選べるとよい」「商品はいい。もう少し安い方がいい」などの声があったという。
ライブコマースで片口屋の「鰤味噌豆板醤」をごはんや
焼き鳥につけて食べ、食リポを行う女性リポーター
(写真上)と、同社の「鰤味噌豆板醤」(写真下)。
SNSを使った商品PRも、片口屋では積極的に取り組んできた。ネット通販は早くから行い、県内に約3万人のフォロワーを持つインフルエンサーに、同社商品のPRも依頼してきた。そして昨年11月11日・12日に行われた、「中国向けライブコマースで県産品をPRする事業」の案内を受けた際にはすぐに申し込み、県内企業10社(各社2品)とともに商品PRのライブ配信に参加したのだった。
「当日私は、ごはんと焼き鳥を持ち込んで、『鰤味噌豆板醤をつけて食べるとおいしい』と、商品紹介を担当された女性に話しました。すると彼女は、当社商品のライブ配信が始まるとそれを実行し、熱心に食リポをしてくれたのです。また『鰤醤』の紹介では、コップに少量を注いで、色や香りをカメラの向こうの中国の消費者に伝えました」と片口社長はライブコマースの様子を語り、「消費者に直接訴え、その反応をリアルタイムで感じることができることは、商談会とは違った魅力があります」と続けた。
ちなみに2日間(各4時間)に渡ったライブ配信では、延べ27,000人あまりの視聴者があり、320点・約150万円(10社の合計)の売上げを達成。片口屋では「鰤醤」数十本を受注したのであった。
県の商工労働部が企画した「越境ECサイト『ワンドウ』内特設店舗『とやま館』出店事業」においても、同社では令和4年より参加。このサイトは日中の合弁企業Inagora(インアゴーラ)が、日本商品のみを越境ECサービスを通じて中国の顧客にマーケティング・販売などを一貫して行うもので、本県ではサイト内にアンテナショップ「とやま館」を開設し、希望する県内企業の商品をPRしてきたのだった。
Inagoraの越境ECサイトのトップページ(写真上)。
富山県も含め複数の府県がサイト内に特設サイトを
設け、県産品の紹介・販売を試みている。写真下は
「鰤醤」を素材に開発したみそ汁とだしの素。
土産物店や道の駅、高速道路のSAなど多くのお店で
人気の商品。お店によっては、月に数百袋販売
するところもある様子。
この「ワンドウ」内での販促では、片口屋にとっては思いの外の追い風が吹いたようだ。
「『とやま館』というくくりの中で、当社商品が紹介されたのがよかったのか、私どもが想定していた以上に売れています。なぜ、こんなに売れるのか。その要因を分析し今後の展開に役立てたいと思っているところです」
片口社長はこう語り、「鰤醤」などの海外展開についての抱負を以下のように続けた。
「今まで欧米のバイヤーとも数回商談し、アメリカの企業が関心を持ってくれたことがあります。ただ、欧米への加工食品の輸出にあたっては、ISOやHACCP(ハサップ)などの基準があり、日本の衛生や品質基準より厳しいことから、それらを見据えてこれから準備を進めようかと考えているところです」
中国や東南アジアの国々での販路開拓に手応えを感じつつあるところから、片口社長は次の一手を模索し始めたのか。幸い、コロナ対策の助成事業「富山県地域企業再起支援事業費補助金」(令和2年)の採択を受けて開発した、「鰤醤」の粉末を利用しての「富山湾の白エビ 氷見寒ブリ鰤醤の みそ汁」「片口屋だし」が好調な売れ行きを示し、それがポジティブな考え方へと背中を押しているように見えてきた。
ちなみにアジア経済交流センターでは、商談会や海外見本市に関する情報をメールマガジンにて無料で配信。片口社長は6年前にその登録をされ、本稿で紹介した商談会やライブコマース、越境ECサイトへの情報はその都度配信を受け、販路開拓に役立ててきたのである。当センターのメールマガジンに関心のある方は、以下の紹介サイトをご覧ください。
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作成日 2023/07/10